not ready

2002年04月23日(火) 東横線

渋谷から東横線に乗り、元住吉へと向かった。車内は平日の昼下がりということもあ
って、所々には空席もあり朝のラッシュ時とは違う顔を見せる。いつもは息苦しくて
嫌いなはずの電車も何のためらもなく乗れることができた。それにしても東横線に乗
る人たちは皆オシャレに見える。停車駅のせいもあるのか、ただの偶然なのかわから
ないけど少なくとも、他の電車に乗りあわせる人達の表情とは全く違うように見えた
。忙しい日々の中で電車の流れに身を任してゆっくりいろんな事を思ってみるのも悪
くはない。 ただそう感じるままに。
元住吉に行く理由は、祖母の手術のため、入院した病院に見舞いに行くためだ。母
方の祖母で、僕は母に病院までの経路を聞き、言われるままに東横線に乗り、外の景
色を一人眺めていた。今日から6月ということもあり、世間では衣替えということら
しいけど僕は長袖のシャツを着ているし、昼下がりということもあり学生の姿はなく
季節を感じさせない車内だが、微かにかかっているクーラーが時折僕の体を冷やしそ
れがたまらなく不快に感じた。まるでネコじゃらしでいじめられているかのような気
持ちの悪さだった。席を立とうとしたが、前に座る女性と目が合ってなんとなく席を
離れるのを止めた。その女性は僕と同じか、1つ下くらいに見えた。つまり18・9
てとこだ。顔立ちのしっかりした女性で、きれいな目を持ち合わせていた。そんなき
れいな目をした女性に見つめられた僕は何となくではなく、どちらかというと動けな
かったといったほうが正しい。見つめられた目は行き場に困って、吊革広告に目をや
りその場をしのいだ。週刊誌の見出しというものは酷くつまらないものに溢れている
。誰かが誰かと付き合っているだとか、誰かが離婚するだとか、誰かが脱いだとか、
毎週同じ内容の見出しが電車の中で揺れる。違うのは人間だけで、やってることは変
わらない。一種の平和ボケと言えば良いのだろうか?これを見て喜ぶサラリーマンの
気が僕には知れない。きっと100年後もこうして他人の不幸を読んでは嘲笑し、幸
を読めば妬むことしかできない人間が増えているのだろうと少し思っては悲しくなっ
たので、考えることを止めた。きれいな目のした女性を見ると、心地よい太陽の光と
一定した電車の揺れに眠気を誘われたのか、そのきれいな目を閉じて眠りに入ってい
た。僕は電車に乗る前に買った文庫本を開いた。それでもやはりクーラーが気になり
自由が丘で乗り換えることにした。別に乗り換える必要はなかったが、各駅停車に揺
られて行きたいと、ふと思ったから乗り換えた。できるだけクーラーのあたらない席
を選び又本を開き元住吉へと向かった。本の内容はごく単純なもので、人間は不自由
な生き物で生まれた時は親に面倒を全て委ね、それなりの年になると今度は自分が養
う側に回り、だんだんと年を重ねるに連れて体の自由が利かなくなり、最後も誰かの
世話になって死を只待つことになる。だからと言って僕たちはあきらめずに生きて行
くことが必要なのではないか?という下らなすぎる内容の本だったので僕は本を閉じ
て外の景色を眺めることにした。そしてあの本どうりの人生を生きて行くことにぼん
やりとした不安を持った。幾らでも時間があると思っている今だからおもえることな
のだが不安は不安として僕の中に残るだろう。もし僕の寿命が70だとしたら折り返
し地点は35となる。35歳を迎えた時から時間はきっと恐ろしくスピードをあげる
だろう。35までの過程が上り坂ならば、35からは下り坂で、倍以上の速さで時間
は進むが、負担は軽くなるのではなく逆に重くなるばかりで麓に着いた時にはきっと
全てが無くなっているに違いない。そして自分の歩いてきた道を後悔し、次の世代に
夢を託し終わってしまう小さな命なのだろう。と下らない考え事をしているうちに車
内アナウンスが聞こえた。"次は元住吉。お出口は左でございます。#と電車では珍し
い女性アナウンス。しっかりしたその口調には親近感を持たせてくれる。
少し汗ばむ季節の昼下がりに祖母の見舞いのために降りた元住吉。初めてのという
ものはドキドキするものだ。まるで迷路に迷い込んでしまったかのような焦りと、自
分が知らない土地に足をつけている不思議さが好きだ。面会時間は3時からで余裕を
持って出たためか2時半に着いたため、街の中を歩くことにした。穏やかな午後の日
差しが街中を包み、買い物客で賑わう商店街は誰もが笑顔で歩いているように僕には
見えた。平和過ぎる午後。僕の祖母は入院しているというのに、周りの人間はいつも
と変わらない生活を送っている。当然だけど、悲しい気がした。僕が今歩いているこ
の最中にも誰かは死を向かえ、誰かは生を授かる。けど誰も気にしない。自己中心的
に回る世界だから仕方のないことだ。もちろん自分だってそうなのだから。



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