KENの日記
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2015年06月26日(金) ザルツブルグ音楽祭の「ドン・ジョヴァンニ」

NHKBSプレミアムで放送された2014年夏のザルツブルク音楽祭で演奏されたモーツアルトの歌劇「ドン・ジョヴァンニ」を観ました。

ドン・ジョヴァンニ:イルデブランド・ダルカンジェロ
騎士長:トマシュ・コニェチュニ
ドンナ・アンナ:レネケ・ルイテン
ドン・オッターヴィオ:アンドルー・ステープルズ
ドンナ・エルヴィーラ:アネット・フリッチュ
レポレッロ:ルーカ・ピサローニ
ツェルリーナ:ヴァレンティナ・ナフォルニツァ

合唱:ウィーン・フィルハーモニア合唱団
管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:クリストフ・エッシェンバッハ
演出:スヴェン・エリック・ベヒトルフ
収録2014年8月(ザルツブルグ)

2006年のザルツブルグ音楽祭で演奏された「ドン・ジョバンニ」でレポレッロを演じたダンカンジェロが今回「ドン・ジョバンニ」を演じました。演出はザルツブルグで新演出。前回のハンプソンの時の演出も奇抜でしたが、今回の新演出もかなり奇抜で「ストーリー・台詞」と舞台で進行するオペラがなかなか噛み合わず、疲れる場面は少なくありませんでした。

領主・貴族の「ドン・ジョバンニ」と領民の「ツェルリーナ・マゼット」の関係が現在の「ご主人と使用人」以上の身分の違いがあることによる「仕掛け」が、旅人とホテル従業員との関係で成立するとするのは少し無理があります。ツェルリーナ・マゼットの結婚式の場面とかドン・ジョバンニが騎士長の亡霊を招待する食事場面など舞台設定が曖昧になっていて臨場感が足りないと思いました。

指揮「エッシェンバッハ」だということであまり期待をせずに見始めましたのですが、予想通り序曲から第一幕後半位までは偶にウィーンフィルから硬く荒っぽい音がしていました。エッシェンバッハの硬い指揮姿を想像するとその音楽も仕方ないかなと思われました。歌手には酷な「超スピード」の部分があったり、フレーズの最後に余裕が無く歌が窮屈になっていた部分もありました。しかしニ幕以降はウィーンフィルは多少安定感を増して伴奏していたと思います。

歌手では「ダンカンジェロ」がさすがに素晴らしい声ですし、他の配役陣も総じて安定した歌唱を聞かせていたと思いました。しかし見て居て疲れるオペラだなと思いました。それは歌手人のエネルギー状況が常に「力演モード」になっていて聴衆に緊張を強いるものだったからだと思います。その中で「オッタービオ」を歌った「アンドルー・ステープルズ」が大変冷静で丹精な歌を聞かせてくれたと思います。この役は「ドン・ジョヴァンニ」では少し「飛んでいる役」ですが、今回は安定感抜群で観客がゆったりと聞くことが出来た数少ない場面だったと思います。彼にはブラボーが掛かっていました。同じような場面は「ドンナ・エルヴィーラ」にも容易されていましたが、エッシャンバッハの伴奏は冷静に歌うことを許さず、感情を前面に出す歌唱が多かったように思えます。「ドン・ジョバンニ」に対する愛情と憎しみは落ち着いて表現してもらったほうが帰って納得感が強いと思うのですが。

ドン・ジョヴァンニの人間性を表現するのは大変難しいと思います。今回のドン・ジョヴァンニが死んでからも地獄で女性を追いかけているような演出が行なわれましたが、そこまで表現されると少し辟易です。また2006年版でもそうでしたが女性歌手がふくを脱ぐ場面が多すぎます。スカラ座のドン・ジョバンニでもそうでしたが女性歌手が下着姿で歌う姿は個人的には好きではありません。オペラですから感情は「歌」にこめて表現して欲しいと思います。

フルトヴェングラーがザルツブルグで指揮した「ドン・ジョバンニ」は大変安定していて名演だと思います。それは1954年のザルツブルグ音楽祭ですから、それから60年目の「ドン・ジョバンニ」ということになります。



2015年06月25日(木) 安保法制に関する議論

BSフジのプライムニュースで「安保法制」に関する議論が放送されました。安倍首相の安保法制案支持からの立場は元防衛庁長官の森本教授、反対派は憲法専門の石川教授と政治学の河野教授でした。3人とも学者ですが森本さんが防衛長長官として政府・国会の内側を経験したことに対して、石川・河野の二人は純粋にアカデミックな立場なので議論の噛み合わない討論ではありました。

