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人物紹介


白い車の人物
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窓が開く音がして横を見ると、男性が窓から「よぉっ」というような仕草で手を上げ、私を見ていました。
一瞬、誰だかは分からずに居ましたが、何処かで見た事があるなと思い立ち止まりました。

「今、帰り?」

と、その男性に声を掛けられ、先週会った大学生だと思い出しました。

「え?あぁ、こんにちわ。今帰りです。今日、Mさんは・・・?」

その男性がここに居るということは、その理由が何であれ、Mさんと一緒だと思ったのです。

「いや、今日は一緒じゃないんだ。」

その男性が答えました。
私は、Mさんと一緒じゃないのなら、この人は一人でこんな所で何してるんだろう?と思いましたが、彼が近所に住んでいることをすぐに思い出しました。
きっと、他の誰かと待ち合わせでもしていて、偶然通りかかった私に声を掛けてくれたのだろうと思い、

「あ、そうなんですか。先日は、御馳走様でした。」

と先週、誰が払ってくれたかは分からないけれどファミレスでご馳走になったお礼を言いました。

「いや、あれは俺じゃなくてタグチが払ったんだよ」

とその男性は答えました。
ああ、あの二つ上の大学生はタグチさんって言うんだ。
そんな事を思いつつ、Y美達が私が立ち止まっているので前の方で待っているので、

「ああ、じゃぁタグチさんにお礼言っておいて下さい。」

と言い、そろそろ話を切り上げようとしました。
すると、

「今日、バイトは?」

とその男性に聞かれました。
Mさんから聞いてないのかなぁ?などと思いながらも、もしかしてMさんの予定が知りたいのかな?と勝手に解釈し、

「いえ、定休日なんです。Mさんも休みですよ」

と答えました。
すると、その男性は少し笑いながら、今度は

「いや、Mはいいんだけどさ。これから友達とどっか行くの?」

と聞いてきました。
どうやら、彼はMさんの事を知りたいんじゃなく、私の予定を聞きたいんだと、やっと気付きました。
だけど、なんで聞かれているのか不思議でなりませんでした。

「いえ、帰るだけですけど・・・」

戸惑いながら答えると、

「じゃぁ、乗ってかない?」

と言われました。
突然の思いがけない言葉に、私は訳が分からなくなっていました。

「え?あ・・でも、友達が一緒だし・・」

そう私が困って答えると、一歩離れた場所で待っていたRが

「私ならいいよ。いきなよ」

と言いました。
Y美とK子の方を見ると、彼女達も手を動かして「乗れ乗れ」という仕草をしていました。
でも、いくらMさんの後輩で確かに一度会った事があるとは言っても、一人で乗るのは少し怖い気がして、

「えぇ?じゃぁ、Rも一緒に・・・」

と言うと、その男性は

「いいよ」

と言ってくれましたが、Rには

「私、帰りに寄るとこあるから、亞乃乗せてってもらいなよ。」

と断られてしまいました。
どうしていいか分からなくなって、もう一度Y美達を見ると、「早く乗んな」と口パクで言っていました。

車の側で立ち止まっている私を、他の下校する生徒達も何してんだろうというように、見ながら歩いていました。
そして、待ってくれていたY美達も、少しイライラしているように感じ、迷っている場合じゃ無いような追い込まれた気持ちになりました。

「じゃぁ・・・R、また明日ね。ごめんね」

そう言ってY美達の方にも手を振り、私は

「それじゃぁ、お邪魔します」

と男性に言いました。

「どうぞ」

といわれ、車の反対側に回り後ろのドアを開けようとすると、

「前、乗って」

と言われました。
助手席に乗れといわれて、少し抵抗がありましたが、グズグズしてはいられません。
そのまま素直に助手席に座ると、

「じゃぁ、隠れなきゃ」

とその男性が笑いながら言いました。
先週、Mさん達に送ってもらった時に私達が隠れた事を覚えていたのでしょう。
その言い方がおかしくて、私も笑いながら伏せようとすると、

「椅子、倒した方がいいかも」

と言われました。
そう言われて、そうか寝そべればいいのかと思ったものの。
椅子をどうやって倒せばいいのか、場所が分からず戸惑っていると、

「左の椅子の下のとこ。レバーあるでしょ」

と教えてくれました。
一瞬、以前に前のバイト先のAさんの車に乗った時のことが頭を過ぎり、身構えそうになりました。
でも、その男性は手を伸ばしてくる事もなく教えてくれたので、ほっとしました。

椅子を倒し、横になるとなんだか変な感じでした。
隣に男性が居て、その横で仰向けになっている自分が妙に恥ずかしい事をしているような気分でした。
その時、ふいに男性が私の方に身体を傾かせ、その手が伸びてきて、私はドキっとしました。
でも、その腕はそのまま私の横を通り過ぎて、後ろの座席から上着と取ると、

「これ、あんま綺麗じゃないけど。かけてた方がいいよ」

と横になっている私に渡してくれました。
私は、一瞬勘違いした自分が恥ずかしくなりましたが、素直に上着を受け取り借りる事にしました。
その上着を顔から上半身を隠すように被ると、車はUターンをする為に学校の方へと走り出しました。

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白い車 2
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前の週の木曜日から居残りが始まり、5回目の反省文を提出した日。
バイトの帰りに声が聞きたくて電話をしたK先輩は、居ませんでした。

居残りが始まってからというもの、バイトに行けば、私が遅くなる事で社員の人が大変になるらしく、Tさんに毎日嫌味を言われました。
もしかしたらTさんは、そんなつもりは無いのかもしれませんが、彼女の口調はそう
感じさせる所がありました。
家に帰れば、母親との下らない喧嘩が続いていて。
反省文は書いても書いても教師の機嫌は直らず。
私は徐々に、イライラし初めていました。
学校もバイトも家も、全部放り出したいような焦燥感がありました。

