狼森、笊森と盗森

2006年01月21日(土) き、きになる…の日

早売りジャンプの情報をメールでもらったのですが

「べ様、魔術師(。。)ノシ」

…どいうこと???
すげーきになるんですが、ど、どういうこと?
GBでなにがきてもあんまり驚かなくなったおいらも
すげーきになります…
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3サイトとも、微妙に改装しました。冬改装のついでに。
ついでに、某同盟もせこせこ作ってます(お前、イベントの準備は?)
むしろ俺としては遅いくらいだ!がんばろう!
でも、あいもかわらずバナーで梃子摺り…うーん、もういっそのこと公募に
するかなぁ
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話題ころころ変わって申し訳ない。
えーと、昨日は「怪談新耳袋〜ふたりぼっち編〜」をみました
あいもかわらず怖くはなかったのですが、1話すごくおもしろい話があって
「約束」って話なのですが、うん、おもしろかった。凄く好き。
いい話系かとおもわせてあのオチですよ、なんかもう笑った笑った。

で、今日は「怪奇大家族」をみました。監督をあの「呪怨」の清水崇さんが
やっておられるのですが、これがまたおもしろい。
あまりのおもしろさに、続きはDVDで…とか想ったくらい。
これも凄く好きだ。ちなみに長男がお気に入りですが、おとうさんも好きです
おじいちゃんもステキだし、おかーさんもいい味だしてるし



2006年01月20日(金) 突発日替わり連載第3弾おしまいの日

突発だった日替わり連載第3弾も今日でおしまい。ま、今回はパロですし…
ちなみに、メインはあゆシナリオでしたが、栞シナリオが食い込んでます
(ちなみに、不治と不二をかけたわけではありません!)
あとは、真琴シナリオをという声があったのですが、すみません…
俺、真琴が苦手で…;真琴シナリオは好きなんですけどね(ごにょごにょ)
元のゲームを知っている方は、深くつっこまず…知らない方は、もし興味を
もたれましたら一度やってみてくださいね。
ちなみに執筆中はずっとKanonのサントラを聞いていたんですが、なぜか
OP・EDになると切れる;仕方ないので、BGMのとこだけ聞いてたのです
が、あとになって「regret」(I'veの1stAlbum)かければ、OP・EDきけ
たうえにX'masFlowStyleまで聞けたという事実に気づきました…
なんのためのアルバムさ;しかも、最後は飽きて、せんせいのお時間のサントラ
聞いてました(笑)興津高校校歌が好きなんですが、うえださんの声が…
岩田さんの声はよく聞こえるんですけどねぇ(寂)


さよならのない旅をする



Ending
 風の辿り着く場所

 



雪が降っている
まるで止むことを忘れたかのように
全てを覆い隠すように雪は降り積もる

雪だけが知っている

ずっと降り続く雪の中、誰かが泣いている
終わらない雪の中で、幾度も、いくども、繰り返し、くりかえし



夢を見ている
俺が夢を見ているのか
それとも誰かの見ている夢が俺なのか

夢は終わることなく

ずっと見続ける夢の中、誰かが泣いている
終わらない夢の中で、幾度も、いくども、繰り返し、くりかえし

 

駅前の小さな広場
小さなひとつのベンチ
俺は朝からずっとここに座っている
忙しそうに行きかう人々
誰も俺を気に止めない

俺は人を待っていた

ずっと
ずっと…

春の日も
夏の日も
秋の日も
そして
また、雪の降る日がきても

来ることの無い朝を祈り
二度とこない夜を願い

それでも、ずっと、たったひとりを、まっていた

 

同じ雪
同じ夢
もしかしたら
雪が夢を見ているのか
それとも
夢の中で降る雪なのか
同じ景色の中
いくつかの風景

仲良く笑いあいながら歩く親子
微笑を絶やすことの無い少年
病気の母親にずっと付き添う子
丘の上から街を見つめる動物

雪のように想いは降り積もる
夢のように願いは絶え間なく

けれど、最期には、いつも、同じ風景

子供と子供
ひとりは金色の髪がまぶしくて
ひとりは青空のような瞳が綺麗で
夢の中でふたりは仲良く軽く街を駆け抜けていく
雪はいつまでも優しく降り積もって

 

俺は、ずっと同じ場所にいる
いくつもの季節
いくつもの夢
いくつもの、想い
…たくさんの願い

ひとりぼっちでまっている俺に声をかけてくれたのは仲が良さそうな親子だった
おかあさんは優しそうで、女の子も優しそうで
おかあさんは俺にあったかいココアを買ってくれた
女の子は俺とトモダチになってくれた
バイバイと大きく手を振ったら、凄い音
女の子が泣いている
俺にはなにもできなかった
ただ、ただ、泣き続ける女の子のそばにいることしかできなかった
俺のおかあさんはいなくなってしまったから
俺のおかあさんがいなくなったときはどうしたっけ?
俺はどうして泣かなくなったんだっけ?
あぁ、そうか
俺には跡部がいた
女の子に跡部はいない
かわいそう、かわいそう、かわいそう
俺は泣き続ける女の子のそばにずっといた
かつて跡部がそうしてくれていたように
ずっと、ずっと…
女の子は願った
俺も願った
ねがいごと?

…そうだ、アレを探そう

雪も降らなくなって、春が少しずつ咲き始めてきたある日
おかあさんは助かった

”奇跡だ”と誰かがいった

違うよ
願ったからだよ
女の子が諦めなかったからだよ
おかあさんが諦めなかったからだよ
あぁ、でも
願うほどに強い想いを、人は、奇跡と呼ぶのかもしれない

ある冬の日も、俺はずっとベンチで人を待っていた
男の子がひとりやってきた
カメラをもっている
男の子は俺をみると、少し残念そうに、帰っていった
次の日も、次の日も、男の子はやってきた
そして次の日、俺に話し掛けてくれた
”僕は、不二周助…君は?”
”俺は芥川慈郎”
俺たちはトモダチになった
不二はカメラでいろんなものを撮るのが好きだった
俺も何枚も撮ってもらった
ある日、不二が言う
”奇跡は起こらないから、奇跡っていうんだ”
その不二がとても悲しそうで、とても悲しくて
”叶うよ”
奇跡は起きる
”悲しい気持ちに負けないで…幸せになることをあきらめないで…”
だって、あの冬の日もそうだった
女の子も、おかあさんも、あきらめなかった
だから”奇跡”は起きたんだ
諦めちゃ駄目だよ
不二が疲れてしまったなら
想うことに疲れてしまったら、少し休んだっていいんだ
その間は、俺が不二の代わりに願うから
悲しい気持ちに負けませんように
幸せになれますように
奇跡は起きますように
何度だって願うから、想うから、祈るから
ねがうから?

…そうだ、アレを探さなくちゃ

俺と不二が一緒の写真をとって、しばらくたった夏の日
不二が元気になったのだと風の便りで聞きました

”奇跡だ”と誰かが言う

違うよ
諦めなかったからだよ
不二は諦めなかったんだ
悲しい気持ちにも負けず
幸せになることも諦めなかった
不二はとても凄いんだよ

その冬、俺は探し物をしていた
病院の中を一部屋、一部屋
ある部屋で、おかあさんと男の子に出逢った
探し物をしているんだといったら
おかあさんは”気をつけてね”と笑ってみかんをひとつくれた
男の子はいっしょに探してくれるといって、俺たちはトモダチになった
病院を一部屋、一部屋探す
ある日、おかあさんは、俺にみかんをくれながら
”ジローくん、うちの子と、いつまでも仲良くしてあげてね”といった
もちろんと俺は応える、でもどうして?
”おばさんはこれから、手術なの…ジローくんとみかんをたべるの、これが最後になるかもしれないの”
おかあさんと食べるみかんは美味しかったけれど
その時のみかんは、すこしすっぱかったと想う
手術がはじまった
男の子は赤いランプがつく扉の前でずっと呼んでいた
おかあさん、おかあさん、おかあさん…
俺も一緒になって呼んだ
おかあさん、おかあさん、おかあさん……
俺のおかあさんは帰ってこなかったけれど
おかあさん…
かえってきて
最後になるなんていわないで
また、いっしょにみかん食べたいよ
俺たちはずっと名前を呼んでいた
おかあさん、おかあさん、おかあさん…
願い事をするのと、探し物をするのは似ている

