みちる草紙

2004年12月20日(月) 日本のお巡りさん

無事に帰宅した友人から、電話があった。
昨夜のうちに品川駅所轄の高輪署に通報し、刑事に詳細を話したと言う。

『実害がなかったからどうかな〜とは思ったんだけど、ちゃんと聞いてくれたよ』

刑事の言うには、
今回の二人組は間違いなく危険な不法滞在者だろうが
その(火を借りる→写真撮影を迫る)パターンはまだ聞いたことがないから
新たに報告を上げ、直ちに品川駅周辺交番や近隣署に緊急配備を促し
夜間の駅の巡回を強化する。
今後、もしまた挙動不審な外国人を見かけたら
特に被害はなくとも、ためらわず是非、110番通報して欲しい。
凶器を持っている恐れがあるのでくれぐれも注意して。
仮に何もしていなくとも、どうせ不法滞在者だろうから身柄を拘束することは出来る。
最後に、
今回の通報、誠に有難い。今後の捜査対象としたい。
被害を未然に防ぐことが出来て、非常に良い対応をされた。

と、大体このような回答であったそうである。
これで警察のケースブックに、小さいが新たなデータが加えられただろうか。

「警察が話をまともに聞いてくれて、良かったねぇ」

『俺もなぁ、有事なんだから電車の中だろうとすぐ通報すりゃ良かったよ』

「うんまあ… でも何も盗られてないと、普通は通報も躊躇するよね。
 その日のうちだったから良かったじゃない」

『そう、そう言ってたよ。
 皆さん、何もされてないと通報しないものなんですよ、
 でも構いませんから、怪しいと思ったらすぐ110番して下さいね、
 どうせ不法滞在者だから、それだけで僕ら身柄引っ張っちゃいますから、って。
 声の感じは若そうだけど、しっかりした刑事さんだった』

「もしかしたら、やつら、まだその辺でウロウロしてたかも知れないし。
 今回不首尾に終わったから、性懲りもなくまた現れるんじゃない?
 放っとけば、別のお人好しな人が引っかかってたわよ」

脱線するが、アタシは過去2回、110番通報した経験がある。

一度目は杉並に住んでいた頃。会社帰り、不審な車にピッタリ尾けられた時である。
道の脇に寄って先に行かせようとしたが、その車は追い抜こうともせず
アタシの自転車の速度に合わせ、依然つかず離れず後ろをついてくる。
「こいつ!怪しい!」
ガッ!と首を振り向け、ナンバープレートを見ると、車はピタリと停まった。
そのまま一目散に家に帰り、すぐさま110番通報!
しかし意に反して、電話に出た警官の対応は不誠実だった。

『そういう時は、細い路地に入るとか、まあ逃げ道は幾らでもある訳でね』

ああ、このお巡りさんやる気ないなと思った。
ナンバーを告げても何も答えず、控えている気配すらない。
警察は、何かことが起こってからでなきゃ動かないというからなぁ。
パトロールさえしてくれないのかと、失望と苛立ちのうちに電話を切った。

二度目は、去年か一昨年のこと。
買い物の帰り道、繋がれていない中型犬が、道の真ん中でワンワン吼えていた。
アタシは小型でない犬全般が怖いので、袋を提げたまま、その場に凍りついた…!

『しっしっ、ほら平気だよ、早くおいでよ』

「いやあ!その犬追っ払ってよ!(怒)」

『こんなの怖くないよ、犬の方だって人間が怖いんだから』

「犬って、男は怖くても、女子供のことはナメるでしょ!」

家に着いて、友人がタバコを買いに出た時に110番した。
保健所に報せるのは可哀想だし、かと言って、あんなに吼えまくる犬を公道に放して
知らん顔しているような、なってない飼主はお巡りさんに叱ってもらわないと。

