イマジナ;凍土  2009年06月21日(日)
イマジナールド。
果てへ。辺境へ。構造体のできるだけ曖昧な端の方へ。しかも前後左右、東西南北を問われないところへ。

インナーメール。
フォーマットに記入。
>指定;
 種類(世界) → 地理(凍土) → 属性(虚)
 時系列(特になし) 物語性(特になし) 結末(特になし)
 目的性(特になし) 価値観(特になし) 宗教(特になし)
 感情系(特になし) 
 色彩(虚)  音(虚)  描写(虚)
 他者(無)  他我(無) 
 
>重要指定;
 特定他者(�〔機法吻¬機法吻L機法吻ぬ機法吻ヌ機�
 特別他者(�〔機法吻¬機法吻L機法吻ぬ機法吻ヌ機�
 特別存在(�〔機法吻¬機法吻L機法吻ぬ機法吻ヌ機�

>確認事項; 
 指定の設定 に関わらず、
 あなたが登録されている自己、世界の構造・情報を超えて
 予期せぬ各種要素が到来する可能性があります。

 「予期せぬ到来」が不安な方は、事前に個人の構造・情報登録を
 更新してください。
 
 
>OK.


>フォーム送信。
>相手先・・・受信OK。
>「確認済」の自動返信・・・こちら受信OK.

>圧縮を解凍し展開。
 「指定が非常に曖昧なため、具体的な固有の情報が得られません。
  曖昧なイメージとして展開しますか?」 
>「はい」

>「警告;影響が予測できません。
  ロスト、ミューテーションの可能性が否定できません。
  続行しますか?」
>「はい」


>「以下の警告メッセージにより通常展開ができません。
 「指定内容による世界展開は、ロストの可能性が非常に高いため
  確実なセーフティが必要です」
 「以下の内容のいづれかを入力してください」
 「特定他者(�〔機法吻¬機法吻L機法吻ぬ機法吻ヌ機�
  特別他者(�〔機法吻¬機法吻L機法吻ぬ機法吻ヌ機�
  特別存在(�〔機法吻¬機法吻L機法吻ぬ機法吻ヌ機法�
 
>「特定他者(�.茱轡�/友人)(旅の同行者)」
 「特別他者(�〔機�
 「特別存在(�〔機�


>送受信・・・完了。
>世界を展開します。
>
>


>「展開が完了しました。層転移 します。」
 

真っ白な雪原。
隣でヨシオが「ここが!世界の果てだ!」「認識の果てだ!」と俗悪な声で繰り返している。
全てが雪に埋もれたわけではない。ただ、長時間堆積しすぎて凍り付いているようだ。

息が白くなるのに少し時間がかかった。
少し高く土を持ったラインが私達の横から視界の端までゆるやかに伸びている。線路だ。

その砂利に突き刺さっているのは、半分雪に埋もれた鋼鉄の表示板だ。
「SOBIESKIE」と書いてある。

シベリアのどこか。とてつもなく曖昧な場所。

ヨシオの弁によれば、観光に飽きてシベリア高原を横断しようと試みた私と友人は、辺境へ向かう長距離客車に乗り、最も虚無的で「世界の果て」にふさわしい地域を探したのだという。そして、選定は一発で決まり、衝動的に名も無いどこかの駅で降りた。

名も無いただ広い、真っ白な平原。物凄い白。地球がとうとう凍り付いたのかと疑った。
グラスに満々と湛えた透明な水に、一滴のインクを垂らしたときの様子が思い浮かんだ。自己が分散して消え入りそうだと感じた。

雪の重みで地上から「ミシ・・・」「きし・・・」と言っているように聞こえる。空気が宙を漂う純粋な音なのかもしれない。目で見えないほど遠くを走る客車の音なのかもしれない。

突如、歌声を聞いた。
心臓が脈を打ち、この世界に鼓動が与えられたように、一瞬、パルスが走った。
紫色を思わせる、何かのフレーズが走った。聞き覚えがあるような、全くの未知のような、思い出すことはできなかった。女性の、力強い声で、フレーズが走った。翻る音階。羽をはためかし、筋肉を力みから振り下ろして解放させる動き。そんな歌だった。

ヨシオが肘で強く突いてきた。
我に返ると背後から、仏頂面をしたディーゼルが客車を引き連れて「ガチン・・・」「ガチン・・・」と走ってくるところだった。

「撮らなきゃ! マー君撮るぞ!」
驚くほど近くまで来ていた。歌声らしきものに意識を奪われたのは2、3秒どころではなかったのか?

がちん、がちんと、のろのろと鉄が分解するような音を立てて、十数台を連結した客車が通過していく。のっぺりしたクリーム色の客車一両が視界を走り抜けるのがひどく遅い。自転車といい勝負。
財源を減らさぬようけちけちと暮らす人を見てるようだ。速度とは呼べない速さで「がちん・・・」「がちん・・・」

雪原の果てにまた焦点を戻す。
周囲の光景が徐々にディティール奪われていく。感覚から「白」「広さ」「空」といった一番大きいもの以外の具体的なものが消えてゆく。
通行人、雑草、車、線路脇の資材、町の人の生活道路、空の曇天の濃淡、数十センチ隣の友人、自分自身。
感覚域が狂う。
けれどあの一瞬、割って入った歌声らしきものは今も脳裏でリフレインしている。

足元に超ウラン性の何かが埋まっていたのだろうか。トランスバールにも行ってみたかったが脳が焼き切られたならここで旅も終了か。
服装倒錯に近いような日常の衣装の数々から、ここにきて、全てはほぼ真っ白だ。
ヨシオ、「撮れたし、駅に戻るか」
早くも凍土で、エンドのフラグが立った。確かにそうだ。何の設定もしていない。
しかし、あの歌声がどうしても気になる。思い出そうとして気付いたことは、自分が今まで聴いてきた無数の音楽の中にはさっきフレーズ、声、響き、うねりは、絶対になかったということだ。

「ヨシオ、僕はこの先へ行ってみたい」
行ってどうする? 録音機器? 持ってきてない。
GR1dのムービーで録る? 
−すぐ隣のヨシオに聞こえてはいなかった。物理現象じゃなさそうだ。
どうやって記録する?
歌声に出会ったら? 五線譜にメモを? 
−ドレミファが分からない。
表音式つづり字で? ○や↑の記号で?

まあいい。最悪、メロディは失われても、フレーズだけでも掴んでやる。
ヨシオは訳のわからない顔をしながら付いてくる。いつどこであの歌声がやって来るかは分からない。膨大に積もった雪を踏みしめて歩く。少しだけざく、ざくと鳴るがほとんど中身は固く凍結している。

「予期せぬ到来」さっそく来たな、公式のログにも残らず、設定上の持ち物の記録媒体でも情報処理できない、幻聴や幻視、予感、閃きに近い何か。
マラリアで寝込む羽目になっても、テロリストに拉致されても、崖から滑り落ちても、ヤク中に刺されても、まあいい、
僕はこの先へ行ってみたい。




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