だから、せめてK先輩の声が聞きたいと思ったのに。
期待はしないと思ってかけたものの、やっぱりかなり落ち込み悲しくなりました。
何もかもが詰まらない。
私が助けが必要な時に結局、先輩は捕まらない。
物凄い失望感に教われ、K先輩に対しての気持ちまでも揺らいでしまいそうでした。
その気持ちを埋めるように、その夜も、翌日の授業の休み時間も、居残りの時間も。
私はセーターを編み続けていました。

居残りを始めてちょうど一週間が経ちました。
取り合えず一週間とは言ったものの、前日まで、教師の反応は悪いままでした。
でも、もう続けても仕方無いから今日で最後にしようよと私達は決めていました。
居残りの毎日は、何故か良い天気の日ばかりで。
余計に私達は苦痛でなりませんでした。
早く帰って遊びに行きたい。みんな、そう思っていました。
K先輩へのセーターは、後は袖を残すだけのところまで出来上がっていました。

さっさと反省文を書いてしまおうと思った時、教室に担任が入ってきました。

「お前たち、もういいから帰りなさい」

担任のその言葉が、生活指導教師が私たちを許したと言う事になるのかどうかは分かりませんでした。
もしかしたら、教師の都合で早く下校させたかっただけかもしれません。
でも、私達は取り合えずこれで解放されるんだという嬉しさで一杯でした。

その日は、やはり天気が良い日で。
今日は夕日が綺麗そうだな・・・
そんな事をふと思いながら、皆と学校を出ました。
丁度、掃除当番を終えた他の生徒が下校する時間で、

「久しぶりにまともな時間に帰れるよ。」

などと話していました。
その頃、K子もバイトをしていたので、彼女は早くバイトに入って稼げると喜んでいました。
私は、バイト先が定休日で早く帰宅しても何も無い日でした。
余り早く帰って母親と顔を合わせるのも嫌だなぁ・・と少し思いながらも、やっぱり早く帰れるのは嬉しいものでした。
もう少しで先輩のセーターも出来上がるし。一気に仕上げてしまおうか?
そんな事を考えたりしながら歩いていると。
また、白い車が先週と同じ場所に止まっていました。

遠目で見た瞬間、一週間前と同じ白い車だなと一瞬だけ思いました。
でも、同じ車だかどうかすら、考えませんでした。
車の色以外を覚えていなかったのです。
その日、私たちが学校を出たのは、一週間前のあの日より遅い時間でした。
居残りが無くなっても、一時間近く遅かったのです。
だから余計に、それが同じ車でMさんがまた来ているとか、まして、自分を待ってるなどとは全く想像もしませんでした。
そこに車が止まって居る事は、よくある事だったからです。

徐々に車の方に近づいた時には、私はその車に何の関心もなくなっていて、視線を逸らして歩いていました。
その時、前を歩いていたK子が

「あれ、また5組の○○待ってるんじゃない?」

と言い出しました。
そう言えば、一週間前の時も。
私は今、K子が言った子と同じ子の彼氏だと思ったなと思いました。

「そう言えば、下駄箱にあの子いたよね」

とK子と並んで歩くY美が答えました。
そうなんだ・・と思い、私は彼女達の後ろから少し身体を出すようにして、改めてちょっとだけ車を見ました。
スモークフィルムが貼られているその車は、逆光で中に人が乗ってるかどうかは分からず、すぐに目を逸らしました。
その5組の子は、どうやらY美もK子はよく知っている子らしく。
中学から評判が悪かったような事を言い、関わりあいたくないような雰囲気でした。
当然、その子の彼氏の車だとしたらガラの悪いヤツが乗っているのだから、目をあわさない方が良いと、彼女達は車を避けるように車の手前でオーバーに避けるように少し早足で歩き出しました。
私はRと並んで車側を歩いていましたが、そこまで避けなくても・・・と思い、そのまま歩調を変えずに歩き過ぎようとしていました。

車が目の前に来た時、急に運転席の窓が開きました。
そのまま通り過ぎようとした私は、その窓から手を上げるようにして顔を出した人物を見て、足を止めました。

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居残り
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Mさんと大学生二人と会った翌日。
私は学校で昼休みに校則違反が見付り、職員室前に立たされていました。

その学校には、許可無く立ち入ってはいけない場所があり。
陽気がよく、心地良かったので昼休みに行こうと言う事になりました。
Y美とK子。隣のクラスだったRも一緒でした。
ジュースを片手に話していると、いきなり教師がやってきて。
私たちはそのまま職員室の前に並ばされてお説教を食らいました。
どうやら下級生が私たちが行くのを見ていて、教師に言いつけ、それで見付かったようでした。

余りにも下らない規則なので、全く反省する気もなく。
しばらく大人しく話を聞いていれば済むだろうと思っていました。
ところが。
立ち入り禁止の場所に行った事だけでは、済まない状態になってしまいました。

まず、K子が髪型のことで注意を受け始めました。
普段から、何かと教師に目をつけられていたK子がその日、たまたま編みこみをしていた事が原因でした。
髪が肩より長くなると、二つに結わくのが規則でした。
もっと長くなると、みつあみにしろと言われる事もありました。
大概の子は、学校帰りに髪の毛を解く為、後がつかないように緩く結わいたり編んだりしていました。
なのに、K子の編みこみは教師にとっては良からぬ事に見えたらしいのです。
生活指導の教師まで出てきて、
「きっと、帰りにほどいて、ウェーブにする気だ。」
と言いがかりをつけ始めました。
そして、勝手にそう決め付け、K子をひっぱって無理矢理水道で髪を濡らしました。
K子は泣きじゃくって物凄い抵抗をしていました。

次に、生活指導教師は、私の小さな何かを見つけては怒り始めました。
もう、この時点で、立ち入り禁止の場所に行ったとかは関係なく。
私たちは、それまで無関係だった生活指導の教師にを目の仇状態にされてしまいました。