…探さなくちゃ

赤いランプが消えておかあさんは言いました”2人の声きこえたよ、ありがとう…”
ううん、おかあさん、かえってきてくれて、ありがとう

”奇跡”だと誰もが言う

違うよ
一緒にいたいだけなんだ
俺も、男の子も、おかあさんも
大切な人と
ずっと一緒にいたいだけ
だからおかあさんに声は届いたんだよ

やっぱり冬の日は、探し物をする
雪が積もるベンチに狐がちょこんと座っていた
人間以外ではじめて出来た友達だった
狐は俺とおんなじで、ずっと誰かを待っているようだった
ちりん
首につけられた鈴が寂しくなる
ちりん、ちりん…
俺たちはずっとずっと待っていた
雪の降る中を
ずっと
なぁ、お前…
ちりん
鈴が鳴る
お前はあきらめないんだな
ちりん
鈴は鳴る
俺もあきらめないよ
ちりん、ちりん
鈴が応える
だって、約束したもんな
ちりん…
鈴が…
”ごめんね”
狐の待ち人は小さな女の子だった
”もうだいじょうぶ、おかあさんが、いっしょに住んでも良いって”
ちりん
”…おにいちゃんは?”
”俺はこいつのトモダチ”
俺と小さな女の子もトモダチになった
”おにいちゃんも誰かをまってるの?”
”うん”
ずっと待っているんだよ
ここで、ずっと…これからも
”はやくおむかえ、くるといいね”
ありがとうと俺は言う

ちりん

ねぇ耳はいいけど、しっぽは隠さないと駄目だよ
小さな女の子は少し恥ずかしそうに笑って、ふたりで去っていった

これは俺だけがしっている”奇跡”

ちりん
鈴の音は今日も優しく聞こえているだろう
あの学校で
ずっと
ちりん、ちりん、ちりん…

雪も、夢も、想いも、祈りも
いくつも現われては消えていく
親子の雪
不二の夢
少年の想い
狐の子の祈り
そして…

………俺の願い

 

そして、また 同じ雪
そして、また 同じ夢

同じ夢の中、同じ雪が降っている
もう、ずいぶんと長い間
同じ雪の中、同じ夢をみている
それとも、ほんの一瞬?
ずっと、同じ 雪と夢

そして

願い

そして、また 同じ願い

 

本当に、どんなお願いでもいいの?

あぁ、本当だ

本当にホント?

本当にホントだ

まじまじすっげー

じゃぁ

俺の、最後のお願いは…

 

同じ夢をみる
同じ雪のなか
ただ待つことしかできなくて
それでも
それだけがたったひとつできることで
だから

ずっと待っている

 

「おい、跡部!」
「…ん?」
「ん?じゃ、ねーよ。何度も呼んだんだぜ?ったく」
「…そうか」
そういいながらも、跡部は窓から視線を反らそうとはしない
視線の先には小さな公園
小さなベンチ
「そっとしておいてあげなよ、宍戸」
「けどよ、もうじき時間だぜ?」
「ほっとけよ、ジローが見送りにこなくて、凹んでんだから」
「…ジローさん、どうしたんでしょうね?」
「大方、跡部部長の俺様加減に愛想がつきたんじゃないですか?」
「ジローはそないな子とちゃうよ」
「…ウス」
差し込む陽射しは暖かい
もう春が近いことを知らせるかのように
「お前たち、なにを騒いでいるんだ?」
「あ、かんと…って」
一同がざわつく
「こんにちわ」
「久しぶりだな」
「不二に、手塚?」
「お前らも今、帰りなんか?」
つくづく腐れ縁やなぁ
忍足が溜息とともにつぶやく
不二はクスクスと苦笑し、その横で
「ん?跡部のヤツはなにをしているんだ?」
手塚がこちらに気づく様子のない、跡部に視線をやった
「振られてブルーになってんだよ」
「…」
「忍足くん」
「あ?」
「僕の話、覚えてる?」
「話?侑士、なんのことだよ?」
「…あぁ、天使がどうのこうの、奇跡がどうのいうやつやろ?」
「「はぁ?!」」
氷帝レギュラー陣の声が綺麗にそろった
「この街では一年に一度、天使が庶民的な奇跡をおこすんやって、しかも冬季限定」
「んだよ?そのメルヘンは」
「俺たち来年はもう高校生だぜ、勘弁してくれよ」
「いいじゃないですか、夢があって」
「ウス」
「怪談話のほうがまだましですよ」
「日吉、好きだもんね」
不二は跡部へ視線を向ける
窓の外、小さな公園、そのベンチ
それでもこちらに意識を集中させているのを、確認して
「まぁ、手塚にその奇跡は起こらなかったんだけどね」
「くだらん、奇跡などに頼らなくても俺の腕は治る」
「はぁはぁ、…で?今年はどないなお茶の間ほのぼのニュースやの?」
「うん、あのね…あそこに小高い丘がみえるでしょ?
 あの丘には街を見守るように大きな木がたっていたんだけれど…」

 

ずっと待っていた

 

「昔、その木に登って遊んでいた子供が落ちて…」

降り積もる雪のなか
終わらない夢のなか
来ることの無い朝を祈り
二度とこない夜を願い

「同じような事故が起こらないよう、その木は切られてしまったんだけれど…」

それでも…

「そのとき、木から落ちた男の子がね」

 

最後の願いが叶う、その日を…

 


「5年間戻らなかった意識が、今朝戻ったんだって」


 

バタバタバタッ

凄い足音がした
全員が何事かと視線を投げた先には
「跡部?!」
もうすっかり遠くなった跡部の後姿
「ど、どーしたんだよ?あいつ…」
「おい、誰か…」
言葉をさえぎったのは

「行かせたったらええ」

「忍足先輩?」
「不二、お前の話、笑うて悪かったな」
不二は小さく微笑みを帰す
「はぁ?もう全然話みえねーんだけど…」
「俺の推測が違たら、今度は俺を笑うてくれてええよ」
「拝聴しようか」
「その男の子の、名前なんやけど…」


 

駅前の小さな広場
小さなひとつのベンチ
俺は朝からずっとここに座っている
忙しそうに行きかう人々
誰も俺を気に止めない

俺は人を待っていた

ずっと
ずっと…

「ジロー」

声がして
俺はゆっくりと顔をあげる

「跡部」

「遅くなった」

「ムースポッキーひとつな」

「ジロー」

跡部の手がゆっくりとのびて
俺の頭を払う

「桜の花びらがついてるぞ、お前、どんだけまってたんだ?」

季節は春

「ずっとだよ」
にこにこと告げる俺に、跡部は呆れ顔と溜息をひとつ
「どっかその辺の店にでもはいってりゃよかったのに」
「だってよくわかんねーもん、広すぎて…迷子になったら困るっしょ?」
「携帯があるだろーが」
「あ、そっか」
「まぁ、いい。あとで案内してやる」
「跡部が案内してくれんの?」
「俺以外の誰が案内するんだ」
跡部はそういうと
俺の手をとって
「ほら、さっさと行くぞ。制服の採寸なんてとっとと終わらせる」
「せめてパターンオーダーでいいっていったのに」
「あーん?ジロー、お前、俺様からの贈り物にケチつけようっていうのか」

氷帝学園高等部
俺はこの春からここの2年生になる
5年分の空白を埋めるリハビリと、勉強は、地獄のようだったけれど
無事に編入できたお祝いに、今日は跡部が氷帝学園の制服を買ってくれるらしい

「うそうそ。へへ、跡部はやくはやく、おいてくぞー」

俺は歩き出す
足取りは軽い
雪を踏みしめるように歩くのも好きだけど
春の柔らかい地面だって大好きだ
…ううん

「おい、まてよ。ジロー」

跡部といっしょなら
俺はきっとどこでだって幸せ

「やーだよ」

「まて、ジロー」

雪がとけ春になり、花が散り夏がきて、風が吹き秋になった
そして、また、奇蹟の降る季節が巡ってきても

「うわっ」

「捕まえたぞ、てめぇ、俺様から逃げられるとでも想ってるのかよ?」

俺たちは新しい季節の中をかけていく
ずっといっしょに

 


たったひとつの”奇跡”のかけらを抱きしめながら…



2006年01月19日(木) おでかけライブin福井のスペースナンバーの日

1月29日の「おでかけライブin福井」のスペースNoは

F9、10

です。F列の一番端…あれですよ、受付から一番遠いいつもの場所です
「救世主屋」でとってます。「麦畑」のJACKちゃんとの合同スペース
どっちかに座ってます。暇そうにしているのがおいらです。
発行物もいつもどおりなのですが(ポストカードとコースターと便箋)
テニプリどうするかな…あるかな…ないかな…まぁ、なくてもスケブは
OKなので声かけてやってください。10日あるんでなんか作ろうかと
想ってはいるんですけど…有言不実行が常なので
さてさて、Kanonの第5話をお届けいたします。
本編はこれでおしまいです。あとは後日談が1話
最期の最期までお楽しみいただければ幸いです


「お待たせしましたっ」

ずっと待っている

降り積もる雪のなか
終わらない夢のなか
来ることの無い朝を望み
二度とこない夜を願い

それでも



たったひとつの想いを抱いて



「それでは、俺の最後のお願いですっ」


跡部


俺のこと…



さいごのきせき
Little fragments



「叶うよ」



駅前の小さな広場
小さなひとつのベンチ
俺は朝からずっとここに座っている
忙しそうに行きかう人々
誰も俺を気に止めない

ジロー

ジローはどんな気持ちで俺のことを待っていたのだろう?

