ジョージ北峰の日記
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2007年06月13日(水) オーロラの伝説

XIX
 此処で話は少し変わりますが、パトラが私に「特別な能力を備えた人」と言った理由について、少し説明しておきたいと思います。それは私が今回皆様に話したかった最も核心に触れる部分だからです。
これまで歴史上発見されてきた地上の色々な遺物や遺跡の中で、どんな経緯(いきさつ)があって、誰が、何の目的の為に作ったり建てたりしたのか?
 古今東西の科学者達がそれこそ真剣に研究してきたにも関わらず、未だに謎に包まれた歴史的遺物や遺跡が多数残されていることは周知のとおりだと思います。
 例えば南米のマチュピッツ遺跡や、ユカタン半島に栄えたマヤ遺跡、エジプトのギザのピラミッド等など--。現代人類の祖先がまだ十分文明を築いていたとは思えなかった時代に「如何してこのような数学的にも物理学的にも驚くほど緻密で精密な遺跡が建造され得たのか?」
 現代の科学水準から考えて理解されていたとしても不思議ではないはずなのに、なお多くの根本的な疑問が解決されないまま(勿論枚挙に暇がない程の夥しい数の仮説が提起されてきてはいるが)現代に至っているのです。
 その説明も、例えば「奇跡としか説明出来ない」という常識論から、もう少し興味本位な話では「宇宙人が来て建造し、地球を去るときに残した遺跡」とか、少し突飛な説明としては「我々人類の祖先とは全くかかわりのない、文明人が当時活躍していて、彼等が高い文明を築いていたのではないのか?」など、どちらかと言えば感情的・情緒的な説明が多かったように思います。 
 特に最後の文明人が地球上から消えた理由については恐竜達が絶滅したと同じ理由、つまり地上を襲った突然の天変地異が彼らを襲って絶滅させたのだと、考える---等--想像もつかない荒唐無稽な(例えばノアの箱舟の伝説のような)話に私の好奇心はくすぐられ、興味がかきたてられたこともありました。
 私も科学者を目指す人の端くれとして、この話に全く興味を示さない訳ではありませんでした。ただ、こんなスケールの大きいテーマを私の研究対象とするには荷が重過ぎる、これはこれからの人達のロマンとして残しておくべき領域だなど、真剣な研究対象にするのは時間の浪費以外の何物でもないなどと考えていましたが---いや、しかしそれでも何時か、ひょっとすると、とてつもない天才が現れて解決するかもしれない---などとは考えていました。それまで待っていたほうが賢明だろう---と!
 ところが、パトラが紹介してくれた科学者から、この件について驚くべき話を聞くことになったのです。それは私(遺伝子工学を人並み以上に研究してきたと自負していた)が、殆ど想像したことがない新しい理論でした。
 「これまで謎とされてきた歴史上のミステリーは新しい遺伝学に基づく進化論で説明可能である」と言うのでした。
 私たちがミステリーとして残してきた歴史上の出来事はすべて、生物学の一分野、進化論で説明できると言うのです。

 彼に会った印象は、高齢の科学者で、額は広く白髪で、顔には年相応に思慮深そうな皺(しわ)が刻み込まれていましたが、その一本一本の皺は彼の真摯な知的活動の年輪のように見えました。あたかも晩年のアインシュタインのような風貌でありました。細い眼裂の合間から、赤い虹彩、深く黒く輝く瞳が私の心を射通すかのように覗いていました。
彼は作業机からゆっくり立ち上がりながると、「君はUFOの話を聞いたことがあるかね?」と問いかけてきました。
私が、話で聞いたり、科学雑誌や、SF小説で読んだこともあります。しかし殆ど興味本位の「お話」位にしか受け取っていなかった、と答えますと、
彼は少し笑顔を浮かべながら「UFOは、本当に存在するのだよ」と断言しながら、中央にあるテーブルの中央に位置するソファ-にゆっくり腰を下ろしました。
「だが、ほんの一握りの地球人しかUFOを見ることが出来ないのだ」と、私にソファー座るよう目で合図をしながら、しかし此方の反応を窺う目線は崩さず、穏やかな口調で話し始めました。
 私が一瞬「!」と無言で驚きの表情を見せると、彼は少し肩をすぼめながら「その理由を、これから話そう」と一息入れ「それがパトラからの命令だから」と、この時彼は少し人間的な老人の素振りを見せました。
 理由はよく分かりませんでしたが、私はこの老科学者が直感的に好きになりました。
 広い円形の研究室の天井はドーム状で、ガラス張りでした。ドーム越しに暗夜に瞬く美しい星群を見えました。すると何故か私の心が和み、徐々に落ち着きを取り戻していくのが感じられました。
 中央には大きな長方形の大理石のテーブル、ソファ-、周囲の一角には仕事机、壁の一部には大型のスクリーン。そして壁側にグラスや飲み物を収めた造り付けの戸棚や冷蔵庫が設置されていました。 又、不思議な抽象的な形状の置物が飾られ、一方の壁には、大型の抽象的な壁画が描かれていました。
 それはやはり、無遠慮に心の扉を押し開き、小さな隙間からほとばしり何処からともなく流れ込んでくる水のような、力強いしかし謎めいた魔力をたたえていました。
 部屋には何処からともなく、静かなメロデ-が聞こえてくるような気がしました。それは波の音かも、いや森の音かも知れませんでした。
 それは聞いたこともない美しいハーモニーでした。




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