理不尽さに腹を立てていたので、余りよく覚えてないのですが。
Y美はその生活指導教師が顧問の部活に所属していました。
RとK子は同じ部活で、やはり別の生活指導教師が顧問でした。
そういった事もあり、私たちは高3の受験と就職とを控えていた時期で、生活指導教師に目をつけられると今後の進路にすら、影響を及ぼす可能性がありました。
それは、特に罰則として謹慎とかという決まりを言われた訳ではなく。
なんとなく、それを匂わすような言葉を教師に言われたのです。

昼休み時間のみでお説教はとりあえず終りましたが、私たちは何とか教師の機嫌を取った方が良いと思いました。
放課後になりHRの後、今度は担任に廊下に並ばされ注意を受けました。
その際、やはり生活指導教師が物凄い怒っていると聞かされ、反省を見せろと言われました。
他の学校は知らないので、私の高校が特殊なのかもしれませんが。
学校の教師と言えど、会社と代わらず、生徒から見ても上下関係や派閥があるのがよく分かりました。
一般企業より私立の高校ということで閉鎖的だったせいか、それは余計に酷い状態に見えました。
時には教師同士のいじめすらあり、そういう事情を生徒が教師を介して知ってしまうという学校でした。

そんな職員室の中で私たちの担任は、まだ大学を出て二年目の新米男性教師で、他の教師に頭が上がらない状態でした。
生活指導教師であるR達の部活顧問の教師二人は、担任の母親より、もしかしたら上の年齢で。
当然、権力者状態の二人でした。
若いまだ20代前半の担任から思えば、やはりこの学校の校則はおかしいと思っていたようです。
でも、権力には逆らえないし、自分の生徒の進路に影響が出る事も避けたい。
だから、なんとか反省の色を見せてくれ。
担任の言い方は、そんな風に私たちには聞こえました。

担任がそこまで言うという事で、相当まずい状態なのだと感じました。
そこで、私たちは話し合い、放課後居残って反省文を書く事にしました。
一時間ほどかかって書き終え、私たちは生活指導教師に渡しにいきました。
でも、彼女のご機嫌は直りませんでした。
それどころか、口先だけで意味が無いというような事まで言われました。
なので、前もって考えてきた反省を示す方法を教師に言いました。
今後取り合えず一週間の間、毎日放課後残って反省文を書き、提出すると。
それに対して生活指導教師は、やっても意味が無いというような事を言いましたが、取り合えず私たちは反省文を続けることにしました。
もう、かなり意地になっていました。

正直、バイトがある私は居残りなんてしたら、遅刻してしまいます。
でも、自分が部活に入ってないから関係無いと抜ける訳にも行きません。
その日は木曜日でした。翌日の金曜も土曜も一時間ほど居残り、反省文を書きました。
すぐに書き上げては反省の色が無いと思われるので、一時間は必ず時間を潰しました。
その間、私はさっさと書き上げてK先輩のセーターを編んで時間を潰していました。

バイトには、いつもより一時間遅れると伝えました。
社員のTさんには嫌な顔をされましたが、仕方がありません。
翌週も居残りは続きました。
毎回、反省文を提出しに行っても、相変わらずご機嫌は直らず。
勝手に置いていけと言わんばかりに無視される状態が続きました。
私は、徐々に意味が無いような気になってきていました。

あまりにも気分が滅入ってしまった私は、どうしてもK先輩の声が聞きたくなりました。
大好きなK先輩の声を聞けば、少し前の幸せな気分の私に戻れる気がしたのです。
気持ちが弱くなると、K先輩の声が聞きたくなります。
でも、忙しいと言ってた先輩が早い時間に家に居る事は少ないと知っていました。
だから、余り期待してはいけないと自分に言い聞かせました。


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大学生
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車に乗ってる間、私は殆ど誰の顔も見ずに居ました。
視界の端に隣の男性が入る事もありましたが、やけに座高が低い人だな・・・と妙な感想を持っていました。
後から考えれば、それはふんぞり返るような座り方の問題なのですが。
その頃の私は、K先輩が大好きで、彼らだけではなくほかの男性に対しても、全く興味が無かったので、座り方すら気になりませんでした。

先にM子を家まで送ってもらって、バイト先の駐車場で皆一緒に車を降りました。
同じ建物内にある別の場所で遊ぶMさん達3人にお礼を言って、私はバイトに入りました。
バイトに入ると、すっかり彼らの事を忘れてしまっていました。
もう二度と会う事も無い人たちだと思っていたのだと思います。

閉店間際になって、別のレジに並ぶMさん達3人が居ました。
私が気付いて見た時は、ちょうど車で私の隣に座っていた男性がお財布に目を落としている時でした。
私は彼の顔を見て改めて、「ああ、こういう顔の人だったんだ」と思いました。
どうやら、3人はお弁当を買っていたようで、私は顔を上げて目が合った彼に会釈だけしました。

閉店になり、レジを閉めて事務所に戻る時、社員のTさんに

「Mさんと一緒に居た男の人って、彼氏?」

と突然聞かれました。
どうやら、私が挨拶をしていたので知っているだろうと思ったみたいでした。

「いえ、なんか前のバイトの後輩とかって言ってましたよ?」

普通に私が答えると

「ふ〜ん・・・」

と何やら含みがあるような返事が返って来ました。
Mさんは派手は顔立ちの美人でした。
MさんはTさんよりも年上で、このスーパーでの経歴もTさんより長い事で、社員であるTさんとしては少しやり難い相手だったのだと思います。
Tさんは悪い人では無いものの、時々意地悪な噂好きな所がありました。
多分、この時も、男二人を連れて歩いているMさんについて、何か言いたかったのかもしれません。
ただ、私がMさんとも仲がよい手前、言わなかったように感じました。

女性が多い職場でも、それなりに上手く過ごす事は出来ましたが、やっぱり女の感情みたいなものは苦手でした。
更衣室でも、他のバイトの女性が「Mさんが男連れてた」というような話をしていました。
なんだかなぁ・・・と思いながら、私は無言で着替えました。
正直、私も男性のしかも年下の人と2対1で遊ぶMさんを見て、何も思わなかった訳ではありませんでした。
ただ、私は他の女性たちのように嫌味みたいな妬みみたいな感情ではありませんでした。
決して自分が成りたいとは思わないけれど、「なんか、カッコよくていいな」と素直に思いました。
Mさんは、私の憧れる女性でした。