帰ってきた友人が

『さっきあそこにパトカーが停まってて
 “犬がいるって通報があったんですけど” と呼びとめられたよ』

「ほんと?お巡りさん、ちゃんと来てくれたんだ?(゚∀゚)」

『やっぱりお前か!』

友: ああ、あの辺にいますけど、別に大したことないですよ。
   中型犬が綱切って逃げて、道で吼えてるだけですよ。

警: いや〜だけど、通報があった以上は無視出来ませんからねぇ。
   犬が怖いと言う人もいますから。

友: 僕個人は、犬が好きですけどね。

警: 私も好きです。

「なんでわざわざ、大したことないですよなんて言うのよ!
 どっかの不届きな飼主のせいで、人が襲われるかも知れないじゃないの(怒)」

『襲ったりなんかしないよ、あんな小さい犬が』

「いーや、小さくなんかなかった。柴犬くらいあった」

警察が、日々寄せられる通報の対応に忙しいのは、よーく分かる。
中には、以前のアタシのように
『お宅の小さな問題にだけ係わってられないんだ』とばかり
けんもほろろに突き放され、泣き寝入りする人だって大勢いるだろう。
そうして、些事と見られ弾かれた出来事が、大事件に発展することが結構ある。
警察を動かすには、取りこぼされた無念の犠牲の積み重ねが必要だなんて。
そんなのあり?

近年、日本警察の検挙率が落ち、欧米や韓国に実績で到底及ばないと聞いた。
日本のポリスマンは世界一優秀だと長年信じてきただけに、悲しい。



2004年12月19日(日) NOと言うべき日本人

ついさっき友人を送り出したと思ったら、間もなく当人から電話がかかってきた。
『めー?今、品川駅なんだけど…』
声をボソボソ潜ませているので、忘れものでもしたのかと思ったが、違った。

彼が言うには、キャスター付きバッグを片手にホームで電車を待っていたら
中東系の外国人が近づいてきて、火を貸してくれと言うので何気なく応じたのだそうだ。
するとその中東人は何を思ったかカメラを取り出し、一緒に写真を撮らせて欲しいと言う。
不審に思った友人が
『は?何?俺に写真を撮って欲しいのか?』
と訊ねると、いや、あなたと一緒に撮りたいのだと、その男はやはり奇妙な依頼を繰り返す。
そんなやり取りをしているところへ今度は黒人の大男が現れ、これもライターを貸せとくる。
直感的に怪しいと感じた瞬間、その二人が素早く目配せを交わしたのを見逃さず
『NO!NO!分からない!』
と強く拒否すると、二人組は早足でその場を離れ、柱の陰から様子を窺っている。
友人は電話で通報するふりをして、取りあえずアタシにかけたのだそうだ。

『変だろう?相手は外人だから、なんか気味が悪くてなぁ』
「火を貸したくらいで何のために写真なんか撮らせてやんなきゃなんないのよ。
 それ絶対怪しい!駅のホームで外国人スリ集団に囲まれて財布取られたとかいう記事を
 さっき読んだばっかりよ。そういう類のやつらじゃないの?何も盗られなかった?」

アタシが興奮してまくし立てている間に電車の発車時刻になったので、彼は一旦切ったが
しばらくして、車内からメールが届いた。
車掌室の隣の車両に乗り込むと、二人組は彼の前を過ぎてグリーン車を駆け抜けて行った。
切符の改札に来た車掌に『怪しい外国人がいるのでマークしてくれ』と告げると
車掌は車内を一巡し、それらしい連中が乗車していないことを確認してくれたと言う。

やつらがただでは起きず、しくじった腹癒せに車両に爆弾をしかけないとも限らない、
目的地に着くまでは、決して油断しないように、
駅に着いたら、改めて駅員室と交番に寄り、情報提供をしておくべきだ、
用心のため自宅までタクシーを使うか、何ならお巡りさんに送ってもらうかするように、
…云々と書き送る。

