小説の構想やら更新予告やら短い話やら。
誤字脱字やら単語が中途半端に途中だとか色々あるけど気にしない。

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城海
2004年01月17日(土)

 パァン、と音をたてて電車がホームに滑り込んできた。
雨に濡れた滑走路を滑っていく電車は雨音を変化させながらゆっくりと停車する。
アナウンスを聞き流しながら、黙って電車に乗り込む。車内はガラ空きで、人はまばらに座っている程度だった。濡れた前髪を後ろへ撫で付けるように掻きあげながら奥のドアの近くに移動する。そして座席の手すりに腰をかけるように体重を預けた。
数滴髪から雫が滴り落ちたが、気にせずに目を閉じて深く息を吐く。
 水分を吸ったからなのか、体が重く感じられる。
ガタゴトと揺れる電車に揺られながら、意識を集中して少しでも睡眠をとろうと目を閉じると無意識のうちに瞼に力が入った。
雨に濡れた服が、髪から滴り落ちる雫が車内の空調で冷やされ、体温を奪って行く。
寒さに体が震えそうになるのを押さえるように腕を抱く。
ふと、これが誰かの体温であればと思った。だがそんな風に温かく自分を抱きしめる人間は思いつかず、虚しさが増しただけだった。
 アナウンスが入り、電車が減速しながらホームに滑り込むのと同時に目を開く。
見知らぬ街。知らない人々。自分を知る、人も何もかも、ここには存在しないのだと思うと何だか安心出来た。何かから逃げているわけでもないくせに。
気がつけば無意識のうちに、ポタリと髪から滴り落ちる水音に集中していた。
一定のリズムなんて刻まずに、気紛れに落ちる水の小さな音だけがやたら耳に響き、ふらふらと眠気に誘われる。まるでこうなる事に救いでも求めてすがりつくように自分は水音に集中した。そんな気がした。
そのまま眠気に飲まれていつまでも目が覚めなければ、きっとこの悪夢ももう終る。
だがこれが夢であればいいと思う反面、目が覚める瞬間が恐ろしいとも思う。
そしてそんな矛盾を繰り返す自分に呆れる。
 馬鹿か。


 いつの間にか眠りこんでいたらしく、気づけばもう童実野町に近付いていた。
目が覚めて、急に意識が底冷えしていったのはおかしな事だと思う。
 あそこには帰る場所があるはずなのに。帰るべき、場所であるはずなのに。
別に虐待だの家庭内暴力だのはどうでもいいし関係ない。あんな男は関係ない。そんなものはとりたてて騒ぎ立てる程珍しくなんかない。それがどうした。
温かい家庭が恋しくないなんて事はないが、別になくたってこうして生きている。生きていける。
別にどうでもいい。あんな男の事はどうでもいいんだ。確かに暴力をうければ痛いし、腹がたつ。けれど今では蔑みのほうがそれを上回っている。哀れなあの男。まったく哀れでしかたがない。
そんなのは関係ない。関係ないんだ。
ああ確かにこの感情には同族嫌悪だって混じっている。
だって俺は。俺は彼奴の息子で。俺は、本当は人を殴るのが苦しくなんてないんだ。本当はまだ、どれだけ殴ったって自分への嫌悪感なんてないんだ。あるのは一種の爽快感だけ、で。
だから自分にはあの男の血が流れているのだろうかと、頭がおかしいのかと思って、死にたくなった事もあった。
けれどもう最近ではそれすらも面倒くさかった。どうでもよかった。
死ぬのは負けるようで癪に触る。そういう理由もあったけれどもうどうでもよかった。
どうでもいいんだ。
 なにもかも気付く頃には終っていて、しかももう手遅れなぐらい進行し、悪化している。
それは恐らく世の中の常であり、必然的なもの。世界はいつだって非情だ。
 そういった事に気付いたのは、歳のわりには早すぎたのかもしれない。けれど自分にとっては遅すぎたと思う。
本当は、こんな風に生きている事にうんざりもしている。
生きる事が辛いわけじゃない。日々は楽しくもある。けれどその底辺に蔓延っている、こびりついて染み付いて消える事のないものを自覚するとうんざりする。
それはこの体に流れる血でもあるし、自分の無力さでもあるし、憎悪でもある。
 そしてそんな自分が嫌で、誰かにそんな自分をさらけだすのが嫌だった。
遊戯達の前で見せる顔は嘘じゃない。仮面じゃない。けれど自分は本当は、太陽みたいに明るくなんかない。
けれどそれを知っているのは、海馬だけなのだ。