着替えが済み、「お先に失礼します」と言って外に出ました。
するとそこに、Mさんが一人待っていて、

「お茶しに行かない?」

と誘われました。
私はてっきりMさんと二人で下の喫茶店にでも行くのだと思い、

「30分ぐらいだったら、大丈夫ですよ」

と答えました。

「じゃ、行こう」

と言ってMさんが歩き出した先には、あの白い車が止まっていました。

「え?どこ行くんですか?」

私が尋ねると、

「ここだと、社員とかが煩いからファミレス行こう」

とMさんが答えました。
どうやら、Mさん自身、他の女性たちが色々言っているのを感じて分かっていたようでした。

車に乗ると、当然、他の二人も居ました。
私はまた、後ろの座席に座って歩いても10分もかからない距離のファミレスに行きました。
Mさんの話によると、さっき買っていたお弁当を車で食べて私を待っていたと言うのです。
私は口には出しませんでしたが、「なんで私を待っていたんだろう?」とかなり疑問に感じていました。
御飯も食べ終わったのに、改めてお茶しに私を誘っていくという事が不思議でなりませんでした。
大学生の人たちにとって、高校生という存在はあまり接点が無く、珍しいからかなぁ・・・などと勝手に考えてみたりもしました。

普段、K先輩と食事したりする時のような緊張は、全くありませんでした。
正面に大学生の男性二人が座って居たので、私はようやく彼らの顔をまともに見ることが出来ました。
そこで、それぞれ、改めて自己紹介をしてもらいました。
運転していた人が私の二つ年上で、隣に座っていた人が私の四つ上で。
名前も聞いたのかも知れませんが、私はその後、覚えていませんでした。
印象としては、4つ上の男性は「大人の男性って感じだな」と思いました。
あまりよく顔を見ていませんでしたが、二枚目風に感じていたと思います。
その彼に比べて、運転していた二つ上の男性は、どちらかと言えば三枚目風で。
私は、二つ上の男性の方が親しみ易い感じがしました。

ただ、話すと言っても高校生の私とでは共通の話などはなく。
自然に私の学校の話しになっていました。
どうやら、学校の側に住んでいるのは4つ上の男性らしく、教師が通学路を見張ってるなどを見ているらしく、少しだけ盛り上がりました。
年上の人ばかりに囲まれての会話は、私よりも彼らの方が年下の私に気を使ってくれている感じでした。
それは、なんだか緊張するでもなく不思議な居心地の良さがあり、あっという間に門限の20時を回ってしまいました。

慌てて門限だからと言うと、歩いて帰れるのに車で送るよと言ってくれました。
私が食べた代金は、何故か大学生の人が御馳走してくれました。
そして、まだ、これから遊びに行くんだという3人に家の側でお礼を言って、車を降りました。

そして、家に帰り、遅いことで母親に少しだけ文句を言われ
「レジのお金が合わなかったから」
と嘘をついてやり過ごし、寝る前にK先輩のセーターを少し編んで眠りました。
翌日、友達のMと少しだけ帰りにファミレスに行ったという話をしました。
バイトに行った時に、Mさんにお礼も言いました。
その時、

「○○(二つ上の大学生)が、亞乃ちゃん可愛いなぁ〜って気に入ってたよ」

と言われましたが、「そうですかぁ?」と笑って流しました。
それはきっと、大学生が妹というか子供を見る感覚での言葉だろうと受け止めたのです。
私にとってはK先輩が居る事も勿論ありますが、大学生などは遠い大人の存在でした。
それに、大学生が高校生を相手にするとは全く考えなかったので、まともにMさんの言葉を受け止めませんでした。
そしてそのまま、すっかり彼らの事は忘れてしまいました。

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白い車
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M子と学校を出て100mも歩かない内に、前方に白い車が止まっているのが見えました。
高校生ともなれば、車持ちの彼氏が居る子も多く。
時々、誰かを待っているような車が止まっている事もありました。
でも、私の通っていた高校では、歩行態度が悪いと近所の住民から苦情が来る事もあったらしく。
学校から駅までの道を登下校の際に教師が巡回している事がよくあり、車に乗り込む所を教師に見付かっている子を見た事もありました。
その子は別の科の子で全く関わりの無い子でしたが、教師に目を付けられているような、目立つ子だったので、顔だけは知っていました。
その時の車も、やはり白でした。
車種などには全く感心が無かった私は、遠くからその車を見た時に、「きっとまた同じあの子の彼氏だろう」と思いました。

車に近づくにつれて、外に人が二人立っているのが見えました。
遠目でも、それは高校生には見えず。
どちらにしても、関係の無い事だと車の方を見るのを止めて、話しているM子の方。
車とは反対側を見ながら横を通り抜けようとしていました。

「亞乃っ」

女性の声で呼ばれ、驚いて通り過ぎようとしていた車の方を振り返りました。
そこには、バイト先のMさんと見知らぬ男性が立っていました。
白い車は、私を待っていたのです。

「えー?どうしたんですか?」

驚いて私が尋ねると、私の事を待っていたとMさんは言います。

「バイトでしょ?私たち、そっち行くから送ってくよ」

とMさんは車に乗るように言ってくれました。
私は、今、ここで車に乗るのを教師に見付かったらという思いと、Mさんが居るとはいえ、知らない車に乗ることに少し抵抗がありました。
下校時間なので、他の生徒もジロジロ見ながら通っていきます。

「え?でも・・・」

私が戸惑っていると、M子が

「私もいいですか?」

と言い出しました。
私にとってはMさんはバイト先の先輩でも、M子にとっては見知らぬ他人です。
彼女のちゃっかりした性格は知っていましたが、少々驚きました。

「いいよいいよ。ほら、早く乗んな」

Mさんにせっつかれて、
そうだ。ここでグズグズしてた方が先生に見付かるかもしれない。
と思った私は、前後の道を教師が居ないかどうか確認し、車に乗ることにしました。