ずっと

ずっと…

”やっぱり待っていた人がきてくるのが一番嬉しいな”

春の日も
夏の日も
秋の日も
そして
また、雪の降る日がきても

来ることの無い朝を祈り
二度とこない夜を願い

その罪から目をそらし
キヲクを閉ざした、愚かな俺を…

そのとき
ふいに、足元に影がさした

「雪、積もってるよ?」

「…」

答える言葉を知らない俺に
不二は小さくため息をつくと
隣に座った

「罰ゲームかなにか?」



「そんなような、ものだ」

俺にできることは

はじめて出逢ったこの場所で
再会を果たせたこのベンチで

お前の訪れを待つことだけ

それがたとえ
雪のように
揺らめいて消えていく
夢であろうとも



芥川慈朗は もう いない



では、この一週間
俺がともに過ごしたアイツは誰だったのか?

俺はその答えを一つしか知らない

アイツはジローだ

五年前に出会い
この冬の街で再会を果たした
俺が愛するただひとりの存在

「奇跡は起こらないから、奇跡っていうんだ」

「…」

「昔、このベンチに座ってそんなことを言った子供がいた」

その子供には夢も希望もなかった
目の前に広がるのは絶望
死という、彼には早すぎる運命

「ある冬の日、子供はこのベンチで一人の少年と出逢った
 …少年はベンチに座ってずっと誰かを待っている…」

「次の日も、次の日も、少年はベンチで誰かを待っていた
 子供は気になった、そして少年に話しかけて…二人は友達になった」

友達が出来ても、子供の運命は変わらない
死という予定はすぐそこまできている
子供はいった

”奇跡は起こらないから、奇跡っていうんだ”

そういって、すべてをあきらめようとする子供に少年は

少年はいった

”叶うよ”

「奇跡は起きる」

”悲しい気持ちに負けないで…幸せになることをあきらめないで…”

「奇跡っていうのは、神様が起こすものじゃない
 人が大切な誰かのために願うこと…幸せになることをあきらめない想いが起こすもの」

「…どうして」

「…ん?」

「どうしてお前は、その話を俺にする」

不二は、はにかむように笑うと

「さぁ、どうしてかな?…ただ僕は、あの話をして笑わなかった人間を今までに二人しかしらない」

雪降る街に訪れる
ただ一度の奇跡

少年の言葉に心動かされた子供は移植の決意をする
そして手術のために違う街へと去っていった
別れの日に少年と二人で撮った写真をお守りに

「奇跡は起きた。少年の言葉通り…移植は成功し、彼は今では仲間たちと忙しい日々を送っている」

そんなある日
ふと、彼がお守りの写真をみると
二人で写したはずのその写真には、自分の姿しか写っていない
まるで雪が解けるように
まるで夢が覚めるように
あるいは

それが、奇跡の証明であるかのように

「彼は想った、少年は天使だったのかもしれない…
 絶望を前に途方に暮れていた友達のために、その奇跡をひとつ分けてくれたんじゃないか」

以来
彼は冬が来るたびに、暇をみつけてはこの街へ帰ってくるようになった
天使に、トモダチに、逢いたい、その想いひとつで
そんなある日、ウワサがひとつ
”奇跡”
雪が降る日におこる、ちいさな奇跡
確かにソレは、ただの偶然かもしれない
幸運の産物かもしれない
けれど、彼にはわかった
瞳を閉じて浮かぶのは4年前にあった少年の姿

「…けれどね、天使の姿を探しながら彼はこうも思った」





じゃぁ、あの天使の願いは誰が叶えるのだろう?





駅のベンチ
小さな体を雪にさらして少年はまっている
もう二度と訪れない母を
そして、自分を忘れて去っていったトモダチを
誰にも気づかれることなく
ひとりぼっちで
少年はそれでもまっていた

”…約束だよ”

たった一つの約束を信じて
こころが悲しみに負けないように
自分を笑顔にしてくれる
ただひとりの存在を
ずっと
ずっと…



たったひとつの想いを抱いて



ふと

気が付くと、空が赤みを帯びていた

どうやらいつのまにか少し夢を見ていたらしい

夢?
いや、今のはただのキヲクの反芻だ
今朝の会話
寒さで凍りついた体をほぐすように背伸びをひとつ
風が吹いた
あの日のように
雪がキラキラと舞い上がる

俺はジローを待っていた

それは街が一望できる小高い丘の上
一本の木が街を見守るように立っている
いや…
立っていた
ジローと俺のお気に入りの場所
俺たちの学校
今では、大きな切り株が残っているだけになってしまったけれど
その夢の跡
かつて学校であった切り株に腰掛けて

俺はジローを待っている


ベンチで待つ俺の足元に
4年目の奇跡が顔を出した

不思議なことに
その狐が見えていたのは、俺と、そのとき会話をしていた不二だけのようだった
不二が俺に言う

”君は…天使の願いを叶えるのは誰だと想う?”

狐はじっと俺たちを見ていた

その瞳も、同じことを俺に聞いているように見え

その時、いつかのジローの言葉が脳裏に響く

”誰が願いを叶えてくれんの?”

きまってるだろ?
天使の願いを叶えるのは
ジローの願いを叶えることができるのは


俺様だ


その言葉に
ちりん
狐の首についてた鈴が鳴った
”ついてこいって”
狐の言葉がわかるはずもないが
たしかに、その鳴き声は俺にも、そう聞こえた

ちりん、ちりん、ちりん…

鈴の音は、俺をここまで連れてきて
狐は森へと姿を消した

雪のように
夢のように
現われては消えていく
かつての奇跡の欠片たち



”やっぱり待っていた人がきてくるのが一番嬉しいな”

ジローがそう言っていたのは、いつのことだったろう?

”俺も、俺も…ずっと跡部のこと好きだったよ”

「俺は…今でもお前のことが好きだぞ」

雪のように想いは降り積もる
夢のように願いは絶え間なく

俺はずっと心の中で繰り返した

ジローが好きだ

これからもずっと、ずっと…

ジローだけを愛している

約束するよ

指きり、したよな?

なぁ、ジロー





「俺も跡部のことが、好きだよ」





奇跡は…

「…だったら、どうして…もう逢えないなんて言った?」
「時間、無ぇから」

奇跡は起きたじゃないか
俺は顔をあげない
そんなことしなくても、そこにいるのが誰かなんてわかっていた

「今日は、お別れをいいにきたんだ」

跡部は?

「俺は…」

穏やかな声

「俺は、忘れ物を届けにきてやったんだ」

五年分の時間を取り戻した天使の人形
羽がついたオレンジ色のリュック
中には
再会祝いの携帯
ムースポッキーが一箱

「見つけてくれたんだ」

「いったろ?俺様が必ず見つけてやるって」

正しくは、俺だけの力ではないけれど
みんなに声をかけてくれたのは忍足だし
日吉を呼び出してくれたのは岳人
発掘道具一式を合宿所から借りてきたのは宍戸
爪が割れても探してくれたのは滝
タイムカプセルを掘り当てたのは鳳で
天使の人形を綺麗に治してくれたのは樺地だ

「…ありがとう。みんなにも、ありがとうって、伝えといて」

天使が浮いた

空へ還る様な天使の人形と、羽のリュック
つられて顔をあげる



ジローは日溜まりのような笑顔でそこにいた



「…本当に、これでお別れなのか?」
「…うん」

あるいは…

「ずっと、俺のそばにいるんじゃなかったのか?」
「…うん」

あるいは、微笑み以外なら
もっと楽になれたのかもしれない
泣いたり、喚いたり、叫んだり
そうやって感情のまま、みっともなくジローを引き止められたのかもしれない
けれど
ジローの笑顔は穏やかで
その一瞬前まで、不安で揺れていた俺の心さえも静めてしまって

俺は立ち上がった
そして、ジローが両手で抱きしめるようにもっているリュックと
そのリュックにつけられた天使の人形


「だったら、せめて最後の願いを言ってからにしろ」


叶えられる願いは三つ


「約束したろ?三つだけなんでも願いを叶えてやるって」

俺に最後の願いを叶えさせろ

「…そうだね」

ジローは少し悲しそうに笑った
それは本当に一瞬のことだったけれど



「お待たせしましたっ」



ジローの声が弾む
それは、俺がよく知っている、いつものジロー、そのもの


「それでは、俺の最期のお願いですっ」


元気な声
日溜まりのような笑顔


「跡部」


嬉しそうに呼ぶ、俺の名前

「俺のこと…」



ひとつめのねがい
 ”俺のこと、忘れないで下さい”

ふたつめのゆめ
 ”俺、跡部とおなじ学校にいってみたかったよ”

人形はみっつのうちふたつをかなえた
 じゃぁ…

みっつめのおもい

 俺がお前にしてやれる、さいごのことは?






