狼森、笊森と盗森

2005年04月09日(土) あと6話!…の日

長くお届けしていたこのEL編も、残すところあと6話となりました
全力投球で最後までつっぱしりたいとおもわれます。えぇ。
そんな20話。いってみよう!

第20話「月の艦ソーセージ」

艦は、人間が好きだった

白き月宮殿
ステンドグラスの中心にノアがたつ、その隣にはシャトヤーン、反対側にシヴァとルフト
「じゃぁ、説明するわよ」
ノアの説明役も随分板についてきたなと思いながら
その話に耳を傾ける
「クロノ・クエイクっていうのは、簡単に言えば空間を使えなくする力なの」
「空間を?」
「そ。だから、一度それが起きれば影響が収まるまでクロノ・ドライブどころか、クロノ通信すら不可能になるわ」
「それってつまり、ネガティブ・クロノ・フィールドみたいなものですか?」
「上手いこと言うじゃない。そうね、あれはクロノ・クエイクの縮小版みたいなものね」
ノアは感心したようにうなづき
「まず違うのは規模。ここで起きればトランスバールはおろか他の外宇宙にも影響する」
「ということは、私たちは生きてるうちにトランスバールには帰れない、ということですのね?」
「もし起きればね…そしてもうひとつ、ネガティブ・クロノ・フィールドは止めることはできるけれど
 クロノ・クエイクは止めれないってことよ。それこそ起動させたヴァル・ファスクにもね」
「…で、もしも起動した場合の対抗策は?」
フォルテが先を促した
ノアはしばらく考え
そして、モニターをだす
真中に目印がひとつ
「これがクロノ・クエイク爆弾…」
手を振る
パッ
消滅し
かわりに波紋状になにかが広がる
「起動すると、こんな感じで空間を破壊していくんだけど…」
そこに現れる新しい印
それは
「…紋章機?」
それは、6色の紋章機
ノアはそのうちの一つ…ミルフィーのラッキースターを記す記号を波紋にちかづけ
パッ
再び手をふる
すると、ラッキースターを中心に黒い円が浮かぶ
それは一瞬のうちにクロノ・クエイクの波紋とぶつかり
同時に消滅する
「クロノ・クエイクへの対処法は一つ…影響が広がっている間にその範囲内で、小宇宙を作り出すの。
 水が高いところから低いところに流れるように、その影響はすべて新しい空間に注ぎ込まれるはずよ」
「宇宙を…」
「作る?」
「ラ,ラッキースターはどうなったんですか?」
うるうるとミルフィーの訴え
ノアはあえてそれを無視して
「知ってのとおり、小さいとはいえ宇宙を作るには膨大なエネルギーがいるわ。運の良いことに
 私たちにはそれに相当するエネルギーを生み出すことができる原動力が、ある」
「…クロノ・ストリング・エンジンですか?」
ちとせの問いにノアはうなづきをひとつ
そして
「でも、ただのクロノ・ストリング・エンジンじゃだめ。制御できるエネルギーじゃたかが知れてるわ
 そのためには、無限の可能性を秘めた特殊なクロノ・ストリング・エンジンがいるの」
「紋章機に使われているクロノ・ストリング・エンジン…ということですね」
ヴァニラが確認する
「そうよ。さらに紋章機にはH,A,L.Oシステムが使われている…パイロットの精神とリンクするシステムがね
 それによってクロノ・ストリング・エンジンを暴走させることで計算上は小宇宙を作り出すことも可能になるはず」
ノアが手をかざす
モニターが消えた
「まて、ノア!」
口をはさんだのはシヴァ
「クロノ・ストリング・エンジンを暴走させた紋章機はどうなる?!」
シヴァの視線と、ノアの視線がぶつかる
誰もが二人を静かに見守った
ノアはひとつため息をつき
そして…
彼女にはめずらしく、言葉を選ぶように…

「隠しても意味のないことだからいってしまうけれど…
 小宇宙の中心となる紋章機は、こちらの世界に戻ってくることはできないわ」

緊張がはしる
だが、その答えをある程度予想していのか、タクトとエンジェル隊はなにもいわなかった
口をひらいたのは、シヴァ
「駄目だ、そんなことは…そんなことは認めぬ!」
「あんたが認めようと認めなかろうと、事実なんだから仕方ないでしょう?」
「他に方法はないのか?!」
「あたしだって必死で探したの、だけど、これしかないのよっ」
「だが、だがっ…」
悔しげに言葉を捜す、シヴァ
その肩には、自分の命の恩人であり友人でもあるエンジェル隊の命と
トランスバール女皇としての指命が、かけられぬ天秤としてのしかかっている
「だが…」

「だいじょうぶ、ですよ」

続かないシヴァの言葉をフォローしたのは
「タクト…」
「大丈夫ですよ、シヴァさま。クロノ・クエイク爆弾が起動する前に破壊してしまえばいいんです」
「ま、そうなんだけどね」
タクトのものいいに、ノアがあきれた返事
「はい、バーンとやっちゃいます」
「宇宙が平和になったって、帰ってこれなきゃ意味ないもんね」
「えぇ、そのとおりですわ」
「必ず帰ってきますよ、全員でね」
「はい」
「だから、心配なさらないで下さい」
全員が口々に同じことをいう
「シヴァさま、俺たちが一度だって約束を破ったことがありますか?」
「…いや」
小さく首をふる
「ない、な…お前たちはいつだって私との約束を護って、くれた…」
「今度も同じですよ」
「…あぁ」
シヴァはうなづく
そして顔をあげたとき
彼女の表情には笑顔がもどっていた
「タクト・マイヤーズ、そしてエンジェル隊…この宇宙を頼む」
その言葉に
「はい、おまかせ下さい」
7人の返事が重なった


人々は、艦が好きだった


「あれ?」
タクトがそこの光景に出会うのは、本日4度目であった
最初はブリッジ
次に銀河展望公園
先ほどまでクジラルーム
そして、いま
ティーラウンジで
「あ、マイヤーズ司令。すいません…いま、掃除中なんです」
ウェイターが申し訳なさそうに頭をさげる
「いや、いいんだ…ってことはエンジェル隊のみんなはきてないんだよね?」
「えぇ、今日はお見えになっていませんが…」
ふむ
タクトは考え
そして
「ところで、今日はエルシオール清掃キャンペーンかなんか?」
「は?」
聞きかえされる
ということは、意図的ではないようだ
無理も無い
ここにくるまで立ち寄ったところは、すべて掃除中だったのだ
一箇所,二箇所なら偶然ですますのだが、4箇所目となると…
うーん…
タクトは考えたが、答えはでず
そして
「なにか手伝おうか?」
今日4度目となる言葉を口にした

その後…
宇宙コンビニ、食堂、エレベーターホール、トレーニングルームetc
エンジェル隊がいそうなところをまわっては、それぞれの場所で掃除を手伝う
「ほんと、どーなってるんだろう」
そんなことをいいながら、タクトは格納庫にやってくる
ここで最期だ
結果、はからずもエルシオール掃除巡回となってしまったが
たぶん…
ぷしゅっ
扉をあける
目的の人物たちは
「みんなも掃除してるの?」
紋章機を洗っていた
「あ、タクトさん」
ミルフィーが大きく手をふった
すると他のみんなも気がついたらしく
「タクトじゃない」
「こんにちわ、タクトさん」
「よぅ、司令官殿」
「…」(ぺこり)
「タクトさん、どうかされたんですか?」
そのいつもと変わらない様子に
(やっぱ、心配する必要はなかったみたいだ…)
ほっと胸を撫で下ろす
ノアから聞かされたクロノ・クエイクを止める方法
彼女たちがそのことでなにか悩んだりしていないかどうかが気になったのだが
(よかったよかった)
とりあえず一安心
そして
「はい、日頃の感謝の気持ちをこめて」
「そっか」
タクトがうなづく
そしてあたりをみまわすと
「って、もしかして格納庫も掃除?」
慌しくかけまわる整備班にきづく
すると
「はい!エンジェル隊のみなさんに影響されちゃって」
クレーター班長が少し手を止めて解説してくれた
ということは
「ということは、もしかして艦内の清掃ブームの火付け役はここ?」
「そういうことです」
タクトは視線を6色の翼にうつした
そこでは
「気持ちいい?ラッキースター。いつも、本当にありがとうね」
ミルフィーがそういいながら、ラッキースターをブラシで優しくこする
「綺麗よカンフーファイター。でも、もっと綺麗にしてあげるわ」
ワックスをかけながら、うっとりとランファの呟き
「これでよろしいですわ。トリックマスター…さぁ次は」
きゅっと吹き掃除をおわらせて、次の作業準備をはじめるミント
「おーばっちりじゃないか、その調子でよろしくたのむよ、ハッピートリガー」
簡単に火器の管制をみながらフォルテが満足そうに微笑む
「いつもありがとう、ハーベスタ-…」
ヴァニラはそっと、ハーベスタ-をなでた。
「シャープシューター…どうか、私に力をかして」
願うようにちとせはシャープシューターに仕上げ剤を塗り広げて
「なるほど、ね」
やっと納得
「みなさんが紋章機を大事にされるのと同じくらい、私たちもエルシオールが好きですから」
クレーターが誇らしげにいった
「そうだね」
うなづき
「よし!俺も手伝うぞ、クレーター班長!」
「いいんですか?」
「あぁ、ここにくるまでもいっぱい手伝ったからね、こうなりゃ全部徹底的に磨き上げよう」
腕をまくる
ついでに、ブリッジにいるレスターに連絡を取って放送をひとつ
”エルシオール乗組員で手の空いているものは、清掃活動に参加すること”


艦は、人間が好きだった
人々は、艦が好きだった
だから、人々は艦を大切にし
艦は…


白き月で、ノアと少し打合せをした帰り
寄り道をした銀河展望公園で、タクトは意外な人物をみつけた
「シヴァさま?」
名前を呼ぶ

「タクトか」
幼い女皇はゆっくりとふりかえった
「こんな時間になにをしている?」
「えっとノアに頼んでいた資料が届いたのでうけとりに…
 シヴァさまこそ、こんな時間にどうしたんですか?」
「とくに意味はない、ただ、この艦にのっていた時のことを思い出していた」
シヴァは目をつぶる
それはちょうど一年前の日々
「私は…あのときからなにもかわっていないのかもしれないな」
呟きは小さく
「そんなことはありませんよ」
「だが…今回も結局私はなにもできずお前たちを戦いにむかわせることとなった…
 ネフェーリアとの戦いで、お前とちとせを決戦兵器にのせ命をかけさせたとき
 あれほど後悔したというのに…わたしは…わたし、は………」
映像ではあるが、綺麗な空をながめ、途方にくれるシヴァ
タクトは
「シヴァさま、人にはそれぞれ役割があるんですよ」
それはまるで
兄が妹に昔話を聞かせるような優しい響きで
だが、真ん中に一本、しっかりとした芯のある言葉
そして、瞳
優しくて
でも、どこか悲しい
そのくせ
決意に満ちた眼差し
「役割…」
「はい、たとえば…ミルフィーの役割は美味しいお菓子と、あの笑顔で元気をわけてくれること」
タクトは自慢気にひとつ
「ランファの役割は前向きな明るさでぐいぐいみんなを引っ張ってくれること。
 ミントは、少々暴走気味のエンジェル隊全員に冷静なツッコミを」
ふたつ、みっつ
「リーダーとして彼女たち全員に目を配るのはフォルテの仕事
 彼女たちがいつも安心して戦えるのは、ヴァニラがいてくれるから」
よっつ、いつつ
「ちとせは一歩引いたところから全体をみて、みんなのフォローを」
むっつ
「そして、戦いに赴くみんなを信じてまつのが司令官である俺の役目で
 俺がみんなのことに専念できるように助けてくれるのがレスターの仕事です」
「…ふむ」
「紋章機もそれぞれに役割が。ラッキースターはオールマイティーに、
 カンフーファイターは切り込み役、トリックマスターは全体攻撃
 ハッピートリガーは集中攻撃専門、ハーベスターは救護支援
 シャープシューターは遠距離支援…」
銀河を駆ける、6色の翼
「紋章機を整備するのは整備班、傷ついたみんなを助けてくれるのは救護班、
 おなかがすいたときは食堂のおばちゃん、なにか欲しいときは宇宙コンビニ…
 戦闘や航行の要はブリッジクルーのみんな…
 なにより、そんな風に快適に過ごせる空間を作るのはエルシオールの役目です」
「では…」
タクトの言葉を
シヴァが、さえぎる
「では…私の役目は?私の役目はなんだというのだ、タクト・マイヤーズ」
真摯なまなざし
「私にはノアのように作戦をたてることも、母上のようにみなを慈しむことも…
 ルフトやウォルコット、あの双子のように戦闘でおまえたちを助けてやることも、できぬ」
悔しそうに拳をにぎりしめる
タクトは、その小さな手に、そっと手をかさね
「シヴァさまのお役目は…立派な皇になられること」
「…」
「クーデターの時、俺が頑張ろうとおもったのは、謁見の間でお会いしたあなたが皇族としての使命を果たそうとなさっていたから」