車の後ろの席に乗り込むと、そこにはもう一人男性が居ました。

「お邪魔します」

その男性の顔もロクに見ずに私は挨拶をしました。
多分、その男性は「どうぞ」と返してくれたと思います。
Mさんは助手席に座り、もう一人外に居た男性が車の運転席に座りました。

車は、学校の方向に向いて止まっていました。
Uターンできる道では無かった為、一度、学校の方に走って周りをグルリと周るといわれ、私とM子は乗り込むとすぐに伏せるような格好で隠れました。
学校を周り、元歩いていた道を走っている時、少しだけ顔を上げて外を見ると。
車の止まっていた少し先の道に教師が学校に向って歩いて居るのが見えました。
車に乗る時間が少しズレていたら・・・
なんだか、とてもスリリングな事をしたような気分になり、楽しくなりました。

学校から大分遠ざかって落ち着いて来ると、Mさんがどうして学校の側に居たのかを説明してくれました。
男性二人は昔のバイト先の後輩で、その内の一人が学校の側に住んでいるとのことでした。
今日は3人で遊ぼうという事になり、ちょうど下校時間だからと私を待ってみることにしたそうです。
私の隣に居る男性の言葉使いから、その中でも運転席の人が一番後輩だという事が分かりました。
男性二人は、大学生のようでした。

私は、M子に比べて人見知りをする方で、相手が話し掛けてこなければ顔すら余り見ることもありませんでした。
さすがのM子も、あまり話をしませんでした。
年上相手に何を話して良いのか分からない感じだったのだと思います。
当然、私はこの時も、男性の顔を殆ど見ていませんでした。
私の隣には男性が座っていましたが、K先輩と居る時のようにドキドキしたり男性として意識するような緊張は、全くありませんでした。

でも、その距離の近さで、別の事が気になって仕方がありませんでした。
私は後部座席の真中という不安定な場所に座っていたせいか。
少しのカーブで体が揺れることで、隣の男性と腕が触れないようにかなり注意しなければなりませんでした。


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気になって仕方が無かったのです。

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勘違いしてもいいですか?
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思いがけないK先輩の言葉に、私は舞い上がりました。

「はいっ 私はいつでもいいですから。先輩も色々と無理しないで頑張ってくださいね」

嬉しくて嬉しくて仕方がありませんでした。

「おお。じゃ、お前もバイト頑張れよ。じゃぁ、またな」

K先輩はそう言って電話を切りました。
受話器を置くと、私は嬉しさが抑えきれず、手で顔を覆うようにして「きゃーっ」と声が外に漏れないように叫んでいました。

また先輩に誘ってもらえるんだ。
私に会ってくれるんだ。
私のこと、嫌じゃないんだ。
少しだけ、先輩に対して自信が持てた気がしました。

この喜びをすぐにでも誰かに言いたくて言いたくて仕方が無くなりました。
翌朝になれば会えるというのに、私はそのままRに電話をかけました。
電話に出たRは、家族と夕食の最中で、あまり会話の出来る状態ではありませんでしたが、私は一方的に興奮状態で報告をしました。
うん。うん。と聞いてくれたRは、最後に「良かったね。」と笑って言ってくれました。

家に帰っても、私の興奮状態は治まりませんでした。
頭の中では電話を切ってからずっと、

勘違いしてもいいですか?

という言葉がグルグルしてました。

一緒に居て、嫌じゃないんだと勘違いしてもいいですか?
並んで歩いても良い女だと勘違いしてもいいですか?
会いたいと思ってもらえる女だと勘違いしてもいいですか?
少しは楽しいと思ってもらえてると勘違いしてもいいですか?
好かれていると勘違いしてもいいですか?

その時の私はまだとても素直で。
「忙しい」と言う言葉を「大変なんだ」と素直に思う事ができました。
だから、余計に嬉しかったのです。
忙しい中で私と会う時間を作ってくれる。
それは、凄い大変なことなのだと思っていました。
だから、少しだけ。勘違いしてもいいんじゃないかと。
自分は特別なんじゃないかと。
そう、思いたかったのです。

少なくとも、先輩に嫌われてる訳じゃない。
そう自信が持てた事で、私は幸せな気分のまま次に先輩に会える日を楽しみに待てるような気がしました。
以前は、声が聞きたくて抑えきれずに電話をし、電話をしては自己嫌悪になり、不安になってはまた電話をしの繰返しでした。
上手く行かない事にイライラして、何度もK先輩をあきらめようとして電話をするのを止めたりもしていました。
でも、この日以降、電話も忙しい先輩の邪魔をしないようにかけませんでした。
かけないでいられる自分が不思議なくらいでした。
少しだけ自信が持てた私は、先輩が好きな私で不安もなく安定していました。

6月に入ってすぐ、久しぶりに先輩に電話しました。
バンドは辞めてしまったと言ってましたが、その代り夜遅くまでのバイトが入り、終電で帰宅する事も多いと教えてくれました。
私が電話をした日は、ちょうどバイトが無い日で、「タイミング良かったよ」と言われました。
また、しばらく電話もなかなか出来そうにない状況になってしまいましたが、タイミングが合ったという、それだけで物凄く嬉しくなりました。

一ヶ月後には、先輩の誕生日でした。
会えない間、何か作ろうと思い、翌日友達と相談しながら買物に行きました。
結局、冬にセーターを上げたからという理由で、サマーセーターを編むことにしました。
時間が沢山あったので、出来栄えが良くなければまた他を考えればいいやという気楽な気持ちで編み始めました。
私の頭は寝ても覚めても、K先輩で一杯でした。

先輩と電話をしてから3日後。
思いがけない事が私を待っていました。
その日は、クラスメイトのM子と一緒に学校を出て、駅に向って歩いていました。

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無理してない
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K先輩と映画を観た日の翌日。
バイトの帰りに私は先輩に電話をすることにしました。
あの後、先輩が途中の駅で別れて遊びに行ってしまったことをOに話しました。
彼女は

