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『檸檬のころ』 豊島ミホ (幻冬舎文庫) - 2007年09月28日(金)


豊島 ミホ / 幻冬舎(2007/02)
Amazonランキング:58634位
Amazonおすすめ度:



<DVD発売に伴い再読>

豊島さんの代表作と言われている本作。
今春に映画化されたが見れずにいて残念な思いをしていたのであるが、このたびDVDが発売。
その前に原作を復習ということで再読してみた。
再読してみて、再び誰かをいとおしく感じさせてくれた作者に感謝したいなと思う。
これからDVDを見られる方も是非原作も読まれて、より感動ひとしおの世界を堪能して欲しいと願ってやまない。

本作は下記の7編からなる連作短編集である。
×「タンポポのわたげみたいだね」
△「金子商店の夏」
○「ルパンとレモン」
×「ジュリエット・スター」
◎「ラブソング」
△「担任稼業」
◎「雪の降る町、春に散る花」
ちなみに印は映画化に際して取り入れられた内容の濃さをあらわしています。
(◎→○→△→×の順。×は全く取り入れられてません)
くしくも、私が初読の時に書いたよかった2編がメインの話となっているところは本当に嬉しいところである。

内容的にはほぼ原作に準じていると言っても差し支えないと思われます。
少なくとも作者の伝えたかったことが見事映像化されたと言えそうですね。

主な登場人物と演じている俳優(女優)名まで先に記させていただきます。

加代子・・・榮倉奈々
佐々木・・・柄本佑
恵・・・・・谷村美月
辻本・・・・林直次郎
西・・・・・石田法嗣

(ここからは単行本初読の再掲です。あしからず)

さて本作、本当に読ませてくれます。

東北の片田舎コンビニもない高校が舞台。
女性主人公だけでなく男性主人公も登場(中には担任の先生も登場)する。
テクニック的にも連作短編集のもたらす特性・・・(登場人物を上手く繋げている)を十分に生かしきっている。
最後のあとがきにおいて作者が自分の高校時代とは違うって言っているがはたしてどうなのだろう。

人を成長させる大きな要素って何だろう?
その答えを本書にて豊島さんは読者に明確にしてくれている。
それは“失恋”と“別れ”である。
このふたつの言葉は人生において表裏一体となっているからだ。

全7編からなるが「ラブソング」と「雪の降る町、春に散る花」が秀逸。
どちらも切なく胸キュン物で、前述した“失恋”と“別れ”が凝縮されている。
若い頃の恋愛って相手が唯一無二の存在。いったん思い込んだら、どうしてもとどめることができない世界。
辻本君に失恋しちゃった恵ちゃん、あなたはフィクションとは思えないほどとっても読者に身近です(笑)

ラストの野球部のエース佐々木君と吹奏楽部の加代子ちゃん。
ふたりのなれそめに始まって、別れる(というか離れる)までの過程が読者の胸に突き刺ささって離れない。
まるで同じ教室で同じ授業を受けたクラスメートのような感覚でもって、2人の旅立ち(あえて別れじゃなくってこの言葉を使わせていただきますね)を見送った自分を誇りに思いたいような気分。
寂しい気持ちもあるが、安心感も漂う。
お互いが心の糧となっていることを見届けれたからだ。

反面、作者の豊島さんはあの年代特有の普遍的な悩み・苦しみを比較的淡々と語っているようにも見受けられる。
これはもう彼女の手法と言ったほうがいいのかもしれない。
先に比較した島本さんが“切実”なら、豊島さんは“淡々”という言葉があてはまるかな?
いや“淡々”という言葉は誤解を招くかもしれない。
淡々と書きながら最後には酸っぱく終わるのが本作の特徴なのであるから。
まるで檸檬の如く(笑)
そのあたり感性豊かな女性読者に聞いてみたい気もするのであるが・・・

若い頃って本当に小さなことで悩みますよね。
本作に登場するどの登場人物も悩んでいます。
もちろん、当事者にとっては小さなことではありません。
まさに、生きるか死ぬか・・・ハムレットの世界なのです。
ある読者には懐かしいあの頃を思い起こさせてくれ、また登場人物と同年代の方が読んだら隣の席のあの子って作中の○○にそっくりだと共感できそうな話。

