睦月の戯言御伽草子〜雪の一片〜
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道標それから


2002年04月21日(日) 春雷が聞こえてから

1週間ほどたって、露天で、ボケッとしていたらなんとなく、ほわっと淡いピンク色が目に入った。
「さくらかぁ〜。」



「え!!さくら!?」露天の脇に、桜が咲き出している。まだ、一つ二つと数えるほどだけど、咲き始めていた。春になるって言ってたけど本当なんだ・・・。

「咲き始めましたか?では、祭りの用意もしなくてはネェ。手伝ってくださいますか?」
「祭りって?」
「春になると結婚式がいっぺんにあるんですよ。」そう言うと、調理場のおくで板長と何か話し始めた。
「結婚式ネェ。」
実は、寝込んだ次の日から仕事は手伝っていない。足手まといらしいから・・・・
もちろんその事に付いて責められたりもしないが・・。
「花は結婚しないの?」
「へ!?」こえが裏返ってる・・・。
「急になに言うんですかぁ。」
「いや、春って結婚式多いんだろ?」
「多いですよ〜。しかも綺麗ですよォ。」もう、うっとりって顔でそう言った花は
次の瞬間、
「あたしはネェ、結婚しないんですっ。」
「なんで?」
「なんでって、どうしても!!さ、早いとこたべちゃってくださいな。」そういって、部屋を慌てた様子で出て行った。
「変なこと聞いたかな?見た目猫でも、女の子だしな・・・。あこがれたりしないのかな?」


2002年04月19日(金) ようやく一日が終わった・・・・

自分の部屋で伸びていると、花がやってきた。
「ここで働くんなら、お部屋も変えましょうかぁ?」
少し、意地悪な笑みを浮かべそう話し掛けてきた。
「それだけは・・・いやだ・・。」ようやくこたえた僕に
「あはは、やっぱりねぇ。結構ここのしごときついんですよう。それとも女衆と働きますか?」
そうしたって、キツイじゃないか・・そう言いたかったが言い返すほどの力も残っていないみたいだ・・。
「あれ?寝ていらっしゃる?ふふふ。」笑いながら花は部屋を出て行った。

気づいたら朝だった。僕は布団の中で天井を見ていた。
「あ、仕事・・・。」いたたたっ!!体中痛い・・・・。起きれないかも・・・。

障子が開いて番頭が入ってきた。
「おはようございます。かなりきてますねぇ。だから言ったのに。全く、旦那達はいったい何を考えていらっしゃるやら・・・。今日はゆっくり休んだ方がいいですよ。露天の掃除も終わってますから、入っていらっしゃい。」
半ばあきれた口調だが、心配してくれてたらしい。
「あ、もうお昼すぎてますからね。」障子を閉めながら、そう言って帳場の方へ歩いていったようだ。
「お風呂行こうかな・・・。」言ってみたものの、体が言う事をきかない。そこへ熊がやってきた。
「お、起きてるか。」そういって、僕を抱えると露天の方へ歩き出した。
「あ、待ってよ板長!!てぬぐい!!」と、キンキン声の花が走ってきた。
「ありがとう。」手ぬぐいを僕が受け取り、黙って、熊に連れて行ってもらう事にした。
そうして、露天に着くと何とか、立てるぐらいにはなっていた。と、言うかもう、いい加減自分でしないと恥かしい気になっていた。
「ありがと、あとはできるから・・・。」
そう言うと熊は黙ってうなづき戻っていった。ゆっくり着ているものを脱ぎ、ゆっくり歩く。
「いたたたっ!」
そうして、ゆっくり湯につかるとなんだか、痛みが引いていくようだった。生き返るってこういうことなんだろうな。
そうして結局その日は一日無駄にした・・。もったいない・・・・


2002年04月17日(水) そうしてようやく仕事を貰った

茶室と宿の玄関の掃除だ。
「玄関の掃除をですか・・?」と主人に言われ仕方なく猿が掃除の仕方を教えてくれた。
「いいですか?仕事をするってことは私のことを番頭さんと呼んでくださいね?今までのように”猿!!”では、困りますよ。」

