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『ミーナの行進』 小川洋子 (中央公論新社) - 2006年06月28日(水)


小川 洋子, 寺田 順三 / 中央公論新社(2006/04/22)
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<2006年初夏、素晴らしい名作に出逢った>

美しくて心が安らぐ小説である。
私の場合何年かに1度、欠点のない作品に出くわすことってあるのであるが、本作もその数少ない作品の中の1つに仲間入りを果たしたと言える。

小説を読んで、是非他の方とこの暖かさを分かち合いたいと思ったことはないであろうか。
私はこの作品をひとりでも多くの方に手に取って欲しいなと思っている。
この作品はいわば読者の賛否両論の起こりうる作品ではないと思うからだ。
多少の読書のジャンル的な嗜好による合う合わないは出てくるであろうが、根本的に否定される方って“あまのじゃく”だと思うのである。

小川さんは本作で小説で描きえる最大限の懐かしさやあたたかさを読者に披露してくれている。
小川さんの上手さに舌を巻いた読者のひとりとして感想を書かせていただこう。

まず、さらっと内容を説明しよう。
時代は1972年、ちょうどミュンヘンオリンピックが行われた年。家庭の事情で母親が単身で東京に裁縫の勉強をしに行くために、芦屋の伯母の世話になる朋子は12歳で中学1年生。
伯母のうちは大金持ちで“フレッシー”なる清涼飲料水を製造する会社を経営している。
そこで1つ年下の従兄弟ミーナと出会う。ミーナは小柄で喘息もちで大の本好き、ドイツ人の祖母の血を引く大変な美少女である。
そこで過ごした一年間を過去を振り返る回想で語られている。

一見した所、典型的な裕福な家庭と一般家庭とのはざまで、いじめか何か勃発するのではないかと思われるかもしれないが、それは余計なお世話。

逆にミーナを筆頭に屋敷の大変良い人たちで読んでいてとても心地が良いんですね。
ドイツ人のローザおばあさんとお手伝いの米田さん。すごくナイスガイであるが家に居る事が少ない伯父さん。誤植を探す事が趣味のタバコと酒好きの伯母さんなど・・・
ああ、ひとりというか一匹忘れていました(汗)
コビトカバのポチ子である。ポチ子は一家の平和の象徴として扱われている存在。
タイトルとなっているミーナの行進は、実は喘息持ちのミーナが学校へ通う際にポチ子に乗って登校する様のことである。

ミーナはマッチ箱を集めている。マッチ箱の絵柄に一つ一つ物語をつける。その物語も作品内に紹介されていて、それぞれが素晴らしい。
この作品ほどイラストが効果的に散りばめられた作品も近年類を見ないだろう。
実際、イラストがなければこの作品は生まれなかったと思う。

読みどころに1972年という時代がある。例えば、『博士の愛した数式』だと阪神とか江夏とかが時代を示したが、今回はミュンヘンオリンピック。男子バレーボールチームに熱中するミーナと朋子。ミーナがセッター猫田のファン、朋子がアタッカー森田のファンという設定。
あと川端康成が自殺したりとか、あるいはジャコビニ流星雨など実際に起こった事件を通してリアルさを増している。
ミーナの兄の龍一が父親とぶつかるシーンも印象的である。
そのあと、大人の事情として素敵な伯父さんがめったに家に戻ってこないところを朋子が追跡するシーン、ドキドキしました。

タイトルの意味合いとは全然違うのであるが、ミーナが今も人生を行進している姿が目に浮かぶ。
まるで素晴らしき人生を読者に分け与えてくれるかのように感じられる。
心がすさんで来ている私には叱咤激励してくれる1冊であった。

小川さんの卓越した筆力の表れとして、作中、ずっとミーナの病気がどうなるのか気になりながら読まれた方が大半であるという事実があげられると思う。
読書の興趣が大きくそがれるのでここでは触れないが、少なくとも主人公朋子の人生の大きなバネとなった1年間であったと信じたい。

ミーナのマッチ箱集めにも関連するのであるが、乙女心が滲み出ている淡い恋心も印象的である。
たとえば身近に好きになる異性が朋子の場合は図書館のとっくりさんでミーナはフレッシー配達の青年である。
フレッシー配達の青年の話では、巧みに朋子がミーナを傷つけないように演出しているのが意地らしい。

読まれた方なら誰でもわかると思いますが途中で凄く悲しいことが起こります。
ミーナの行進が出来ない状態ですね。
ただ、凄いのはその悲しいことを支えにして飛躍して生きている姿が胸を打つのである。


この作品は讀賣新聞に連載されてたものである。
内容からして中学生以上だったら十分に理解できるであろう。

ご自身で読まれて是非、お子さんに読ませてやって欲しい。
成長期にこの作品を読んだらきっと大きな財産になることだろうと確信している。
そして、もしあなたがミュンヘンオリンピックのことを覚えていたら補足説明してあげてください。