大変頭の回転の速い「反町キャスター」が間を取り持つのですが残念ながら聞いている方からすると、反対派特に石川さんの意見は「街のおじさん・おばさん」の情緒的な意見と大して変わらないという印象を持ちました。戦争時代を生きた人々がその時代の経験・思いを基本として今回の「安保法制」に反対するというのは分かるのですが、戦争を経験していない世代が反対する根本的な理由が何であるのか考えさせられました。

自分の判断は自分の思いは自分の経験から得られることが普通でしょうが。その経験が無い場合には学習して知識として獲得するしかないのです。従ってどのような判断をするのかはどんな情報をどれだけ得たのかという学習の問題になってしまうのでしょうか。3人の議論を聞いていて大学で研究している方よりも、防衛庁・外務省で第一線の場を経験した森本さんの獲得している情報が圧倒的に深くて大量だということが明白だったと思います。

安保法制反対派の先生には何が聞いている視聴者を納得させられるのか良く考えて欲しいと思いました。専門用語を並べて論理展開しても結局机上の議論であれば説得力がありません。例えば現地・現場の情報を徹底的に把握する方法があります。太平洋戦争の悲惨な戦場・沖縄戦・日本各地への爆撃などに関しての深い洞察力です。戦死者・負傷者数を「数量」としてだけ把握するのではなく、自分達の友人・家族の不幸と同様な思い入れをもって考えることだと思います。

数値ではっきり評価できない分野は「感情」の深さで対応するしか方法はありません。安倍首相は言い方は少し工夫が必要だとは思いますが、「国民の平和と安全を守る」ことに関しては大変深く真剣に考えていることは確かだと思います。安倍首相の強引さ・用意周到さはその深さ・真剣さの現れだと思います。その安倍首相の論理に単なる文献的知識で対応できるとは思われないのです。



2015年06月24日(水) サッカー日本女子ベスト8へ

今日女子サッカー代表チームはワールドカップのノックアウトステージ一回戦を戦い、オランダに対して「2対1」で勝利しました。次は27日の準々決勝でオーストリアと闘うことになりました。対戦相手のオランダはワールドカップ発出場ですが攻撃力のあるチームでした。身長が高くテクニックもあるので日本代表のボールポゼッション率はそれ程高くはありませんでした。その強豪オランダチームも前回優勝という経験を持つ日本代表とは試合の大事なところでさが出ていたように思えます。逆に言うと日本代表の「したたかさ」が光った試合でした。

日本代表ではやはり「宇津木選手」のプレーが目立っていました。宇津木選手・大儀見選手は前線・中盤でしっかりボールを保持できるので日本の攻撃に良いリズムが出ていると思いました。彼女らはボールを失わないし、ポジション取りが上手く視野が広いので攻撃の幅が広がります。代表男子の中盤からパスが出ないので仕方なくボールを回す状況が多いこととは大違いです。

更に今日は阪口選手がシュートを決めました。宇津木・阪口・鮫島・有吉等の後ろの選手が調子を出すと、攻撃参加の機会が増えて得点源ともなるし、気持ちが乗ることで運動量が増し、バックス陣の連携が向上して相手の攻撃を封じる一石二鳥の効果があります。残り3試合勝つと優勝ですから前回優勝がまぐれではなかったことをぜひ証明して欲しいと思います。



2015年06月23日(火) ベルリンフィル次期常任指揮者決定

ベルリンフィルの次期常任指揮者にロシアの「キリル・ペトレンコ」が選出されたそうです。今年5月14日に行なわれた次期指揮者選出のための楽団員総会では結論を出すことができず、一年以内に再度楽団員総会を開いて決定することとなっていました。それから1ヵ月と少し経った6月22日の決定です。私としては予想以上に早く結論が出たという感じがしました。

今回の常任指揮者選出過程の経緯に関してネット情報を見てみると、ベルリンフィルの常任指揮者候補として「クリスティアン・ティーレマン」の存在が良くも悪くも大きかったようです。ティーレマン支持派には生粋ドイツ人系譜のティーレマンへの期待が大きいようです。フルトヴェングラー、カラヤン以降はアバド、ラトルと非ドイツ人の指揮者が続きました。オペラハウス叩き上げでワーグナー・ベートーベン等ドイツ作曲家物を得意とするティーレマンが常任なると話題性もありCDも売れるかもしれません。