かなり不機嫌だなぁ(笑)玄関掃除なんて簡単簡単。
なんて思ってら大違い・・・。実は、ず〜〜〜〜っと、玄関にいないといけないくらいすぐ、汚れる。なんと言っても外は雪がふり続いているし、客もひっきりなしにやってくる。玄関は土間だから雪の塊やら解けた雪で、ぬかるむやら・・・

「茶室はいつ掃除できますか?」と、主人に声をかけられた。
「まだむりっぽいよ・・・。」
「結構大変ではないですか?玄関掃除なんてって思っていませんでしたか?」
「・・・・・・・・・・・」

実は、そうなんだよね・・。正直言って馬鹿にしてました・・・。でもこの仕事、番頭がいつもやってたんだよなぁ・・・。猿はいつも忙しそうだったのになぁ。
すごいよ、あいつ・・いや、番頭さん。簡単な事なのに簡単ではない。そう、実感したよ。今日はさ。


2002年04月14日(日) 色々、不思議で

初めは宿中うろうろした。
宿の裏には川が流れていて、鼬が船頭をしている。
残念ながら、のせてはもらえなかったけれど。庭は広いのか狭いのか・・・・。これだけ毎日雪が降っているのに、露天の横には、ずっと梅が咲いている。春雷がなると、桜まで咲くらしい。これは、これからの楽しみだ。

「お客さん、お昼の用意できましたよぉ。」
花が呼んでいる。
「ここにいるよぉ〜。」
窓から、渡り廊下に向かって叫ぶ。すると、花は、キンキン声で
「早くしないと、下げちまいますからネェ」
と、言いながら笑って忙しそうに立ち去った。
「では、昼にしますか。」
主人も立ち上がったので、部屋に戻る事にした。もちろん主人はこれからまた忙しいのだ。
「ここで、働こうかなぁ。」
「いいですけど、、、むずかしいかもしれませんよ?」
と、また笑っている。
「どうせ、みんなの後うろうろついて歩くんだし、なんとなく仕事もわかるし。」
「黙ってみてる方が楽ですよ。」
そういって、主人も調理場へ入っていった。彼は、午後から宿の入り口で客を迎える。たいていが、近くの住人で世間話や悩み相談らしき事を話に来る。主人は、飲み物を用意しお茶菓子を出しいつもの、笑顔で話を聞いている。聞いて貰うだけで満足と言う顔でみな帰っていく。聞き上手って大事なんだなって毎日実感する。


2002年04月10日(水) ここの人たちは世話好きで

おしゃべりな人が多い。だからって、色々、聞き出そうとしたりはしない。
僕の気持ちをほぐそうとしてる感じがよくわかる。僕の部屋の担当は若いらしい(?)三毛猫の「花」でこの子は、仕事よりおしゃべりが多くいつも、番頭に叱られている。
「だってネェ(笑)。ここにこんなに長居する方も珍しいですよぉ。せっかくだから、もっとゆっくりしていってくださいネェ。」と、今朝は言ってた。
そうそう、番頭は猿なんだよね・・(笑)。猿って、そそっかしいイメージなのに、結構しっかりしている。良く、主人が叱られているんだ。
「旦那、しっかりしてくださいよ!あなたがそんなにのんびりしてたんじゃ、仕事が止まっちまいますよ!」
そういって宿帳を確認しながら調理場へ入っていってまた、キーキー言ってる。結構おかしいんだよね・・それがさ。やっぱり猿ってうるさいんだって思った。
ここでの従業員と主人のやり取りは結構面白い。立場が反対なんだよね。でも、みんな主人を大事にしている。変な関係だよ。僕が気に入ってるのは板長の熊。みな「板長。」って呼んでるから名前は知らないけど、いわゆる職人肌で無言で料理している。イメージどおりでつまんないって思っていたんだけど、黙ってみてると、結構、そそっかしいんだよ。その辺はまた話すとして・・・。
とにかく、ここは、客の出入りが激しい。泊る者、お茶だけで出ていく者、色々なんだけどほぼ一日中出入りしている。たとえ夜中でも、みながうれしそうに接待している。そして、誰もが、うれしそうにどこかへ去っていく。