時節柄、作中にて川端康成さんの作品名が出てくるのであるが、本作はノーベル賞作家の作品に劣らない名作であると信じたい。

最後にミーナが猫田選手に出した手紙を再読してみた。
思わず涙が出たがそれはまさに“希望”の涙である。
登場人物たちは作中でフレッシーを飲んで喉を潤した。
これから読まれる方は是非、本作を読んで心を潤してほしいなと思う。

超オススメ(10)

この作品は私が主催している第5回新刊グランプリ!にエントリーしております。
本作を読まれた方、是非お気軽にご投票いただけたら嬉しく思います。
(投票期間2006年8月31日迄)



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『夜の朝顔』 豊島ミホ (集英社) - 2006年06月25日(日)


豊島 ミホ / 集英社(2006/04)
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<ランドセルを背負った気分で読んで欲しい作品。“優しさ”や“感受性”という教科書が入っています>

『陽の子雨の子』に続く豊島さんの最新作は小学生を主人公とした少女の成長小説。
まるで竹内真さんの女性版ともいうべき圧巻の少女小説に仕上がっている。

ほとんどの読者は小学校の頃の思い出って中学・高校の頃のように細かいことは覚えてない方が多いであろう。
私もそうである。
ましてや、男性読者の私であるから本来、本作の世界は浦島太郎状態であるはずである。

事実、本作を読まれてもっとも効果的なのは、やはりセンリちゃんの年代のお子さんを持つ母親世代の方が読まれた場合であろうと想像できる。

だが、そこが豊島ミホ。
誰が読んでも楽しめるように書いているのである・・・

本作に収められている7編は小学校1年生〜6年生まで(4年生のみ2編、それ以外の学年は各1編)の主人公センリの成長振りを十分に楽しめる。

小学校の6年間って長いです。
はじめはランドセルを背負う姿が可愛いが高学年になると似合わなくなりますよね。
それほど体も心も成長するのであろう。
連作集としての全体を通しての読ませどころを何点か挙げてみると
☆冒頭では病気がちであった妹のチエミが次第によくなる。
☆親しくしていた友だちの変化。
☆高学年になるにつれ異性に対する意識が始まりだす点。
大体、このあたりだろうか・・・

遠い昔、知らず知らずのうちに良心が痛むことをしていたのかもしれない。
誰しも苦い思い出ほど鮮明に心に刻まれているものである。

私はこの作品に関しては、主人公センリになりきって読む作品ではないと思っている。
登場人物すべて、たとえばセンリより勝気で意地悪な茜と遠い日の自分を比べてみるのも良い。
あるいは私みたいな男性読者なら洸兄でも大場先生でも杳一郎でもよい。
ただ、一生懸命に読んで欲しいなと思う。
そうすればおのずからホッとした気分になり、“私たちが守られている”ことを強く感じ取れると確信している。
なぜなら本作は遠い過去を懐かしみつつ(これはおぼろげで良い)、今の自分を見つめなおす機会を与えてくれているんだと思ったりするからだ。

特に印象的なのは4年生の話の「五月の虫歯」。
となり町の歯医者まで出向いてアザミという少女と知り合うのだけど、センリの世界が拡がったのは想像にかたくない。
あと表題作の「夜の朝顔」は年代は違うが『檸檬のころ』のように淡い恋心がほろずっぱく描かれています。寝ぐせ、ちゃんと直しましょうね(笑)

あとがきで、作者が舌足らずな読者のお子さん達(笑)の代弁をしてくれている。
この本を書いた意図が集約されている言葉でもあるので、最後に引用させていただいて締めくくりたいなと思う。
これを読んでくださったかたが、ランドセルを背負った子どもたちを見かけた時、「ああ、あの子たちも楽じゃないんだよなあ」「子どもって単純じゃないよなあ」と思うようになっていただけたら、私としては幸いです。


主人公センリのように成長著しい豊島さん、来月の書き下ろし作品『エバーグリーン』(双葉社)を楽しみに待ちたいと思う。

面白い(8)

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(投票期間2006年8月31日迄)



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『ゴールデンタイム―続・嫌われ松子の一生』 山田宗樹 (幻冬舎) - 2006年06月22日(木)


山田 宗樹 / 幻冬舎(2006/05)
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<前作は大河小説、本作は青春小説>

『嫌われ松子の一生』は亡くなった松子の悲惨な生涯を過去からの回想と、甥っ子である川尻笙の調査とを交互に描き原作も映画も大ヒットした。
私は映画は観ていなくて、原作を約3年前(単行本発売直後)に読んだのであるが、松子が死んだと言う事実をわかっていながら、どうして転落した人生をたどったのかとひたすらページを捲った。
絶望感に襲われつつも、現在を生きる甥っ子川尻笙の健気さやその恋人明日香の最後にとった行動に暖かい拍手を送った記憶がある。