一方の反ティーレマン派にとっては傲慢で強引な感じが否めない音楽とそのキャラには正直付いていけないというのが本音でしょう。カラヤンの最後の方とかアバド時代は楽員と識者の関係は冷え込んでいたようです。やはり楽員も人間ですから付き合うなら心地良い方が良いに決まっています。しかし反ティーレマン派はアンドリス・ネルソンスで固めきれず結局再度検討ということになったのだと思います。

今回予想外に早く結論に達することができたのは反ティーレマン派がティーレマン支持派説得に成功したのだと思います。時間を掛けていては「ティーレマン」の強烈な集票運動に適わないとみたのではないでしょうか。考えてみれば「キリル・ペトレンコ」という選択は当を得た選択であるように思えます。ベルリンフィルをまだ3回しか振っていないのだそうで私も聞いたことがありませんが、写真を見る限り如何にも人格円満で人の良さそうな風貌をしています。またペトレンコがロシア出身ながらウィーン国立大学で音楽を学び、オペラの指揮経験が豊富で特にワーグナーの楽劇に造詣が深いことはティーレマン派を切り崩す材料になったと思われます。ネット書き込みを見ると非情に誠実で丁寧な音楽作りをする指揮者のようです。ベルリンフィルがどのような演奏を聞かせてくれるのか楽しみです。



2015年06月22日(月) タリバンの攻勢

アフガニスタンの首都カブールの国会議事堂がタリバンの自爆テロ攻撃を受けたとBBCが伝えました。まだ交戦が続いていて被害の模様ははっきりしないようですが、攻撃を受けた国会議事堂内の様子がネットにアップされています。首都の国会議事堂を攻撃するというのはかなり挑戦的な行為なので今後のタリバンの攻勢が懸念されるところです

昨年12月アメリカのオバマ大統領は2016年末のアフガニスタンからの兵力撤退を宣言しました。それまでに順次の撤兵を進め今年末までには5000人規模に縮小する予定だったようですが、アフガニスタンの戦況悪化で今年中は現在の9000人規模を維持することになったようです。タリバンが攻勢に出て政府軍がそれを食い止められなければこの撤退作戦は難しくなります。オバマ大統領はシリア・イラクではISISの攻勢に対して戦闘兵力の投入の決断をせずに踏み留まっています。

しかし「ISIS」と「タリバン」が勢力競争をしているかのように、それぞれシリア・イラク、アフガニスタンで攻勢に出て、現地政府がそれに抗しきれない状況が明らかになりつつあります。アメリカの同時多発テロを契機としたテロとの戦いは、イラクとアフガニスタンでサダム・フセイン・オサマビンラーディンの二人の首謀者を捕らえて一定の戦果を上げました。しかしその戦いの裏で「ISIS、タリバン」がどんどん勢力を拡大させてしまいました。ISISとタリバンは今は敵対関係にありますが、もしこれが共闘体制を組んだら大変なことになります。



2015年06月21日(日) 浦和レッズ前期優勝

浦和レッズは昨日のヴィッセル神戸との試合に引分けて勝ち点1を加えた結果今年度前期優勝を決めました。昨年12月にあと少しのところで優勝を逃しているので今日も気がかりではありましたが、昨年度とは一味違うレッズの戦い振りを見ることができました。

レッズで昨年度と最も違ったのは「槙野」の成長だと思いました。ハリル・ホジッチ氏が日本代表監督に就任し、ホジッチ監督のスタイルに合致した選手をJリーグ・ヨーロッパ組みに拘らず登用していく方針を明らかにしてから、もっともアピールしたのが「槙野選手」だと思います。元々明るく目立ちたがり屋の性格なので「代表のムードメーカー」としての素質はもっていたのですが、この前期「槙野」はホジッチの求める「前に責めるサッカー」を率先実施して代表の座を獲得しました。

昨日の試合のレッズの得点も「槙野」の攻め上がりが基点となって生まれたのでした。守備においても厳しく相手攻撃陣をマークし、ここぞという場面では攻め上がり、コーナーキックを得ると高さを生かして攻撃に加わり、シュートも打つというようにバックスでは「トゥーリオ」以来の存在感を示していると思います。まだ28歳なので90分間走り回ることが出来ます。この槙野の参加で「吉田」も積極的になっていることもプラスに働いています。後半戦も頑張って欲しいと思います。



2015年06月20日(土) お得なワイン



長野のスーパー「ツルヤ」で購入した二本のイタリアワインです。右が799円(税抜き)のトスカーナロッソ、左が599円(税抜き)のモンテプルチアーノ・ダブルッツオです。長野県須坂市に帰省しおりに買いました。安い割りに大変美味しかったので記録しておきます。