「どっちにしても、別に亞乃が嫌だからって訳じゃないと思うよ」

と言ってくれましたが、せっかくの慰めも私には一時の気休めにしかなりませんでした。

たった半日。数時間のデートの間に、何度もドキドキするような事がありました。
その先輩の言動は、どれをとっても私に好意があるように感じました。
勘違いしていいのなら、それは先輩に守ってもらってるような物凄い幸福感でした。
でも、自信が持てない私には最後の先輩の行動がどうしても引っかかりました。
最初から約束が会って言えずに、近くの駅まで送ってくれたのか。
約束などなく、あの駅で急に思いついたのか。
そのどちらかによって、自分が先輩にどう思われているかが分かるような気がしました。

会ってすぐに電話をするような女は、それこそしつこくて嫌われそうだという不安より、先輩がどう思ってるかを悩みつづける方が私にとっては苦痛でした。
だから、きっと心配してるだろうから、礼儀としてちゃんと帰りましたという報告をするんだという口実をつけ、先輩に電話をかける事にしたのです。

電話を掛けると、出たのはK先輩本人でした。
私は、電話をする間際になって、先輩が不機嫌な声を出したらどうしよう?とかなり怖気づいていました。
ドキドキしながら「もしもし」と言うとすぐ、

「おー。ちゃんと帰れたか?」

とK先輩から明るい声が返ってきました。
名乗らなくても、声でまた私だって分かってくれた。
それだけで、気持ちが物凄く軽くなりました。
これなら、どうして途中で行ってしまったのかを聞ける。
そう思った私は、それでも遠まわしに

「はい、無事帰りました。先輩もちゃんと家に帰ったんですか?」

と言いました。

「子供じゃねーんだから」

先輩に笑いながら言われて、私は物凄い変な聞き方をしてしまった事に気付き、「あ、すみません」と謝りました。

「あの後さ〜、ちょっとトラブって友達の所に泊まったんだよ。
 バンドの事とか色々あってさ。送ってやれなくて悪かったな。」

と、先輩は言いました。
昨日は家に帰ってないんだと知って、何故か分からないけどショックでした。
きっとあの後、バンドの仲間の所に行ったのだろうと想像はついたものの。
泊ったって、男友達?トラブルって、喧嘩したとか?
一瞬の内に色んな疑問と悪い方向の答えが頭を駆け巡り、

「いえ、私は大丈夫なんですけど。先輩の方は、それで大丈夫だったんですか?」

と思わず聞き返していました。

「あぁ、まぁ前からモメてはいたんだけど。色々とあってな。」

色々と・・・
その言葉に少し引っかかりました。
本当は先輩のことだから喧嘩になって怪我とかしてるんじゃないか?ということを聞きたかったのですが、なんとなくそれ以上は聞いてはいけない気がして、

「そうなんですか・・大変だったんですねぇ」

とだけ言いました。
先輩は何だか本当に悩んでいるみたいで、その後、少しだけ内情を教えてくれました。
そして、

「面倒臭せーから、俺が辞めちまおうと思って」

と言い出しました。
その言い方が、K先輩らしくて思わず私は笑いそうになりましたが、ふとそんな時に私と会ってて、先輩は無理をしたのでは?という疑問が湧いてきました。

「あの、もしかして、昨日の約束って無理したんじゃないんですか?」

私が聞くと

「いや、無理してないよ。俺、あの映画観たかったし」

という答えが返ってきました。
そっか。そんなに「映画が」観たかったんだ。
私はほっとしつつも、少しだけ凹みました。

「そんなに映画観たかったんですか?」

極力明るく笑いながら素直な感想として言ったつもりでした。
でも、後から考えたら無理して言ってるのがバレバレだったのかもしれません。

「え?」

と先輩に聞き返され、自分が嫌味っぽい事を言ってしまったのだと思いました。

「あ、変な聞き方ですね。すみません。
 あの、本当はバンドの方に行かなきゃいけなかったんじゃないかと思って・・」

慌てた私は、今さっき先輩に無理してないと聞いたにも関わらず、また同じような質問をしてしまいました。
でも、先輩は意味を察してくれたようで

「ああ。そっか。バンドの事は気になってたけど約束は無かったよ。」

と答えてくれました。

「なら、いいんですけど」

と私が言うと、

「映画誘ったの俺だろ?お前の方こそ無理したんじゃないのか?」

と、逆に聞き返されてしまいました。
私がしつこく質問したことで、何かあるんじゃないかと誤解されたのかもしれないと思い、慌てて私は言いました。

「いえいえ、私は全然。先輩に会えるのに無理なんかしません」

思いのほか、強い口調で思わず本音が入ってしまい、顔が赤くなるのを感じました。

「そんなにムキにならなくても・・・いや、それなら良かったよ。」

後から思えば、電話の向こうで先輩は戸惑っていたようでした。
でも、その時には、告白めいた事を口に出してしまった恥ずかしさで、頭に血がどんどん上ってきて、自分でも訳の訳の分からない状態になっていました。

先輩が私を誘うのに気を遣ったりして欲しく無い。
なんとかして、そうじゃない。私は嬉しいんだって伝えなきゃ。

そんな想いで頭が一杯になっていて、自分の口を止めることが出来ず、

「ほんと、誘ってもらって本当に嬉しかったです。有難う御座いました」

と半ば興奮気味に言ってしまいました。
言ってしまってから、慌てました。
こんな事言われたら、先輩はひいてしまうかもしれない。
頭の中で、もうダメだ・・どうしよう?どうしよう?と繰り返していました。


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バイトの先輩達
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K先輩と別れて一人で電車に乗りながら、私は自己嫌悪で落ち込んだり、今日を振り返ってドキドキしたりを繰り返していました。
家の側に着いた時間は、まだ門限の一時間近く前でした。
親にバイトだと嘘を行って出かけた手前、あまり早く帰宅できず、私はバイト先のスーパーに寄ることにしました。