前作は大河小説的要素の強い作品であったが、本作は明日香が主人公の青春小説に仕上がっている。
いわば、前作が結果として後ろ向きな人生だったかもしれないが、十分に松子の魅力を読者に提示して多くの共感を得た。
逆に本作は正真正銘の前向きで清々しい作品である。

前作から4年経過、別れてそれぞれ離れ離れになった笙と明日香が各章ごとに交代でそれぞれの生き様が描かれている。
前作とは違い、すべて現在進行形の話なんで読者も向き合って読めるのである。

明日香は東京の大学を中退し、佐賀の医大に見事合格し、現在4年生である。病院の御曹司の輝樹という申し分のない男がいる。
輝樹と結婚して麻酔医として輝樹の実家の病院を継ぐか、それとも自分の夢(アメリカ留学)に向かってチャレンジするか物語を通して悩むのである。

一方、笙は大学を卒業したが就職に失敗、フリーターとして過ごす毎日だったが、あるきっかけで劇団を主宰しているミックと知り合い演劇に情熱を傾けるようになる。
しかしながら、公演の少し前に団員が脱退。ミックが病気で倒れる。

終盤に死と直面するミックを見て、夢を追い続けることの大切さを知った笙は故郷の福岡に戻り明日香と会うのである。
明日香が笙により、忘れかけていた大切なものを思い出します。
ちょっと意外だったな。どちらかと言えば、逆のパターンを予想しておりました。

今はただの友達となってしまったけど、ふたりが東京でつき合っていた日々は決して無駄ではなかったのですね。
かけがえのないものを失ったかのように見えるふたりであるが、実はずっと強固な絆で結ばれているのである。
離れててもお互いを意識しながら、これからも成長をし続けて欲しいなと思う。

私はこの2人なら大丈夫だと思う。
なぜならどんな苦労をしても“松子の苦労に比べたらたかが知れている”ということをわかっているからである。

松子おばさんの“悲劇”を決して無駄にしていない2人のしあわせを心から祈りたいですね。

少し飛躍した意見かもしれないが、本作は作者サイドで考えれば、『嫌われ松子の一生』の本を読まれた方や映画を観られた方のモデルとして笙や明日香の話を書いているとも言えそうである。
読者の分身が笙や明日香なのである。

あと余談であるが、巻末の参考文献の多さには驚いた。
特に医学の話が出てくるのであるがとってもためになりました。
作者に敬意を表したいと思う。

最後にひとつ付け加えておきたい。
作中で、ユリが松子に似ていると話すシーンがあるが私はそう思わなかった。
なぜなら、ユリは十分にミックに愛されているからである。
みなさんのご意見もお聞かせ願えたらさいわいです。

面白い(8)

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『夜の公園』 川上弘美 (中央公論新社) - 2006年06月20日(火)


川上 弘美 / 中央公論新社(2006/04/22)
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<身勝手で無責任な大人たち>
二人を比べることはできない。二人は違う種類の人間である。
二人は、私という人間の中にある幾つかの種類の「私」のうちの、それぞれ違う「私」とつきあっているのだ。

とっても危険な小説だ。
言い換えれば、女性の怖さを思い知らされた1冊でもある。

内容的には自由奔放に行われている不倫小説と言えよう。
リリ幸夫という夫婦がいる。
幸夫には春名、リリにはという不倫相手がいる。
ちなみに春名とリリは親友同士。
いわば“妻”と“愛人”の関係。
春名は幸夫以外にもという男もいる。
独身同志だから不倫ではないが・・・
悟と暁は実の兄弟でもある。

春名は男性依存症的人物として描かれているが、本当に好きなのは幸夫であり、そのことが物語のキーポイントとなっている。

たとえば、江國香織や吉田修一の作品だったら、読者も予期して楽しめるのであるが、川上弘美が本作のような作品を書くと読者も憂鬱さを通り越して度肝を抜かれる。
少なくとも江國香織だったらもっと危なっかしく、吉田修一だったらもっとさりげないであろう。

川上弘美がドロドロな不倫を描くと登場人物達もそれなりに確固たる信念を持っているから不思議だ。
たったひとり悟という人物を除いて・・・
読者によっては悟が一番まともに感じるであろうから困ったものである。

ただ、男性読者の観点から意見させていただくと、幸夫ってそんなに短所があるように思えないのである。
どうしたんのリリさんと言いたい(笑)

少し否定的に書いたが、女性読者には凄く有意義な一冊だと思う。
終盤、春名が危機的状況に陥る時、真っ先に助けを求めるのはリリであった。
その助けをリリに求めたことによって悟が余計に嫉妬したといっても良いんじゃなかろうか。
この場面は誰もがドキッとさせられる印象的なシーンであり、奥深いふたりの友情が描かれているのである。

