KENの日記
 < 過去  INDEX  未来 >

2007年07月30日(月) リヒテルのドキュメンタリー番組

NHKで放送された「スヴャトスラフ・リヒテル」のドキュメンタリー番組を録画しておきました。前編・後編で150分という長い番組なので順番に見ています。

第一回:「才能と苦悩のはざまで」
第二回:「音楽そして友との交わり」

ずば抜けた才能だとは知っていても、どこか「とっつき難い」演奏家がリヒテルでした。カラヤンみたいに意識して敬遠してきた訳ではないけれど、家には彼の演奏のCDは殆どありません。このドキュメンタリーを見て少し分かってきたような感じがします。好きになるかどうか分かりませんが。

リヒテルは冷戦時代のソ連から西側に紹介された最も有名な演奏家でしょう。オイストラッフ、ロストロポーヴィッチ、ムラビンスキー等の「超」の付く音楽家は多くいますが、リヒテルはその最高峰だと思います。そのキャラクターを理解することは非常に困難です。先ごろ亡くなったロストロポーヴィッチが非常にヒューマニストで旧ソ連の体制に反発したことは有名ですが、リヒテルはその当たりがはっきりしません。ソ連体制も避難していますが西側に出たかというとそうではなくて、西側に対しても強い反発があったようです。ムラビンスキーに似ているような部分があります。

ドキュメンタリーの最初の方でリヒテルは「自分が記憶力が良すぎて困ることがある」というようなことを言っています。出会った人々の顔とか名前を直ぐに覚えてしまい長く忘れることがないのでそうです。この言葉を聴いて、リヒテルの記憶力・物事を把握する能力が普通の人と全く違うのだということが分かりました。これが天才たる所以なのでしょう。

同じピアニストの「クララ・ハスキル」がコンチェルトを演奏するときに、全てのパートを暗譜するという話を聞いたことがありますが、これも単に「暗譜」するのではなく、頭の中で全てに楽器の音楽がなっているのだと思います。ここからは想像ですが、ハスキルやリヒテルは長い長いソナタや協奏曲を「頭の中では」実際に演奏するよりずっと非常に短い時間で把握してし、解釈してしまうのだろうと思います。

そのように思うのは番組の中に散りばめられたリヒテルの断片的な演奏を聞くとそのようにしか考えられないからです。彼の演奏はテクニックだとか音が綺麗などという次元を超えています。リヒテルの頭の中に全ての音楽が鳴っていて、彼の指がそれを忠実に再現しているだけなのです。頭の中で鳴っている音楽を演奏できるようなテクニックが必要だったのですが、神様はその頭脳に見合った筋肉・運動能力・肉体等必要なものすべてを与えたのでした。

番組の中では比較的テンポの速い、がっしりした曲が流されていて静かな曲は少ないのですが、その少ない静かな曲の中でシューベルトの遺作のソナタ(B-Dur)のニ楽章の冒頭は非常に印象的です。ものすごくゆっくり弾いているのです。こんなテンポははじめてです。番組の中でグールドがその名演を称えています。グールドは繰り返しの多いこの曲を敬遠していたようですが、リヒテルの演奏を聴いて好きになったと語っています。早速欲しくなってしまいました。




Ken [MAIL] [HOMEPAGE]

My追加