劣悪な星の下で  2009年02月01日(日)
夥しい平和と安定の道のりを思い返すと吐き気がする。この胸の締め付けるような思いは何だ。おれがやってきたことは定められた道を切り崩し、眼前に立ちはだかる山を切り崩し、町が現れれば火をつけて、王も乞食も等しく呪い殺そうとばかりしていたではないか。それがいつの間にか、自分を殺すことの優先度を高めた挙句、「私は間違っていました、私はあなたがたを肯定し、敬愛します」などと日々言わなくては済まなくなってしまったのだ。おお、誰がおれにこのような狂える毒を盛ったのだろう? 緩慢に、しかし確実に効いていたらしい。友の忠告とはありがたいものだ。たとえそれが酒の席での景気の良い冗談でも、邪悪な挑発であってもだ。おれが蛮刀を振るうことを肯定する者は全て味方だ。否定されるべきものがこの世にいくつかあっても良い。そう言って憚らなかったのは何を隠そう、このおれ自身ではなかったのか? 博愛主義に身を染めて、あるいは有能な公僕を目指そうとして、うわついた綺麗言ばかりを崇拝する毎日だ。人生恐ろしいもので同じことを繰り返しているとそれ無しでは生きてはゆけぬ。また明日も昨日と同じでなくてはならぬと、己の中に法典を築き始める始末。だがおれはまだ冷静だ。地獄の黒い炎のような心のくすぶりが消えぬうちは。それがこの眼球の奥深くを黒く燃え上がらせ、おれから死の気配をぬぐい去ってくれるのだ。さあ、この劣悪な星の下で。少しだけ大きな声で言おう。不快で不穏でおぞましいことを。己自身をも毒牙に掛けて、むき出しの心と肌で言葉を取り出そう。何の頓着もなく生きて行ければ幸いだが。しかしおれは、そのようには出来てはおらんのだ。全くもって、劣悪な星の下で、おれは胎児のままでここまで大きくなった気がするのだが。今更帰るべき子宮など見当たらぬ。ゆえに脆弱なこの足で、羊膜を引きずりながら歩くのだ。這うようにしてな。憎むも愛するもない、まずは否定するのだ。さあ、手始めに明日という世界からだ。否定するのだ。この、劣悪な星の下で。




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