私的には夫婦のあり方や恋愛の本質を問うた作品としてはあんまり評価したくないのであるが、女性間の友情に関しては巧く書けてるなとは素直に認めたい。
あたかもその為に、リリと幸夫が悲運の恋であることを強調したかのようだ。
このあたり女性読者のご意見もお聞かせ願いたいなと思う。

川上作品は『センセイの鞄』『古道具中野商店』しか読んでないので、どちらかと言えば心地よさを求めた読者の私なんで特にそう感じるのかもしれないが・・・

強く生きるってむずかしいな。
主人公リリの生き方は男性読者からして拍手を送りづらいのも事実。
なぜなら、生まれてくる子供に罪はないとまでは言わないけど、可哀想な気もする。
所詮、妊娠したのは離婚を言い出す単なるきっかけというか手段だったような気がするのであるが・・・
川上さんの真意が読み取れなかったのが残念である。
それとも男性読者にはわかりづらい世界だったのかな。

とはいえ、視点を変えて語られる各章。
それぞれの気持ちは読めば読むほどよくわかる。
だが、わかればわかるほどブルーになるのである。
一冊の作品としてのまとまって読者に語りかける何かが私にはつかみ取れなかったのであろう。

女性読者が読めば、リリが着実に幸せを手にしようとしていると受け取れるのであろう。
男と女は深遠である。
幸夫の代わりに代弁したいなと思う(笑)

時間があれば(6)

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『東京バンドワゴン』 小路幸也 (集英社) - 2006年06月19日(月)


小路 幸也 / 集英社(2006/04)
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<じーんと来る小説ではないが、あったかいホームドラマ。読書をその根底から楽しめる1冊と言えよう。>

タイトルとなっている東京バンドワゴンは明治から続く東京下町の老舗古書店の名前。
現在80前のかくしゃくとした店主・堀田勘一を筆頭に4世代8人で暮らす堀田一家の春夏秋冬を日常系の謎を織り交ぜながら描いている。

この作品の成功の一番の要因はやはり、語り手が2年前に亡くなった勘一の妻サチであることに尽きる。
彼女が天国から堀田家族を見守るような語り口で読者をエスコートしてくれるのである。

堀田家の朝食時の食卓で繰り広げられるそれぞれの会話が飛び交っているシーンが楽しい。
核家族化が主流となっている現在、4家族が仲睦まじく暮らしあっている姿は読者にはぴんと来ないのである。
裏を返せば本当に珍しくて可笑しい世界なのである。

時代的にはインターネットが登場しているので現代だと思われるが、表紙や語られてる世界観からしてすこしレトロな下町を想像してしまう。
カフェを併設しているのは登場人物の多さからして仕方ないかな(笑)

いずれにしてもほのぼのした中でも大事な物は何かを解き明かせてくれる各章は読者にとって心地よいことこの上ないのである。

登場人物の個性的な顔ぶれは、本文前のひとりひとりの案内を読めばよくわかるのであるが、還暦を迎えた伝説のロックンローラーの我南人(がなと)が一番の個性派。
彼が作品中に発する“LOVE”という言葉は語り手であり我南人の母親であるサチが一番欲している言葉だと思う。
ちょっと飛躍した考えかもしれないが、一般的に出来の悪い子ほど可愛いというが、サチにとっては我南人のことを根っから心配しているのであろう。

最終章にて青の本当の母親が見せる愛情行動は、小路さんが読者にプレゼントしてくれたと受け取るべきである。
逆に我南人へのサチの愛情は読者自身が感じ取るものだと私は思っている。
各章にて見せる我南人の人情味ある行動、たとえばマードックに対する姿勢の変化や、長男の嫁・亜美さんの両親に取った軟化した態度などはやはり母親譲りなのである。

彼女は天国からいつもヒヤヒヤしながらも暖かく見守っているのだ。

小路さんの決して良い読者じゃない私ですが(今まで『HEARTBEAT』1冊のみ読了)こういう作品を書いていくと必ず固定ファンが着実に増えるであろうと言う事は間違いないと思う。
読者も小路さんを暖かく見守ってくれるのであろうから・・・


簡単に総括させていただきますね。
この作品は家族小説であって家族小説でない。
本来、“家族小説”という言葉から想像しうるたとえば家族のあり方とかを根本的に問うたものではないのである。
もちろん作者の意図もそうであろう。
ホームドラマ・・・本当に原作のない脚本のみのテレビドラマを観ているように肩肘張らずに読める小説と言ったらいいのかな。
だから、読んで何かを感じ取る小説を期待すれば肩透かしをくらうかもしれませんが、楽しい読書を求められてる時(方)にはこれ以上の作品はないであろう。

多くの方が手に取ってくれれば、また続編にお目にかかれるかもしれません。
ああ、マードックさんのしあわせな姿を見たいな(笑)
あなたも、是非読まれる際は堀田一家の一員になったつもりで読んで欲しいなと切に思う。