私は普段、平日は学校帰りの制服のままバイトに行き、私服で行く土日は大半の人が入った後の午後からが多く、帰宅はバイトの中では一番最後でした。
買物もバイトの休み時間にバイト先の制服のまましていたので、私服で行った私を珍しがっていました。
バイト先には、その頃、ほんの少しだけカッコいいなと思っていた一つ上で、背の高い男の先輩が居ました。
滅多に会話する事は無かったのですが、その日は私が挨拶をすると
「びっくりした。印象違うから」
と言われ、少しだけ嬉しくなりました。

レジの側に行くと、社員の人に言われました。

「あれ?法事だったんじゃないの?」

私はK先輩のことで頭が一杯になっていて、すっかりその頃には自分が法事と嘘を付いたことを忘れていました。

「終って、一回着替えて来たんです」

多分、かなりたどたどしい言い方になってしまったと思いますが、内心物凄く焦りながら、なんとか答えました。
そして、この法事という嘘を考えてくれた友人Oのレジに並び、「終るの下で待ってるから」と伝えました。

バイト先では、私と同じ高校のOともう一人の三人が高3で一番年下でした。
年上の女性ばかりの環境は、末っ子の私にとっては居心地の良いもので、年上のバイトの人とも社員の人とも仲良くしてもらっていました。
その中で、特によく話をしていたのは、バイトで1つ上のCさんと5つ上のMさん。2つ上の社員のTさんでした。

各売り場のバイトは、主婦と男性の学生バイトでした。
その中には、子供の頃の同級生の母親が居たりしたのですが、男性は一人同級生がいるだけで、あまり接点が無く会話も殆どしたことの無い人ばかりでした。
ただ、一人だけ。
閉店間際に掃除用具を取りに行く場所にある売り場のバイト、Yさんとは世間話程度をする仲でした。
Yさんは、K先輩と同じ学年の私の一つ上で大学生で。
最初は、高2の冬にYさんの方から「寒いねぇ」などと話かけてきてくれて、それから少しずつ話をするようになっていました。

Oを待っていると、そのYさんがバイトが終って通りかかりました。
挨拶すると近づいてきて

「今日、休みだったの?」

と聞かれたので

「実は、内緒なんですけどサボりなんです」

と答えました。
そういう事も気軽に言える雰囲気をYさんは持っていて、気さくなお兄さんという感じでした。

「おー、社員の人に言いつけてやろ〜」

からかうようにYさんに言われたので、

「いいですよ?Tさんと話できるんですか?」

と聞き返しました。
Yさんは以前、社員のTさんに怒られた事があり、それ以来苦手になったと言っていました。

「いや、俺、無理だわ」

案の定、Yさんは笑って言い、お疲れと言って帰っていきました。

Yさんが帰った後、同じ一つ上なのに、どうしてK先輩とはこんな風に会話が出来ないんだろう?とまたいつもの繰返しの自己嫌悪に陥りました。
そこに、今度は5つ上の女性、Mさんが通りかかり、私を見つけると近づいてきました。

「お疲れ様です」

と声を掛けると、

「亞乃、今日、サボったでしょう?」

と笑いながら言われました。

「ええ?なんで知ってるんですか?」

と思わず聞き返すと

「あ、やっぱりそうなんだ。その格好、どう見てもデートじゃん」

とさすが年上だなぁと思えるスルどさでMさんに指摘されました。
そして、相手は誰よ?とふざけ半分で聞かれたので、私は正直に

「好きな人なんですけど、私のことどう思ってんのか分からない相手なんです」

と答えました。
Mさんは、

「ふぅん。彼氏じゃないんだぁ?てっきり相手居るかと思ってたのに」

と意外そうに言いました。

「そういう風に見えます?」

と私が聞き返えすと、

「あの(同じ高校のバイト)3人の中で、亞乃が一番大人っぽく見えるし」

とMさんは答えました。

「え?Oの方が落ち着いてません?」

私の中では、私よりも数段Oの方が大人だと思っていたので聞いてみました。

「ああ、Oね。あの子は、確実に彼氏居るでしょ。」

このMさんの答えを聞いて、大人の女性の勘は凄いなと思いました。
3人の中で彼氏が居るのはOだけでした。
でも、Oは他のバイトの人とも社員の人とも話す方では無かったし、Mさんが知ってるハズも無かったのです。

「ええ?なんで、分かるんですか?」

私は思わず驚いて聞き返すと、

「女かどうかぐらい、見てれば普通、分かるってぇ」

とさらっとMさんに言われ、なんだか私が恥ずかしくなってしまいました。
ということは、私も他の人から女かどうか分かられてしまっているんだろうか?
そう思うと同時に

「え?じゃぁ、私ってどういう風に見えてるんです?」

と聞いていました。

「亞乃は・・・どっちかなぁ?って微妙なとこだね」

微妙っていうのは、どういう感じだろう?と私は更に疑問になりました。
でも、今の会話で少なくともMさんには、私がまだ女じゃないと分かられたような気がしました。
でも、キスぐらいは・・・と思われているような、そんな雰囲気も感じました。

この時が、MさんにK先輩のことを話した最初でした。
この会話から約一ヵ月後。
MさんによってK先輩への想いが変わっていくような事があるとは、全く思いもしませんでした。


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自己嫌悪
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帰りは、なんだか、微妙な空気が流れていたように思います。
映画の感想を気安く話せるような、そんな内容では無かったからなのかもしれません。
多分、二人とも意識して避けていました。
私は逆に、別の意味で先輩を意識してしまって、余計に喋れなくなっていたのかもしれません。
記憶がかなり曖昧ですが、多分、駅の側の店で早い夕飯を食べました。
私が頼んだのはグラタン。それも、1/3は残した記憶があります。
帰りの電車では、座る事が出来ました。
先輩はまもなく居眠りをしだし、私は外の景色を見ているフリをしながら、窓に写る先輩を見ていました。
このまま地元の駅についても、門限まではまだ時間ありました。
駅に着いてしまったらどうするんだろう?
それで、バイバイになっちゃうのかな?
もっと先輩と一緒に居たいと思っていました。

