腐っちゃいないぜ...RIMO

 

 

貪婪 - 2004年12月01日(水)

注、今日は日々、書いては消してる作品の中から、提出するほどではないんだけれど、
この雰囲気は気に入っているという作品をアップします。
長いです。

 


 刑事さんも大変なんですねぇ。こんな夜遅くまで、あたしなんかの為に出張ってもらっちゃって。
けどもう良いんじゃありせん? さっきから申してますでしょ、あたしがやったって。
刑事さんもお辛いでしょう? 恨み辛みや妬みなんかに毎日毎日、当てられて。
恐い思いだって沢山するんでしょう? そりゃあどんな仕事だって怖い事はありますわよね。
あたしだって乱暴されたことなんて一度や二度では済みませんもの。体をひさぐ代償ですわね。
 けどね刑事さん、職業に貴賤なしていうじゃありませんか。あたしはこの仕事を卑しい仕事だなんて思ったことは一度たりともありませんわ。
まあ世間の人たちはそうは見てくれませんよ。良く相手をした殿方の奥さんなんかがやって来て、あたしの事を「淫売」だなんて仰られますけどね、
あたし口が軽いものだからついつい言っちゃうんですよ。
「奥様、あなた股開いてりゃあ、あの人ここには来なかったんですよ」って。
あら、刑事さんごめんなさいね。あたしその時は学がなくって。男の人ってたまには他の女を抱きたくなるんでしょう?
けどその奥さんにはそう言うこと理解できそうになかったから、そう言ったんですよ。
そしたらもう顔を真っ赤にしてね。髪の毛引っ張られちゃって、ええ、今思えば可笑しくて笑っちゃいますけど。
 体の骨が固まる前から、殿方相手にしていたでしょう? そのせいかどんなに偉ぶってる人も偉く見えないんですよ。
糊のきいたスーツを着て、こう鬚をさすりながら胸を張ってるお客さんもいましたよ。
あたしを自室へ招いて、モダンな会話でも楽しもうって雰囲気で語りかけてくるんですよ。
おかげであたしは色んな事を知る事が出来ましたけれど、けどやることは一緒でしょう?
急にそわそわ落ち着きを失くす人もいましたわ。あ、あたしなんだかそう言う方を相手にするのが多くって。
なんていうか気品がありそうな方の。そう言う人によく言われましたわ、「気品がある」って。
可笑しな話でしょう? けど悪い気はしませんでしたよ。若い頃はね。けど経験を重ねると、そういうのも嬉しいというより、可笑しくって。
商売女になんでそんな事を言うんだろう? 一度限りの相手にそんな事を言ってどうするんだろう?
きっと、殿方はロマンチストでいらっしゃるのね。きっとこの女の中に私は何時までも残るはずだって。
あたしの中に残るのはビョーキくらいですわ、おほほほほ。あら? 可笑しくありませんでした?
 え? 子供は出来なかったのかって? ええ、出来ましたよ。けど、すぐに流れちゃうんです。
あら、そんな顔なさらないで下さいな。たしかに辛い事ですわ、けどどんな仕事だって、なにかしら犠牲があるでしょう?
刑事さんだって、その年でいらしたら奥様やお子さんだっていらっしゃるでしょうに、それをこんな時間まであたしに付き合って。
それに、もともとあたしは流れやすい体質らしくて、うちの母親も、あたしを生んですぐに死んでしまったし、
あたし自身も未熟児だったんですよ。ええ、奇跡的にこんな年まで生きていますけどね。
けどもう駄目ですわ。心臓を患っているんです。ええ、本当ですよ。あの人が言うには先天的に疾患が合ったらしいんです。
今までそう元気でいられたことが奇跡だって。殿方から精を吸い取っていたせいか知らん?
そういって笑ったら、あの人顔を赤くして、俯いてしまって。
 ふふふ、あの人、不能だったんですよ。他は健康なのに、あっちのほうだけはテンで駄目。
お医者様なのに。
 けどだからかも知れませんね。あの人はなんだか不思議な感じがしたんですよ。会った瞬間ね。
あの人も思うところあったんでしょうね。一緒に住むようになりましたわ。そう、あそこで。
刑事さんご覧になりました? 狭い所でしょう? あの人、貧乏人ばかり相手にしてるから。
けど腕が良いものだから、金持ち相手に回診もしていて、それでようやく食べてる状態でしたわ。
あたしも時々、春を売りましたけど、それでも薬代やらなにやらで、冬なんかお互いの体で暖を取り合っていましたわ。
 ふふふ、あの人、本当に可愛くて。お金が足りなくて、あたしが体を売りに行っても何も言わずじっと耐えてるんです。
やめろって言いたいんでしょうけど、あの人、根が甘ちゃんだから言えないんですよ。
で、あたしが色のにおいをぷんぷんさせて帰ってくると、情けなさやら劣情やら入り混じった顔をするんですよ。
もどかしいんでしょうね。無茶苦茶にしたいのに出来ないなんて、それを見るとあたしゾクゾクしちゃって。
わざと大きな声で言ってやるんですよ、「激しくされたからヒリヒリするわ」なんて。
ふふふ、あたし何時殺されるかわかったもんじゃない生活をしていたんですよ。けどあの人に殺されるんなら本望ですわ。
あの人の振るう包丁かしらん? 縄かしらん? それがあたしから全て奪ってゆくなんて、素敵な事だと思うんですよ。
でも、あたしの方が我慢できませんでした。あの人、耐えてばかりなんですもの。限界でした。
別になんでもない日だったんですけど、なんだか急に、プツンと来てしまって。
台所にあった麻の縄で、ぎゅっと。
 ええ、だからあたしがやったんで間違いないんですよ、刑事さん。なにがご不満なんです?
 え? 今日? いえあたしはずっと家にいました。だからかもしれませんね、ずっと一緒にいたから抑えきれなかったんでしょう。
……それは何かの間違いですよ。あたしは仕事なんて……
 どうやって首を絞めたか? そんなの首に縄をぐるりと巻きつけて………
 刑事さん、締め跡がなんだって言うんです? あの人はあたしが殺したんです。あたしが首を縄で絞めて殺したんです。
あたしの手の中で死んだんです!
自殺なんかじゃありませんわ。自殺なんかじゃ。そんな事駄目です! そんな事させるものですか!
あの人は特別なんです。だからあたしが殺さないといけないんです。あたしがやらないと…
やらないと駄目なんですよ。あの人、あたしを憎んでいたはずなんです。だから…いつかきっと。
なのに、あんな方法で、怨念を返してくるなんて…

……え? 刑事さん、今なんと仰いました? あの人が生きてる? まさか…あたしが帰ってくるのを見計らって、台を蹴ったんですか?
 そんな、駄目よ、駄目よ、駄目よ! ああ、なんてこと、なんてこと! 駄目です刑事さん、あの人にあたしを会わせないで!
後生です! あたし、あたし、今度あの人を見たら、本当に殺してしまうわ…






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