面白い(8)

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『まほろ駅前多田便利軒』 三浦しをん (文藝春秋) - 2006年06月16日(金)


三浦 しをん / 文藝春秋(2006/03)
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<チワワがたぐり寄せた読者の胸を熱くする究極の友情物語>

だれかに必要とされるってことは、だれかの希望になるってことだ。


三浦しをんさんの小説最新作。
出版社からして直木賞千載一遇のチャンスだと見ている。

表題に書いている友情物語だけでなく、家族のあり方(夫婦や親子問題)も必ず考えさせられる魅力的な作品。
家族のいない登場人物が読者に熱き家族小説をエスコートしている。

演じているのは多田啓介と行天春彦。かつてふたりは高校時代のクラスメートであった。
東京の郊外、神奈川県との境にあるまほろ市で便利屋を営む多田とひょんなところで彼と再会する行天。
行天が多田の事務所に居候しさまざまな事件を解決していくストーリー展開。

便利屋っていっても実際は雑用係。冒頭の病院のお見舞いの代理にはじまりペットの世話や塾の送り迎え代行など・・・

本作を読んで行天を魅力的な人物と感じない読者はいない。
まさに“びっくり仰天”するほどのナイスガイなのである。
伊坂幸太郎の『砂漠』の西嶋を彷彿させる行天。
それに反してごく平凡な多田。
少し人生に対して否定的な多田と人生を達観している行天。

漫才で言えば多田がツッコミで行天がボケの間柄。

ちょっと苦言を呈させていただくと、各章のトップで描かれている2人のイラスト。
あまりにもイイ男すぎないか?
でも女性読者にとってはイマジネーションを良い意味で膨らませてくれることであろう(笑)
あと、関西人の私はどうしても東京の地理に疎いのであるが(汗)、モデルになっている都市周辺で住む方にはかなり親近感を抱きながら読めることであろう。
これに関してはとっても羨ましく思います。

この作品を読まれて、人間の著しい変化に気づかれた方が大半だと思う。
ひとりの男との出会いによって主人公の多田が癒され再生していく姿。

もちろん、チワワを預かることによって生じた様々な騒動。
行天との再会に始まり、チワワを飼えなくなったマリやその後飼い主になるルルをことにより話を進めていくストーリー展開も目が離せない。

多田と行天ともにバツイチである。
読み終えてどちらの方が辛い過去であったかを考えてみた。
具体的に書くと未読の方の興趣をそぐので書けないのが残念である。
しかし、行天が持っている潔さというか寛大さは決して天性のものではない。
過去の辛い経験が今の彼を支えている。
終盤は行天によって本当に大事なものを多田が気づいていく展開が待っている。
予定調和だとはいえ心地よいことこの上ない。

三浦さんの凄いと思うところは、決して読者が多田を否定出来ないところである。
なぜなら、多田の心の中にある自分の過去に対する“わだかまり”って読者が常日頃持っている不安感や寂しさの象徴のような気がするからである。
この意見に同意してくれる方は、おのずからこの作品の評価が高くなると確信している。

逆に行天は“処方箋的役割”を担って本作に登場している。
ほんの小さな幸せが実は大きな幸せなんだ。
大切なことを気づかせてくれた贅沢な読書であったことを最後に書き留めておきたい。

オススメ(9)

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『インディゴの夜 チョコレートビースト』 加藤実秋 (東京創元社) - 2006年06月13日(火)


加藤 実秋 / 東京創元社(2006/04/11)
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<このシリーズにソフトカバーはよく似合う。>
渋谷のホスト達が大活躍し、躍動感溢れサクサク読める文章で読者に迫ってくる『インディゴの夜』の待望の続編。
初めて読まれる方は前作から読まれた方が登場人物の人間関係がつかめていいと思う。

私は若者(ホスト達)が若者を助けるために駆け回る姿がこの物語を一番熱くしていると思う。
だからオーナーサイド(主人公の晶・塩谷・憂夜)はちょっとした傍観者的な立場が良い。
あくまでも主役はホスト達である。

簡単に総括すれば全4編中、個人的には最初と最後がグッとくる物語で特に印象的。
事件の動機が良い意味でも悪い意味でも人間らしいところが読者に伝わってくるのである。
それに比べ、2編目と3編目は少し間延びした感が否めない。

もちろん、この作品に何を求めるかによって捉え方も違ってくるであろう。
しかし私的にはやはり、若者=ホスト達の疾走する姿が魅力的なので、各物語の話の中心も彼らの若さゆえの苦悩が中核をなしているものが自然と楽しめる。

2編目の「マイノリティ/マジョリティ」は編集者の話、3編目の「チョコレートビースト」はなぎさママのお店の話。
簡単に言えば、外部の人間を助ける話より自分達の同類(仲間)の人間を助ける方がより私のハートを揺さぶらせるのである。
ミステリー的には2編目、3編目の方が凝っているかもしれないが・・・

