ジョージ北峰の日記
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2005年09月28日(水) オーロラの伝説ー続き

 彼らの姿は現代とは違って、まさに紀元前に見るギリシャ戦士のような姿を想像していただければ良いかと思います。
 この日3人から聞いた話では、「こんな国が本当に現実に存在する国なのだろうか?」
 私はタイムスリップで、過去の世界に逆戻りしたのではないだろうか?と、疑いたくなる話の連続でした。
 ラムダ国以外にも、似たようなもう一つの国オメガ国があり、現在交戦中で、まもなく国の存否をかけた大規模な海戦があるだろうと言うのです。10年前にも両国間に同じような戦争がありましたが、その時は若い王女パトラ、総大将ベンが率いるラムダ軍がオメガ軍との戦いに勝利したのだそうです。
当時パトラはまだ王女になったばかり、アレクはまだ少年だった。それは壮絶な戦いとなって、最後は相手国の王女とパトラの一騎打ちで勝負がついたのだということでした。
2人の戦いは長時間に亘る暗闇の戦いでしたが、夜光での視力に優れるパトラに軍配が上がったと言うのでした。
この話に及ぶと、パトラの目に涙が浮かぶのが分かりました。
 これらの話題が続く中で、私が怪訝(けげん)に思ったことは、パトラがトラやネコのように夜光性の視力の持ち主だと言うことや、彼等が話す“海戦”の意味が良く分からなかったこと、さらにーーある話に及ぶとパトラが涙を見せたりすることでした。
今回の戦では、パトラやベンに加えて、さらに豹のような獰猛さを見せるアレクが参戦する。「心強いですね」と、私がパトラを元気付けるつもりで話を向けると、パトラが「アレクは目の色から分かる通り夜の戦いが少し苦手なので心配です」と不安を語るのでした。
この話から読者の皆様も少しは判断していただけると思いますが、同国の人達の間には遺伝的素質にかなり大きな差が見られ、遺伝学者としての私には疑問が増すばかりでした。

 ラムダ国の落ち着いた雰囲気の酒場には、いろいろ工夫を凝らしたデザインのテーブル、繊細な彫刻が施された椅子やソファーが適度なスペースを保ちながら配置され、3方は煉瓦造りのような壁に囲われていました。中央には噴水を備えた泉水、一方の壁には、私が過去見たこともない大きな剥製の動物がガラス張りの陳列棚に飾られていました。他方の壁は書棚、そして圧巻だったのは一方がガラス張りで海底水族館を見ているような印象を受けたことでした。 少し違うのは、透明感の高い水質が特徴的で、天然の美しい珊瑚礁や熱帯魚の景色がホールから遠く広がっていく様子が、ガラス越しからはっきり見て取れることでした。パトラに連れられ、このバーに初めて足を踏み入れた時、私は何故か“ほっとした”心の安らぎを感じたのでした。
床には深緑色の絨毯が、椅子には滑らかな、柔らかい毛皮のような敷物が敷かれていました。昼間に色とりどりの熱帯魚が忙しく泳ぐ様は、まるで人魚の舞い踊りを見ているようで楽しく感じましたが、夜は、仄明るい白色光でライトアップされた海底が深青色を帯びる海水で、ガラスの壁にはまるで紺色の厚いカーテンがひかれている様な印象で、少し不気味な感じを受けるのでした。
時折鮫のような大型の魚が間の抜けたような顔を覗かせることもあって、苦笑することさえありました。
 


2005年09月11日(日) オーロラの伝説ー続き

VII
 さて、何度も申し上げてきました通り、ラムダ国は、私がこれまで知識として抱いてきた、又は現実に見てきた国々とは(過去及び現代を含めて)あまりにもかけ離れていましたので、現代のような政治、経済を含めた、色々な意味で摩擦の多い時代に、如何してこんなに豊かでSF小説にでも出てきそうな王政国家が存在しうるのだろう?と、不思議で仕方がありませんした。
この国は、封建制度を政治体制とする王政国家のように見えたにもかかわらず、国民や主従間に争いがなく、すべての人々が自分の仕事に忠実かつ活動的で、私のような他国人でさえも、理屈抜きに住み心地の良い、理想的な国のように思えるのでした。
この国へ来てからは、まるで御伽噺(おとぎばなし)の浦島太郎になったような気分で、私の好奇心は絶えず刺激され、興味が増すようなことがあっても、退屈している暇はありませんでした。
それに(随分身勝手なことかも知れませんが)研究設備が充実していた上、スタッフが想像以上に優秀で、さらに私がパトラに好感を抱いていたことなども重なって、何の躊躇い(ためらい)もなく、私はラムダ国の研究に埋没していくことになるのでした。
 その頃、私は研究室で、ある染色体の一定の標的部位に、外来ウイルス遺伝子を挿入する実験を繰り返していました(この方法の詳細は、読者の皆様にとっては興味のない部分かと考えますので省略いたしますが)。この方法が成功すれば、染色体上のある標的遺伝子近傍に特異的に新しい遺伝子が挿入出来るのでは、と考えていたのです(現実問題として、染色体上の特定部位に研究者が目的とする遺伝子を自在に挿入することは、夢ではありますが大変困難なことだったのです)。しかし私が意図する研究が可能な再構成ウイルスの分離・確立が、とても困難で、絶望的とも言える結果の連続に私は本当に悩み苦しんでいました。
 そんなある日、「何か新しいことは?」とパトラが二人の近衛兵を連れて実験室に訪ねてきました。私が、何も言わず肩をすくめて、顔を左右に振りますと「少しお酒でも飲んで、少し気分転換したほうがよいのでは?」と、近衛兵の方に振り向きながら彼等に同意を求めました。
 ところで、此処で新しい登場人物を紹介しておきたいと思います。
勿論彼等は、月夜の浜辺に現れ出た二人の近衛兵達のことです。私は一人をアレク(私がつけた俗名ですが)と呼ぶことにしていました。 その理由は、彼は色白で、金髪、端正な顔立ちをした若者で、これまで私が読んだ歴史物語や映画で見た、若くりりしい勇敢なアレキサンダー大王に似ていると思ったからでした。彼の瞳はコバルトブルーに輝き、笑顔が少年のような、人の心を虜にする魅力に富んだ風貌の戦士でした。身の丈は、同国としては平均的な1.8メートル程度でしが、ひとたび戦になると、金髪を振り乱し阿修羅のごとく戦う悪魔に変身するのでした。
そしてもう一人はベンと呼ぶことにしていました。彼は赤銅色の肌、胸板が厚く、筋肉が仁王様のように発達し、2メートルを超える大男で、髪は黒く、瞳はパトラと同じガーネットのように赤く燃えるように輝いていました。彼は戦にあって戦士たちを指揮しながら自(みずから)も戦士と一緒に戦う総大将としての役割をはたしていました。私も身の丈1.8メートル程あって、武道の心得はありましたが、平和な国、日本で育ってきた私には、彼らに備わっている武人としての風格に欠けているように思えました。
その後、彼等には、ラムダ国で色々なことで助けられることになりました。
 


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