二人の外国人が時間差で現れては、代わる代わるにライターを借りる行為も不自然なら
その上、ホームで会っただけの人間に写真まで撮らせろとは、益々もって不可解である。
だが、その写真は一体何のためなのか?それは単なる小道具なのか。

きっと彼がカメラを受け取ろうと手を放した隙に、バッグをかっ攫う算段だろうな。
持ち物をガメてカードや身分証明書類を悪用する際、万一怪しまれた場合に備えて
仲よさげに撮った写真を予め用意し、さも親しい知人に託されたかの如く偽装するつもりか。
ビザが切れてカネに困った不法滞在の素人か、窃盗常習の組織かは不明だけれども
連携シナリオのお粗末さ加減からすると、前者のように思える。
捜査の手が回る前に首尾よく運べば、住民票のない彼等は、容易く雲隠れ出来る。

連中も今日のところは一旦出直すかも知れないが、いつまた別の被害者が出ることだろう。
第一、相手が外国の二人組というのが不気味だ。どんな武器を持っているか知れたものか。
うかうか乗せられて眠らされイラクに拉致られ、アルカイダの人質になんかなっちゃったら…
そもそも写真というのも、誘拐ターゲットを仲間に認識させる資料かも知れないではないか。
世間知らずな日本人の想像に限界があっても、どんな可能性だって否定出来ない気がする。

さまざまの思いがよぎる中、彼の母親に電話をし、ことの次第をおおまかに伝えた。
大体1時頃にはそちらに着くと思うが、遅くなるようなら確認の電話をしてみて欲しい、
本人にも、駅に着いたら念のためお母さんに電話を入れるよう言っておくから、と。
何と言ってもこちらは、友人が無事に帰宅するまでは安心できない。
よもや刺されはすまいか、電車がテロに遭ったなんて速報が出はすまいかと…。

『起きてた?』
日付が変わった頃、友人から、無事駅に到着したと電話が入りホッとする。

「良かったねぇ〜!お母さんに電話した?駅員さんに言った?交番には寄った?」
『いやまだ。車掌さんがちょうどここまでの乗務だったみたいで、業務日誌で報告を
 上げておくと言ってた。スリか置き引きだろうって。今多いそうだよ、そういうの。
 駅によくいる日本人の集団置き引きだったら、栄養失調みたいなのばっかりだから
 怒鳴りつけたら逃げてくような手合いだけど、外人は身体もデカイし、怖いよ』
「電車が爆破されたらどうしようかと、もう気が気じゃなかったわよ」
『まさか、そんなこと出来るようなやつらでもないだろ』

友人は、ひとまず災禍が過ぎ去ったもんで、余裕を見せて呑気なことを言う。
アタシも、今回のは精々こそ泥レベルだろうとは思うのだが
どの程度の悪党だか、真相は捕まえてみないと分からないのである。

「これは駅員だけじゃなくて警察に言わないとだめよ。鉄道警察隊?とか居る訳でしょう。
 警備を厳重に強化してもらわなきゃ!」
『警察に電話するのは明日にするよ。夜中は警備だって手薄だろうから』
「そんなことないわよ。終電なんか特にスリや酔っ払いが多いじゃない」
『ああ、それもそうだな』
「二人組の人相や身体的特徴をこと細かに告げてさ。アタシが一緒に居たんなら
 似顔絵でも描いて出してやるんだけど。警察だってめくら滅法に巡回するよりは
 手がかりを頭に入れておけばアタリつけて見張りやすいだろうし。早い方がいいよ」
『うんそうだね、すぐ品川駅の所轄の警察署を調べて電話するよ』

外国人による犯罪が増えたのは知っていても、知人が実際こういう出来事に遭遇した
というのは衝撃であった。テレビや新聞で見聞きする物騒な事件が、急に身近になった訳だ。
一般に、日本人は楽観的で危機意識が薄く、海千山千の外国人に狙われやすいらしい。
とは言え、ここは海外ではなく日本本土。もはやその事実さえピンとこなくなってくる。
友人は用心深い性質で、運よく難を逃れたが、何とも危ない体験をしたものである。