少し傷つきにくくなったあなたにも是非読んで欲しいなと思ったりする。
かつて梶井基次郎の文学作品『檸檬』を読んだような感覚で読んで欲しい。
なぜなら生きてきてよかったというしあわせを感じる名作であるからだ。

個人的には、好きな女性に本作のような作品をプレゼントしたい衝動に駆られた。
きっと受け取って読まれた方にとって“忘れられない1冊”となりそうだからだ。
そう男性読者に思わせてくれる豊島さん、あなたは凄い。
これから追いかけますので待っててくださいね。

評価9点 オススメ

公式ブログ 告知板としま










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『くちぶえ番長』 重松清 (新潮文庫) - 2007年09月25日(火)


重松 清 / 新潮社(2007/06)
Amazonランキング:1090位
Amazonおすすめ度:
あの頃を思い出しました
 童心にかえる一冊 お見事
やられました



<児童文学なれど、大人も学べる勧善懲悪小説>

雑誌「小学四年生」に連載したものに、書下ろしを加えた、文庫オリジナル作品。

主人公のツヨシは少し気が弱く優等生タイプの少年で、作者の重松さんを想像して読まれたらいいのではないであろうか。

読み終えてまず感じたことは、はたして、自分達の子供の頃は現代作家でこのような優しい語り口で読者を迎え入れて来れた作家ていたのであろうかということ。

本作が“新潮文庫の100冊”に選ばれたのも凄くタイムリーであり、文字通り、国民的作家・重松清さんの面目躍如といった作品であると言えよう。

願わくば、国語の教科書に掲載して少しでも授業が楽しく・そして実践的なものになるようにしてもらいたいものである。

というのは、今までいろんな本を読んできたが、本作ほど親子で同時に読んで語り合える作品に出会ったことがないのである。

もちろん、文庫化に際して少なからず大人をターゲットとした作品に仕上げているのも事実であるが、反抗期に入る直前の年代だからこそ親子水入らずで読んで語り合って欲しいなと思うのである。

転校生のマコトという女の子が素晴らしい。
トレードマークがちょんまげ、スポーツ万能で正義感あふれる性格、おまけにくちぶえと一輪車が得意である。

読んでいて本当に心が和めるのは、マコトがやはり徐々にクラスの中に溶け込んでいく過程だろう。
そして徐々に友情だけでなくって淡い恋心も抱いてくる2人なのであるが、寂しい別れ→転校が待ちわびているのである。
マコトに強い影響を受け、そして凄く成長するツヨシくん。
まるで今、作家として頑張れているのもあの時のマコトのおかげだと言わんが如く。

人間別れがあるから成長するのであろう。

本作の大きな背景として、マコトの亡き父とツヨシの父とが昔親友同志だったという点があげられる。
私達、大人の読者は離れ離れになってもお互い元気で頑張っているであろうということを励みにして生きていることであろう。
たとえ別れても、2人の気持ちは永遠である。
そう、辛くとも、同じ空の下で生きているのであるから。

最後はほろっと来た人、それは重松ファンの証だと言えそうですね。

この作品は掲載雑誌からして作者の願いが詰まっている。
それはやはり子供たちに“真っ直ぐ素直に育って欲しい”という願いである。
本となって出版された今、少しでもその作者の願いを子供たちに伝えたいとひとりの重松ファンとして思ったりするのである。

重松作品の中での位置づけに関して述べさせていただくと、本作は重くなくって爽快な作品の部類だと断言できる。
重松氏自身、重すぎるというイメージが払拭できずに、決して万人受けする作家というイメージでは捉えられてないのであろうが、本作はそのイメージを覆す重松入門作品として書かれたと言っても過言ではない。
老若男女楽しめ、かつ涙することが出来るのである。
確実に言えるのは、私達大人の読者がほろりと来た以上に、子供たちの心を揺さぶることが出来ることであろう。
子供たちの心を育む恰好の1冊であると声を大にして叫びたいなと思ったりする。

大人の読者としての受け止め方を記したい。
まず、自分達がいろいろな想い出を思い起こさせてくれ童心に戻れたことを重松さんに感謝したい。
だけど、もっと肝要なことは子供たちの想い出をもっと大切にしてあげることである。