 湿った空気のなか、人の流れにそって改札口を出た。空気はひんやりと冷たく、水分を吸った衣服と髪を冷やし、熱を奪って行く。
城之内は寒気に震えながら、押し慣れたチャイムを押した。 パァン、と音をたてて電車がホームに滑り込んできた。
雨に濡れた滑走路を滑っていく電車は雨音を変化させながらゆっくりと停車する。
アナウンスを聞き流しながら、黙って電車に乗り込む。車内はガラ空きで、人はまばらに座っている程度だった。濡れた前髪を後ろへ撫で付けるように掻きあげながら奥のドアの近くに移動する。そして座席の手すりに腰をかけるように体重を預けた。
数滴髪から雫が滴り落ちたが、気にせずに目を閉じて深く息を吐く。
 水分を吸ったからなのか、体が重く感じられる。
ガタゴトと揺れる電車に揺られながら、意識を集中して少しでも睡眠をとろうと目を閉じると無意識のうちに瞼に力が入った。
雨に濡れた服が、髪から滴り落ちる雫が車内の空調で冷やされ、体温を奪って行く。
寒さに体が震えそうになるのを押さえるように腕を抱く。
ふと、これが誰かの体温であればと思った。だがそんな風に温かく自分を抱きしめる人間は思いつかず、虚しさが増しただけだった。
 アナウンスが入り、電車が減速しながらホームに滑り込むのと同時に目を開く。
見知らぬ街。知らない人々。自分を知る、人も何もかも、ここには存在しないのだと思うと何だか安心出来た。何かから逃げているわけでもないくせに。
気がつけば無意識のうちに、ポタリと髪から滴り落ちる水音に集中していた。
一定のリズムなんて刻まずに、気紛れに落ちる水の小さな音だけがやたら耳に響き、ふらふらと眠気に誘われる。まるでこうなる事に救いでも求めてすがりつくように自分は水音に集中した。そんな気がした。
そのまま眠気に飲まれていつまでも目が覚めなければ、きっとこの悪夢ももう終る。
だがこれが夢であればいいと思う反面、目が覚める瞬間が恐ろしいとも思う。
そしてそんな矛盾を繰り返す自分に呆れる。
 馬鹿か。


 いつの間にか眠りこんでいたらしく、気づけばもう童実野町に近付いていた。
目が覚めて、急に意識が底冷えしていったのはおかしな事だと思う。
 あそこには帰る場所があるはずなのに。帰るべき、場所であるはずなのに。
別に虐待だの家庭内暴力だのはどうでもいいし関係ない。あんな男は関係ない。そんなものはとりたてて騒ぎ立てる程珍しくなんかない。それがどうした。
温かい家庭が恋しくないなんて事はないが、別になくたってこうして生きている。生きていける。
別にどうでもいい。あんな男の事はどうでもいいんだ。確かに暴力をうければ痛いし、腹がたつ。けれど今では蔑みのほうがそれを上回っている。哀れなあの男。まったく哀れでしかたがない。
そんなのは関係ない。関係ないんだ。
ああ確かにこの感情には同族嫌悪だって混じっている。
だって俺は。俺は彼奴の息子で。俺は、本当は人を殴るのが苦しくなんてないんだ。本当はまだ、どれだけ殴ったって自分への嫌悪感なんてないんだ。あるのは一種の爽快感だけ、で。
だから自分にはあの男の血が流れているのだろうかと、頭がおかしいのかと思って、死にたくなった事もあった。
けれどもう最近ではそれすらも面倒くさかった。どうでもよかった。
死ぬのは負けるようで癪に触る。そういう理由もあったけれどもうどうでもよかった。
どうでもいいんだ。
 なにもかも気付く頃には終っていて、しかももう手遅れなぐらい進行し、悪化している。
それは恐らく世の中の常であり、必然的なもの。世界はいつだって非情だ。
 そういった事に気付いたのは、歳のわりには早すぎたのかもしれない。けれど自分にとっては遅すぎたと思う。
本当は、こんな風に生きている事にうんざりもしている。
生きる事が辛いわけじゃない。日々は楽しくもある。けれどその底辺に蔓延っている、こびりついて染み付いて消える事のないものを自覚するとうんざりする。
それはこの体に流れる血でもあるし、自分の無力さでもあるし、憎悪でもある。
 そしてそんな自分が嫌で、誰かにそんな自分をさらけだすのが嫌だった。
遊戯達の前で見せる顔は嘘じゃない。仮面じゃない。けれど自分は本当は、太陽みたいに明るくなんかない。
けれどそれを知っているのは、海馬だけなのだ。


 湿った空気のなか、人の流れにそって改札口を出た。空気はひんやりと冷たく、水分を吸った衣服と髪を冷やし、熱を奪って行く。
城之内は寒気に震えながら、押し慣れたチャイムを押した。
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無理ぽいからこっちに……ごめんなさい…。



没りそう。
2004年01月06日(火)

 「そんな、甘い関係じゃねぇだろうが」
視線をそらしながらそう吐き捨て、亜久津は瞼を伏せた。
千石は少し眉を釣り上げたが、それを隠そうともせずにただ静かに問い返した。
それは別に亜久津が瞼を閉じているからじゃなく、ただそうしないと気が緩み、ヒステリックに声を張り上げてすがりつく未練がましい女のような行動をとりそうな気がしたからだった。
「じゃあ、どんな関係なのさ」
微かに亜久津の体が震えた。
「……あくつ」
名前を呼ばれた彼は黙ってただ目を開くと千石の事を睨んだ。
痛いとも手を離せとも言わずにただ千石をまっすぐに睨み付けるその目は、はっと息をのみたくなるぐらい奇麗だった。奇妙なぐらいに澄んでいて、その中にゆらゆらと形を変えながら炎が燻っている。そういう目。亜久津の目は出会った時から奇麗な、獣の目をしていた。
他者への敵意を感じるだけの、簡潔すぎていっそ美しいと思うようなこの目が、千石は好きだった。

ただじっと動かぬ視線を捉え、お互いに黙ったままその姿を見る。千石のワイシャツに染み付いた血は、乾きはじめると同時に彩度を失い始めていたし、亜久津の両手の指先と爪の間には血がこびり着いたまま。そのうえ顔には痣もできていたし、口の中も血の味がしていた。千石も口の中を切ったが、彼はそれだけ。青痣は口元の小さな腫れ程度だ。
 それにしたってまったく、お互いに酷い様だ。
しかもその原因を考えれば滑稽さだけが増すばかり。
嗚呼全く馬鹿馬鹿しいのにも程が有る。それはお互いわかっている。


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没りそう




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