「…俺のこと、忘れてください…」





言葉が終わる前に
ジローの笑顔は崩れた
はじめて出逢ったときのように
それは、ジローが見せる2度目の涙

「おれのこと…わ、すれ…て」

それでも
なんとか意地を張ろうとするジローを
俺は抱きしめた

「本当にそれでいいのか?本当に、ジローの願いは、俺に忘れてもらうことなのか?」

「だって俺、もうお願いなんてねーもん!本当はもう食べられないはずだったポッキーだって、いっぱい、食べられたし!」

抱きしめた体は温かい
こんなにあたたかいのに…

「だから…俺のこと……忘れて……跡部ぇ…」

その答えのかわりに、俺は

「不二から伝言だ」

「…ぇ?」

「4年前、お前と友達になったカメラ好きの少年だ」

「…ぁ」



”不二、てめぇ…知ってたんだな?ジローが………”

”僕は彼の友達だよ?4年前のあの日、ベンチで声をかけたときから、ずっとね”

あの病院から、このベンチはとてもよく見えるんだ

”伝えて欲しいんだ、芥川君に…もし彼が、悲しい気持ちに苛まれているのなら”

幸せをあきらめようとしているのなら

「”叶うよ”」

かつて、絶望を前に途方に暮れていた僕のために

「”奇跡は起きる”」

君がわけてくれた、あの冬の奇跡を

「”悲しい気持ちに負けないで…幸せになることをあきらめないで…”」

奇跡は、人が人のために願う、想いのことだから・・・

”奇跡”を”想い”にかえて

”想い”は”願い”にかえて

”願い”が”希望”にかわる

だから

希望を捨てないで

「”また、一緒に写真撮ろうね”」

奇跡を、今、君に還すよ



「不二…」

「ジロー、確かに伝えたぞ」

俺はジローを抱きしめる腕に力をこめた

「お前はひとりじゃない」

「………」

「それでもお前は、一人で逝くつもりか?」

腕の中にジロー
ふわふわの金髪に雪がつもっている

「本当のことを言えよ、ジロー」

「跡部…」

俺に奇跡を起こすことはできないけれど
それでも今
お前を抱きしめてやることはできる
お前のそばにいることだってできる

約束したろ?

「俺にできることなら、なんだって、叶えてやるって」

ひとつといわず
みっつといわず
いくつだって、望むだけ

俺はジローにキスを落とす
寒さで氷ついた唇を解かすように
あたたかい
こんな優しい温かさを、他に知らない

甘くて
優しくて
すこし冷たいけれど
それ以上に温かい
神聖な
まるで誓うような口づけ

「俺…」

その温かさは
長い冬に氷ついていた、ジローの心をも解かして

「おれ、ほんとうは、もういっかい…ポッキーたべてぇよ」

”…あぁ、そうだ。お前、菓子は好きか?”
”…好き”
”じゃぁ、コレをやる。あいにく、庶民の菓子は好きじゃねーからな”

「ホントは、友達といっぱい遊びてぇ、忍足や岳っくんや、みんなと仲良くなって…不二ともう一度…」

”また、一緒に写真撮ろうね”

そして…

「本当はずっと跡部と一緒にいたい」

「ジロー」

「ずっと跡部と一緒がいいよぅ」

ジローの腕が俺を抱きしめた
泣きながら、ジローは何度も何度も繰り返した

一緒にいたい

ずっと一緒がいい

跡部、あとべ、あとべぇ…

「こんなお願い、駄目、だよな…」

ごめん

ごめんな、跡部

ごめんなさい、あとべ

「ばーか」

俺は謝り続けるジローの唇を唇でふさぐ

「あやまんな、それでいいんだ」

「…あとべ」

「俺だって、お前と、ずっと一緒がいい」

だから謝るな

「跡部、跡部、あとべ…あとべぇ…」

「そうやって、ずっと俺の名前だけ呼んでろよ」

「あとべ」

跡部、跡部、跡部…
大好きなんだよ

あとべ

雪の中、ジローが俺を呼ぶ声だけがいつまでも
かつてジローを失った日に
俺がそうしたように、ずっとずっと…ずっと………

空がジローの好きなオレンジ色に染まり
夜の藍色に終われて消えていく

その最後の最期…

消えていく光の中で
ジローが言う

「跡部」

嬉しそうに呼ぶ、俺の名前
いつものように

「俺、跡部が、好き」

これからもずっと

跡部が好きだ

これからもずっと、ずっと…

跡部だけを愛している

「当たり前だ」

「跡部…」

「俺もずっとジローだけを愛してる」

「へへ、よかったぁ」

風が吹いた

雪が舞い上がる、残光をうけて、きらきらと
その煌めきの中に、もうジローの姿はなかった
リュックも、天使の人形も、ぬくもりも…
まるで雪が解けるように
まるで夢が覚めるように
けれど…

ジロー

5年前の約束を
ひとつめのねがいごとを
俺は今度こそ果たす

”俺のこと、忘れないで下さい”

俺は忘れない





最後にお前が見せた、心から幸せそうな笑顔を



2006年01月18日(水) 第4話後編の日

Kanon第4話後編をお届けいたします。
後編です。まだの方は前編(昨日)からどうぞ。


「跡部、どないしたん?」

ジローと別れた後…俺は一睡もできず朝を迎えた
朝は普通に訪れ、一日は何事もなく進んでいく
「…」
「なんか、昨日帰ってきてからおかしいで…なんかあったん?」
「………」

俺は黙って顔をあげた
忍足
この合宿前には、こいつとこんな風に会話するなんて思っても見なかった



「頼みがある」

俺は頭をひとつ下げた
忍足は少し驚いた気配をみせたが
静かに俺の言葉をまっていてくれて

「この後、俺に協力してくれ…」

1人より2人のほうが効率的だしな

いつかジローにいった言葉

「それは、内容にもよりけりやなぁ」
「探し物だ、1人より2人のほうが効率的なんだ」

忍足は少し考え
そして

「それは、ジローの言うてた”探し物”のことか?」

「そうだ」

ふぅん
小さな溜息
そして

「岳人!」
「あ?んだよ、侑士?」
「この後、わいらにつきおうてや」
「へ?」
「宍戸と鳳もどうせ暇なんやろ?」
「あぁ、いきなりなんだよ、忍足」
「人手がいるんよ」
「はぁ、俺たちでできる事なら喜んで」
「…ウス」
「ほうか、樺地も手伝ってくれるんか?」
「ウス」
「ったく、いきなりなんだから、ちょっとまてよ、日吉も呼び出す」
「滝、まだコートにいたよな。声かけてみるか?」

俺は
そのとき、たぶん、ほんのすこしだけ、泣いていたのだと、おもう



「それで、なにを探すんです?」
岳人に呼び出され、事態を飲み込めていない日吉が不服そうに呟いた
「人形だ」
「人形?」
「天使の人形だ…これくらいのガラスの瓶にはいっている」
街角のUFOキャッチャーのガラスケースにその天使はいた
「えっと、それはもしかして…」
「埋まっているんだ、どこかの木の下に…」
「どの木とかいう目印はねーのかよ?」
「…ない」

自分で言葉にしながら
なんて無茶なコトを言っているんだろうと思う
そんな漠然としたモノ
本当に見つかるのだろうか?
俺ですら疑ってしまう
必ずあるのだとわかっている俺ですら

けれど

「それは、絶対にどこかにあるんだな?」

宍戸の言葉
その言葉に

「ある」

俺は力強く頷き返した

「了解や、俺は道路側の向こうから掘っていくわ、日吉と岳人はこっちから頼む」
「おっけー」
「仕方ありませんね」
「長太郎、俺とお前はこっち側の端からな」
「はい、宍戸さん」
「じゃぁ、俺はあそこからだね。いこうか、樺地」
「ウス」

全員がパラパラと散り始める
俺は
おれは…

「ありがとう」

さっき言えなかった感謝の言葉を口にした
全員は小さく笑い
そして
「ええよ、大切な物なんやろ?」
「どうせ暇だったしな」
「ま、お前がそこまでいうんじゃ断れねーしよ」
「がんばって探しましょう」
「ウス」

それからはただひたすら土を掘った
木の根元に針金を差し
なにかしらの手ごたえがあれば掘り返す
けれど
ただでさえ硬い地面は、雪で凍っていて
なかなか上手くはかどらない
高かった陽もあっという間に沈み

「駄目だ、もう地面がみえねーよ」
「えぇ…懐中電灯がいりますね」
「あー腹減った」

ザクザクザク

どうして

「いたっ」
「大丈夫ですか?」
「あぁ、なんでもないよ…ちょっと爪が割れただけ」

ザクザクザクザク

どうしてみつからない?

ジローは言ったじゃないか

”大丈夫、きっと見つかるよ”

この人形を心から必要とする誰かがいれば

必ず

ジロー

ジローの大切な思い出

たいせつなねがい


いま、ここで
必要でないというのなら
なら、いつ必要だというんだ?!

いま、いま、いま

今、見つからなければ
いつ見つかると?!