面白い(8)




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『さらば深川 髪結い伊三次捕物余話』 宇江佐真理 (文春文庫) - 2007年09月21日(金)


宇江佐 真理 / 文藝春秋(2003/04)
Amazonランキング:54326位
Amazonおすすめ度:
舞台が急変していく3作目



<読者が伊三次とお文との“サポーター宣言”をしたくなる憩いの1冊>

前作『紫紺のつばめ』が“すれ違い”がテーマならば本作は“修復と訣別”がテーマと言えそうだ。

最初の“修復”は伊三次とお文、伊三次と不破との修復だと言える。
これに関してはほぼ順調に物語が推移するといってよいだろう。
既存の登場人物の過去におけるいきさつ、あるいは普段では見れない姿の発見などなどをまじえて。

冒頭の「因果堀」では増蔵の意外な過去が浮き彫りにされる。
本編においても新たな登場人物として掏りの直次郎が登場する。
作者の巧みなところは最初は違和感を与えつつも、次第に物語の中に溶け込ませていく点である。
そうすることにより、全体的に“伊三次ファミリー”を構築しているように見受けられる。
読者がより幸せな気分に浸れるような読書が出来るように作者も余念がないといっていいのであろう。

次の「ただ遠い空」ではちょっとわけあり女中のおこなが登場。弥八との祝言を控え、やめざるをえなくて気が気でないおみつの姿が微笑ましい。

「竹とんぼ、ひらりと飛べ」ではお文の実母らしい人が登場。
しかしお文は自分の素性を知らそうとしないのである。
気性が強いようだけど女らしくて可愛らしい点をあらためて読者に知らしめてくれた。

「護持院ヶ原」は作者もあとがきで語っているように異色の1編といえよう。
少しホラー色を交えて趣向を変えている。まるで男性作家が書いた作品のようだ。
不破の男らしさに意外な一面を見たと感じられた方も多いんじゃないであろうか。

なにはともあれ表題作「さらば深川」のインパクトが凄い。

逆に表題作のインパクトが強すぎて、あらゆる意味合いにおいて布石となるべき他編がかすんで見えるという捉え方もあるのかなと思ったりした。
少し、私自身が伊三次とお文の心の動きにとらわれ過ぎて読んでいるきらいがあるのかもしれないなと反省している。

ここでの伊勢屋のやり口はひどいのひとことに尽きる。
まるで“悪の象徴”として伊勢屋を取り上げ、伊三次の“澄み切った正義感”と対比させて女性読者に男性の選び方を伝授しているようにも見受けれるのである(笑)

それほど、伊勢屋の陰湿さは際立っており、読者にとっては伊三次とお文との幸せを願わずにいられなくなる。

読み終えて文庫本の表紙を見ると、伊三次が火事場からお文を助け出すシーンが描かれている。このシーンは読者の脳裡に焼きついて離れない。
三味線(これは亡き母からもらったものですね)を抱えてお文を連れ出す伊三次。
そう2人にあらためてもう失うべきものはない。
あとは幸せをつかむのみなのである。
たとえ波乱万丈の明日が待ち受けていたとしても。

“揺れる女心”という言葉があるが、それほどでもなかったのかな(笑)
裏を返せば、誠実に生きていれば良いことが転がってくるということであろう。
まるで作者が、“正義はいつの時代も勝つという信念を持って生きなさい”と読者に教えてくれているようである。

深川から“訣別”した伊三次とお文、だけど読者はこの2人と訣別することはないのである。

面白い(8)



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『紫紺のつばめ 髪結い伊三次捕物余話』 宇江佐真理 (文春文庫) - 2007年09月16日(日)


宇江佐 真理 / 文藝春秋(2002/01)
Amazonランキング:61714位
Amazonおすすめ度:
小粒の宝石
より急展開な内容で満足間違いなし!