”皇国の臣民と、月の聖母シャトヤーン様を御守りすることこそ、皇族の使命である”

「あれは…」
「どんなに平和な世界がこようとも、皇が愚かでは意味がありません。先代ジェラール皇王のように…
 いつかそれは戦乱の火種をまくでしょう…奪うこと、壊すことは簡単です。でも、育てること、作ることは難しい
 国を創るのは皇の仕事…住み良い国をつくる…それは、シヴァさまにしかできないことです」
そこまでいって、タクトは膝をおった
小さな女皇にかしづく
「どうか、良き皇におなりください。俺が…皆が、貴方様を御守りできることを誇りと思えるような」
シヴァは少しばかり不安そうに
「わたしに、できる、だろうか…?」
「はい、もちろんです」
タクトは笑顔で、それに答えた

すっ

手をはなす
シヴァは…タクトに背をむけ
「わかった。では、私は立派な皇を目指そう」
空を見上げる
「この宇宙一の皇だ!」
「その意気です」
高らかな宣言をききながら、タクトはたちあがる
ぱんぱん
足についた砂や草をはらっていると
「タクト…」
「はい?」
「ひとつだけ、聞いても良いか?」
「…なんでしょう」
背を向けたまま
シヴァはしばらく迷い
それでも
「お前は…」
タクトは静かに、その言葉の続きをまった

「お前は、エオニアのことを…好いておったか?」

ザァ
風が、吹いた
「………」
タクトが答えにつまる
背をむけていたせいで、その表情はシヴァにはわからなかったが
その沈黙がまるで答えであるかのように
ながい
長い、静寂を、破って
「いや、悪かった…変なことを、聞いたな」
「シヴァ、さま…」
「忘れろタクト、忘れてくれ…今のは無しだ」
「…」
「変なことをきいた詫びといってはなんだが、タクト、お前この戦いが終わった後、したいことはないか?」
くるっ
振り返る
「したいこと、ですか?」
シヴァはすでに、いつもの表情で
「そうだ、なんでもいい。今までの礼も兼ねて、なんだって望みをかなえてやるぞ」
「そうですね…えっと」
タクトはしばし考え
考え…そして

「エルシオールで旅がしたいです」

一言
「エルシオールで?」
「はい」
タクトはにっこり笑うと、いつかレスターにした話と同じ話をシヴァにした
この白銀の艦にのって
どこまでもどこまでも
星の海を旅したいのだと
シヴァはしばらく、あっけにとられたようにその話をきき
そして
「それは、エルシオールがシャトヤーン様のための船であることを知ったうえでか?」
「そうなんですけど…あはは、やっぱり、駄目ですよね?」
タクトは困り笑い

「…お前と同じことをいった人物が、過去…皇族と白き月にいた」
「え?」
「初代トランスバール皇王と、当時の月の聖母シャトヤーンさまだ」
くすくす
シヴァは楽しげに笑った

かつて暗黒時代と呼ばれていた人類に現われた救世主
ポジティブ・ムーン…”白き月”
夜、闇と戦う人々につねに頭上で優しく微笑んでいた”白き月”
それは失われたEDENのテクノロジー(今でいうロストテクノロジー)の結晶体であり
そこには聖母が住むという伝説だけがあった
伝説が史実となり、人類に手をさしのばしたのが600年ほど前
聖母シャトヤーンは、白き月のロストテクノロジーを天恵(ギフト)としょうして人類に提供した
宇宙すら制覇していたEDENのソレからくらべれば、微々たるものではあったが
爆発的な進化をとげるには十分すぎるほどの贈り物

「二人は互いの理想のために人類の復興に力を注がれた
 白き月はロストテクノロジーの普及と、平和利用…
 初代皇王は、かつての栄光をとりもどすために…」
「…」
「そして、恋人同士でもあった二人は、いつか自分たちの務めが終わった日に
 エルシオールでさらに皇国をひろげるための旅へでようと約束していたそうだ」

エルシオールから外された、クロノ・ブレイク・キャノン
それは、永遠の平和を願ってのことだったろう

「残念ながら、その約束が果たされることはなかったのだが」
二人が結ばれることはなく、かわりに、エルシオールは儀礼艦となり
600年の間、ずっと、白き月と本星トランスバールを航海しつづけてきた
「素敵なお話です」
ハッピーエンドではないけれど、優しい物語
タクトは素直に感想をのべる

「あぁ、私も…この話が一番好きだ」
シヴァは満面の笑顔で、それに答え

「タクト・マイヤーズ」

皇王としての表情で、一言
「はいっ」
タクトは姿勢をただす
「初代トランスバール皇王の末裔として、初代月の聖母の子孫として…
 二人の意志を受け継ぐ者として、お前の願い、聞き届ける」
「…ありがとうございます」
「そして私からも願おう、エルシオールを、たのむ」
「はい」
かわされる笑顔
二人だけの神聖な儀式
空には満天の星
そして…
かつて叶うことのなかった600年前の約束
それが、果たされる日はすぐそこまできている…



2005年04月08日(金) 今年もいろいろと…の日

楽しみな映画が多いですv
というわけで、昨日の続き

アイスを食べたら、なんだか他にも食べたくなって宇宙コンビニによってみる

「ミント…」
「タクトさん。こんにちわ」
優雅に挨拶をくれた彼女に、タクトもあわてて挨拶をかえし
「やぁ、ミント…なにか買うのかい?」
ついでに聞いてみる
かえってきたのは
「えぇ。いろいろと」
含み笑い
そして
「それは?」
彼女が手に持っている本に気づく
「月刊駄菓子の友、ですわ。ちょっと入荷の難しい駄菓子がありまして取り寄せていただこうかと」
「ふぅん」
中身をみせてもらう
いろとりどりの、駄菓子の写真
「美味しそうだね」
「えぇ…目移りしてしまいますわ」
ミントはうっとりと呟く
「ミントが欲しいのはどれ?」
「これですわ」
「へぇ…」
「でも、少し取り寄せに時間がかかるそうですの」
「え、どのくらい?」
その答えはミントではなく、宇宙コンビニの店員から
「だいたい〜…2週間ほど…ですねぇ〜」
「2週間も?」
銀河の果てから果てまで、1日で届けることのできる光速通販がある時代に珍しい話だとおもった
だが、ミントは
「仕方ありませんわ。それに、待つのも楽しみのうちですし」
「はは…ミントはあいかわらず冷静だね」
「えぇ。あせっても仕方のないことですし」
「…うーん、そうだね、それに2週間後だったらもう全部片付いたあとだから、ゆっくり楽しめるし」
そのタクトの言葉に
ミントは少しだけ驚いたような表情のあとで、にっこりといつもの笑顔
「…えぇ、そうですわね」
「きたら、俺にも少しわけてほしいな」
「あら。タクトさんったらそれがねらいですか?」
「うん!」
悪びれもなくうなづく
ミントは呆れたように微笑んで
「仕方ありませんわね。いいですわ、みなさんでいただきましょう」
「楽しみだなぁ」
「ところで、タクトさんはなんの御用でしたの?」
不思議そうに尋ねられて、タクトは正気にもどると
「そうだ、なにか食べようとおもって…」
当初の目的に戻った
しばらく、あたりをきょろきょろとみまわし
そして
「あ、宇宙メロンパンが新発売になってる」
レジにはってる美味しそうな広告に目を止めた
と…
「あ、すいません。それはミントさんが買われたので最期っす」
ジョナサンが申し訳なさそうに頭をさげる
「えー」
「残念ですわね、タクトさん」
後ろからおかしそうな笑い声
そして
「はい」
「え?」
差し出されたのは
「半分差し上げますわ」
「いいの?」
「えぇ。食べ物は一人で食べるより、誰かと食べたほうが美味しいですから」
「ありがとう、ミント」
嬉しそうに半分になったメロンパンを受け取る
そのタクトの表情をみて、ミントも嬉しそうに微笑むのだった


ミントとわかれると、ちょうどお昼を少し過ぎたばかりの時間
その足で食堂に向かう
と、先客が…
「あら、タクトじゃない」
「ランファもお昼?」
「まぁね」
何を食べてるんだろう?と、ランファの目の前におかれた昼食にめをむけると
「…なんか、異様に赤が目立つのは俺の気のせい?」
「なにいってるのよ。これは、ランファスペシャルなの!赤くてあたりまえ!」
「ふ、ふぅん」
力説する彼女に生返事をかえしながら
再び”ランファスペシャル”をみている、と
「タクトも同じものにする?」
「え?!」
少しの沈黙
だが
ランファの悪気ゼロの視線にたえることはできず
「じゃ、じゃぁ…お願いするよ」
一人激辛我慢大会へ突入する運びとなった…(合掌)
「おばちゃーん、ランファスペシャルもう一つ!」
「あいよっ」
食堂のおばちゃんの心地よい返事
しばらくして、ガストがお盆をひとつタクトの前においた
去り際…
「がんばってください」
ぽむっ
と、タクトの肩をひとつたたく
タクトは
ごくっ
音をたてて、喉をならし
「いただきます!」
自棄にはりきってそういうと、箸を手にとり戦闘開始
ぱくっ
まず、一口
(あ、でも…味はいい………)
そんなことを思ったのは、口に含んだわずかの間
次の瞬間には
(か、辛っ…辛っ…っていうか、痛いー)
際限なく上昇する辛さに汗がふきでる

「美味しいでしょ?」
目の前にはランファのきたいのまなざし
タクトは、熱々の砂浜を裸足で歩くような気分になりながらも
「う、うん…美味しいよ」
答えた
その答えにランファは満足そうに笑うと、自分の分をすすめる
「辛いものはいいわよ、なんか元気がみなぎってくるのよね」
コクコク
しゃべると口がヒリヒリいたむので、うなづきだけをかえす
「ランファが元気だと、俺まで元気になるよ」
「そりゃそうよ、後ろ見てたって仕方ないもん」
手入れの行き届いた自慢の金髪をかきあげて、自身満々の答え
「そうだね」
なんとか食べ終わる
「どうぞ…」
見かねたガストが御冷のおかわりをくれた
「ありがと」
ごくごくごく
一杯目をいっきにのみほし
二杯目でまだヒリヒリする口をひやす

「あ、そうだ。あんたにいいものあげるわ」
ランファは思い出したように自分の服をごそごそとあさる
そして、軍服の上着のポケットから、巾着のようなものをとりだした
「はい、お守り」
「え…」
受け取る
(お守り?に、しては…大きい、ような…)
「あたしの生写真入りよ!」
「あ、ありがとう」
「みんなにも渡してるの、みんなのことをあたしが護れるようにね」
「ランファが護ってくれるなら安心だ」
「まかせなさいよ」
ランファは頼もしく胸をひとつ、叩いた