ザクッ

土に手が埋もれる
もうどこからが土で
どこからが手なのかわからないほど

ジロー

昨日、ジローも、こうして土を掘っていた
いまにも消えてしまいそうなほど
ただ、ただ、掘り返していた

きっと
あの天使だって
ジローに逢いたいはずなんだ

この冷たい土のどこかで
誰かが掘り返してくれるのを
待っている



「あった!」



暗い中で、その声が、響いた
「跡部!これちがうんか?!」
忍足と樺地が駆けてくる
樺地が手にもっていたもの
それは

「…おまえ」

硝子瓶を受け取る
5年という歳月で、瓶は割れ、半分ほど土がはいっていた
けれど、見え隠れするその金色の髪、天使のわっか、真っ白のはね…

「ひさしぶり、だな」

俺はそういって、中の土を丁寧に取り払ってやった
手のひらに乗る
こんなに小さかっただろうか?

髪も、服も、羽も土で汚れている
翼は片方がなくなっていた
わっかも針金がまがっていて
けれど

にこにこと幸せそうに微笑む天使

「なんや、ジローみたいやね」

忍足がそういった
そういえば、不二の天使の話
あのときから、忍足はジローのことを天使だといっていたな

「ありがとう…本当に」

俺はかつてジローがそうしたように
人形を両手で抱きしめながら、全員に頭を下げた

かえってくるのは、てれたような笑い声

どんな願いでもみっつ叶えてくれる天使
ジローの願いをふたつ叶えた人形

「跡部さん…この子…直しましょう、か?」

樺地が口を開く
めったに喋らない樺地の言葉に全員が注目した

「…このままでは…かわいそう…です」
「直せるのか?」
「ウス。がんばって、みます」
「…頼む」
「ウス」

俺は樺地に天使を預ける
樺地はそれをそっと優しく両の手で包んでくれた



ジロー

探し物は見つかった
冷たい土の中から、日溜まりの街へ
まっていろ
必ず、お前に届けてやる



その夜
俺は最後の夢をみた

埋もれていた最期の記憶を



ジローは”学校”で待っていた
いつもそうしているように、木の上に座って街を見下ろす
そして、俺の足音に気づいたのか

『跡部』

俺を見て嬉しそうに微笑んで名前を呼んだ

『ジロー』

その笑顔に、自分も笑顔を返しながら
名前を呼び

そのとき…



風が吹いた



『え?』

大きく木が動き
時間が凍りつく

小さなジローの体が…

酷く長い時間だったと思う
不自然なほどに

ゴトリッ

嫌な音がした



夢が紅く染まる
雪が赤く染まっていく



『ジロー!』

慌てて駆け寄り、ジローの体を抱き起こす

『あ、とべ…』

かすかな声
ジローは小さく微笑んでみせた
すこし照れたように

『へへ…恥ず、かC〜』

『しゃべるな、いま、病院に連れて行ってやる』

『だ、いじょう、ぶだよ…いたく、ない、から…へへ』

雪はどんどん赤く広がる
俺は
おれは…

『…』

『あとべ』

ポタポタ
ジローの頬に水滴が落ちる

『………』

それは俺の涙だった

『あとべ、なか、ないで…?』

ジローの声が俺を呼び戻す
飛び込んできたのは、笑顔
えがお…

『ね?泣くな、よ…おとこ、は…ないちゃ、だめ…なんだろ?』

笑ってみせる
痛いだろうに
苦しいだろうに
いや
そんな感覚さえもうなくなっているはずなのに
それでも

ジローは俺のために笑ってみせる

『…大丈夫だ、ジロー、俺が…助けてやる』
『…う、ん…でも、あとべ…お、れ……ねむ、い…』
『ジロー!ジローっ駄目だ!』
『ごめ、んね…あそべ、ない…や』
『しっかりしろ、遊ぶんだろ?…なぁっ、ジローっ!』

いつもそうするように
眠りたいのを我慢するように
うとうととした表情で、ジローは

『…また…オレと、遊んでくれる?』

言葉が
声が
でなかった
喉につまって息にもならない
溢れる涙
伝えたいことはたくさんあった
言いたいこともたくさん…
けれど、なにひとつ形にならなくて

俺は震える小指を
ジローの小指にからませる

昨日
指きりをした、あたたかな、ジローの指は
ただ力なくそこにあるだけだった

それでも

『へへ、うれ、し』

嬉しそうなジローのいつもの笑顔
俺の名前を呼ぶ時と、まったく同じ…

『ゆび、きり…な?』

俺はうなづき
指に力をこめた

『あぁ、指きりだ…』

喉から言葉を搾り出す
血を吐くような痛みとともに
いい
ここで喋れないのなら、喉なんていらない

『あれ?』

ジローが不思議そうにつぶやく

『ゆ、び…うごか…な…い…?』

俺はもう片方の手で、ジローの指を曲げてやる
からみあう指と指

『ほら、これでいい…ジロー、指きり、だ』

約束する

きっとここであおう
俺はまたジローと遊んでやる
春休みも
夏休みも
冬休みも
必ずジローに会いに来る

そしていつか…必ずジローを迎えにきてやるよ

『約束だ』

『うん』

ジローが笑う



『…約束、だよ』



『よし、じゃぁ指切るぞ』

『…』

『ジロー?』


風が吹く


『…ジロー…ゆび…』
『…』
『きら、ないと…』
『……』
『約束に…ならない、だろ?』
『………』

『ジロー』

ジロー、ジロー、ジロー…
返事してくれよ

ジロー…

雪の中、ジローを呼ぶ声だけがいつまでも
つないだ指を離すことも出来ず
俺はそこでただ、ただ、ぬくもりが失われないよう堅く抱きしめることしかできなくて



同じ夢をみる
同じ雪のなか
ただ待つことしかできなくて
それでも
それだけがたったひとつできることで
だから

ずっと待っている



2006年01月17日(火) あと2話の日

Kanonの第4話をお届け。
本編は5話で終わります。エピローグいれてあと2話でおしまいですね。
といいつつ、第4話は日記の字数制限で2つにわかれます;
まずは前編をどうぞ


「…約束、だよ」

そして、また 同じ雪
そして、また 同じ夢

同じ夢の中、同じ雪が降っている
もう、ずいぶんと長い間
同じ雪の中、同じ夢をみている
それとも、ほんの一瞬?
ずっと、同じ 雪と夢

そして

願い

そして、また 同じ願い

同じ夢をみる
同じ雪のなか
ただ待つことしかできなくて
それでも
それだけがたったひとつできることで
だから

ずっと待っている

「約束だ」

うん

…約束、だよ



ゆきのやくそく
約束



『ジロー危ないぞ』
『大丈夫だよ』

ジローはそういって、気持ちよさそうに目を細めた

木の枝は大きくて、ジロー1人が乗ってもビクともしない
けれど、自分が乗れるほどの大きさでもなくて

『跡部、跡部、街がすっげーちいせーよ』
『当たり前だ』

ジローが上っている木はかなりの高さがある
そもそもこの丘自体が高いところにあるのだ

『オレンジ色ですっげーきれーだ』

夕陽をみながら、そういってジローは笑う
本当は雪が積もっている木の上なんて危なくて見ていられないのだけれど
それでも
ジローが笑ってくれるなら、それでいいと思ったんだ

「ジロー」

さくさく
だいぶ歩いた
あたりはすっかり暗くなり
2人分の足音しか聞こえない

「ジロー」
「え?」
「本当にこの道であってるのか?」
「あたりまえだよ」

ジローはそういうが、とても学校がある雰囲気には思えない
いや
自分の記憶が確かであるなら
このさきにあるのは…

それは街が一望できる小高い丘の上
一本の木が街を見守るように立っている
ジローがお気に入りの場所
二日目に出逢ったとき、ここへつれてこられて
そのときからここは、2人のお気に入りの場所になっていた

視界が開ける
それはまぎれもなく


”今日からここが俺様たちの学校だ”


最初
それはジローからのなにかのメッセージだと思った
5年間
忘れていた自分を笑顔ひとつで許してくれたジロー
けれど、実際は怒っていたのかもしれない
いや、怒っていて当たり前だ
それとも、単純に、なにかいいたいことがあるだけなのかも

そんな考えがぐるぐると頭を回る
ジロー
名前を呼んで
その真意を確かめればわかることだ
けれど



「…うそ、だ」



ジローの声が全てを否定した
それは自分自身すら信じられなくなったという声音

「うそだよ、なんで?」

ジローは立ち尽くす
前にいるせいで、表情は見えない
けれど、想像はついた
声が震える

「うそ、うそだ…っ」

「ジロー」
声をしぼりだして名前を呼ぶ
けれど聞こえていないらしく、ジローは小さく駆けた
その中心へむかって

かつて俺たちの学校があった場所
一本の木が街を見守るように立っている
いや

立っていた

その場所
今、そこにあるのは、大きな切り株がひとつ
切り株?