<波乱万丈の展開に読者も釘付け>

宇江佐真理の描く時代小説は現代小説よりも身につまされる。

いろんな読み方が出来るのはそれだけ作品としての間口が広いのであろう。
作者の人となりというか視野の広さが読者にひしひしと伝わってくるのである。

伊三次とお文を理想のカップルと見るかどうかはさておいて、少なくとも男性読者が読めばお文をわがままだけど可愛い女性と捉え、逆に女性読者が読めば伊三次を単純だけどやさしい男性として捉えるであろう。

でも現代に生きる我々もストレス溜まりますが、作中の登場人物はもっと溜まってますね。
それだけ一所懸命に生きなければ過ごせなかったのでしょうね。
なんせ、クーラーも携帯電話のない時代ですものね。当たり前か(笑)

でも彼らの熱き心は現代人以上だと見習わざるをえないのである。

本作においてはやはり“すれ違い”がテーマとなっているのだろう。
特にお互いが強情な故に別れてしまった伊三次とお文。
これは読者もハラハラドキドキするものなのである。
まあ、あるきっかけで表題作にて伊勢屋忠兵衛の世話を受けることとなったお文も悪いのかもしれませんがね。
お金がない(というかこつこつやって生きている)伊三次にとってはショックでしょうね。

2編目から3編目まではより伊三次のイライラがヒートアップする展開が待ち受けている。
「ひで」では幼ななじみの日出吉の死に直面し、次の「菜の花の戦ぐ岸辺」では殺人の下手人扱いを受けるのである。
それも不破は何の庇いもないのである。
ここで悲しいかな、伊三次と不破との信頼関係が崩れる小者をやめてしまうのであるが、逆にお文との関係が修復しそうな方向性で終わるのですね。舟での2人のやりとりはとっても印象的かつ感動的です。

4編目の「鳥瞰図」は、まあ言ったら後に伊三次と不破との関係の修復を図るため、作者が不破の妻のいなみに一肌脱がせたと言って過言ではない感動の物語です。
伊三次がいなみの仇討ちを思いとどまらせるのです。

最後の「摩利支天横丁の月」は、お文ところの女中のおみつと1作目で強盗をやらかした弥八との恋模様が描かれている。弥八が改心し人間的にも成長して行く姿はとっても微笑ましく、おみつとの幸せを願わずにいられません。

いずれにしても、2作目まででこのシリーズの特徴は登場人物キャラクタライズがとてもきめ細かくされているということに気づくのである。
たとえば、ある人を造型的に取り上げるのでなく、いろんな過去のいきさつや生い立ちを巧みに交えてこの人はこういうところもあるんだということを読者に強く認識させてくれる点が、素晴らしいと感じたのである。
いわば、登場人物も作中で変化→成長していっていると言い切れそうなんですね。

それだけ作者が人間の感情のもつれや人情の機微を描くのに長けているという証なんでしょうね。
読者にとって面白くないはずはないと断言できそうな展開ですね。
個人的には伊三次とお文の啖呵を切ったセリフを読むだけで幸せな気分になるのである。
時に熱く、時に胸をなでおろし・・・

オススメ(9)




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『幻の声 髪結い伊三次捕物余話』 宇江佐真理 (文春文庫) - 2007年09月15日(土)


宇江佐 真理 / 文藝春秋(2000/04)
Amazonランキング:38786位
Amazonおすすめ度:
私は
女性にオススメの捕物帳
恐るべきデビュー作♪



<伊三次誕生10周年を機に再読した。初心忘るべからず>

宇江佐真理さんの髪結いシリーズは現在第7作まで出ているが、伊三次誕生10周年を機に読み返して見ることとした。

副題の“捕物余話”が示すとおり、通常の捕物帖と違って恋愛を軸とした人情話的要素が強いのが特徴である。
本作に収められている全5話のうち、もっとも感動的である「備後表」以外どの犯人も決して悪人として読者に受け入れられない点が非常に印象深いです。
いわば作者の温かさが滲み出ている作品だといえるのだけど、その温かさが主要登場人物のキャラに乗り移っていると言っても過言ではないのであろう。

主人公である伊三次。
床を構えない廻り髪結いを職としている25才の下戸男であるが、本業とは別に下っ引として同心、不破の手下の顔も持っている。
デビュー作なれど全5編の構成もすこぶる良い。
最初の3編は伊三次・お文・不破の主要登場人物の生い立ちをそれぞれの視点から事件をまじえて読者に披露する。