2004年12月18日(土) バーゲン初体験記

酉年生まれの女の子は羽重ねと言って、衣装持ちになると言われている。
つまり来年の年女。けれどアタシにはべべがない。殊にこの冬は一着も…(涙)

友人の知人が招待状をくれたので、某洋服ブランドの社販を見に、原宿へ出かけた。
最近、太ってきたあまり手持ちの服が入らなくなったことは、既にご存知のとおり。
特に先日、コートがきつくて、通院の際に着て行くものの予定変更を余儀なくされてから
いよいよ最小限の衣服を買い整えなければならないと、今回切羽詰っての買い物である。
通常販売価格の3〜5掛で買えるとあって、何はさておいてもこの冬のコートだ。

竹下通りを迂回し、駅から10分ほど歩いて会場に着くまでに、目的地方向からやってくる
大きな袋を提げた人々と何度も行き交う。へぇ、みんなあんなに買ったんだ?

入口で招待状を回収され、くたびれたどでかいビニールの手提げ袋を渡された。
予想通りの大変な混雑の中、そこいらで試着しまくる女性の群れを掻き分けて
コートのコーナーへ向かったが、通り抜けもままならない人口密度にはやうんざり(´ヘ`;)
「暑い〜。ねえ、買うものをこの袋に入れてけばいいの?」
『ああ、そんなにたたまないでいいから、丸めてどんどんぶち込むんだよ。
 何だ、お前バーゲン慣れしてないな?』
「うん、バーゲンって生まれて初めて。だっておばちゃん達が必死の形相で
 一枚の服をド迫力で引っ張り合うイメージがあったから、今まで敬遠しててさ…」

伴って来た元洋服屋の友人に助言されながら、これはと思うものをハンガーから抜き
一着一着羽織ってみる。そこで愕然。Mは勿論、Lサイズがきついのだ…)゚0゚(ヒィィィィ!
『お、それかっこいいじゃん』
「あの… でもちょっときつい… 肩の辺りが…(ToT)」
『・・・まぢ?Lで?』

これはマズイよ。由々しきことよ。もしかしてここにアタシの着られるものはないワケ?
「あっこれすごいステキ♪着てみよっと♪」
『あの〜。ちょっと… この辺(ウエスト)がパンパンだけど…』
「げげ!やっぱり?(ToT)」
なんでやねん。。。昔は5号ですら入ったのに。。。

あれこれ脱いだり着たりしているうちに、最初はオズオズ遠慮しながらだったのが
次第に大胆なとっかえひっかえが出来るようになってきた。やっぱりアタシも女なんだ(汗)
混ぜくり返した挙句、レッキスラビット毛皮の洒落たハーフコートを見つけた。
おお!これが噂のレッキスの手触り!色と言い光沢と言い、やっぱり違う!
何がって、うちの紋次郎のショボい毛並みとはまるで違うのよ!(もん、ごめん)
「あっピッタリだ!しかもこの値段!これアタシのーー!」
ベージュと黒の色違いで同じ形の毛皮を2着、ほくほくと袋に詰め込む。

『そんな慌ててしまわなくたって、LLなんか誰も取りゃしないよ…』
何だと?でもそう言われてみれば、客層は細身の女の子が目立つような(-_-;)
『それにお前、うさぎ飼いのくせに、うさぎの毛皮なんか買っていいのか?』
・・・・・・Σ( ̄ロ ̄;) そっそれとこれとは… 私は鬼畜なのだろうか?