「あー、食べた食べた」
食後の腹ごなしに、タクトは銀河展望公園に足をのばす
すると、カフカフの木の下で一人の少女をみつけた
「ミルフィー」
「あ、タクトさん」
声をかけると、ミルフィーはふりむきお辞儀をひとつ
タクトはそれに応えながら
「なにしてるんだい?」
「お祈りしてました。みんなが無事に帰ってこれるように」
「そっか」
タクトも習って、ミルフィーの隣でお祈りする
「カフカフのつぼみ、少し、大きくなりましたね」
「あ、ほんとだ」
1000年に一度だけ咲くという、カフカフの花
みんなでお花見をしたのはクーデターのとき
だが、不思議なことにネフェーリアとの戦いのあと、その花は再びつぼみをつけた
「ミルフィーのおかげかな」
「だと、嬉しいです」
照れ笑い
「また、みんなでお花見できたらいいですね」
「そうだね。お花見だけじゃなくて、ピクニックもしたいけど」
「流星祭も、今度は白き月で、映像じゃない本物の空を見上げてしたいです」
「あぁ」
しばらく嬉しそうに今後の予定をたて
ふぁ
あくびをひとつ
「タクトさん?」
「あぁごめん。今日は朝、はやくてさ…おなかもいっぱいだし、天気もいいしね」
ばさっ
前触れもなく、ミルフィーはその場にすわりこむ
「?」
タクトは首をかしげつつ

「タクトさん、膝枕してあげます」
「え?」
「はやく!」
ぽんぽん
自分の膝をたたきつつ、ミルフィー
タクトはしばらく迷い、考え、そして
そして…
「じゃぁ、ちょっとだけ」
誘惑に負けた
少しの風と、あったかい日差し、カフカフの木がつくる木陰
柔らかい膝枕
(うーん、しあわせだなぁ)
そんなことを思っていると
「タクトさん、がんばりましょう」
「うん、そうだね。でも、ほら…エルシオールにはミルフィーっていう幸運の女神がいるし」
「え、でも…私の運は…」
いいかけた言葉を遮る
そして、笑って
「俺ね、ミルフィーの笑顔をみてると、もっとがんばらなきゃ。って思うんだ」
「笑顔、ですか?」
「きっとみんなも同じだと思う。どんなときもミルフィーの笑顔をみれば、つられて笑顔になっちゃう」
ざわっ
風が優しく二人の間をぬけていく
「どんな強運も、ミルフィーの笑顔には敵わないよ」
「はいっ」


そんな風に時間をすごし
少し予定を送れて、夕方
スカイパレスの発着場に、全員の影

「みなさん…お気をつけて」
夕陽で橙にそまるスカイパレス
ルシャーティはペコリと頭をさげた
「ルシャーティも、元気で」
タクトが笑ってかえす
その後ろから
「お世話になりました、ルシャーティさん」
「またね、ルシャーティ」
「もどってきましたら、ゆっくりとEDENを案内してくださいね。ルシャーティさん」
「達者でな、ルシャーティ」
「また、お会いしましょう…ルシャーティさん」
「ルシャーティさん、本当にありがとうございました」
エンジェル隊が口々に、別れを惜しんだ
「こちらこそ、わたし…私、みなさんに出会えて本当によかった…どうか、ご無事でお帰りください…」
いつまでも名残を惜しんでいると

「タクト、それにお前ら、そろそろいくぞ!」

いいかげん、痺れを切らしたレスターがやってくる
「いつまでやってるんだ、もう充分挨拶はすませたんだろう?」
たしなめた
「うん、なんか名残惜しくてさ」
タクトが笑う
みんなもつられて笑った
それにふぅと、飽きれたため息をもらすと
「まったく。あとはお前らを待つだけなんだからな」
「わかってるよ」
そんないつものやりとりが繰り返されて
「あの…タクトさん、クールダラス副司令」
ルシャーティが二人を呼ぶ
「ん?」×2
同時に視線がルシャーティにいき
「どうか、お幸せに…あの子も、ヴァインも…それを望んでいるとおもいます」
「ルシャーティ…」
「すいません、あの子のしたことを忘れたわけではないんです…でも…」
沈黙
やぶったのは
「あのね、ルシャーティ…俺はヴァインのこと、許すよ」
タクトの優しい、声
「タクト…さん」
見上げれば、笑顔
酷く優しい
タクトはもう一度くりかえした
「許すよ」
レスターは、その言葉をかみ締める
かつて、エオニアを許せなかった自分にクロミエがいった
”人にとって一番難しい感情というのは”ゆるす”ということなんですよ。
眼をそむけるのでなく、憎むのでなく、悲しむのでなく…ただ許すこと”
許す…
なんて、重くて、優しい、言葉
その罪に目をつぶらず
全て受け止めた上で
それでも
許す、と…
「な、レスター」
「あぁ…」
尋ねられてうなづく
「ありがとう、ございます…」
「それに、ヴァインは俺たちに教えてくれた…ヴァル・ファスクにだって心はあるんだってことを」
「そうですよね」
ミルフィーがうなづく
「心があるってことは」
「いつか、わかりあえる…ということですわ」
ランファ、ミント…
「あぁ。今はまだ小さい希望だけどね」
フォルテの呟き
「ですが、未来へつながる希望です」
「はい!かならず」
ヴァニラとちとせもうなづく
ルシャーティは涙をこらえながら
「あの子のしたことは、無駄ではなかったのですね…」
微笑む
「幸せな子、あの子は、本当に幸せでした」
そのとき

「あっ」

声をあげたのはミルフィーだった
「どしたの、ミルフィー…って」
「まぁ」
「おぉ」
「…」
「すごい…」
全員が同じ光景をみつめる
沈む夕日
絵の具が混ざるような空
永遠の時間のひとかけら
夕陽の温かい色が、世界に広がっていく
「綺麗だなぁ」
タクトが感嘆のため息とともに呟き

「はい、わたしの…宝物です」

ルシャーティは誇らしげに、そう、いった



2005年04月07日(木) そういえば、今年のコナン映画は…の日

今年のコナンはたぶん見に行きます
小五郎ちゃんが大活躍らしいので(うっとり)
まぁ、そんなこんなで
今回もまっぷたつ
ほんと、1話に詰め込みすぎだ;

第19話「とにかくオールキャストモーニングセット」



「なんか、ずいぶんと遠いところにきたんだな…」

スカイパレスのテラスから、ぼんやりと夜空をみあげつつタクトはつぶやいた
綺麗な星空…
手を伸ばしてみる
つかめそうで、つかめない
「なにを馬鹿やってるんだ?」
そんなことをしていると、声
「レスター」
「まったく。明日は早いんだぞ?」
「わかってるよ」
仕方なく笑って、背伸びを、ひとつ
「艦隊総司令官が寝坊じゃ示しがつかん」
重い溜息
タクトはそれに笑いを返しながら
「なんか、どんどん肩書きばかりが増えていくなぁ」
一年間で昇進した階級は、片手だけでは足りなくなってしまった
「中身も伴ってくれればいいんだがな。タクト・マイヤーズ元帥閣下」
「うーん、実感湧かないんだけどなぁ」
「そもそも、お前…治ったとはいえ病み上がりなんだから、気をつけろ」
「…うん」
視線を宇宙へもどす
冷たい夜の大気は、星の輝きを割増してみせる効果があるんだろう
綺麗な夜空だ
「なぁ、レスター」
「ん?」
ばさっ
後ろからやってきたレスターが、上着をかけた
「人間ってさ、死ぬとどうなるんだろうな?」
「なんだ、いきなり…」
突然の話題に、あきれた声
「天国にいくのかな、それとも生まれ変わるのかな…ただ無に還るだけなんだろうか?」
「…タクト?」
名前を呼んでみるが返事は、なく
しばらく考え
考え…そして
「お前は、どう、思うんだ?」
「え?…そうだな」
空を見上げる
透き通るような星空
「こんな空を見上げるとさ、泣きたくなることがあるだろう?
 俺は…人は死んだら天国にいって、こっちをみていてくれるんだと思ってた
 だから、天気のいい日はむこうからこっちが良く見えて…それで泣きたくなるんじゃないかなって」
「ふぅん」
「でもさ…天国なんてけっきょくは、残された人間のわがままだよな…
 人間は弱いからさ…きっと、本当に誰かを失うことには耐えられないんだよ
 みることはできなくても、そこにいてくれるって安心したいだけなのかもしれない」
「…」
どれだけ見上げようと、空は空…
どこまでも
いつまでも
ふいに、レスターが呟く
「それで、いいんじゃないか?」
「…え?」
「残された人間ばかりが辛いとは限らないだろ…俺たちが死んだ奴らに傍にいてほしいと願うのと同じくらい
 死んだ奴らだって俺たちの傍にいたいんじゃないか」
「…そっか…そう、だよな」
二人の頭上には、いつまでも優しく柔らかく
綺麗な夜空が広がっている
「綺麗だよな」
「まぁな」
「でも…こんな綺麗な空も見上げず、宇宙を壊す準備をしている奴もいるんだよな」
明日…
二度目のクロノ・クエイクをとめるため
なにより、もう二度とこんな悲しい戦いをしないために
ヴァル・ファスクとの最終決戦にたつ…
「クロノ・クエイク…か」
EDENとトランスバールを分けた、宇宙規模の大災害
おとぎ話だと思っていたソレが、いま、再び起ころうとしてる
「心配か?」
「…いや」
微かに首を横に降る
「俺たちには銀河最強の天使たちがいるからね。彼女たちならきっと…」
「タクト?」
言葉は続かなかった
不思議におもって、レスターがタクトを覗き見る
「…レスター、話があるんだ」
タクトが顔をあげた
そして
「まだ…心の準備ができてないから、今は言えないけれど」
「なんの話かはわからんが、お前がそれでいいのなら俺はかまわん」
「…うん、ありがとう」
安堵したように、笑みをこぼすと
タクトはレスターの上着を翻しながら、振り返った
「さ、寝るか!」
「あぁ」



いつもより心持ち、早めにおこされたタクトは散歩がてら艦内を歩いていた
「ふぁ…まだ眠いな…」
すると
「あれ?ちとせ」
「タクトさん。おはようございます」
「おはよう。ちとせ、早いね」
タクトはそういいながら
「あれ?足…どうしたの?」
その足首に巻かれていた包帯に気づく

「その、先ほどのトレーニングで捻挫してしまいまして」
真っ赤になりながら
「軽い捻挫ですので、あとでヴァニラ先輩に見ていただこうと思って」
「そうだね、それがいいね」
しどろもどろで説明するちとせに、ひとつうなづいてみせる
ちとせは最初、照れたように笑っていたが
次第に、表情を暗くすると
「しかし、決戦前のこの大事なときに怪我をしてしまうなんて…気が緩んでいる証拠ですね…」
落ち込む
(うーん…)
タクトはしばらく考え、考え、そして
「そうだ、ちとせ。なんか俺にしてほしいことはないかい?」
「え?」
「シンキングタイムは10秒!9、8、7、6…」
「え?え?えぇー?」
「5,4,3…」
「あ、あの…でしたら!」
慌てふためきつつ
ちとせは
「リ、リボンっ、リボンを結びなおしていただきたいのですがっ」
「リボン?」
「はい、気合をいれるために」
「うん、いーよ」
タクトはにっこり笑顔で答えると、ちとせとロッカールームへ移動した
しゅるっ
微かな音をたてて、リボンが解かれる
ちとせのチャームポイントでもある、赤いリボン
それを器用に、結いなおす
「ありがとうございます」
「いやいや…」
タクトは答えながら
「ねぇ、ちとせ」
「はい?」
「怪我をする理由って、一つじゃないんだよ」
「え?」
「気が緩むと確かに怪我はおおくなるけど、実は、緊張しすぎていても怪我は多くなるんだ」
きゅっ
よし、綺麗に結えた
「リラックス、リラックス」
「ですが…私は………」
「あせっちゃ駄目だよ、ちとせ」
それは、いつかと同じ言葉
「みんなになくて、ちとせにないもの…それは向上心だ。
 みんなに早く追いつきたいと願う、君の気持ち…それが、今日のちとせの強さになってる
 だけど、焦っちゃいけない」
「…」
「急いで積み上げたものは崩れやすい、ちとせは、ちとせのペースで確実に進んでいけばいいと思うよ」
「…私のペース」
噛み締めるように、ちとせは呟いた