一話一話の捕物的要素(ミステリー度)は低いんだけど、脇役も含めてそれぞれの登場人物の生い立ちが語られ、それがいかに展開していくかがこのシリーズの楽しみであると思われますね。
あとは、気風のいいセリフの飛び交うお文と伊三次との関係も含めて目がますます離せなくなるのですね。

あらためて読み返してみると、不破の妻のいなみがとってもいい味を出しているんですね。最後の「星の降る夜」の伊三次を諭すシーンは「備後表」でおせいと一緒に畳を見に行くシーンと並んで本作の中ではもっとも印象的で感動的なシーンと読者の脳裡に焼き付くであろう。

男性読者の立場からして伊三次を弁護したいと思う点を最後に書かせていただきたい。
恋人であり深川芸者であるお文に比べて頼りないのかもしれないが、その欠点を補って余るほどの長所が彼にはある。
そう彼の“一所懸命生きていこうとする”姿がお文の胸を打つ。
いや読者の胸を打つと言ったほうが適切であろう。
普通“健気”という言葉は男性には使わないのであろうが、伊三次にはあてはまるような気がするのである。 
このあたり、作者の宇江佐さんの女性読者を意識した気配りは賞賛に値する。

伊三次を見るとまるで、私達現代人が日頃忘れているものを思い起こさせてくれているように感じるのである。
それは“目標を持って生きる”ということに他ならない。
読者を強く意識した人物造形が本シリーズの最大の特徴である。

ラストでお金を盗られた伊三次であるが、お文との仲はこじれなかった。
二人の幸せをこのまま次作以降も読者にお裾分けしていただけるのだろうか。

続きが気になって仕方がないのは決して私だけじゃないはずである。

面白い(8)


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『年に一度、の二人』 永井するみ (講談社) - 2007年09月06日(木)


永井 するみ / 講談社(2007/03/07)
Amazonランキング:126802位
Amazonおすすめ度:
題名には惹かれましたが…。
競馬場が舞台ではねぇ・・・
羨ましい



<年に1度の逢瀬、私だったら我慢できませんが・・・>

ミステリー畑のイメージが強い永井さんの作品を久々に手に取ってみた。
この作品はミステリーじゃなくって男女の心の機微を描いた恋愛を絡めた人生を模索する作品となっている。
読後感も良く、ライトな感覚で読めるといった点においては評価できるんじゃないかなと思う。

舞台は香港のハッピーバレー競馬場。
全3編からなる連作短編の構成であるが、「シャドウ」では人妻と香港在住の男性との恋が描かれている。次の「コンスタレーション」においてはOLと年下の牧草を研究している大学院生との恋が描かれている。
最後の「グリーンダイアモンド」では地元香港に住むカップルの視点をも交えて前2編の登場人物達を集結させている。

各編においてどうしても消化不良気味だった読者も最後に大団円とまではいかないまでも、“腹八部目”ぐらいにして本を閉じることが出来る。

女性作家であるから女性心理の描写に長けている点は当然であろう。
たとえば、「シャドウ」に出てくる医者の妻沙和子。世間一般的には何不自由ないといっても過言ではない境遇である。
その彼女が不倫をする。まあ、それは女性作家お手のものであろう(笑)

逆に、度肝を抜かれたのは宗太郎少年の心の動きの巧みさ。
これは男性読者からして、物語の展開上と年齢(高校一年生)からして当然現れるべき心理描写が出来ている点に強く感服した。

彼が香港に来るべきことはどうなんだろうと不信感を持ちつつページをめくった読者が大半だったと思う。
親の不倫相手に会うために同行させられたと言っても過言ではないのいだから。
それが登場人物だけじゃなく、一筋の光明を見出して読者までもが本を閉じることができるのである。

私は登場人物の中で一番何かを掴んだのは宗太郎であると信じている。
私なりに爽快感を感じたのはそこで、作者の手腕の確かさを賞賛したいなと思う。

少し余談ですが、日本の競馬場だったらこの物語成り立たないでしょうね。

1年後のデートの約束をするロマンティックな場所とは到底思えませんものね(笑)

面白い(8)


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