…約束、だよ

「っつ」

頭を鈍い痛みが走った
ドサリッ
膝をつく
何か
なにか、真っ赤なものが、思考をぐるりとながれた
呼吸が荒い
おちつけ
おちつけ
跳ねる鼓動を必死で治めようとする
おちつけ…

「…おれ」

ふいにジローの声が聞こえた
クラクラする眩暈を抑えて、視界の中になんとかジローを捉えようと探す
ジロー
じろー…

「そうだ、リュック」

虚ろな声でジローは呟くと、背負っていたリュックを下ろす

「ウソじゃない…今日も、学校、いって…おれ…」

羽が揺れている
パチリとホックの外れる音、そして鞄の中身が開かれる



「………」



ジローは、まるで、夢から覚めたような表情をすると
たちあがった
サクリ
雪を踏む音
ひどく かるく きこえて

「探さなくちゃ」

ジローはそのまま駆け出した
リュックも
携帯も
さっきまで食べていたポッキーの箱も
俺ですらも
全てを置き去りにして

「ジローっ」

俺は慌てて、その後をおう

ジローのリュックを手に取った
瞬間

「え?」

背中に冷たいものが走った

軽い

かるい、かるい、かるい

当たり前だ



リュックはからっぽ



「ジロー?」

俺は名前を呼ぶ
けれど、こたえは、なく

軽く頭を振った
しっかりしろ
しっかりしろ、跡部景吾
これは何かの間違いだ
ジローに逢って確かめればすむこと

俺は駆けた
その場所へ

確信は、ない
確証、も、ない
けれど、そこがどこか
わかっていた

”探し物をしているんだ”

ジローの探し物

”あれは、持ち主の願いを叶えてくれる、不思議な力のある人形だ”

たいせつなもの

”なぁ、跡部!これでタイムカプセル作らねぇ?”

奇跡は…



サク…ザク…ザクザク…

音が聞こえた

「ジロー?」

迷子の猫を探すように、名前を呼ぶ

ザクザク…ザクザク…ザクッ…

答えのかわりに、音

土を掘る音

月と星のわずかな雪明りの中に、ジローはいた

すわりこんで、木の根元を掘っている

「ジロー…」

「…」

ただ、ただ一心不乱に

「なにしてるんだ?」

「…さがしもの」

ジローはこちらを見ようとしない
ただ、ただ、土を掘り返すだけ
凍った地面を掘り返す手
指先に血がにじんでいる

「ジロー」
「…大切なものなんだ」

手をとる
やっとジローは俺の顔をみた
かすかに微笑む
けれどそれは、泣いているよりも悲しい笑顔で
俺は

「今日はもう遅い、明日、俺もいっしょに探してやるから」

けれど…

ジローは首を横にふって
俺の手を振り払い
また、地面を掘り始めた

「だめ、だよ…だって…もう明日はこないかもしれないから…」

その言葉の意味はわからない
けれど、なにか危機めいたものだけを感じて体温が下がった

「わかった」

俺はひとつうなづくと
ジローの隣の木の根元に足をつく

「跡部?」
「さっさとみつけて、帰るぞ」

小さく微笑みが帰ってくる

「…うん」

それから俺たちは無言で、土を掘り返した
ただでさえ人通りが少ない道
ふたりっきりで
もうお互いの顔さえも見えないほどの暗闇の中を
ただ、ただ、掘り返す
正気の沙汰とは思えない
それでも
探さずにはいられなかった

けれど

悴んで
指が震えて
手が動かなくなっても

探し物はみつからない

パサリ
軽い布の音がしたかと思うとジローが俺にコートをかけていた

「…お前のコートは?」
「…」

小さく首をかしげるジロー
俺はあたりを見渡して、背の低い木にかかっているジローのコートをみつけた
一休みついでに、手にとって、ジローに着せてやる

「ありがとう」

ジローは弱弱しく、笑った

「でも…」

すぅっ

ジローが1歩後ろへ下がる
俺が

「ジロー?」

名前を呼び、手を伸ばすより、はやく



「もう、逢えないと…おもう」



「ジロー?!」

「ごめん…跡部…本当に、ごめんな」

「おい、ジローなにいって…」

ジローが駆け出す
俺は慌てて、ジローを追った
けれど…


まるで闇に融けていくように
ジローの姿は見えなくなってしまった



そして、また 同じ雪
そして、また 同じ夢


後半に続きます



2006年01月16日(月) ネタがネタをよび…の日

第3話です。折り返し地点も過ぎました。今回は収まり切り。
…よかったような、すこし残念なような………
ちなみにパロではありますが、もう読まれている方はわかるとおり
全部のシナリオが微妙にまざっております。GAと同じ現象。
個人的には満足です(笑)いいじゃないですか、パロでくらいは
幸せになりたい。同人の醍醐味はそこだと思うわけです。



「指きり」

同じ雪
同じ夢
もしかしたら
雪が夢を見ているのか
それとも
夢の中で降る雪なのか
同じ景色の中
いくつかの風景

仲良く笑いあいながら歩く親子
微笑を絶やすことの無い少年
病気の母親にずっと付き添う子
丘の上から街を見つめる動物

雪のように想いは降り積もる
夢のように願いは絶え間なく

けれど、最期には、いつも、同じ風景

子供と子供
ひとりは金色の髪がまぶしくて
ひとりは青空のような瞳が綺麗で
夢の中でふたりは仲良く軽く街を駆け抜けていく
雪はいつまでも優しく降り積もって

「指きり?」

他愛のない約束
これ以外はない純粋な誓い



ゆびきった



みっつめのおもい
夢の跡



「明々後日?」
「そうだ」
「…そっか」
明々後日の昼には、この街をたつ
そういうと、ジローは寂しそうに微笑んだ
ジローの笑顔はとても心地よい
けれど、この表情だけは苦手だ
「そんな顔するな、別にこれが今生の別れってわけじゃねーんだ」
「…うん、そだね」
そういいながらも、ジローの表情は晴れない
俺は小さく溜息をつくと、ここに来る前に用意しておいたソレをとりだした
「ジロー、これを渡しておく」
「へ?って、これ携帯じゃん」
「お前、持ってないっていったろう?」
「で、でも…」
「遠慮するな、5年間…待たせた謝罪と、再会祝いだ」
オレンジ色の携帯
ジローはそれを両手で、まるで大切なもののように、抱きしめると
「…へへ、嬉C〜。俺、ずっとずっと大切にするよ」
やっといつもの笑顔を見せてくれた
「ありがとう、跡部」

ふと思い出す
それは夢
そして5年前

『ありがとう、あとべ』

やはり同じように、祈りのような形で手にもっているのは小さな人形

『なんだジロー?人形なんて欲しいのか?』
『あ、ううん…ねぇ跡部、どーしてこの子だけ他の子と違うの?』
街角のUFOキャッチャーのガラスケースにその天使はいた
流行のアニマル系のぬいぐるみの中、たったひとつ
『売れ残りとかじゃねーの?店が撤収するのを忘れたんだろうな』
『そっかぁ…なんか、かわいそうだね』
ジローはそういって動こうとしない
その横顔はとても寂しそうで
『…とってやろうか?』
『え?跡部、UFOキャッチャーできるの?!』
『あたりまえだろ、俺様にできねーことなんかねーよ』
胸をはる
その内側では、一度もUFOキャッチャーなんてしたことのない自分にドキドキしながら
ゆっくりと移動するアーム
ジローの視線は人形に釘付けになっている
コクリと喉がなった
そして
『まじまじすっげー!』
『どーだ、いったろ?俺様にできねーことなんてねーってよ』
『うん!へへ、よかったなぁ、お前』
ジローはそういって天使の人形を抱きしめた
腕の中の天使も、俺の目の前にいる天使も、極上の笑顔

ありがとう、跡部

もし
奇跡が本当に起こるというのなら
あれもたぶん、その一つだったのではないだろうか

「…お前らなぁ」
「跡部…自分、どこの援交親父やねん」
そんな思い出に浸っていると、無粋な声がした
「なんでお前らがここにいるんだ?」
「なんでじゃねーよ。この街、他に遊べるようなとこねーじゃんか」
「…ウス」
それもそうか
くそ、失敗したぜ
今日もこれで2人の時間は終わりらしい
こいつらもこいつらだ
「気を利かせるってことを知らねーのか、てめーら」
ジローに気づかれないよう、小さな声で訴えてみると
「仲間が性犯罪に走らんよう止めるんも友情やで」
バキッ
「痛〜」
「忍足?どうしたの?」
「ジロー、跡部が俺のこと殴りよった」
「えー、跡部ー、ケンカしちゃ駄目だよ?」
「…うるせぇ」

今日も騒がしい一日が終わる
ジローと出逢うまでは、想像もできなかった
騒がしくて、楽しい、日常が

「跡部」
「ん?」
ふいにジローの声
小さく手招き
俺はひとつうなづくと
気配を消して、奴らにみつからないよう遠回りに出口へ向かう
足を踏み出す一瞬まで気を抜かず

「抜け出し成功」

「ったく、奴らにも困ったもんだぜ」
「ちょっと悪かったかな?」
「お前がきにすることじゃねーよ、ジロー」
俺はそういって、ジローの頭をわしわしとなでてやった
「どこか行く?」
「そうだな…」
俺は少し考えてから
「ジロー、お前のいってる学校へ案内しろ」
どこの学校へいっているのか調べるのも悪くない
俺は、本当に、氷帝学園へジローを誘おうと考えていたのだ
「おっけー」
ジローはそういって、先頭をきって歩き出す