ちとせの足をみてもらおうとおもって、艦内を探索
目的の人物は医務室にいた
「ヴァニラ」
「タクトさん…おはようございます」
「おはよう。ねぇ、ヴァニラお願いがあるんだけど…」
「はい、なんでしょう?」
「ちとせが足を捻挫したんだ、あとでみてやってもらえるかな」
「では、ここの掃除が終わりましたら…」
そういわれてはじめて
タクトはヴァニラが掃除姿であることにきづいた
「うん、ありがとう」
お礼をいいながら
「ヴァニラ、俺も手伝おうか?」
「いえ…だいじょうぶ、です」
ヴァニラは丁寧に断ると、掃除を再開する
タクトはしばらくその様子をみていたが
ガタガタッ
彼女が椅子を持ち出したところで
もう一度
「ヴァニラ、そこは危なそうだから俺がやるよ」
「…だいじょうぶ、です」
がたっ
椅子を棚の下につけ、ヴァニラは上へ
だが、ぎりぎりのせいか、上手くふけないでいるようで
「あっ」
ガタッ
椅子がゆれた
「あぶないっ」
あわててかけよる
ガタタ…
椅子は倒れることなく、バランスを保った
そして
「やっぱりかわるよ」
「…お願いします」
今度は素直にうなづいたヴァニラに微笑をかえして
掃除再開
棚の上に手を伸ばして拭き作業
と…
「すみません、タクトさん」
ヴァニラが申し訳なさそうに、つぶやいた
「え?だいじょうぶ、だいじょうぶ。俺が好きでやってることだから」
「ですが…」
「きにしない、きにしない」
歌うように答える、と
「…はい」
呟くような、返事
(うーん…)
タクトは、すこし考え
「あのさ、ヴァニラ。お医者さんで一番大切なものってなにかしってる?」
「…え?」
突然かわった話題に、素直に疑問符
ヴァニラが興味を示したのを確認すると、続ける
「それはね、人を癒すこと」
「…」
「といっても、怪我をなおすとか、病気を治療するとかじゃないよ」
「ちがうのですか?」
「うん」
タクトはうなづき
「前にもいったと思うけど…ヴァニラはさ、誰かの傷を癒してくれたとき、その人が治ったとき、
 まるで自分が救われたように笑ってくれる」
「…」
「俺はそんなヴァニラの笑顔をみていると、自分が救われた気がするんだ」
きゅっ
拭き終わる
ガタガタ
椅子から降りた
ヴァニラをみる
にっこりと、笑いかけて
「病は気から、っていうだろ?どんなに軽い怪我や病気でも、それを診てくれる人が深刻な顔をしていたら不安になってくる。
 逆に、どんなに重い怪我や病気でも、診てくれる人が笑顔だと心が軽くなる」
「…」
「ほら、ケーラ先生はいつも笑顔だろ?」
「はい」
ヴァニラはこっくりとうなづいた
その表情が微かにゆるむ
「うん。それと、ヴァニラはもう少しみんなに手伝ってもらってもいいとおもうよ」
「…ですが」
「嬉しいことは2倍、悲しいことは半分、どんなことでも、みんなとわかちあう」
タクトは祈るように手を組むと
笑いをこらえながら、神妙に…
「神の教えです」
しばらくの沈黙
(は、はずした?)
たらりとタクトの背中を冷や汗が伝ったとき
クスクス
小さく,ヴァニラが、笑う
そして
「はい。タクトさん」
良い笑顔と、良い返事
「あの、タクトさん、あとで…宇宙クジラを洗うのですが、お手伝いしてもらってもよろしいですか?」
柔らかい声でたずねられ
タクトは
「うん、喜んで」
負けないくらい,笑顔で、かえした


ティーラウンジの前を通ろうとしたとき、声をかけられる
「おー、タクトじゃないか」
「フォルテ?」
誘われるまま、中に入った
「…珍しいね、フォルテが一人で射撃場以外にいるなんて」
正直に感想

あはははは
豪快に笑って
「まぁ、たまにはいいじゃないか」
「ところで、なにを食べてるんだい?」
のぞきこむ
そこには
「…アイス?」
それもかわいいピンク色をしたストロベリー味
「ときどき食べたくなるんだよねぇ」
フォルテはそういいながら、ちびちびと
ちびちび

「俺も食べよーっと」
彼女が凄く美味しそうに食べるので、タクトもカウンターに向かった
しばらくして、焦げ茶色のチョコレートアイスをうけとり戻る

「お、チョコかい?」
「あぁ」
ちびちび
二人でしばらく、アイスを食べ

「ちょいとタクト」
「ん?」
「あたしはさ、イチゴも好きだけど、チョコも嫌いじゃないよ」
「ふぅん」
「…」
「…」
「鈍い男だねぇ、あんたのチョコアイスをあたしに少しおくれって意味さ!」
逆切れされる
仕方なしにタクトはフォルテにチョコアイスをさしだす
「はいよ、ありがとう」
ご満悦顔でフォルテはそれを受け取った
それを幸せそうに食べるフォルテを見ながら
「でもさ、フォルテとアイスって意外かも」
「そうかい?」
「うん」
「そーだねぇ、あえていうなら、この一気に食べれないところがお気に入りだけどねぇ」
ちびちび
ちび…
「こうやって少しずつ食べてると、いろいろと頭の中で整理もできるしね」
「たとえば?」
「たとえば…これからの戦いのこととか、かねぇ」
そういうフォルテの表情は少し寂しそうだ
ちびちび
「っと、いけないいけない。あたしが弱気じゃ駄目だね」
「まぁ、戦闘じゃない時くらいはそういうのもいいと思うけどね」
「お、いうじゃないか。タクト」
フォルテが意外そうな顔
「そりゃー戦闘中は、俺よりもフォルテのほうが頼りになるの知ってるし」
「やれやれ、司令官殿がそれでどーするんだい?ほんと、お気楽だねぇ」
「いやいや、君たちには負けるから…。それに、エンジェル隊にはフォルテ・シュトーレンってリーダーもいるし」
「買いかぶられたもんだねぇ、あたしも」
「だって俺、フォルテほど彼女たちのことを思ってる人間を他にしらないからさ」
「…あぁ」
「よろしくお願いします!姉御」
「フォルテ様、だろぉ?」
「じゃぁ、フォルテさま」
二人は顔を見合わせる
そして
ぷっ
あははははは
同時に大笑い
それは、ティーラウンジを優しい空気で満たして
そして
「って、あー、フォルテ!俺のチョコアイス…」
「っと、いけない。全部食べちまったね」
すっかりなくなったアイスを発見して、タクトは泣いた(しくしく)
フォルテはやれやれと笑いながら
「仕方ないねぇ、ほら、あたしのアイスを食べな」
そういって、少しばかりとけかけたストロベリーアイスをさしだした



2005年04月06日(水) 代休も終わって…の日

今日からお仕事がんばります


第18話「干物兄妹帰還」

沈む夕日
絵の具が混ざるような空
永遠の時間のひとかけら
つないだ小さな手と手
伸びる影はどこまでもどこまでも一緒で

「………」
ヴァインは、ゆっくりとルシャーティの髪をすく
優しく、優しく、愛しく、優しく
それは酷く、大切なものを扱う手で
どれくらいそうしていただろう
ヴァインはゆっくりと口を開いた
「…ゲルン様からお前を処分するよう命令が下った」
呟き
「EDENは解放され、我らヴァル・ファスクも随分と痛手をおった
 かくなる上は、クロノ・クエイク爆弾を使用する…
 だが…ライブラリに奴らがアクセスすれば、それすらも攻略してしまう可能性がある」
ありえないことだ
そう、おもう
だが、確信はもてない
(心の力…)
認めたくは無いが、現にまだ彼らは生き残っていて…
「だが、お前を処分すればその可能性すら、消えるのだ」
…さら
ヴァインはルシャーティの髪から、手をはなした
そのまま、握り締める
そして
…そして

キイィィ…ィィイン
サークレットが光を増し



ビービービーッ
スカイパレスに警報が鳴り響く
「なんだ?」
タクトが首をかしげたところに
通信
『タクト、すぐにエルシオールへ戻れ』
「レスター?どうしたんだよ」
『スカイパレス前方にクロノドライブしてきた機体がある』
「なんだって?」
とりあえず駆け出しながら、タクトは状況を確認する
「ヴァル・ファスクか?」
『いや、あれは…7番機だ!』
クロノ通信のむこうで、レスターの驚いた声
(7番機ということは…)
思い出すのは、金髪の美しい姉弟



「…ヴァイン?」

その輝きが消えたとき、ルシャーティは不思議そうに一言
ヴァインはそれを確認すると
「ねぇ、姉さん…」
しゃべりかけた
ルシャーティはいつもとかわらない微笑みで
「なぁに?」
「エルシオールでの日々は、楽しかった?」
「どうしたの?急に…」
「姉さん…答えて」
ルシャーティは少し驚いたが
「えぇ。とても楽しかったわ…貴方がいて私がいて…タクトさんとクールダラス副司令がいて、ミルフィーさんのお料理を頂いて…
 ランファさんに占いをしてもらったり、ミントさんとお菓子を食べたり…フォルテさんの射撃を拝見して…
 ヴァニラさんと一緒にクジラルームの動物たちと遊んで、ちとせさんにあやとりも見せてもらったわね」
ルシャーティは微笑む
ヴァインがそんなルシャーティをみつめていると
「ヴァインは?」
今度は逆に尋ねられる
ヴァインはしばらく考え…



エルシオール・ブリッジ
タクトはエンジェル隊との通信を開いた
「みんな、準備はいいか?」
『ラッキースター、おっけーです』
『カンフーファイター、いつでもいいわよ』
『トリックマスター、準備完了ですわ』
『ハッピートリガー、出撃準備完了』
『ハーベスタ-、システムオールグリーン』
『シャープシューター、だいじょうぶです』
6人の返事と表情を確認し
「よし、それじゃぁ…」
出撃の合図をとろうとした、そのとき
「タクト、まて…おかしい」
「え?」
レーダーをみていたレスターから声がかかった
もう一度確認をとると
「7番機だけだ…それも、かなりの損傷をうけているぞ」
「えぇ?!」
「モニターに移します」
パトリックの声がして、メインモニターに艦影が映し出される
それはたしかに、7番目の紋章機
「なんだって、こんな…」
しかも、それは動いているのが不思議なくらいボロボロであった
「罠か?」
「いや、違うみたいだ…エンジェル隊、悪いんだけど回収してやってくれないか」
タクトの言葉に
『了解』×6
天使たちから返事
タクトはしばらく考えてから
「レスター、医療班に連絡をとってくれ」
「あ、あぁ…」
「機体があれだとすると、中の人間ももしかしたら…」
「わかった」
うなづいて、レスターはアルモに指示をだす
タクトはモニターに映る7番機をみつめつつ
「…中にいるのは、ヴァインなのか、ルシャーティなのか…それとも」
全員が注目するなか、紋章機に牽引され、7番機はエルシオールへ回収された



ヴァインはしばらく考え…
そして、その答えしかないのを確認すると
ゆっくりとルシャーティの問いに答える

「…僕も楽しかったよ。はちゃめちゃで刺激的で、お祭りのような日々だった」

返す言葉は、いつか、白き月でかわしたのとおなじもの
たぶん…あのとき
答えはすでに、自分の中で出ていたのだ

お祭りのような騒がしくて楽しい日常
地上(ここ)から、銀河中をまきこんで
はちゃめちゃで刺激的で
でも、どこか優しさと暖かさに満ちた
そんな毎日がずっと続くことを、願っている

「あんな楽しい毎日がずっと続くといいわね」
「そうだね、姉さん…続くよ、これからはずっと」
ルシャーティの言葉に、ヴァインが笑顔でかえす
だが
「…ヴァイン?どうしたの?」
「なんでもないよ」
「でも…」
ルシャーティの手がのびる
それは優しく、ヴァインの頬をなで
「帰ろう、姉さん、エルシオールへ」
その手をとって、ヴァインは一言
「…ここは、エルシオールじゃないの?」
ルシャーティは確認するようにあたりを見渡す
「だいじょうぶ、僕が、かならず連れて帰ってあげるから」
「…ヴァインといっしょなら大丈夫ね」
方向音痴の自分を、いつも手をひいて連れて歩いてくれた弟
「帰してあげるよ…地上から銀河中をまきこんで、はちゃめちゃで刺激的で…でも、どこか優しさと暖かさに満ちた…
 そんな毎日がこれからはずっと続く場所へ…」
「…ヴァイン?どうして、そんな悲しそうな顔をするの」
ルシャーティが心配そうにたずねる
ヴァインはそれには答えずに
「もう、僕の望む理想の姉を演じる必要もない…あの日、僕が出逢った少女に君をかえすよ」
「ヴァイン…」