そうそう、宿の前は三差路になっていて道の先は見えないんだ。
「行く気になったら道が見えてきますよ。」
と、主人は言っていた。

僕は殆ど毎日する事もなくこうやってみんなのしごとを眺めている。そして、主人に誘われては、茶室にきている。特に話すでもなく、庭を眺めつつお茶を飲むだけ。庭は、雪のむこうに椿の生垣があって、なんともいえない赤さで飽きないんだ。後は、露天風呂にだらだら入っていて番頭に叱られるのも日課かなぁ(笑)。
「気に入っていただけているのはわかるんですがネェ。掃除くらいはさせてくださいよ。」って


2002年04月09日(火) この宿に居るわけ・・

と、聞かれても僕自身わからない。

話によると、雪と一緒に降ってきたらしい・・
この宿にきたのも、三叉路の六地蔵につれてこられたらしい・・

「運ばれてきたのですよ。」

と、主人は言うが・・
まさか、昔話のように、そりにのせられて、笠のお礼に運ばれた、米俵のように・・・?

その辺の記憶はないので、深く聞かれても困る・・


あ、ここは、地蔵まで動くんだ。
動いたの見たことないけどね・・

一見、古い旅籠の様だけれど、中は広い・・
でも、このお茶室だけは勘弁して欲しい・・
庭の眺めはいいけど、、狭いんだよ・・・
というか、お茶、苦いし・・
何より正座が嫌だ。

「静座っていうんですよ。」
と説明されたけど。

周りも静かなのに、自分まで静かにしたら、寂しくないのか?って聞いたら

「お茶を点てるときはそんなもんですよ。」
って、笑ってたっけ。


2002年04月08日(月) 春雷

天轟かす古き神々
その御足踏みて、大地震わし
その御腕なげうち、天蓋を裂く

風に乗りて、雲に泳ぎ
地を射ては、空をどよもし
浪を逆立て、雨水を下す

人の祖よりさらに古き、
強き疾き神々よ

願わくば、
その大いなる力もて
我らに天と地の恵みを
もたらさんことを
御矢の黄金の稔りと
ならんことを

田野に五穀の豊饒を
山河に五色の霓虹を
人心に五情の幸福を

「ああ、コクトが詠っていますねぇ。」
「コクト?雷では・・?」
「春が近づいた合図ですよ。」
「ここには春は、ないって聞いたぞ?」
「あるんですよ、短いですけどねぇ。」

午後の茶室で足がしびれるのをがまんしていると、どこからともなく聞こえてきた声と雷・・・
おかげで僕は足を崩す事ができた。

「まだ、慣れないんですねぇ。」

含み笑いでお茶を点てるこの宿の主人はおっとりしているのか、天然ボケなのか、僕には見当もつかない。

実際得体の知れない人だ・・・
そう言う僕の方が主人にすれば得体の知れない人物なんだろうけど・・・・
ここは、いつも雪がふっていて、雪明りで明るい程度だ。
それでも、住人は明るい、いい人ばかりだ。
ただ、ひとつ・・・・
住人は、人ではない。
みな、動物なのだ。
もちろん、僕のような人間もいる。
けれど、人間はこの宿に何泊かすると、どこかへ行ってしまうのだ。
宿で働く動物たちは、とても働き者で世話好きだ。
人間ばかりの村もあるらしいのだけれど、僕はなんだかここが気に入って、もう、どのくらい世話になっているんだろう。
でも、本当に居心地がいいんだ・・
毎日毎日降る雪も気にならないくらい・・・


2002年04月07日(日) 本日より

お話を始めたく思います・・
過去のような未来のような不思議なお話になればよろしいのですが・・










お地蔵様の資料は『ojizosan.com』を参考にさせていただきました。
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