黒い別珍のロングコートは少しきつめだったが型に惚れ込み、このくらい痩せてやるわいと
悲壮な決意で袋に入れようとすると、店員がツイードのコートに値引きシールを貼っている。
「すみませ〜ん♪これにも貼って下さ〜〜〜〜い♪」
『あっ、それは今、店舗展開中の1点しかないものなので、ちょっと…』
「だめ?じゃあこれは、この値札通りってこと?」
『いいえ、そのお値段の60%引きになります』
「あそう?そんなら買う♪(゚∀゚)v」

その日は結局、たった35,000円で、コートばかり4着もゲットしたのだった。
一番嬉しかったのは、ラクーンの毛をフサフサあしらった89,000円のメンズブルゾンが
大破格の3,000円で買えたこと。因みにこれはSサイズですよ(^_^;) 男ものだから…。
いやぁ、良いものを安く買えるって、本当に何て素晴らしいことなのでしょう。
車で来ていたら、勢いでこの倍の量を買い込んでいたかも知れない。危ない危ない。

帰り道ふと、バーゲン会場に居た間に、完全な別人格と化していた自分を思った。



2004年12月16日(木) 飼いうさぎに手を咬まれる

今朝から2度も、紋次郎に咬み付かれた(-"-;)

そりゃ、一度目はアタシが悪かった。
もんがトイレで用を足しながら、首をよじってこちらを見ている顔があんまりかわいくて
アゴの下を撫でてやろうと、つい、柵の間からひとさし指を入れてしまったのだ。
やつは食べものとでも勘違いしたのか、即ガブリとかぶりつきやがった。手加減なしに…。

二度目は、ついさっき。
草を追加してやる時、側にあったおやつの器を、邪魔なので脇に寄せようとして
カチンと音を鳴らしてしまった。あちゃっ☆と思ったがもう遅い。
ただでさえ耳の良いやつは、即!反応し、ピューッと跳び出てきてアタシの手首をガブリ!
何だ!どこ見てんだお前は!!…器から手を放す隙もなかった。

       

痛みと同時にカーーーーッと怒りがこみ上げ、「このヴァカ!」
思いっきりお尻をぶつと、やつはびっくりしてパパイヤを取り落とし、ケージに跳び込んだ。

ぷりぷりしながらイソジンで消毒したけど、血が滲んで疼く傷口は抉ったような歯型がつき
周囲は赤く腫れてきている。これからお風呂に入るのに、とうとう両手に絆創膏だ。
今日という今日はもう、かわいさあまって憎さ100倍!!(-_-メ)
お仕置きに、大好きなヤクルトと乾燥パパイヤはお預けだよ。ふんっ!

ったく!こんなことなら昨日、観光もせずに急いで帰って来てやるんじゃなかった(激怒)
やれハゲたの腹壊したのと、どうもかわいがり過ぎたのがいけなかったかなぁ?
今も、自分のしたことなんかどこ吹く風でうんこしている、もんの涼しい顔が憎たらしい。

          むぎゅ〜!
          



2004年12月15日(水) ロマンスカーに揺られて

昨日のうちに熱海の知人宅に泊まっていたので、今朝の来院は楽ちんだった。
週間予報では、今週はずっと晴れると聞いていたのに、今にも降りそうに曇っている。
熱海〜湯河原間は在来線でひと駅。駅から送迎バスに乗り、1ヶ月半ぶりの病院へ。
入院したのは新緑の頃で、真夏の退院時も周囲の山には青々した葉が生い茂っていたが
それも今では紅葉の時季を過ぎ、落葉を待つばかりの寒々と冬枯れた色になっている。

予約より1時間ほど早く到着し、すぐに放射線撮影室でレントゲンを撮った。
仕上がりを待つ間に、かつて同室だった老婦人に出会う。
何でも8月末に一時退院したのだが、1週間で再入院して現在に至るとのこと。
骨盤の骨が折れ左右の足の長さが違ってしまったそうで、片方の足に上げ底の靴を履いて
車椅子に乗っていた。お年がお年だけに、その姿は何だか痛々しい。
『でもね、年末には1週間ほど家に帰れることになったんですよ』
相変わらず優しい声でこう話すこの方は、作家の住井すゑや画家の永田萌とご親戚。
萌さんのサイン入りの画集を何冊かいただいたりしたのに、未だ何もお返しをしておらず
ずっと気になっていた。せめて拙い年賀状をお出ししよう(^_^;)