キイィィ…ィィイン
サークレットが再び光る
残されたのは静寂

「帰ろう、エルシオールへ…あの楽しい毎日に…僕は、気づくのが遅すぎた…その日々に僕はいられないけれど
 姉さんだけは、帰してあげる…たとえ、地上より永遠に僕がいなくなることになろうとも」



7番機のハッチが開く
中を覗き込んだタクトが叫んだ
「…ヴァイン?!ルシャーティっ!」
「救護班、担架だ!」
コックピットからひきづりだされる二人の影
ヴァインは血だらけで、ルシャーティは一見、眠っているようにみえる
「いったいなにが…」
「ヴァインさんの治療をします」
担架に寝かされたヴァインにヴァニラが近づく
「頼む、ヴァニラ」
「タクト、あたしたちはルシャーティに付き添うよ」
ルシャーティは外見に怪我はないが、とりあえず医務室へ運ばれることになった
フォルテとミルフィー、そしてちとせが付き添うナノマシンが輝いた

「…ぅ」
「ヴァイン!」
「ここは…?」
目を覚ましたヴァインは、あたりを見回し
そして、タクトとエンジェル隊をみつけると
ほっと、安堵の表情を浮かべた
「エルシオール、か…」
「ヴァイン、いったいなにがあったんだ?」
「…うるさいな、大声ださないでくれ」
うっとうしそうにヴァインが呟くと
ヴァニラのほうをむいて
「治療はいらない」
「ですが…」
「自分の体だ、もう駄目だってことくらいは、わかる…」
弱弱しく微笑む
「ヴァイン…」
「姉さんは…ルシャーティは…?」
尋ねる言葉に
「ルシャーティは無事だよ、怪我一つ、ないって」
答えたのは、もどってきたフォルテだった
「そうか…よかった…」
「ヴァインさん…」
「あんた…」
満足そうに微笑むヴァインに、全員が言葉を無くす
沈黙を破ったのは、ヴァインから

「…ヴァル・ファスクに一人の男がいた」

呟き
ヴァインは懐かしむような視線を誰にむけるともなくむけ続ける
「その男は、EDENのスカイパレスに降りたとき一人の少女と出逢った
 管理者の一族は、ヴァル・ファスクにライブラリが利用されるのを恐れて全員が自殺していたが
 まだ幼子だったその少女を殺すのは忍びなかったんだろう…その女の子だけが残されていた
 男は少女を引き取った…もちろんただ利用するためだけに………」
ふぅ
そこまでいってヴァインは大きく深呼吸を
息苦しいのだろう
だが、言葉をとめることはしないで
「最初は、ほんとうに、利用するためだけだった…ヴァル・ファスクと人間は時間の流れが違う………
 現に少女はあっというまに男と同じ年頃になり、そしてついには男を追い越してしまった…
 男は少女に催眠を施して、彼女を姉と呼び、弟を装った…」
ヴァインは笑う
自嘲気味に
「姉弟は調査のために一つの艦にのった、そこでは馬鹿がつくほどお人よしな人間ばかりが集まっていて
 はちゃめちゃで刺激的で、お祭りのような毎日があって…楽しかったよ…気づくのが遅すぎたけれど
 あれが楽しいということなんだと、男はヴァル・ファスクに戻ってから理解した…感情を持たない完璧な存在ヴァル・ファスク…
 だが、その男は心なんていう不完全なもののためにヴァル・ファスクではなくなっていた
 少女を処分しろと命令されて…逃げ出し、かつて自分が裏切った艦にみっともなく助けられて…
 …馬鹿だ。本当に愚かな男だよ…そんな1人のヴァル・ファスクの男がいたんだ」
ごほっごほっ
そこまでいって、ヴァインは咳き込む
血がとんだ
「だけど、ヴァイン…そのヴァル・ファスクは今、ひどく満足そうな顔をしているよ」
タクトが話し掛ける
ヴァインはその声に耳を傾け
「…そうか、なら…その男は幸せだったんだろう」
満足そうに笑った
「ヴァル・ファスクはクロノ・クエイク爆弾を使うつもりだ…君たちに勝ち目はない…
 たとえ、ライブラリにあるたった一つの攻略法を見つけようとも、実行することはできないだろう
 僕は先に逝く…最後の最期、その瞬間まであがくだけあがけばいいさ」
「…ヴァイン」
「さぁ、もう放っておいてくれ…それと、姉さんに僕のことは………」

「ヴァイン!」


全員が振り返る
「ルシャーティ…」
金の髪をなびかせた一人の少女
彼女はふらつくあしどりで
しかし、まっすぐにヴァインのところへ来る
「どうして…」
ヴァインは信じられないものをみる目で彼女をみた
「もう、洗脳はといたはずだ…君はもう、僕の姉じゃない」
「…えぇ、すべて、おもいだしました」
ルシャーティはゆっくりと言葉にする
その言葉に、ヴァインは
「…じゃぁ、どうして?…僕の最期を見届けにきたのか?」
「ヴァイン…」
彼は諦めたように笑う
そして
「僕はもう動けない…罵るなり、復讐するなり、好きにすればいいさ」
目を閉じた

夕暮れのスカイパレス
そこに取り残されていた、幼い少女
出来ることなら、彼女には知られずに逝きたかったが
…これは、罰だ
そんなことを、思う
神様はこんなことばかりに平等なんだろう
罪には罰を
だが、それでいいと思った
むしろ、これでいいと思う
どうせ罰が与えられるというのなら
彼女の手で直接あたえられるのも…

だから、ヴァインは静かにルシャーティを待つ
ルシャーティは
「たしかに…記憶が戻ったいま、私には貴方を恨む理由がある」
「ルシャーティ…ヴァインは…」
「でも…恨もうと思っても、思い出すのは…あの日、スカイパレスで私を拾ってくれた男の人の大きな手…
 いつだってそばにいてくれて、優しく私を見守ってくれたその人の瞳…
 いつのまにかその人を追い抜いてしまった私を見つめる、その人の寂しそうな表情…」
ぽたっ
雫がひとつ
こぼれて、ヴァインの頬をぬらした
「…」
「その人は…忙しい中,機会をみつけては私の手をひいてスカイパレスを連れて行ってくれた…
 暖かいオレンジと優しい夜の色がゆっくりと混ざるあの時間…私は、それが大好きだった」
ぽたぽた
涙が落ちる
「うらんだり、憎んだりできたら楽なのかもしれない…でも、思い出すとそれは優しい記憶ばかりで…
 わたし…私に貴方を恨むことはできないの…ヴァイン…だって、貴方は私の弟なんですもの」
沈む夕日
絵の具が混ざるような空
永遠の時間のひとかけら
つないだ小さな手と手
伸びる影はどこまでもどこまでも一緒…
ずっと、ずっと
いつまでも…

「…馬鹿だな」
小さな呟き
「馬鹿だ、君たちは本当に…僕がしたことを忘れたわけじゃないだろうに…それでも…こんな僕のために泣いてくれる…
 本当に………馬鹿だ」
全員の顔を見渡す
タクトも、ミルフィーも、ランファも、ミントも、フォルテも、ヴァニラも、ちとせも…
ルシャーティだけじゃなく、その場にいる全員が泣いていた
「ヴァル・ファスクは…涙なんか流さないよ…ここにいるのは、ルシャーティの弟のヴァインだ」
「詭弁だな、タクト・マイヤーズ」
ヴァインは呆れたように笑う
その目にも、涙が溢れていた
そして
「あぁ、でも…そうか、涙っていうのは、こんなにもあったかいものなんだな…
 僕たちは…ヴァル・ファスクは、きっとこの温かさに負けるんだろう」
「ヴァイン…」
ヴァインはルシャーティを見た
優しいまなざしで
「大好きだよ姉さん…どうか、幸せになってほしい…僕の大好きな、姉さんだから…」
「私も、わたしも…あなたが大好きよ、ヴァイン…貴方は私の大好きな、弟だもの」
姉弟は微笑みあう
今までで、一番、幸せな微笑みで

「あったかい…心があるっていうのはいいものだな…こんなに、あったかい気持ちのまま………」

「ヴァイン?」
答えのかわりに、そこには、笑顔で眠る彼がいて
静寂

そして…



2005年04月05日(火) GAが好き好き好き、GAが好き、好き…の日

EL編はやりたいことばっかり詰め込んであります
そんなわけで、17話後半。どうぞ。

「あれ?エンジェル隊のみんなは?」
EDEN解放祝賀パーティー会場
タクトはあたりをキョロキョロ見回して、目的の6人がいないのを確認すると
「少し遅れるそうだ、女はなにかと準備に手間取るからな…おい、タクト」
名前をよび、レスターはタクトの前にたつと
「歪んでるぞ、ったく、せめて身だしなみくらいは整えろ」
「あはははは、ごめーん…でも、ほら俺には世話女房がいてくれるし」
「…誰が世話女房だ」
(あれ?)
ボソリと呟くように返されたツッコミに少々拍子抜け
(うーん、今の確実に殴られると思ったんだけどな、一年でレスターも性格かわったのかなぁ)
そんなことを思うが、口にはださない
「ほら、これでいい」
「ありがとう、レスター」
「で、どうするんだ?」
「そうだな…もう挨拶も終わったし」
それは、歴史に残る言葉だった
”伝説の英雄”、”救世主様”とEDENの民から羨望のまなざしを一身に集めたタクトは
『EDEN解放おめでとうございます』
という一言を、いつもの笑顔で
3秒かからないスピーチは、一瞬の静寂と、次に大爆笑をまきおこしたのだった
「エンジェル隊のみんなにあってから…」

言葉は続かなかった

ドンッ

爆音が響く
ビービービーッ
そして、警報
「な、なんだ?なんだ???」
「どうしたっ?」
いきなりの事態にタクトはおろおろ
レスターはその隣で、冷静に状況を確認する
「攻撃が…!!」
誰かが叫ぶ
「なんだって?!」
「ヴァル・ファスクか…っ」
宇宙をみあげた
漆黒の夜空に、漆黒の軍艦がみえる
「タクトっ、出撃だ!エルシオールへいくぞ」
「あ、あぁ!」
バタバタバタ
あわてて二人はその場から駆け出した

「マイヤーズ司令、クールダラス副司令!」
駆け込んできた二人を、アルモとココが出迎える
「なにがあった?」
「ヴァル・ファスクの艦隊が前方にクロノドライブを…」
「通信は?」
「送っていますが、応答なしです」
「第一種戦闘配備をしく、全乗組員に伝達」
「は、はいっ」
テキパキと繰り出される指示に、あわただしく全員が動き出す
「前方、謎の艦隊から攻撃、きますっ」
「ピンポイントに集中して、シールド展開っ!」
「は、はい…っ」
全員が次にくるであろう衝撃に身構える

ドンッ

大きな爆音が艦内に響き渡った
が、しかし
「あ、あれ?」
爆音は、した
しかし、予想された衝撃はいつまでたってもやってこない
不信に思って、スクリーンを見る
そのとき

「光が、くる」

タクトが呆然と、宇宙を見上げて呟いた
つられてレスターも視線を送る
謎の真っ黒な戦軍の中
「未確認大型機接近!モニターうつします!!」
オペレーターの声も聞こえない
タクトは逸らさないまっすぐな瞳でそれを見つめ続けている
映されたのは、紋章
この広い宇宙で、わずか5つの機体だけがつけることを許されたエンブレム
(あれって…)
タクトがそんなことを思ったそのとき、通信がひとつ、舞い込んだ