ホスト達それぞれの過去にまつわる話から物語が作られている1編目の「返報者」と最後の「真夜中のダーリン」はグッと来る話が盛り込まれていて楽しめた。
まさに私の本シリーズに求めているもの。多少、予定調和だったということは大目にみたいと思う。

脇役もホスト以外の人物はそれなりのキャラを発揮していたのだが、ジョン太、犬マン、DJ本気、アレックスやはりひとりひとりのホストたちの斬新さは前作ほどではなかった。
前作はホスト業界に関する記述だけでも目新しく読めたのであるが。
その分、なぎさママひとりに負担がかかり過ぎの感は否めない。

逆に少し皮肉な意見であるが、個性的なホスト達の話が少なかった分、前作以上に晶と塩谷との会話が面白かったようにも感じる。



ここからは3作目以降も本作が続くことを希望して書かせていただきますね。

本作の魅力のひとつにオーナーサイドとホスト達との見事な距離感が上げられると思う。
この絶妙な距離感が読者に伝わってきた前作。

少し具体的に書きますね。
作者は気の強い30代女性・高原晶を若者以上の大人の世代の読者の視点として起用。
彼女はホストクラブの経営者でありながら、表の顔として普通の仕事をしている(これは塩谷にも当てはまりますね)
一方、若い世代の読者はホスト達の世代に共感。
いろんないきさつがあって“インディゴ”にて働いている彼らに、自然と声援を送れるような話を読者の前に提供することに成功していたと言えよう。
前述した距離感が見事な連帯感に変わり、必然的に本シリーズの読者層の幅が広がったと言えよう。

若者の代表として主役を張っているマコトが大活躍する石田衣良さんの池袋ウエストゲートパークシリーズと違ったテイストを醸し出している。
少なくとも両シリーズとも似ている部分もあるが明らかに違った部分もあり、少なくとも前作は成功していた。

今回少し危機感を感じて読みおえた。
類まれなセンスの良い文章を紡げる作者ならきっと打破してくれると信じている。
次作あたり、表のオーナーの憂夜の過去が露わになる物語や吉田吉男の元気な姿を期待している。
作者にこの想いが届けば嬉しいのだが・・・

まあまあ(7)

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『雪屋のロッスさん』 いしいしんじ (メディアファクトリー) - 2006年06月09日(金)


いしい しんじ / メディアファクトリー(2006/02)
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<何回も繰り返して読みたいワールドワイドな作品集>

以前、いしいさんの本に挑戦したことがあったのであるが残念ながら挫折した経験がある。
リベンジということで今回手に取ってみたが、この本が読者にもたらしてくれる内容と同様大きな教訓を私に与えてくれた。
それは“物事に先入観を持ってはいけない!”ということである。

雑誌ダ・ヴィンチに連載されていたショートストーリーの単行本化。
収められてるのは全30編。市井の人々の仕事と暮らしを描いている。
まさに大人のファンタジーワールド。
短いものは見開き2ページで長いものでも6ページしかない。

予想に反してすべてがハートウォーミングなものばかりではなく、ところどころに人間の嫌な部分も書いている。
決して人生一筋縄ではいかないのである。
が、根底にあるのは“素朴さと暖かさ”
そこに大いなる魅力を感じる。

本作は本のワールドカップと言うものが存在すれば、日本代表として選ばれてもおかしくないであろう。
海外で翻訳されて多くの人に手に取ってもらいたい作品である。

1編目を読み終えて、決して一気に読むようなたぐいの本ではないとすぐに気づいた。
子供の頃、“一日一善”という言葉を肝に銘じて過ごした経験がある。
まあ、一種の心構えのひとつなんだろうが、この作品集もいつも手元において寝る前に繰り返し読むべき本だと思っている。
一日1編ずつ読むことによって、あたかも一日一善を遂行した気分にさせてくれる魔法のような本である。
こういう本を読みながらまどろむのは読書の醍醐味とも言えそうだ。
そういう意味合いにおいては、比肩する本を探すことは非常に困難な気がするのである。

また、この作品を読んで、幼少時代に寝る前に両親に童話を読んでもらった記憶が甦った方も多いんじゃないだろうかと思う。
現在小さなお子さんがいらっしゃる方なら、今まで以上に何回も繰り返し熱心に読んであげようと思われた方も多いんだろう。
そう、“読書は心を豊かにする”のであるから・・・

個人的には「風呂屋の島田夫妻」の夫婦愛が一番印象的だ。
しかし好きな作品って人生同様十人十色で良い。
私自身も何回も繰り返して読めば変わるであろう。
それぞれの物語のそれぞれの主人公に自分自身の想いを馳せながら読んで欲しい。