彼女と別れて、今度はジャイ子さんに声をかけられた。天を突くような巨体の女性で
毎晩大鼾で悩ませてはくれたが、至って人当たりの良い、気さくな性格の人である。
彼女も再入院後、水の溜まったひざの手術に自骨を使い、入院は3ヶ月に及んだと言う。
若年者の場合は人工関節ではなく自骨を使うのが普通なのだが、治癒に時間がかかる。
今日は、アタシと同じく外来で来たそうで、既に杖ですくっと立って歩いていた。
『息子も一緒に来てるんですよ』
そう言えばさっき、ひと目でジャイ子さんの子供と分かる大柄な男の子が歩いていたなぁ。
つくづく良かったと思うのは、内臓疾患で入院したのではないということだ。
怪我であれば日柄もの、こうしてやがて良くなり、皆と元気に再会することも出来る。

今回は、珍しく予約時間内に名前を呼ばれ、スムーズに診察が終わった。
主治医は手術前のレントゲン写真を取り出し、骨折箇所を改めて指し示した。
なるほど、斜めに入った亀裂のところで骨は横にスライドし、完全に折れている。
あたかも日本刀でスパッと薙いだ竹が、横にずれる僅かな一瞬のようである。
それが今では、継ぎ目も分からないほど、見事元通りにくっついているのだ。
プレートを固定するスクリューは5本。4本は垂直に、1本は斜めに頚骨に埋まっている。
くっきり写し出されたスクリュー螺子の細かなギザギザが、機械の身体を意識させる。
『順調ですよ。良かったねぇ』
「ありがとうございます。本当に先生のお陰です」
心から、そう礼を述べずにいられなかった。
抜釘術の前にあと一度だけ、2月23日に再診することになった。
本日の診察費、1,050円也。保険適用とは言え、もんのラビットクリニックより遥かに安い。

タイミング良く、帰りも送迎バスに乗り込むことが出来た。
これであと2ヶ月以上、この病院に来ることはない。
3月も間近いその頃には、今より日も長くなっているだろう。
もんの毛皮のような色の山々に見送られながら、少し名残惜しいような気がした。

今回、行きも帰りも急ぐ旅ではないので、小田急ロマンスカーでのんびりの往復だった。
小田原駅で干物でも買って行こうと思ったが、流石にどれもいいお値段なので
昼食をとったあと、ウロウロ迷っているうちに時間がなくなってしまった。
土産もの屋でちらっと見かけた天むす、やっぱり買っておけば良かった〜(T_T)

家に着くと、大量に入れておいた牧草をすっかり食べ尽くして、もんが待っていた。
この分じゃこいつを残して家を空けられるのは、やっぱり1泊が限度だな。



2004年12月12日(日) ピアニスト映画

夕食を終えて、テレビを点けたら“戦場のピアニスト”という映画を放映していた。
もともと映画は好きだが、どちらかと言えばクラシック寄りな方で、最近の映画は
あまり興味がなく、殆ど観ていない。よって若手ハリウッド俳優の名も碌に知らない。
そもそも、ボキャ貧配給会社が適当につける、邦題の絶望的なセンスが
或いは食わず嫌いの原因かも知れぬ。
大体“何とかのピアニスト”というタイトルのものが複数あってどれがどれやら、みたいな。

本作は監督がロマン・ポランスキーだというので、先ず連想してしまうのは
確かアタシが生まれた年に起きた、シャロン・テイト(女優、彼の妻)惨殺事件である。
ポランスキーの手がけた作品のタイトルは知っているが、1作も観たことはなかった。
今日も終いの方しか観ていないため、精々ホロコースト映画なのか?ということしか
分からなかったが、青白いポーランド人青年シュピルマンが、ゲシュタポの迫害を逃れ
廃墟に残った食料を漁りながら逃げ隠れ惑う姿が、先日昼寝中に見た悪夢と重なり
ハラハラと息詰まるような気持ちで成り行きを追った。

