短いのはお好き? 
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2006年02月28日(火) horror

樫村と再会したのは、渋谷のとあるジャズ喫茶だった。
樫村は、幽霊に出遭ったような真っ青な顔をしてマイルスの『ブルー・イン・グリーン』を聴いていた。
『ブルー・イン・グリーン』は、この世で一番ぼくの好きな曲だ。
死ぬほどに儚げに響く甘美な旋律。
まさか、この樫村がこれほどこの曲に感銘を受けるとは、とても想像が出来なかったが、案の上、そうではないようだ。
俺は、ママにホットを頼んで、樫村の向かいに座った。
俺を認めた樫村は、僅かに頷いたが、すぐにまた視線をテーブルに落とし、やがて瞑目してしまった。
そのエヅラは、まさに名曲に聞き入っているジャズ好きな中年、そのものだった。
そう。
ぼくらは、いつしか中年になっていた。
どうして、ここまで生き長らえてきてしまったんだろう。
家庭を持ったからだろうか。
子供たちのために俺が生きていかなければならないのは確かだった。
なんでヒトって生きてるんでしょうね?
樫村がそう言っていたことをきのうのことのように思い出す。
ぼくらは、結局なんにも変えることはできなかった。
ぼくは、心のなかで呟く。
「なぁ、樫村。俺たち、まちがっていたのかな?」

この世のものとは想われない『ブルー・イン・グリーン』のすすり泣くマイルスのペットが淡雪のように彼岸へと消え入っていった。


2006年02月27日(月) 赤い砂



ときどき、まるっきり顔のない写真を見なければならない時もありました。
顔がないといっても、首から上がないのではなく、顔の造作がなにもなくて
ぽっかりと穴があいているのです。
モノクロの写真だから見ていられたものの、カラーだったらとても正視出来なかったでしょう。
いや、まてよ、あれは写真じゃなかった気もします。
なんでまた写真で見たなんて思ってしまったのかわけがわかりませんが…。
あまりにもインパクトが強すぎるので、自分の中で咀嚼すらできなくて
未消化のままなのかもしれません。
自分のキャパシティを遥かに超えた出来事だったので、自分でそのように
改竄してしまったのかもしれません。
まあ、それはともかく、アッ、そうだそれで思い出しました。
たぶん、まあるく切れ目が入っていたのでしょう、お盆のような台に載った首たちがクルクル廻りながらベルトコンベアーで運ばれていました。
なぜ、回転していたんだろう? きっとチェックのためだとは思うのですが
廊下に出て窓から外を眺めてみると、建物から5メートルほど突き出した
ベルトコンベアーの先から、地上へと顔のない首たちが、捨てられていました。
コンクリートで囲われた投棄場所には、顔のない首がうずたかく積みあがり
ピラミッド状になって裾がずっと向こうまで広がっていました。

物音に気づいてふと振り返ると、人影のなかった通路にモップがけしている人がいました。
その薄いグリーンの上下を着た清掃スタッフだろうおじさんに、あの顔のない頭部は廃棄になるんですかとぼくは知らぬ間に訊いていました。

「ああ、まぁ、うちとしては廃棄処分ということになるけれども、また長い工程を経て再生するんだよ。ほら、ちょうど再生業者がやってきたみたいだ」

おじさんの柔らかい視線のそのずっと先に砂煙が上がっているのが見えました。
どうやら再生を行う業者とやらのトラックがやってくるようでした。
それでぼくははじめて荒涼とした景色に気付いて目を瞠りました。


そこには、ここが火星だといわれたならば、頷いてしまうだろうと思えるほどの
異世界が広がっていました。
風紋でタペストリーのように織り成された赤い砂の大地から、にょっきりと生えた尖塔のように先がとがった奇岩群が、紺碧の空に向かって屹立しているのが見えました。



2006年02月26日(日) ライアー




奈美の日記は、7月26日からはじまっていた。
あれから何年経ったのだろうか。
もう俺には記憶がなかった。
というか、実際はもう半分死んでいるのかもしれない。
自分でもよくわからない。
とりあえずは、身体はあるようなのだけれども
自分の思うようには動いてくれなかった。
一番困ったのは、メールが打てなくなったことだった。
指同士がくっついていて、キーを打つことが困難だった。
とにかくなにをするにも緩慢な動きしかできずに
ナマケモノみたいだなと思った。
脚の方ももうだめみたいだった。
殊に膝がいつも悲鳴をあげていた。
で、仕方ないから奈美の日記を毎日旧いものから
読み返すのが、日課になった。
膨大な量があったが、日がな一日、ユウは日記を
読みつづけた。


あれからきみは、どうしているのかな。
きみは、ぼくに幾つのうそをついてきただろう。
数え切れないほどのウソ。
あげくの果てにゴミみたいに捨てたよね。
きみはひとりなんかじゃないよ。
とか、元気出してとか…。
ほんとうに死にたい日々のなかで
きみの慈愛溢れる優しい言葉は、ぼくのズタズタに傷ついたハートを
癒してくれた。
どんなにうれしかったことか。
きみにはわからないだろうね。
ページ上に、私信を書いてくれたときには
死ぬほどうれしかった。
死ぬほど幸せだった。


ある日、こんな一節を見つけて、ぼくはすすり泣いた。
真っ暗な部屋の中で独り、嗚咽がとまらなかった。





2006年02月10日(金) ER

大変な一日でした。
きょうのことは、一生忘れない。
忘れられない。
生きとし生けるものすべて
すぐそこに別れが待っている。

だから、せいぜい愉しんでいこうよ。


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