サンゼノーネというブランドのトスカーナ・ロッソはサンジョヴェーゼ、メルロー、カベルネソーヴィニオンの葡萄のブレンドです。従って一定の規律・密度を保ちつつ、適当に庶民的な味で非情に美味しいワインでした。ベルリンワインコンクールでイタリア最優秀生産者賞を受賞したワインだけのことはあります。この水準のワインがいつでも買える環境にあるということは非情に羨ましい限りです。生産会社はイタリア全国でワインに適した葡萄品種を買い集め様々なブランドでワインを生産して輸出しているようです。組織化しなければ地方の地酒で終わっていたかもしれないワインを探し出してコストを抑えながら輸出できるように事業家しているのです。

左のワインは大変安いモンテプルチアーノダブルッツオです。こちらは右のトスカナロッソとは違って兎に角安さを追求したワインのようです。味に格調はありませんが庶民的な味で可愛らしく「ガブ飲み」ワインできるワインです。このワインは現地ではボトル詰めにせずバルクで買えるのでしょうが、外国に輸出するときにはボトル詰めにせざるを得ません。ワインの選択肢の拡大ということでは貴重なワインだと思います。気取らない日常の食事の際に安心して飲めるワインです。

最近は都会でも地方でもお得なイタリアワインを購入することができるようになりました。1000円を切る値段帯のワインを探すならイタリア・スペインのコンクール受賞ワインがお得です。



2015年06月19日(金) ギリシャ債務問題

ギリシャ債務返済期限が迫り、EUは新たなローンを提供する代わりに「年金改革・消費税・財政支出圧縮」などの一連の改革を要求しています。ギリシャ国内の銀行は預金者の預金引き出しが進み、資本現象しているため倒産を防ぐための資金供給の必要性から、ギリシャは日々必要な「資金」が増えている状況のようです。

それでもチプラスギリシャ首相は強気です。EU側に譲歩を要求するとともに最近西側との対立が顕著なロシアに接近して「ロシアからの資金援助」というカードを散らつかせてEUとの交渉を有利に進めようとしています。世界の株式・為替マーケットはこの「ギリシャ債務問題」に神経質になっていて債務返済期限が迫るたびに市場が変動するようになってしまいました。

しかし呆れるのは「借りている側が強気で、日本では考えられないような粘り越し」を見せている点です。日米開戦のきっかけとなったアメリカの対日本石油輸出禁止措置や在米資産凍結処置に溜まりかねて日本は戦争の道を選びました。強いものどうしの争い・強いといきがっているものの争いはしばしば不幸な戦争に繋がりますが、貧しいもの・失うものが無い者が争うときには「弱いものの側」が優勢になるようです。

ギリシャは都市毎に発展していた古代文明期の後そのままローマ帝国に支配されました。そしてローマ帝国分裂後は東ローマ帝国の支配下に置かれ、その後はオスマントルコ帝国の配下に置かれました。その後オスマン帝国が衰退し19世紀前半にアテネを中心とするギリシャの国が成立しました。しかし東はトルコに接し、北はバルカンの火薬庫に近いため安定した国作りはできなかったようです。従ってヨーロッパ各国が中世の封建主義絶対王政・ルネサンス・宗教改革を経て近代国家(国民国家)に変身していった過程はすっぽり抜けているのがギリシャなのです。ギリシャ国民はそんな地政学的特質に翻弄される「国」に対しては覚めた見方をしているようです。ローマ帝国配下・オスマン帝国配下、EU配下と指図するボスが変わったように、今度も変わるのかなと思っているのかもしれません。



2015年06月18日(木) 血液検査結果が悪い

6月13日の献血時の血液検査結果が到着しました。評価が難しい結果が出ました。直近2週間くらいの血糖値が反映される「グリコアルブミン比率」は「19.4」とこれまでの最悪数値となってしまいました。前回5月23日の値が「18.9」なので更に悪化したことになります。一方で「アルブミン」「コレストロール」、「総蛋白」などの血液の栄養の量を示す数値はこれまでにないような低い数値となっています。ということは血液の栄養素は一般に少ないけれど「血糖」だけが豊富にあるという状況です。

5月前半に行った四国遍路の後体重は少し減りましたが、遍路から一カ月くらい過ぎてから体重が更に減り、現在でも62Kgを下回る水準です。通勤時の歩数は15千歩程度で遍路前と変わらないし、食事の量はこれまでと変わらずに野菜を十分に取り御飯を減らすものとなっています。このような状況下でなぜ血糖の量が増えているのか推測してみました。