印象に残ったのは、一流ピアニストとしての貴公子然と澄ましたシュピルマンと
飢えと恐怖によって餓鬼のような乞食と化した、浅ましい姿のシュピルマンとの
イメージのギャップ。
彼に情けをかけた奇特なドイツ人将校は、恩返しの期待空しく、戦後戦犯収容所で死に
将校に救われたシュピルマンは、その後50年余りを生き天寿を全うしたということ。
しかし、やはりどうも全編を通して観ないことには、感想らしい感想は述べられない。
DVDを買ってまで観たいという作品でもないが、近所にレンタル屋がないので
2時間半をノーカットで観る機会が、果してあるかどうか…。

同様に、消化不良の心残りのある映画に、アンジェイ・ワイダ監督の“悪霊”がある。
これは、ドストエフスキーの原作を読んだのが後だったために、映画を先ず観た時は
登場人物同士の絡みや複雑なストーリーが、今ひとつよく飲み込めなかった。
これは多分に、当時の知的成熟度や考証の未熟さもあるだろう(未だにそうだけど)。
原作の長編を読了後、それぞれのシーンを思い出しては改めて意味を理解したので
是非もう一度最初から観直してみたいのだが、これも機会を逸したままに十数年が経過…。

BSの受信契約をした方が早いかもな〜(^_^;)



2004年12月08日(水) 風神乱心?

土曜、日曜と、実に気持ちの悪い生暖かさが日本列島を包んだ。

『台風が近づいてるらしいよ。そのうち抜けて温帯性低気圧に変わるそうだけど』
「なに!? また台風?今12月よ?何かの間違いじゃないの?」

師走にあるまじき蒸し暑さ。クリスマスが近いんだぞ?もうすぐ年が明けるのよ?
渋々のように雨戸を閉めたが、この時季なら当然ミゾレか吹雪でなければならないのに
あの生ぬくい暴風雨は、確かに台風と呼んでも差し支えなかろう。
10月に2度も台風が上陸したのは、何十年ぶりだとか聞いたように思うが
今度という今度は本当に、何か天変地異の前触れではないのか。

月曜日、もんを日向ぼっこさせにベランダに出すと、昨晩まで降り続いた雨が
日差しを受けて気化する、もわっとした湿気に包まれた。
以来、日が暮れて冷え込む時間帯になっても、充分暖かく過ごせる今日この頃。
多少風が冷たいことはあっても、明らかに例年の冬の寒さとは異質である。

いざという時のために、ボストンバッグに非常食を詰めておくべきか。

先週買い込んだ文庫本を、端から読み始めて幾日かが過ぎた。
昼夜を分かたず、朝目覚めたままの恰好で食事もそこそこ、深更まで読み耽る毎日だが
日が落ちかけ、文字が判読しづらくなってきて、ようよう刻限を知る。
しかし、依然窓を開け放ったままでも、大して寒さを感じない師走の夕暮れ時。
こんなの、おかしいよねぇ(-_-;)

今、芥川龍之介の分厚い怪談集にかかっているが、存外ちょうど良い陽気かも。



2004年12月03日(金) くる年のこよみ

アホな一日を記してみました。

今日も天気が良いので新宿まで足をのばし、紀伊国屋書店へカレンダーを買いに行った。
今年の分は、昨年暮れギリギリになってから、光が丘LIVINで駆け込み調達したので
不本意ながらクリムトやミュシャという、今やあまりにも人口に膾炙し過ぎた画家のしか
手に入らなかったため、来年こそはと意気込んで出かけた。