『すいません、ちょっとお聞きしてよろしいですか?』

可愛らしい女の子の声
「え?はい」
タクトは思わず返事をかえす
(あれ?この声って…たしか…それに、あれは紋章機…ということは…どういうことだ?)
急な展開に頭がついていかない
しかし、そんなタクトにはおかまいなしに彼女はマイペースに喋り続ける
『そちらはトランスバール皇国軍儀礼艦エルシオールで間違いありませんか?』
拍子抜けするタクト
その隣でレスターが
「あぁ、間違いないが貴艦は?」
「って、レスター?」
真面目な表情で、その通信に応答する副官に視線をむける
パッ
そのとき、メインスクリーンに映像が送られてきた
ピンクの髪に白い花のカチェーシャがよく似合う女の子が一人
にこにこと最高の笑顔
(彼女は確か…)
教えてもらった名前を思い出そうとするのと、彼女の言葉が重なった
『それじゃぁ、タクト・マイヤーズ司令官って方はいらっしゃいますか?』
わけがわからない
聞いた話なら、彼女は自分のことを知っているはずだ
と…
トンッ
レスターが、背中を押した
よくよく、ブリッジ中を見回すと、ブリッジクルーも全員がこちらに注目している
(えーい、考えても仕方ない!)
毒を食わらば皿まで
そんな勢いで、タクトは返事をかえした
「マイヤーズは…俺だけど…きみは」
誰だ…というタクトの言葉よりもはやく

パンパンパパンッ

鳴り響くのはクラッカーの、音
そして


『タクトさん、22歳のお誕生日おめでとうございます!』


パパパパパッ
続けざま、モニターに5つの映像が増えた
6っつのウィンドウには、個性豊かな6人の天使たち
『おめでとう、タクト』
『おめでとうございます。タクトさん』
『タクト、おめでとさん』
『タクトさん、お誕生日、おめでとうございます』
『お誕生日おめでとうございます!タクトさん』
彼女たちの言葉を中心に、ブリッジ中のクルーからもおめでとうコール
「おめでとうございます、マイヤーズ司令!」
「おめでとうございますっ」
「おめでとー」
「おめでとう!」
降り注ぐ祝いの言葉
「え?え?えぇ…???」
事態がいまだに飲み込めず、タクトはおもわず隣にいるレスターを、みた
「これって…」
だが、疑問への答えは天使たちから
『エルシオール恒例、誕生日のサプライズ・パーティです』
「誕生日…え、きょ、今日って」
『ちょっとあんた、いくら記憶がないからって自分の誕生日まで忘れたの?』
『今日は3月26日ですわ』
「うそ、え…て、敵は…」
『すみません、あれは立体フォログラフのダミーです』
『さてと、じゃぁあたしらも会場へ移動するかねぇ』
『はーい、タクトさん、ちょっと待っててくださいね』

映像が一度、途切れた

「び、びっくり…したぁ」
へたへたへた〜
彼女たちとの通信がとぎれたことで、一気に緊張がぬけ、タクトは司令席に座り込む
その、瞬間…

「っ」

それは、今朝の、夢

夢を見た…
懐かしい夢
青年は優しい人だった
その優しさ故に非情であった
そして愚かでもあった
『タクト…』
名前を呼ぶ
『私の記憶を君に贈ろう』
「あなたは…」
彼の人は、たしかに、そういったのだ

『君の22歳の誕生日プレゼントとして』

「エオニアさま…」

『誕生日おめでとう、タクト』
タクトが名前を呼ぶのと同時に、エオニアは優しく微笑む
『愛しているよ…』
呟きとともに、軽いキスが落ち
夢は掻き消え、眠りの終りを告げた



「いま、のは…」
気がつくと、そこは、先ほどとなにもかわらないブリッジだった
いや
いつのまにか、エルシオール中のクルーたちでごったがえしている
「夢?でも…」
そこに一番はじめに駆け込んできたのは

「タクトさーん、お誕生日おめでとうございます!」
「ミルフィー、ありがとう!」
「私、超特大のマロンケーキ焼いたんですよ」
「やったね、ミルフィーのケーキは美味しいからな」
タクトは素直に喜びつつ
「あ、でも前みたいにロストテクノロジーの栗とかじゃないだろうね?」
「だいじょうぶです。ガストさんに手伝ってもらって宇宙栗をとってきてもらったんです」
自信満々にミルフィーは言い
はたっと
「…あれ?」
そのことに気づきかけたのだが
「ハッピーバースデー、タクト!」
「ありがとう!ランファ」
次にやってきたランファによってかきけされる
「今回の会場の飾りつけもランファが担当かい?」
「わかってるじゃない!そのとおりよ」
タクトは、ブリッジの後ろにでかでかとかざられた
”はっぴーばーすでー”の看板をみつつ
「特にあの立て看板なんて力作だね!」
「そーよ、あれが一番苦労したんだから」
胸をはってランファは言い
はたっと
「…って」
そのことに気づきかけたのだが
「タクトさん、おめでとうございます」
「嬉しいよミント、ありがとう」
ミントが現われて流れがかわった
「これは私からですわ」
彼女は綺麗にラッピングされたシャンパンを一本
「ミントが選んだんなら期待しちゃうな」
「えぇ、もちろんですわ」
ピクピク
ミントの耳が嬉しそうに動く
そのとき
はたっと
「…タクトさん?もしかして」
そのことに気づきかけたのだが
「よっおめでとう司令官殿!」
「ありがとう!フォルテ」
豪快にタクトの肩をバンバンと叩きつつフォルテ
「フォルテはもちろん、余興担当なんだろ?」
「あぁそうさ。楽しみにしておいで」
「なんだろうなぁ、楽しみだなぁ」
ウキウキと
「お楽しみは一番最後ってきまってるだろ…」
フォルテはお預けをするような口ぶりでいいかけ
はたっと
「タクト?あんた…」
そのことに気づきかけたのだが
「お誕生日おめでとうございます、タクトさん」
「とりあえず、おめでとうございます」
「ヴァニラ、ノーマッド!ありがとう」
ピンクの物体をかかえたヴァニラ
「これはエンジェル隊みんなでお金をだしあって買ったお誕生日プレゼントです」
「ヴァニラさんに誕生日プレゼントを選んでもらえるなんて、あなた幸せものですよ」
「ありがとうヴァニラ。ありがとう皆」
ヴァニラから差し出された包みを受け取る
「なんだろう?ヴァニラ、今回も青猫超光速通販で買ったのかい?」
「はい」
がさがさがさ
タクトは包みを丁寧にあける
でてきたのは
「ヒゲ盤だ」
「たまにはチェス以外のホードゲームもいいかと思いまして」
「ありがとう、嬉しいよヴァニラ。今度一局相手してほしいな」
「はい、喜んで」
ヴァニラがにっこりと笑顔でうなづいた
そのとき、ノーマッドが
はたっと
「…?あれ。タクトさん、あなた、もしかして」
そのことに気づきかけたのだが
「22歳のお誕生日、おめでとうございます、タクトさん」
緊張した面持ちでちとせがはいってくる
「ありがとう、嬉しいよ、ちとせ」
「サプライズの内容、お気に召していただけましたか?」
「ということは、これはちとせが考えてくれたの?」
「はい!みなさんからお話をお聞きして1年前の再現をしてみました」
「そっかぁ、ありがとう。もう凄くびっくりしたよ」
「私の誕生日のときのお返しの意味もこめて、派手にやらせていただきました」
「ちとせは気持ちいいくらいにひっかかってくれたもんな。浮浪宇宙人」
タクトは喉を叩きながらしゃべり、宇宙人の声音
「お恥ずかしいかぎりです」
ちとせは真っ赤になってうつむく
そして
はたっと
「…え?」
そのことに気づきかけたのだが

エンジェル隊全員がタクトをみる
にこにこ
その視線にタクトは笑顔で返す
天使たちが口を開きかけた
しかし、それよりも、一瞬だけ、早く

「タクトッ!お前…まさか記憶が………!!」

ずっと傍でその様子をみていた人物が叫んだ
タクトは、士官学校時代からの親友で
今は副官として、それ以上に恋人としてタクトの側にいる青年のほうをむくと
「あぁ、全部思い出したよ…レスター」
その名前を、呼んだ

刹那
ブリッジが静まり返る
そのあとのことは、あまりにも大騒ぎすぎてよく覚えていない
みんなでミルフィーのケーキをたべて
ランファが歌いだし
ミントのくれたシャンパンで乾杯を
フォルテが悪乗りして
タクトとヴァニラのヒゲ大局はかなりの名勝負となり
ちとせはせっせと進行役を努める

うきゅうきゅうきゅー
食堂のおばちゃんが気合をいれて作ってくれた料理を食べていると飛び込んできたのは
「子宇宙クジラ、おまえもお祝いしてくれるのかい?」
ありがとう、とタクトは小さな生き物を抱きしめる
うきゅー
子宇宙クジラも大満足そうだ
そこに
「タクトさん、お誕生日おめでとうございます」
クロミエがあらわれた
「ありがとう、クロミエ」
「記憶…いただけてよかったですね」
くすくす
クロミエは小さく笑う
「ク、クロミエ…知って?」
「僕は宇宙クジラのパートナーですから」
油断できない
タクトがそんなことを思うと
「タクトさん、お誕生日おめでとうございます」
「おめでとう!タクト」
「おめでとうございます、タクトさん」
「おめでとうございます、マイヤーズ司令」
パパンッ
新しくクラッカーの音
「ウォルコット中佐、ココモ、マリブ、メアリー少佐まで」
すこし遅れてやってきたのは4人
「すっげぇな、食っても食ってもくいきれねぇぜ」
ココモは皿にいっぱいのデザートをのせながらまだ、あっちこっちにめがいくようだ
マリブがそんなココモをやれやれとみながら
「タクトさん、これ、ぼくたちからです」
プレゼントの包みをひとつ
「ありがとう、ふたりとも」
「タクトさんももう22歳ですか…いやはや月日のたつのははやいものですなぁ」
ウォルコットはしみじみと遠くをみつめるまなざしで
「ウォルコット中佐のおかげです。本当に、ありがとうございます」
タクトは涙がにじむのを感じながら、頭をひとつさげた
「ココモ、あとでちゃんと歯磨きするのよ」
「わーってるって、もうメアリー少佐はこんなときまでうるさいんだから」

「マイヤーズ司令〜おめでとうございます〜」
「あ、コンビニの…」
間の抜けた声で現われるのは、コンビニ店員
彼は
「いま、当宇宙コンビニでは”マイヤーズ司令お誕生日おめでとうキャンペーン”をやっていますので〜
 ぜひご利用ください〜」
「は、はぁ…あ、ありがとう」
そこに
「あーもう、まだまだ仕事は山積みっすよ!」
手にビールケースを抱えた、ジョナサンが現われる
「では、これで〜」
二人がいくのを見計らったように
「ちょっと司令さん!」
「食堂のおばちゃん」
「ほら、まだまだ料理はいっぱいあるよ。どんどん食べとくれ」
「そうっすよ、超力作なんですから!」
食堂のおばちゃんとガストが、タクトの皿に、料理をもっていく
「あ、ありがとうございます」
(つーか、おれ、がんばれ)
その量にタクトは心の中でファイティングポーズ

さらにしばらくたってから到着したのは
「タクト、誕生日おめでとう」
「シヴァさま、ありがとうございます」
「…おめでと」
「ノア…ありがとう」
シヴァとノア、対照的な二人
「シヴァさま、でも、EDENの祝賀パーティーのほうはよろしいんですか?」
「あぁ、ルフトが気を利かせてかわってくれた」
「先生が…」
「まったく、いつだってこの艦の人間は浮かれすぎなんだから」
「あはははは」
「ま、嫌いじゃないけどね」
ノアは小さく、そうつけたす
そして
「タクト、お兄様からもらったもの、大事にしなさいよ」
「え?」
タクトがその言葉の意味を理解しようとした、そのとき

「では、最後に…クールダラス副司令から、タクトさんに花束の贈呈です」

わぁっ
「ほらタクト、こっちにおいで」
「こっちですー」
「え。え?」
がしっ
ズルズルズル
ミルフィーとフォルテにがっちりと両腕をつかまれて、タクトは会場の中心へ
そこでは
「レスター…」
彼が待っていた

手には

「それ…」
それは、見たことのある花束だった
もちろん、あのときの花束はすでにないが
だが、それは確かに
ココとアルモにもらった、あの日の

「誕生日おめでとう、タクト」

バサリッ
花束が渡される
「あ、ありがとう…レスター」
思い出せば
全ては、その花束から始まった気がする
花束をみる
下をむいたら、涙がこぼれた
ポタッ
「あ、れぇ?」
ポタポタ
涙ばかりが毀れる
スッっとソレをレスターが指で拭い取った
「お、かしいな…嬉しい、のに…涙が………」
ポタポタポタ
「とま、んない…や…あは、ははは…は…」