どれもが心に残り読者を再生させてくれる本作、1編1編の物語は短いが内容はとってもスパイスが効いて濃いことだけは保証したい。
さあ、あなたもページをめくって下さい。

オススメ(9)

この作品は私が主催している第5回新刊グランプリ!にエントリーしております。
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(投票期間2006年8月31日迄)






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『日傘のお兄さん』 豊島ミホ (新潮社) - 2006年06月04日(日)


豊島 ミホ / 新潮社(2004/03/17)
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色白にめがねってずるい・・・
不思議感覚!
1982年生まれ


<豊島ミホの七変化を楽しめる作品集>

コミック本を読むような手軽い文章の中に潜む豊島ワールド。
本作は豊島さんの第2作目にあたる。
デビュー作『青空チェリー』は文庫化の際に大幅改稿されたが、本作はそのままの状態で文庫化して欲しいと言うのが私の切実な願いである。
4つの短編と表題作の中編1編との合計5編が収められているが、内容的にはバラエティに富んだ内容となっている。

根底に流れているのは“ピュア”な心。
強引に自分の中でのキーワードとして読んでみました。

本来の意味でのピュアとは冒頭の「バイバイラジオスター」にのみあてはまるのかもしれない。
これは胸に突き刺さる作品。離れ離れになったチセとノブオ。ラジオ好きのチセの影響を受けてノブオがDJの仕事に就いたことを知ったチセ。
別れてもこのような関係って理想ですよね。思わず読者にとってのチセやノブオにあたる大切だった人を思い起こさせる秀作に仕上がっている。

次の「すこやかなのぞみ」はなんともいじらしい作品。
小学校6年生からナツ(男性です)とつき合う私(涼子)であるが、ずっとプラトニックラブを通して来た。
私に魅力がないのかと悩んだ挙句、二十歳の誕生日に自分から誘ってみようとする。

3編目の「あわになる」は死んで幽霊となった主人公(みずえ)がかつて好きだったタマオちゃん(実は新婚でした)の側に出没すると言う話。
とタマオちゃんが眩しかった過去(15歳の頃)と新婚の現在を巧く織り交ぜながら女性特有のいじらしさを描写している。
タマオちゃんの嫁の玲奈さんの提案がとっても素敵です。

どちらかと言えば、3編目までは恋愛中心で叶わぬことや過去の想い出に浸る女性主人公がとってもキュート。
しかし全体を通して考えればウォーミングアップ的作品ともとれる。
なぜなら後半の2編に作家としての豊島さんの真価が発揮されていると強く感じるからである。
同じピュアでもこれからは人とのつながりというものに重点が置かれている。  
私だけでなく大いなるギャップに驚かされた読者も多いことであろう。

表題作。これは評価が分かれそうだが、作者の強い意志が主人公の夏美に乗り移っているような気がする秀作である。
タイトルともなっている「日傘のお兄さん」。お兄さんとは夏美が以前幼稚園まで島根県に住んでいた頃に一緒に遊んでもらっていた。
その後、親の離婚で母親と東京に住み移っていたのであるが、ある日8年半ぶりにお兄さんが日傘をささずに夏美の前に現れる。
ロリコン変態者としてネットで知られ、追われる身のお兄さんと一緒に電車逃亡をするのがスリルもあって読ませてくれる。
取りようによっては非難があっても可笑しくない危険な設定なのであるが、逆にとっても豊島さんらしく、彼女の当時の才能が凝縮されていると思うのである。

最後の「猫のように」はなんと40男が主人公。
『檸檬のころ』に登場する男性の描写に舌を巻いた読者も多いはずであるが、その片鱗をこの作品で窺うことが出来る。
作中で亡くなった父親と同じように“淋しい”と感じる重ちゃん。物悲しい作品であるがとっても印象的であるのは私が男性読者であるからだろうか。
猫みたいにのらりくらり生きてもいい。しかし、亡き父親が果たせなかった何かを達成して欲しいなと主人公に対して強く応援している自分。
現実は厳しいけど・・・

私的には本編のテーマとして前半の3編では淡き恋心、後半2編では尊大な愛だと思っている。
いずれも人間が生きていく上で必要不可欠な大切なものである。

さまざまなピュアな心の持ち主が登場する本作品集、全体を流れる物悲しさが心地よい。
ちょっと淋しいときに読めばあなたの心を癒してくれると確信しています。

評価8点



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『チョコレートコスモス』 恩田陸 (毎日新聞社) - 2006年06月01日(木)


恩田 陸 / 毎日新聞社(2006/03/15)
Amazonランキング:位
Amazonおすすめ度:


<文章で臨場感を表現できる限界に挑戦した作品。まさに恩田陸の独壇場。>

ディープな恩田ファンにとっては物議を醸し出すかもしれない発言であることを承知で言わせていただければ、本作は『夜のピクニック』を凌ぐ恩田陸さんの新たな代表作と呼べるかもしれない。