久しぶりに大江戸線の狭い車両に入ると、整髪料や香水や体臭やニンニク臭といった
あらゆる悪臭を含むイキレにむせ込んでしまい、咳が止まらなくなった。
或いは時期外れの花粉のせいもあるか。
怪訝な顔で迷惑げに見上げる小娘を、倍の眼力で睨み返す。
原因はお前のつけ過ぎの香水だからな(¬_¬)☆

奈落の底の大江戸線ホームから新宿駅南口までは、エスカレーターを幾つものぼり
人がスクランブルに交差する構内の通路を限りなく進んだ先の、遥か果てにある。
半ば息切れしながら辿り着くと、蒼穹をいただく摩天楼モドキが聳え立つのが見える。
この時期の高島屋はひたすら目の毒と、現在無産者は足早に通り過ぎるに限るのだが
周囲には、これまた歳末商戦に縁がなさそうな中高年浮浪者のたむろするのが目につく。

タイムズスクエア脇の板廊をまわれば、KINOKUNIYAの入口。
昔から本屋さんに来ると、子供がディズニーランドではしゃぐような気分になって
3時間くらいは平気で入り浸ってしまい、財布をはたいてあれこれウキウキ買い込むのだ。
でも今回は本を買うのが目的ではない。
あ、カレンダーフェアって書いてある。この分だと、相当種類が置いてありそう。

…と思いきや、コーナーを回ってみたが質量共にそれほどでもなかった。なあんだ。
先ず目についたのは、巨乳グラビアアイドルのポスターみたいなやつばかり。
絵画のはないんか、それもラッセンやヒロ・ヤマガタみたいなポンチ絵じゃなしに
ルネッサンスかバロックか新古典なやつはよ!o(`○´)o
血眼で漁りまわしていたら、ようやく印象派のが出てきた。う〜ん…
ゴッホは好きだけどルノワールはちょっとな〜。モネの水蓮はあんまり興味ないし。
フェルメールやヴェラスケスはないのかなぁ、レンブラントでもいいんだけど。
…と、あああった!ボッティチェルリとダ・ヴィンチのが… やったー(*゚∀゚*)
しかしどちらも3,000円近い。比較的好きなボッティチェルリの方を買うことにする。
古典絵画の目ぼしいのがたったこれだけとは、天下の紀伊国屋も大したことないのう。

もう一つくらい買ってもいいかと思っていると、うさぎの赤ちゃん写真の(1,000円)を見つけ
1も2もなく決めた。動物写真では犬猫は多いが、うさぎのはやはり少ない。

目的は果したのでそのまま帰れば良いのだが、せっかくここまで来たんだから
ちょっと見るだけ見て行こうと、でき心で文庫本のフロアに行くと、あるわあるわ♪
近所のせせこましい××ブックスとは桁違いの品揃え。ああ〜幸せ。
いわゆるアキバ系の人々は、電機屋さんに行けばきっとこんな気持ちになるのだろう。
そのまま1時間ほど見てまわり、結局分厚いのばかり8冊も買ってしまった。
大幅な予算オーバー。当然ながら、帰りの荷物は肩が抜けそうに重たかった。
いいんだ、ブラブラしていられる間にいっぱい読んどくんだ、と自分に散財の言い訳。
なんかアタシ、食料品や日用品も同じような買い方してるな。
出不精(デブ性ではない)なもんだから、行った時にここぞとドカ買いしちゃって。

家に着き、うさぎのカレンダーを鑑賞しながら、紋次郎に向かってバカみたいに語りかける。
「もん見てごらん、よその血統のいいうさちゃんよ。もんよりずっとかわいいよ」
もんは無視して、草をもりもり食べている。
「どうしてお前の毛皮は、そう色がパッとしないんだろうねぇ?」
もんはそっぽを向いたまま、草を食べ続ける。
「うそようそよ!もんが一番かわいいのよ!」
急に愛おしさ極まってぎゅっと抱きしめると、パニクったもんに乳首をカリッと齧られた(T_T)

言葉が分かったのかなぁ。


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