ガサッ

花束を手にとる
懐かしい感触

「さ!それじゃぁみんないくよ」
フォルテの声が、ブリッジに響いた
顔をあげる
涙はまだ流れていた
だが、ぬぐうことはしない
とめようとも思わない
だって、俺の涙はレスターがぬぐってくれるから

♪…ワン、トゥ、ワン、トゥ、スリ………

フォルテの小さな合図とともに

「♪ハッピバースデートゥユー ハッピバースデートゥユー
   ハッピーバースデー ディア タクト〜… ハッピーバースデー…トゥ…ユー」

優しい歌
聞きなれた、定番の、なんの変哲もない、誕生日の歌
だが、それが自分を大切にしてくれる人たちから贈られることが
こんなに…嬉しい

パチパチパチパチパチ
「おめでとう!」
そして再びおめでとうと拍手の嵐
その言葉の重さを噛み締める
ただ、ただ、嬉しくて、うれしくて…

震える俺の手をレスターが握り締めてくれた
その力強さに勇気をもらう
俺は、顔をあげると

「ありがとう、みんな…本当に、ありがとう!」



お祭りのような騒がしくて楽しい日常
地上(ここ)から、銀河中をまきこんで
はちゃめちゃで刺激的で
でも、どこか優しさと暖かさに満ちた
そんな毎日がずっと続くことを、願っている

「こんな毎日が、ずっと続けばいいのにな」

まだまだ覚めない宴の中で呟く
…と

「続くさ、これからもずっとな」

俺の手を離さないでレスターはそういった

「うん…」

終わることなく、続く、日々
月日がながれ、たとえみんながそれぞれの道を歩もうと
今、この瞬間の気持ちだけは永遠に変わらない
俺とともに生き
そして…

「地上より永遠に…俺やレスターがいなくなったとしても…ずっと」
「あぁ、そうだな」

そんなことを考えていると
「ところでタクト、お前…本当に記憶が戻ったんだな」
「あー、うん、たぶん」
「じゃぁ、一つ確かめてもいいか」
「え?…いいけど」
レスターは珍しくそっぽをむきながらそんなことをいう
変な奴
「EDEN解放戦前夜、お前…俺になにを覚えていて欲しいっていった?」
「…?」
解放戦前夜というと
たしか
(白き月の宮殿庭園…)
「って、あ、アレ?」
「あぁ」
「ま、まてよ。今、ここで?」
「そうだ」
クックック
レスターのシニカルな笑みが、酷く意地悪く見えた
「ってか、あれは、レスターが覚えていてくれるんだろ?!」
「俺は覚えてるさ。いったろ?確認だって」
「…」
俺はキョロキョロとあたりを見渡す
うーん、どうしようかなぁ、うーん…
うなる
そして
「タクト、あと30秒でいわなければ書類地獄の刑な」
「うわ、ま、まった…わかった、いうよ。いうよ…」
俺はしぶしぶとレスターを手招きして、その形のよい耳にこっそりと、もう一度…

”愛してる”

告白
レスターは満足そうに笑うと
ご褒美のつもりなのか、抱き寄せて、抱きしめて、キスをひとつ、くれた



2005年04月04日(月) 悟空の大冒険の日

代休消化中
火曜日までお休みです
そんなわけで、悟空の大冒険をみてました
うちにあるビデオは、最終巻がないんですけどね
最後、どうなったのかな(・・)
まぁ昔から、純粋に西遊記はすきだったりします
幼稚園の頃、必死で本読んだりしてましたし…
ところで…
悟空の大冒険の三蔵さまって、なぜか色っぽい感じがするのは俺だけですかね?
どっちにしろ、おいら、三蔵様好きっぽいです

というわけで、17話なんですが
今回も微妙にはいらないのでまっぷたつ。
まずは前半。どうぞ。

第17話「地上より永遠に…こぶじめ」

夢を見た…

懐かしい夢
青年は優しい人だった
その優しさ故に非情であった
そして愚かでもあった
好き、だったのだろうか?
…少なくとも
嫌いではなかったのだと思う
運命は二人を残酷に出会わせはしたが
きらいにはなれなかったのだ

『タクト…』

夢の中
彼の人は優しく微笑む

「あなたは…?」
だが、そんな風に思うことはあっても
今のタクトには彼がどこの誰で、自分にとってどんな存在だったのかが思い出せない
胸が痛んだ
彼のことだけは思い出さなければいけない
そんな風に思うのに…

彼は少しだけ寂しく微笑むと
ゆっくりとその手を伸ばした
そして、冷たいくせにどこか優しい声で
『私の記憶を…』
「え?」
『君の…』
「…聞こえない、あなたは、いったい」
言葉は断片的で、単語ばかりで意味をなさない
それでも、彼がなにかを伝えようとしてることだけは伝わってきて
だから、なんとか聞き取ろうとするのだが、近いくせに遠すぎてわからない
『タクト…』
もう一度、名前を呼ばれる
見上げれば寂しい微笑み
自信に満ち溢れたような彼が、時折みせた、その表情
そうだ
彼を嫌いになれなかったのは
それが彼の本当の表情だったからだ
そして、たぶん
自分も同じような表情をどこかに持っている
一方的で、しかし、確かな、シンパシー
だから、自分は彼に惹かれた

『愛しているよ…』

呟きとともに、軽いキスが落ち
夢は掻き消え、眠りの終りを告げた



「…ト、タクト」
「…んー?」

目覚めたばかりの自分には、少しばかり、目に痛いほどの量のヒカリ
そして
「だいじょうぶか?」
「え?…って、シヴァさま?!」
自分の顔を心配そうに覗き込んでいた人物が誰かを理解して
タクトは勢い良く跳ね起きた
「どうやら、大丈夫のようだな」
シヴァはほぅっとため息をつく
「えっと…」
なんのことでしょう、とタクトが聞く前に
シヴァは持っていたハンカチでタクトの涙をぬぐう
泣いていたらしい
「それとも、どこか具合が悪いのか?」
「い、いえ…平気、です」
心配そうな声に、なんとか返事をかえす
「…そうか」
シヴァはタクトの涙を気がすむまでぬぐうと
ハンカチをしまいながら、ポツリと…
「記憶は、戻らなかったそうだな」
「…はい」
その少しだけ寂しげな表情に
胸が痛んだ…
(あれ?)
不思議なデ・ジャ・ビュ…
いつだったのか
どこでだったのか
それは、思い出せなかったけれど
今のシヴァの表情を、タクトはどこかで見た気がした
だめもとで思い出そうとしてはみる
だが、シヴァ自身の言葉が思考を中断させた
「しかし、病の方はもういいのだろう?」
黙り込んだ自分に気を使っているのか、笑顔をつくって、話題をかえる
だから、タクトも
「はい。それにこれからは記憶が消えることもないそうです」
「ならば、良い」
満足そうに、笑う
その笑顔
(あぁ、そうか…)
思い出した
彼女は、今朝の夢にでてきた、青年に似ている
髪の色も、肌の色も、瞳の色も…外見的な特徴はないに等しいが
その雰囲気…
そして、括弧たる意志をもつ、王者のまなざしが…

「ところでタクト、お前…今日の祝賀パーティには参加するのか?」
「あ、えーと…」
タクトは少し考え
考えて
「出来たら挨拶だけでお暇しようかと…」
結論をだした
EDENの首都星ジュノーがヴァル・ファスクから解放されて3日
タクトは解放と同時に、病気の治療にあたった
1日治療に専念し、2日は検査
そして、今日晴れて退院となる
副作用であった”記憶喪失”については、病気の治療とともに解消された
だが、その間に失われた記憶が戻ることはなく…
記憶の退行は、クーデター直前まで進んでいた
幸いなことに、ここ数日、あちこちで催される会談、パーティー、会議…etc
EDEN解放艦隊の指揮官として顔をださなければいけないところには
病気を理由にレスターやエンジェル隊が代役として駆けずり回っている
(エンジェル隊かぁ…)
ここ3日、EDENは自分と彼女たちのニュースで持ちきりなのだ
(はやくあいたいなぁ)

エンジェル隊

月の聖母直属の”ムーン・エンジェル隊”に所属する6人の少女
彼女たちは敵から、また味方からも畏怖と尊敬をこめてそう呼ばれていた
ロスト・テクノロジーの結晶である”紋章機”(エンブレム・フレーム)に乗り
月の聖母シャトヤーンの護衛と、ロストテクノロジーの調査・回収をするために銀河中を飛び回る
美しく最強の天使たち…

昨日、副官のレスターから、自分が彼女たちの司令官で
クーデターから今日まで一緒に戦ってきたのだと聞かされたときは信じられなかった
だが
(まぁ、いっか)
さっさと気持ちを切り替えるのは、自分の十八番
今では、他のなによりも彼女たちと会えるのが楽しみなのである
しかし、そのためには
(今度レスターがきたら、彼女たちのこと詳しくきいておかないと)
自分の記憶がクーデター前まで戻っていると知ったときの、レスターの表情
酷く、寂しく、悲しそうな、笑顔
胸が痛んだ
今、目の前にいるシヴァ女王も同じ
クーデター以降に自分とであった人たちは、やはり、同じ表情を、した
(彼女たちにそんな表情はさせられないからな)
なぜかはわからないけれど、そんなことを、思う
しかし…
(でも、なんでレスターがあんな顔するんだろ、別にあいつのこと忘れたわけじゃないのに)
そこが納得いかなかったが…
士官学校時代からの親友で、今では優秀な副官としてずっと一緒にいてくれるレスター
今回のことも、レスターの説明でなければ、流石の自分も理解できなかったかもしれない
(記憶、か…)
ぽっかりとあいた1年分の空洞に、まるで見知らぬ道を歩いているような不安に襲われる
(でも…)
そんなことをつらつら考えながら、タクトは傍らで自分のためにりんごをむいてくれるシヴァをみた
(でも、一番わからないのは…あの時のレスターの顔が一番見ていて辛かったってことだよな)
うーん…
まぁ、でも
考えても仕方のないことだし
思いなおしたところに
「タクト、本当に大丈夫か?…無理なら今日の祝賀パーティーも欠席すればいいのだぞ」
「あ、いえ…ちょっと考え事をしていただけですよ。シヴァさま
 それに今回の祝賀パーティーは政府主催でEDENのみなさんへの挨拶もあるのでしょう?
 流石に俺がいないと駄目だって、レスターもいってましたし…」
「…そうか」
それでも、心配そうなシヴァの顔に
タクトはにっこりと微笑むと
「ところで、シヴァさま。まだ時間がおありならチェスでもしませんか?」
「…チェス?」
「ルフト先生から、シヴァさまがチェスがお好きだと聞いたので」
「お前は…そ、そんなことのほかにもすることがあるだろう…」
シヴァは嬉しいのを無理やり押し殺したような声で、いう
「シヴァさまを御護りするのも俺の役目と聞かされました
 貴方のことを知らずに、仕事をすることはできませんよ」
タクトはチェス盤の用意をはじめる

「シヴァ…さま?」
ポタリ
涙が
シヴァの頬を、涙が、一筋
「し、シヴァさま?!」
慌てる、やばい、まずい、と大混乱
だが、右往左往するタクトをみてシヴァは袖で涙をぬぐう
「…すまぬ、安心した」
「へ?」
「お前は、クーデターの時、部屋に閉じこもっていた私に同じことを言ったのだ」
そして、笑顔
「安心した、記憶がなくなろうと、お前という人間が変わったわけではないのだな」
シヴァは、キングの駒に手を伸ばした
そして
「さぁ、勝負だタクト・マイヤーズ!」
 



2005年04月03日(日) おやすみっていいなの日

今日の日記は珍しく本文が少ないです
といっても、そんな日にかぎって、ここに書くこともないんですが
まぁ、そういうこともあります。


第16話「諦めてはいけないお供え物」

後日
タクトの記憶の件は、本人の口からエルシオールクルー全てに伝えられた
驚きはあった
しかし、そこは、なんでもかんでもお祭りにしてしまうエルシオールのこと
「じゃぁ、タクトさんのために名札を作りましょう」
というミルフィーユの提案のもと、それぞれがお手製の名札を作っては掲げる
エルシオール・名札ブームの到来であった