「そういえば…」
「ん?」
「ジロー、お前…探し物はいいのか?」
「あ、うん」
ジローは少し考えるそぶりをみせてから
「いいんだ。今は、跡部と一緒にいたいから」
そういって笑った
「…ジロー」
「探し物は、また今度探すよ。それに…」
もしかしたらみつからないほうがいいのかも
ジローの言葉は、雪に埋もれてしまいそうなくらい小さくて
「大切なものなんだろう?」
「うん、そう…とても大切なもの…でも、それは俺が幸せだと必要のないものなんだ」
「?」
「だから、いつか、必要になるときがきたら、その時、俺はまた探すよ」
「…そうか」

俺にはその時のジローの話はわからなかった
ただ、胸にこみあげてくる思いのままに

ジローの手をとる

「跡部?」
「その時は、俺も一緒に探してやる」
「え、でも…」
「電話してこいよ、そのための携帯だろ?」
「う、うん」
「お前が呼ぶなら、世界中、どこにいたってきっと駆けつけてやる」
「あとべ…」
「たとえどこにいたって、必ずだ」
「…うん」

ジローが微笑む
俺の好きな笑顔で
この笑顔のためなら命だって惜しくはない

商店街をぐるりと回って駅までくる
ジローのいう学校へはここからさらに歩くらしい
ふと見ると公園のベンチ
ジローの定位置に誰かが座っていた
誰かをまっているのだろうか?
足がとまる

「ジロー?」
「跡部、ちょっと待ってて」

ジローはそういってベンチへかけだした
座っているのは子供
小さな男の子
ジローはその子供に話し掛け
そして
近くの自販機でなにかを買い
子供に手渡すと戻ってきた

「ごめんごめん」
「知り合いか?」
「ううん。全然知らない子」
「…」
「おとーさんを待ってるんだって」

そういいながら、ジローは動こうとしない
ほどなくして
駅から人がパラパラと溢れてきた
電車がきたのだろう
少し若い男がベンチへ近寄る
子供は嬉しそうに手を繋いで帰っていった

「よかったよかった」
「…」
「やっぱり待っていた人がきてくるのが一番嬉しいよな」
「そうだな」
「あのベンチって、いつもああして誰かが待ってるんだよ」
「まぁ、場所が場所だからな」
「うん。俺も、あそこでいろんな人とであったよ」
「…」
「仲良さそうな親子とか、カメラをもってずっと座ってる男の子とか
 おかーさんをひとりで待っている子もいたし、人だけじゃなくて動物が座ってるときもあった」
「俺とお前が出会ったのも、あのベンチだったしな」
「…なぁ、跡部」
「ん?」
「さっきの、あのさ、電話の話…」
ジローはそういって、携帯をとりだした
夕焼けの色に、オレンジが深く染まる
「あれさ、俺、本気にしてもいいのかな?」
「俺様の言葉を信じられないのか?」
「そうじゃねーよ、そうじゃなくて…」
ジローは
「俺、いっぱい電話かけるよ?」
「あぁ、かけてこい」
「メールもいっぱいうつよ?」
「遠慮するな」
「本当にホント?」
「ジロー」

ひとつひとつの言葉に返すのが面倒になる
だから、行動で示すことにした

抱き寄せて、抱きしめる

「あ、あとべっ」
「ジロー、俺のこと、好きか?」
「え?」

5年
短いようで、幼い俺たちには、なんて長い時間
この数日、俺はその空白を埋めるよう勤めてきた
それでも
この言葉がなければ、きっと埋まることなんて、ない
あの日いえなかった言葉
ジローに伝えたかった想い
たったひとつの…

「俺はジローのことが好きだ」

「跡部…」

その言葉を聞いた瞬間
ジローの表情が明るくなるのを、俺は確かに、見た
そして

「俺も、俺も…ずっと跡部のこと好きだったよ」

ジローが何か続きを言おうとしていたが
俺はかまうことなく、ジローを抱きしめる腕に力をこめた
ジローの顔が、俺の腕の中に収まる
ふわふわの金髪に雪がつもっていた
まるであの5年前の、最初の日のように

「幸せだと、でも、ときどき不安になることってない?」

腕からジローを放して
ひとつキスをしたあとでこぼれた呟き

「あんまりにも今が幸せだから、もしかしたら、全部夢なんじゃないか?って」

今ここで目覚まし時計がなって、目覚めた朝は、やはりひとりなんじゃないか
この綺麗な夕焼けが、真っ暗な夜になってしまうように
雪が解けて水となって流れて消えてしまうように

「まぁ、いつも寝てばかりいるからな。お前は」
「酷っ」
「冗談だ。それに、今はあのときとは違う」
「うん」
「寂しくなったら電話すればいい、逢いたくなったら逢いに来い」
「…うん」

あの頃に比べれば、自分で動かせるものや、自分で決められることのなんて多くなったことか
もちろん、全てが自分でできるわけでもないけれど

雪のように想いは降り積もる
夢のように願いは絶え間なく

俺はずっと心の中で繰り返した

ジローが好きだ

これからもずっと、ずっと…

ジローだけを愛している

約束するよ



『指きり』
『指きり?』

他愛のない約束
これ以外はない純粋な誓い

『ゆびきった』



「この道は…」
懐かしい道にでる
これはたしか、あの丘へ続く道だ
ジローと俺のお気に入りの場所
そういえば
「ジロー、あの木は切られたのか?」
「え?ううん、切られてないよ」
なら、俺の探し方が悪かったのだろうか
なんにせよ、思い出の場所が残っているのは嬉しいことだ
「こっちこっち」
ジローはそういって、足を進める

夕暮れもどんどん暗くなり
ポツポツと街灯が灯りを放ち始め…

そういえば
思い出すのは今日の夢

いつもの場所
2人だけの学校
遊びつかれて、すっかり暗くなった道を帰る
ふいに、ジローが跡部の手を、ひいた

『あとべっ』
『ん?』
『あれ、なにかな?』

ジローがさした指の先には、キラリと小さく光る、なにか…

『瓶、だな』
木の根元に落ちていたそれを、俺は拾い上げた
あまりみない、少し大きめの硝子瓶
大きな口には、やはり大きな硝子の蓋がついている
俺はそれをジローに渡してやる
ジローはそれをキラキラとした瞳で見つめ
そいて
『なぁ、跡部!これでタイムカプセル作らねぇ?』
『タイムカプセル?』
話には聞いたことがある
未来の自分への手紙や、思い出の品を箱に詰めて土の中へ埋めるのだ
そして何年か後にとりだす
時間の贈り物
『それはいいが、なにをいれるんだ?』
『これ』
ジローはそういって、天使の人形をとりだした
『それはいいが、まだ願いがひとつ残ってるだろう?』
『俺はもうふたつも叶えて貰ったから充分だよ』
ジローはそういって人形を瓶の中へ入れた
『だから、残ったひとつは未来の自分…もしかしたら自分じゃない他の誰かに贈ってあげたい』
…純粋な願い
『よし、じゃぁ埋めるか』
『おぅ』
俺たちは雪を堀り、土を掘り、できるかぎり深く掘って人形の入ったタイムカプセルを埋めた
『目印、しておかなくていいか?』
といっても、なにか目印になるようなものなんて思い当たらない
けれどジローははっきりと微笑んで言った
『大丈夫、きっと見つかるよ』

この人形を心から必要とする誰かがいれば
本当に大切な人のために心からたったひとつの願いごとをすれば

奇跡は起きる

『明日は、まだ、跡部と逢えるんだよね?』
『あぁ、出発は午後だからな。午前中なら大丈夫だ』
『じゃぁ』
ジローは指を差し出した
首をかしげる


『指きり』

『指きり?』

それはこの数日間で初めての約束
明日もきっとここであおう
俺は…

『わかった』
『…約束、だよ』
『約束だ』

俺は

『俺は必ずこの街に戻ってくる』
『あとべ?』

からみあう指と指

『春休みも、夏休みも、冬休みも…必ずジローに会いに来る』
『…本当?』
『そしていつか…必ずジローを迎えにきてやるよ』

これはその最初の約束だ

うん

…うん

子供と子供
ひとりは金色の髪がまぶしくて
ひとりは青空のような瞳が綺麗で
夢の中でふたりは仲良く軽く街を駆け抜けていく
雪はいつまでも優しく降り積もって

ゆーびきりげーんまん
うーそついたらはーりせんぼんのーます

『ゆびきった』



2006年01月15日(日) 急遽日替わり連載中の日

2話後編です。昨日の続きです。
ちなみに不二がでてきたのはまったくの趣味であります(笑)
でも、今回は本当にまっとうな跡ジロです。ご安心を


「奇跡?」

ファーストフード店の席にすわりながら
それでも何故かジローはポッキーをかじっていた
俺の前にはコーヒーだけ
忍足の前には二つ目のアップルパイ
「なんや、ジローちゃんは知らんのか。じゃぁ、やっぱり不二の作り話やったんかなぁ」
「真に受ける方がどうかしてるだろうが」
病院を出たところでジローにあった
また雪が降り出したので、とりあえず近くの店にはいる
はいってすぐ、仕入れたばかりの話題をだしてみたが空振りだったようだ
「いやな、病院でおうたやつが…」
忍足はそれでもめげずに聞いた話をもう一度話して見せた
…なぜかはわからないが、少し腹がたつ