身体の筋肉は「四国遍路」で一日3万歩〜5万歩程度歩いた経験を十分覚えていて血液にエネルギーとなる「糖分」を蓄えようとしているのではないかと思われます。しかし現実にはその半分程度しか歩かないので血液中の糖分の消費は進まずに結果的に血液に残留する「糖」の量が高くなっている可能性があります。更に遍路中に十分とっていた食事も急に「野菜」を取る「減量スタイル」に急に変わってしまったので、身体は食事から栄養分を補給できなくて体脂肪を分解して栄養分補給という方法を取ることとなり、その結果体重が減ったのではないか。

何れにしろ血糖の供給と消費のバランスが取れていない状態が続いていている可能性があります。もう少し様子を見る必要があると思われます。



2015年06月17日(水) ドヴォルザークのピアノ協奏曲

ドヴォルザークのピアノ協奏曲を武蔵浦和図書館から借りてきました。演奏はピアノがリヒテル、カルロス・クライバー指揮のバイエルン放送交響楽団です。とんでもない組合せの演奏者と馴染みの無い曲です。この演奏は1976年の6月にミュンヘンのスタジオで録音されたものです。クライバーとリヒテルの二人が共演した唯一の作品・録音であり、もちろんこの組み合わせで演奏会で演奏されることはありませんでした。リヒテルが61歳でクライバーが45歳です。この年齢から考えると「ドヴォルザーク」を選曲したのはリヒテルだろうと思われます。

2015年4月にベルリン・フィルに客演したムーティがインタビューで面白い逸話を紹介していました。ベルリン・フィルとの演奏会でムーティリヒャルトシュトラウスの「イタリアより」という珍しい曲を取り上げたのですが、その理由には「リヒテルとの出会い」が絡んでいるというものです。少し長いですがHMVのホームページの記事を引用します。

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私の持っている「イタリアより」のスコアには、“1968年4月”という書き込みがあります。もう随分昔のことです。この時まで私はこの作品が存在することさえ知りませんでした。私がフィレンツェ五月音楽祭管を初めて指揮した時ソリストはスヴャトスラフ・リヒテルでした。彼はモーツァルトとブリテンのコンチェルトを弾き、私はモーツァルトのシンフォニーとブリテンの《ピーター・グライムズ》の〈4つの海の間奏曲〉を指揮しました。これは私のキャリアの始まりで後にフィレンツェ五月音楽祭の音楽監督になりました。リヒテルとはそれから何度か共演しレコードも録音しています。

この最初の演奏会の後、彼(リヒテル)は私は言いました。“あなたはシュトラウスの「イタリアより」を演奏しなければいけませんよ”。私は作品の名前さえ知らず、スコアを取り寄せました。それが、この1968年4月のスコアなのです。私はリヒテルのことをよく知っていました。彼は少し変わった、有名でない作品に対する強い関心を持っていました。王道というよりは、横道を選んだのです。ちょっとした小路を行くことの方が、ずっと面白いと思っていた。

普通(音楽とは別に)人に“イタリアの好きな町は?”と聞くと、大抵は、ローマやヴェネツィア、フィレンツェといった答えが返ってきますよね。しかし彼は、“ノルチアやトラーニが好きだ”と言ったのです。いずれもメインストリームから離れた美しい小さな町です。それゆえ私にも、《ドン・ファン》や《死と変容》などの、一般的な作品を勧めませんでした。“いや、ぜひ《イタリアより》を勉強しなさい”と。そして実際に学んでみると、素晴しい作品だと分かりました。

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リヒテルは「王道よりは横道を選ぶ」ことがあったようです。カルロス・クライバーという若い天才指揮者と出会ってピアノ協奏曲を録音する機会ができました。リヒテルはベートーヴェンでも、ブラームスでもチャイコフスキーでもなく「ドヴォルザーク」を選んだのだと思います。演奏会にかける予定は全くありませんから、音楽への執着がとことん激しい二人は将来の聴衆に向かって録音したのでしょう。とんでもない名演だと思います。

リヒテルのピアノとオーケストラの伴奏が時に火花を散らし、時に寄り添って瞬間瞬間がとても濃密に進んでいきます。リヒテルがどの音域でも研ぎ澄まされた音を保ちながらも「PPからFFF」まで表現すれば、オーケストラは全ての音符・休符を細やかな思い入れ持ってを表現しています。リヒテル・クライバーの天才が織り成す別世界のようです。




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