皇国暦412年
エルシオールを旗艦としたトランスバール皇国軍EDEN解放艦隊は惑星ジュノーに到着
ヴァル・ファスクの駐留艦隊と対決の運びとなる



エルシオール艦橋
タクトは立ち上がり、その通信を開く
現われたのは金の髪が美しい2人の姉弟
少年は、開いたその先にタクトの姿をみつけると、少し驚いたような顔をして

『こんにちわ、いや…はじめましてといったほうがいいんでしょうか?タクトさん』

「…ヴァイン」
名前を呼ぶと
『僕のこと、覚えていてくれたんですか?』
嬉しいな、とヴァインは笑う
綺麗な笑顔
「いや、残念だけど覚えていないんだ…みんなに教えてもらってね」
タクトは正直に、そういった
『それは、残念…』
タクトの記憶は、すでにクーデター当初のものまで退化している
毎朝、レスターとエンジェル隊によって行われる勉強会も
最初は30分や1時間だったものが、今では3時間程度にまで伸びていた
『…どうして、そんな顔をしているんです?』
「え?」
イライラとした、ヴァインの、言葉
『病魔におかされて、記憶もないというのに…不安には思わないんですか?』
「…うーん、なんというか、記憶がないから病気をしているって実感がないんだよね」
のほほんとしたいつもの表情でタクトはそんなことをいった
そして
「それに、俺にはエンジェル隊とエルシオールのみんながいてくれる」
絶対に揺るがない
信頼の瞳

『まかせてください!』
ラッキースターの中から、ミルフィーユが元気よく返事をした
『バーンとやっちゃうんだから』
『あ、ランファー、それ私の台詞なのにぃ』
『おまかせください』
そんなランファとミルフィーの様子を微笑ましくながめてミント
『やられたら倍返しがあたしらの鉄則だからねぇ』
豪快に笑ってフォルテ
『負けません』
『はい!』
ヴァニラの意志の強い言葉と、ちとせの決意されたまなざし

『…っ』
ヴァインは、あからさまにおもしろくないという表情をした
「…ヴァイン、俺には君のほうが不安そうに見えるよ」
タクトはまるで、彼を労わる様な声音で呟く
それは酷く悲しげで
同じくらい優しくあった
確かにタクトは、ヴァインのことを覚えていない
だが、心のどこかで、それを感じる
感情をもたないはずの、ヴァル・ファスク
『…馬鹿馬鹿しい!』
ヴァインははき捨てるように、いった
『僕を動揺させようとしても無駄ですよ。僕はヴァル・ファスク
 感情をもたない僕たちの心は揺らぐことがない』
自嘲気味に、笑う
タクトは負けずにいいかえす
「そうかな?君のいうとおり本当に君たちに心がないのなら
 そんなに必死に否定する必要はないんじゃないのか?
 今、そこにいるルシャーティのように…
 いや、君ならいつものように笑ってはぐらかすことだってできるたろう」
『…っ』
「君は今、自分で認めたんだ…心を持たないはずの自分が動揺していることを」
沈黙が二人の間を支配する

それは短くもあり、また永遠と見間違うほど長くもあって
ヴァインがさきに行動を起こすまで、続いた
『そう、ですね。少しペースを狂わされてしまいました』
笑う
その顔に、いつもの綺麗な微笑が戻り
『おしゃべりがすぎた、さっさと決着をつけてしまおう
 タクト・マイヤーズ、エンジェル隊…これで本当に最後だ!』
「ヴァインっ!」
映像はそこで途切れた
タクトはしばらく、なにもうつさなくなったモニタをながめ
そして、笑顔を取り戻すと
「…よし、いこう。みんなの力をみせてやれ!」

『はいっ!』×6

6人の返事が、心地よく、宇宙に響いた



ヴァインは7番機のコックピットでその光景を見つめる
「なぜだ…」
言葉は、すこしばかり、震えていた
完全に制御された7番機
そして、ヴァル・ファスクの中でも最強のひとつとされる艦隊
それが
それが…
「なぜあんなやつらに押されるんだ!」
絶叫はコックピットに木霊した
応えはない

ドンッ

7番機を衝撃が襲う
「ぐっ」
モニターにはトリックマスターが移っている
「くそっ」
『逃しませんわっ』
ギュンッ
トリックマスターのフライヤーがレーザーを放つ
『これはタクトさんの分』
ザンッ
右翼を光の粒子がかする
『これが、ルシャーティさんの分!』
ドンッ
削れた部分を、さらに大量の光線が貫通した
バランスが崩れる
「しまった」
『そしてこれは、私たちの分ですわ』
テンションゲージがMAXなのを確認し
ミントは、点滅するボタンを力強く叩いた
瞬間
3基のフライヤーが同時に口をあけ、今までとはくらべものにならない光の雨となる
『いきますわよっ、フライヤーダンス!』
「うわぁぁぁ」
ドドンッ
7番機を中心に、援護にむかっていた敵艦隊をも巻き込んで
大爆発が連鎖していく

光と音と爆発が混在するなか、なんとか体制をたてなおしたヴァインは7番機を撤退させた
そして

「僕は、みとめない」
呟き
「みとめるものかっ!」
それは、感情的になり、一気に爆発する
その彼の目前で、駐留艦隊は全滅した

『ヴァイン!もうやめるんだ』

「タクト・マイヤーズ…っ」
通信
そこには、タクトと、その傍にレスターの姿
『これ以上、無駄な争いはやめよう…7番機だけじゃ俺たちには勝てない』
「だまれっ!」
しかし、現実として駐留艦隊は敗れた
実働、たった6機の紋章機と戦力としては数にもならない1隻の白い艦に
こちらには、さらに最強の7番機と完全無欠のパイロットまでいて
(僕の戦略ミスだとでもいうのか?だが、計算上は負ける要素なんて)
いや
一つ
たった、一つだけ
どうしても最後まで、気になって仕方なかったことが
『ヴァイン、これが心の力だよ』
考えを見透かしたように、タクトがその言葉を口にした
『かつて黒き月も同じ理由で敗れた、完全ということはそれ以上はないということなんだ』
「…っく」
(違う、完全ということは、完璧ということだ、それ以上なんて…あるはずが)
100%しかないものは100%以上でもなければそれ以下でもない
だが、もしも…それ以上があるとしたら?
それ以上を求めるならば

(僕は…僕は、なにを、馬鹿なことを)
わずかに芽生えた考えをうちけす
(馬鹿馬鹿しい!)
心の中で、自分をののしりながら
「そう、ですね。戦略的に間違いがあったことは認めましょう。僕はあなた方を過小評価しすぎた」
『ヴァイン』
「撤退します。だが、ただでひくわけにはいかない」
言葉とともに
キィィィイイインッ
「きゃぁぁぁぁぁっ」
ルシャーティのサークレットが光、絶叫がコックピットを支配する
『ルシャーティっ?!』
「EDENはお渡しします」
にっこりと
ヴァインは精一杯の笑顔をむけ
「仲良く、一緒に、消えてしまえっ!!」



「高エネルギー反応!クロノ・ブレイク・キャノンきます!!」
ココが振り返りながら声を張り上げた
「か、回避を…」
「駄目だ、エルシオールの後方には惑星ジュノーがある!」
レスターから一喝
「で、ですが」
うろたえるアルモ
しかし

「だいじょうぶだよ」

騒然とするブリッジをタクトの声が納めた
その一言で、静寂がもどる
タクトはブリッジクルー全員をみわたし
にっこりと、いつもの笑顔で笑いかけると

「エンジェル隊!」

6っつの映像回線を開いた

『はい、タクトさん!』
『まかせなさいよ、タクト』
『えぇ。おまかせ下さい。タクトさん』
『タクト、あたしらがエルシオールも、EDENも護ってやるよ』
『かならず。今度こそ、おまもりします…タクトさん』
『タクトさん、待っていてください』
タクトは笑顔で一言
「みんな、よろしく!」
その言葉に、彼女たちも笑顔で返す
『了解っ!』×6

言葉とともに、6色の翼が光を、増して

バサッ

ラッキースターの中で、ミルフィーが最初にその音をきいた
「あたしたちが護りますっ」
それは他の5機も同じ
柔らかい、純白の、光
光が増し、それはいつのまにかコックピット全体を包んだ
白い光
酷く懐かしい
泣きたくなるような優しい輝き
光はますます増えラッキースター全体を包み込み
一瞬だけ塊となり収縮すると、刹那

バサァッ

今度こそ音をたてて、爆発する
正しくは、開く

最初にこの翼を広げたのは、クーデターのとき
あのときは、黒き月のネガティブ・フィールドでさすがの自分も諦めかけた
それを一喝した、タクトの言葉
”あきらめるな”と
彼はその言葉のとおり、あきらめず
そして一度として、自分たちを疑うことはなく
どんなにそれが、嬉しかったか
どんなにそれが、自分たちに力をくれたのか
タクトはきっとわからないだろう
彼にとってそれは、あたりまえのこと、だから

戦うのは嫌いだ
クーデターのとき
半年前
そして、もちろん、今も
だが、それでも戦わなくてはいけない時
こんなとき、ミルフィーはタクトの顔を思い浮かべる
エンジェル隊の、みんなの顔を思い出す
そうすると、不思議と元気がでた
自分はそのために戦っている
だから
だから…

「護ってみせます!!」

エルシオールにむかって、クロノ・ブレイク・キャノンの閃光が伸びる
その間に割ってはいる、6色の光の翼
それは共鳴し
輪を作り
まるで歌うように、広がって

音もなく、攻撃を、飲み込んで、いく

ドドドッ
コックピットの内部が揺れた
「くっ」
歯を食いしばる
そして、真正面を見据えた
7番機
乗っているのは、ヴァインとルシャーティ
まだ、信じられない
エルシオールでの二人との生活はとても楽しかったから
「…まけません」
だが、ここで負ければ全てが終わる
確かめることもできない
「まけませんっ、絶対に!」
ミルフィーの光の翼が、その輝きを増す

バンッ

衝撃は、波紋のように、宇宙を駆け

「そんな…馬鹿な」

光が消えた場所を、ヴァインは呆然とみつめた
クロノ・ブレイク・キャノンはとめられた
エルシオールも、その背後にある惑星ジュノーも無傷だ
そこには、光の翼を広げる6色の紋章機だけで

「くそっ」

ヴァインは旋回すると、スピードをあげ、その場をあとにした



「やった、のか」
「あぁ!」
レスターの呟きに、タクトが力強く返事をかえす
「マイヤーズ司令!7番機が宙域を離脱します…おいかけますか?」
「いや、深追いは禁物だよ」
タクトは首をふって、そう伝えた
そこに
「タクト!」
「ん?」
「エンジェル隊を迎えに行ってやれ」
レスターは、戦闘の事後処理をはじめながら声をかける
タクトは「え、でも…」といいかけたが
「今回の一番の功労者だ、ねぎらってやれよ」
「そうだな」
その言葉に、納得するといつもと代わらないノリで
「じゃあ、あとよろしく〜♪」
にこやかに手をふって、ブリッジをあとにした
その、あまりの、変化のなさに
「マイヤーズ司令、あれで本当に記憶がないのかなぁ」
「ってことはつまり、マイヤーズ司令ってなにもかわってないってことなんじゃない」
「そっか、そうだよね」
ブリッジクルーからあきれた様な会話
「はぁ…」
やれやれとレスターはため息をついた
だが、その雰囲気はどこまでもどこまでも優しく空間を埋めていく



「心の力…」
ヴァインの呟き
考えに煮詰まり、視線を流す
ルシャーティの後ろ頭がみえた
金色の長い髪
手を、のばす
さらさら
さらさら…
…さらっ
「お前は、どう、思う?」
問いかけ
それは自分に問い掛けるようでもあり
ルシャーティにたずねるようでもあって
しかし、もちろん彼女からの返事は、なく
「なにをいっているんだ、僕は」
当たり前のことに気づいて、笑う
笑う
それは、ひどく、悲しい笑顔で…
「…姉さん」
零れ落ちるように呟かれたその言葉は
ヴァイン自身にも届かなかった


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