「…そっか、みんな助かったんだ」
ジローはよかったねぇといいながらポッキーを齧る
助からないよりかは、助かったほうがいいもんね
「…」
忍足はその言葉と笑顔に毒気を抜けれたようだった
バカが
てめぇにジローはもったいねぇよ
こいつは俺の…
「そうやね、そう、そんで、その人たちが見たいう天使いうんが、ジローみたいなんやって」
「えー、それってちょっと複雑〜」
「ええやん。綺麗な金髪の巻き毛に、天使の羽で」
「…そういえば、そのリュックの中には何がはいってるんだ?」
忍足の言葉をさえぎって、ふと気になったことを聞いてみた

「別に普通だよ。学校の教科書とかノートとか、トモダチから借りたCDとか、今週のジャンプとかー、ポッキーに…」
「あぁ、わかったわかった。出さなくて良い」
下ろして出して見せようとしたジローをとめる
「でも、なんで?」
「いや、天使のリュックの中だから、矢の一本でもはいってるんじゃねーかと思ってな」

ジローに拗ねられ
忍足には笑われた
今日は厄日かもしれない

「そういえば、ジローはこないなところでなにしとったん?」
随分たってから、忍足がそのことにふれた
(…あ)
しまったと思ったときには、もうあたりはすっかり暗くなっていて

「探し物をしているんだ」

「探し物?」

「とても大切なモノなんだよ」

そうだ、今日はそれを探す約束を…

「落し物なんか?交番には届けたん?」
「…うん、でもやっぱりできる事なら自分で見つけたいから」
「ほうか、はよみつかるとええな」
「うん!」
「ジロー、いっしょに…」
「あ、今日はもういいよ。外、暗いし、俺も、もう帰るから」
「…って、なんや、もしかして跡部、ジローの探し物探す約束しとったん?」
「…そうだ」
「ならこないなところで、茶しとる場合じゃ…」
「ううん。跡部も足、怪我したんだし仕方ないよ」
「悪かったな、ジロー。明日は必ず一緒に探してやるから」
そういうとジローは困ったように笑う
あぁ、それだ
夢の中でみた笑顔
ジローのこの笑顔をみると、胸が締め付けられる
「無理しなくていいよ。それよりも、はやくよくなって」
「あぁ」

それからまた、しばらく雑談して

「じゃぁ、また明日ね」
「あぁ、気をつけて帰れよ」
「またな、ジロー」

笑顔で別れる



「ええ子やなぁ」
「…あーん?」
「優しくて、ええ子やで、跡部のトモダチにはもったいないわ」
「うるせーよ」

そんなことは、忍足にいわれるまでもない

「なんや、不二の話…」
「あーん?」
「不二の話の、天使って、ほんま、ジローみたいなんやろうね」

冬の街で
天使が起こす
たったひとつの奇跡

「信じてねぇんじゃなかったのかよ」
「まぁ、そうなんやけど、なんかなぁ」

忍足はそういって歩き出す
俺も


おれは…



”こんなことを考えたことはないかい?”

不二の言葉を、話を、思い出す

”たとえば…僕たちは、誰かの夢の中にいる”



”その誰かは、ずっとずっと長い夢を見ていて…目覚めることすら忘れたように、長い間、眠り続けていて
 本当は目覚めるきっかけを探しているのだけど、その誰かの探し物は、なかなか見つからない”

探し物

”けれど、ずっと探し続けたご褒美に、神様はその誰かに、どんな願い事でも叶う力をくれました
 本当に、どんな願い事でも…ひとつの季節に一度だけ…でもその誰かは、その力を他人のために使ってしまう…”



”たとえば…”

願うなら

不慮の事故で亡くなりかけた命を繋ぎとめることも
ひとりの重い病気の少年を助けることも
大きな手術を受けているヒトの力になることも
古くから丘に住む動物たちを護ることも

その願いで
自分の探し物をみつければいいのに
それでも
優しい誰かは自分の幸せではなく、他人の笑顔を望むのだろう

”たとえ話なんだけれどね”

そうだ、これはたとえ話だ
けれど
自分はその誰かを知っている気がして

”いや、しかし、不二にもそないな、ファンシーな面があるなんて驚きや”
忍足は笑う
俺も形だけでも笑えばよかったろうに
なぜか笑うことはできなかった
不二は寂しそうに微笑むと
”あはは、笑われちゃった”
”まぁ、仕方ないで”
”そうだね…君は、笑わないの?”
”まぁな”
”そっか…”
少しだけ笑顔をみせる
それは、なぜだろう?
ジローの笑顔と同じ気持ちにさせて…



「悪い」
「え?」
「先に帰れ忍足、俺はジローを送っていく」
「あぁ、ほうか」
忍足はそれ以上はなにも言わずに、ひらひらと手を振った




”でもね、僕はやっぱり奇跡はあると思うんだ”
”…なんやえらい、ご熱心やね、特別な思い入れでもあるん?”
”ふふ、やっぱり手塚には完治してもらいたいし…それに”




「ジロー」
「跡部?」
商店街のはずれの方でやっと追いつく
「ど、どーしたんだよ?」
「いや、その…今日は、いっしょに探してやれなくて悪かったな」
「あぁ、そのことか」
ジローはほぅっと溜息をついた
少しこわばっていた表情が柔らかくなる
「いいんだよ。それより、本当に、足、はやく治せよ」
「…あぁ」
「テニスだっけ?いいな、俺も春になったらしようかな」
「…そうしろ、で、氷帝にこい」
「あははは、考えとくよ」
「ジロー」
「ん?」
「俺は本気だ」

手を伸ばす
ジローを捕まえた
小さい
なんて小さいんだろう?
同じ歳とは思えない
腕にすっぽりと収まってしまう

「どうしてだろうな?お前といると、自分が変わっていく気がするんだ」
「あ、あとべ?」
「お前のことばかり考えちまう…くそっ」

そっと
力がこもって
ジローが俺を抱きしめてくれたのだと、わかった

「俺も、跡部のことばかり考えてたよ」
「…」
「ずっと跡部を待ってた…」
「ジロー…」

俺は
俺は、忘れていたのに
これはもしかしたら罪滅ぼしのつもりなのだろうか?
俺自身の
忘れないと誓った一つ目の約束
けれど、この街にくるまで忘れてしまっていた
いや
違う
これは、そんな簡単な気持ちではなくて
もっと複雑で
でも、もっとも原始的な

想い

「俺は一度だって忘れなかったよ、一番哀しいときに、ずっと傍にいてくれた、大切なヒト…」
「…」
「母さんのことを考えると、まだ胸は痛むけど、悲しい気持ちにもなるけれど
 それと同じくらい跡部のことを想った…悲しい気持ち以上に、嬉しいことばかり思い出してた」
「ジロー」
「本当に…跡部のおかげで俺は悲しい気持ちに負けることはなかったんだよ」

ありがとう跡部

ジローはそういって
いつもの笑顔をみせてくれた

あぁ

「すまない」
「ん?」
「ジロー、俺は…」
ひとつめのやくそくを
「…いいんだよ」
「…ジロー」
「こうして跡部はちゃんとこの街に帰ってきてくれたから」
「…」
「そうしてちゃんと、俺をみつけてくれたから、それでいい」
「ジロー」
「やっぱり待っていた人がきてくるのが一番嬉しいな」
「…それは、俺もだ」
「え?」
「あの時、お前と過ごした日々は、俺にとっても大切なものだった」
「…跡部」
「かけがえの無いものだったんだ…あの日々があったから、今の俺はいる」

それだけは間違いない
たとえ忘れてしまっていても
心の奥底
琴線にずっと優しく絶え間なく溢れていた思い

「そっか。それは…嬉しーなぁ」

ジローが俺に微笑んだ



”それに、できる事なら、逢ってみたいから”
”逢う?誰に?”

不二は極上の笑顔
それはやはり、ジローと同じ笑顔で

”天使に”

エンジェル・スマイル
天使の微笑み
生まれたばかりの赤ん坊がふともらす
純粋で無垢な笑顔



「本当に送っていかなくていいのか?」
「いいよ、むしろ跡部こそ1人でもどれる?」
「…あぁ」
「じゃぁ、気をつけてね」
「あぁ、ジロー」

また明日

そういうと
ジローは

うん、また明日

天使のような笑顔で手を振ってくれた

天使…
なぜだろう?
不二のあの話
あれはただのたとえ話のはずなのに
それでも

…奇跡

本当に奇跡があるというのなら
5年目の奇跡
俺にとってそれは、紛れもなく
この街でジローに出逢えたこと
きっとそうだ
だから俺は、不二の話を笑うことなく聞けたのかもしれない

奇跡はある
きっと…


 < 昨日なくしてしまったもの  もくじ  ポストの中の明日 >


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