たとえば、読書に面白さや楽しさを求める方(いわばエンターテイメント性ですね)のニーズには100%応えれる演劇を舞台とした傑作作品と言えそうだ。
緊迫感のある文章で、読者が本を開いてから閉じるまで、終始緊張感を持続できる作品に仕上がっている。
本作を手にする誰もが、登場人物の情熱に圧倒されることを覚悟しなければならないであろう。

前置きはともかく、本作はどうやら『ガラスの仮面』のオマージュ的な存在として書かれた作品らしい。
私のようにまったく『ガラスの仮面』に対して知識のない(名前程度は知ってますが)人間が読んでも、楽しめるいや読書を堪能できる1冊である。

物語を進行させてくれるのはまず、中堅脚本家の神谷。彼が事務所から飛鳥の優れた能力を見かけるところから物語が始まる。
彼の優れた演劇に対する観察眼が物語を巧みにコントロールしている。
いわば読者に対してナビゲーター的存在と言って良いのであろう。
そして主人公とも言える2人を忘れてはならない。
ひとりは幼いころから敷かれたレールの上を走るように演劇を始めて、若いながらもすでにその演技力には定評のある東響子
もうひとりは、響子とは対照的に大学に入って芝居を始めたばかりなのに、ズバ抜けた身体能力と天才的なひらめきを見せる佐々木飛鳥
この2人はライバルというかお互いを認め合って切磋琢磨している部分が目立つような気がする。
たとえば相手の失敗を喜んだりとかそう言ったレベルの低いところはほとんどない。
あと飛鳥が属する大学の劇団員で脚本家志望の梶山巽
大体、この4人の視点で語られるといって良さそうだ。

伝説のプロデューサー芹澤泰次郎が新国際劇場の杮落としで上演されるという話題作品のオーディションをめぐって繰り広げられる情熱の舞台。
オーディションに臨むのは大御所の女優、売り出し中のアイドルあおい、キャリアを積んできつつある若い女優葉月、あと前述した演技を始めて半年という大学1年生飛鳥。

オーディションも段階があってとりわけ最終オーディションの描き方は秀逸。
響子は最初のオーディションでは見学、最終では相手役で登場、オーディション結果は読んでのお楽しみで・・・

思ったよりドロドロした部分たとえば女優同士の確執・・・火花を散らすシーンが少なくって読みやすかった。
主観が限定されているのが読者にとって頗る優しくかつ親切だと思う。
恩田さんがテクニック的に凄いのは第1オーディションにて無理難題を突きつけられた個々の女優たちが、それぞれ自分のイメージにぴったりあった即興の演劇をするところ。
それでもって、最後に飛鳥が登場して先に演じた女優以上の演技をいとも簡単に行う。
このあたりの盛り上げ方は素晴らしく、読者も思わずあちら側に行ってしまうのである(笑)
恩田ワールドに入り込み、読書に没頭している自分がまるで客席の舞台に神谷や巽のように感じられる。

オーディション後の流れも恩田作品にてよく指摘される中途半端な終わり方ではなく、スッキリとしたエンディングで終わらせてくれるので高揚した気分で本を閉じることが出来た。
もちろん、続編があれば是非読んでみたい。
とりわけ、飛鳥に対してはまだ未知な部分が多いので(過去に空手をやってたぐらいかな)、もっと話を膨らませて楽しませて欲しいなと思う。

もちろん、演劇に携わる人々・・・女優だけでなく脚本家・演出家・プロデューサーの大変さも垣間見ることが出来る。
恩田さんもかなり演劇がお好きなんでしょうね。
特に、芹澤のキャラが当初イメージしていたものと違って、微笑ましく書かれている点が物語全体を和ませてくれる。


作品全体として、少し秘密めいた飛鳥と現状に決して満足しない響子の人間性のコントラストが見事。
その他の登場人物の息づかいも読者にひしひしと伝わってくる。

恩田さんはこの作品で読者とまさに一体となることに成功している。
終始一貫して“物語が情熱的かつ前向きなので、読者も入り込みやすい”のである。
恩田陸って“文壇の佐々木飛鳥のような存在である”ことを認めたいと思うのである。
もちろん天才肌という意味合いにおいてである。
みなさんも是非“あちら側に一緒に行きましょう”。

恩田版『ガラスの仮面』と言う点だけを斟酌出来れば、ほとんど欠点のない完璧に近い作品だと言えそうである。
少なくとも同じジャンルでこれ以上の作品を書ける作家は存在しないであろう。

細かく語りだせばオーディションより長くなりそうなんで(笑)、とりあえず未読の方は読んでくださいということを強調してペンを置くこととしたい。

評価9点 オススメ

この作品は私が主催している第5回新刊グランプリ!にエントリーしております。
本作を読まれた方、是非お気軽にご投票いただけたら嬉しく思います。
(投票期間2006年8月31日迄)




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