地元の駅まで後2駅の電車の乗り換えの駅に着くと、

「おー、俺、寝ちまったよ」

と先輩は言いながら軽く延びをしました。そしてホームに降りると急に、

「お前、こっから一人で帰れるか?」

と聞きました。
まだ一緒に居られると思っていた私が戸惑っていると、

「まだ早いからさ、俺、これからちょっと○○(地名)に行くわ」

と言いました。思わず、私は

「え?これからですか?」

と聞き返してしまいました。
先輩は少し笑ったような表情をして

「(乗り換えの)ホームまで送るか」

と独り言のように言いながら歩き出してしまいました。
ホームに上がる階段の下に着くと先輩は足を止めました。
私もその場で立ち止りかけた時、先輩に腕を掴まれ引っ張られました。
多分、他の通行人の邪魔だったのでしょう。
私はまた失敗したという恥ずかしさと、先輩との距離の近さにドキドキしました。
「すみません」
と言い俯いたままの私に対し、先輩は何も答えませんでした。
腕を掴まれたまま、じっと見下ろされているような気配を感じました。
ほんの2-3秒の事だったのかもしれませんが、私はその状況に耐え切れず、階段の上を見るフリをして顔を上げました。
視界の端に先輩の顔がありました。

私が顔を上げると、先輩の手が離れました。
私は、先輩の方に顔を向け、

「あの、今日は本当に有難う御座いました。」

と言いました。
先輩は心なしか我に返ったような表情をしたように思います。

「あ・・あぁ、ごめんな。」

先輩に謝られ、それが何の事なのか分からず、「え?」と聞き返すと

「いや、まぁ・・な。一緒に帰ってやれないしさ」

と先輩は答えました。
先輩は、もしかして映画の事も言ってるんだろうか?
そんな事を感じながらも私は

「大丈夫ですよ。電車ぐらい。先輩も気をつけて行ってきて下さいね」

と、これから遊びに行くだろう先輩に、変な日本語でいってらっしゃいを言ったつもりでした。
先輩は「それ、逆だろ。」と言って笑いながら

「じゃぁな。お前こそ気をつけて帰れよ。また、連絡して。」

と私の背中を押すようにしました。
私は、階段を上がる自分を先輩に見送られるのが嫌で、

「先輩、先に行って下さい。私は階段上がるだけだし・・」

と言いました。
先輩は独り言のように「見送るのは男の役目なんだけどなぁ」と言った後、

「じゃ、行くわ。またな」

と言って、元来た道を一度も振り向かずに引き返して行きました。
私は先輩が見えなくなるまで見送り、ホームに上がりました。

先輩がこらから出かける予定というのは、最初から決まってたんだろうか?

帰りの電車に揺られながら、そんな疑問を感じました。

最初から決まってたなら、会った時に言ってくれてもいいはずだし。
もしかしたら、私と居てつまらなかったから早めに切り上げて出かける事にしたのかもしれない。
駅について、急に思いついて言い出したのかもしれない。
でも、「一緒に帰ってやれないから」って申し訳無さそうに先輩は言ったし。
だとしたら、予定は決まって居て、私に言い出せなかったってこと?
だから、映画館の側で別れた方が先輩にとっては行き易かった場所なのに、ここまで一緒に来てくれたっていうこと?
わざわざ、私を送る為だけに?

私には、先輩が何を考えていたのか答えが出せませんでした。
自分が詰まらない女と思われていたのかもしれないと思うと、心が落ち着かなくなりました。


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自己嫌悪に陥りました。

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人物紹介
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[亞乃]私

[K先輩]
一つ上の同じ中学出身の先輩。
中学2年の秋に告白され、翌年4月に先輩が高校に入って振られる
私が高校に入学してから再会
その一年後に再び再会し、それから片想いのまま、ずっと憧れの存在。

[R]
同じ中学から同じ高校に入学し、仲良くなった友人。
3年間、同じクラスにはならなかったけど、ずっと何かと一緒だった。
とても綺麗な子で一緒に歩いていると男性が振り返る事も多く、高校時代はよく他校の男子生徒に告白され、断り続けていた。

[O]
同じ高校だけど科が違うので学校での接点はなかった。
高2の秋から始めたバイト先で仲良くなった友人。
知り合った頃には彼氏が居て、とても落ち着いた雰囲気の子。

[M子]
高校のクラスメイト。家が近所で高2の秋から一緒に通学していた友人。
不思議な雰囲気で良く食べる子という印象。何気にモテてた。

[Y美]
高校のクラスメイト。高3の4月に、Y美の紹介でM君に会った

[K子]
高校のクラスメイト。M先生と付き合っていた
何をするか分からない感じの子。

[Aさん]
高2の夏までバイトをしてた店で知り合った4-5歳年上の男性。
実家が近所で、一度家まで送ってもらった事がある。

[Yさん]
高2の秋から始めたスーパーのバイト先で知り合った一つ年上の男性。
バイト先の男性の中では、唯一気さくに話せる存在。

[Mさん]
高2の秋から始めたスーパーのバイト先で知り合った5歳年上の女性。
美人で気さくで勘の鋭いお姉さん的存在。

[多田さん]
Mさんの前のバイト先の後輩。
4歳年上の男性で、出会った当時は大学生。高校の近所に住んでいた。

[タグチさん]
Mさん、多田さんの前のバイト先の後輩。
2歳年上の男性で、出会った当時は大学生。

[Tさん]
高2の秋から始めたスーパーのバイト先の社員の女性。二つ年上。
ちょっと怖いけど、私には親切にしてくれた女性。

[Cさん]
高2の秋から始めたスーパーのバイト先で知り合った一つ年上の女性。
徐々に会話が増え、バイト先の先輩の仲では一番の仲良しに。


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「恋愛履歴」 亞乃 [MAIL]

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