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『インストール』 綿矢りさ (河出文庫) - 2006年01月28日(土)


綿矢 りさ / 河出書房新社(2005/10/05)
Amazonランキング:位
Amazonおすすめ度:
You can keep it.
やっぱりスゴイ「インストール」
理由のない、いらだち


<リズム感のある文章で若者の等身大の気持ちを赤裸々に描写。思わず読者も綿矢ワールドにインストール!>

綿矢りさ、遅ればせながら初挑戦。
ご存知の方も多いかもしれないが、本作は作者が高校生の時に書いた文藝賞受賞作品で彼女のデビュー作である。
彼女は本作の3年後に出る『蹴りたい背中』にて史上最年少の芥川賞作家となる。

予想より面白かったと言うのが正直な感想である。
少なくとも2001年にこの作品を書いていたということは驚愕物である。
島本理生の純愛路線と金原ひとみの大胆路線のちょうどあいだを取ったようなところかな。

一般的に受け入れられる割合がもっとも高いのはうなずける。
最大の特徴はやはり小気味よくリズム感のある文章を用いて今どきの若者の気持ちを代弁しているところだろうか。
その結果、彼女(金原ひとみも含めていいかな)の出現が業界に新しいスタイルをもたらせた。
業界の“救世主”となったと言っても過言ではないであろう。

内容的には平凡な生活に嫌気をさした女子高校生が近くに住む小学生の男の子とネットのチャット風俗に嵌るいう現実に起こりそうでなくて起こりうる世界を描いたもの。
綿矢さんが描くと、客観的に見てもっとも平凡=普通(イマドキという意味合いも多少入ってます)に見える女の子が描いた世界に写るのである。

ネットを趣味としている人間のひとりとして言わせていただければ、ネット世界=イマジネーションを膨らませる世界であると思う。
読み手の性別によっても違ってくるのかもしれないが、少なくとも本作もご多分に漏れず、男性読者は主人公の朝子=作者に投影されて読まれた方が多いのだろう。

忘れてはならないことは小学生(青木君)の家庭環境の設定の巧さである。
彼と朝子との奇妙な友情(連帯感)に心が和んだ方も多いはずだ。

朝子がチャット風俗に嵌ったのははたして単なるストレス解消であったのだろうか?
この作家の凄さは暗く描くのでなく当たり前の如く描写出来る点である。

やはり“若さって大きな武器”である。
読者にとって高校生作家が高校生を描くとフィクションがまるでノンフィクションのように感じられるのである。
たとえば作中で年齢をごまかせてチャットに耽って相手に見破られるシーンがあるのだが、私は仮に年配の作家が同じような内容を書いた場合、見破ることが出来るような気がするのである。

ただ、惜しむらくは併録されている書き下ろし短編の方のインパクトが薄かったのである。
こちらは男子大学生の話。
作者(現在21才)も人生において最も多感な時期。
4〜5年のあいだに変化したのか物語の発想点はいいのであるが、読んでいて表題作のように“綿矢りさをイメージできない”点が最大の難点かつ今後の課題であろう。

たとえば作者より上の世代の方が読まれて、島本理生の小説を読んで味わえる自分の若い時のことを思い起こさせてくれる要素はない。
あいた口がふさがらないようなこともないが、時代が変わったなあと痛感された方も多いのだろう。


本作を読まれて時代は暗澹かつ索漠としていると強く感じた方も多いことであろう。
ただ、感動したとか心に残る作品というわけじゃないけど、2001年という時代を見事に切り取ったエポックメイキング的作品であることに異論はないつもりである。
“私なりに共感した”というこで締めくくりたい。
少なくとも柔軟性のある読書が出来たと自負している次第である。

評価7点



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『ふたたびの虹』 柴田よしき (祥伝社文庫)<再読> - 2006年01月24日(火)


柴田 よしき / 祥伝社(2004/06)
Amazonランキング:12,845位
Amazonおすすめ度:
NHKドラマとは違う「ばんざい屋」の世界
こんなお店があったら・・・
ほのぼの推理物


<自分自身を見つめなおすのに恰好の1冊。あなたも是非“ばんざい屋”のカウンターにお座り下さい>

再読。昨年NHKにて「七色のおばんざい」というタイトルでドラマ化された。

はじめて柴田作品を読まれる方がいた場合、この作品を薦めることにしている。
なぜなら、柴田作品をコンプリートしたわけではないが、柴田さんの数多い作品群の中でもっとも“しっとり”読める作品だと思うからである。

少し冒険的かつ扇情的なきらいがある他作の登場人物に比べて、作者のイメージと本作の主人公とがだぶって感じられるのは私だけであろうか?

本作は7編の短編からなる連作短編集であるが、一編一編はそれぞれミステリーが融合された人情話が盛り込まれていて短編として楽しめる。
舞台が東京のばんざい屋という料理屋(おばんざいとは京都の庶民のおかずのこと)であるために季節の旬の料理が毎回登場、読者もまるで仕事帰りにばんざい屋のカウンターにすわってるかの如く、くつろいだ気分なれるから不思議なものである。
はじめの5編までは、おかみの隠された謎めいた過去が読者の前に興味深い形で投げかけられるのであるが、ラスト2編でその全容が露わになる。

惜しむらくは、終盤の大事な人との対面シーン。
個人的にはもう少し感動的な場面を期待していたのであるが、少しぼやかされたような気もするがはたしてどうでしょうか?


初読(3年前)の時にはミステリーと恋愛小説を巧みに融合したいるなと舌を巻いたのであるが、今回はふたり(おかみと清水)との“大人の素敵な恋”を十分堪能させていただいた。
特に清水の懐の深さ=作者の懐の深さだと認識した次第である。

人生、長く生きれば生きるほど人に隠しておきたいことってありますよね。
率直に語り合え、分かり合える本作の2人の関係って羨ましいと思われた方も多いはずだ。
お互いがお互いを“明日への心の糧”としている点、是非見習いたいと思う。

本作のおかみさんは幸せ者である。
彼女をとりまく人々の暖かさが、辛い過去を清算してくれているように感じ取れるのである。

今日もばんざい屋は繁盛しているのだろうか?
フィクションとわかりつつもふとそういう思いに馳せってしまう。
新しい出会いがあるから人生って楽しいのかもしれない。
ちょっぴりせつなくも心暖まる本作、明日からは少しリラックスして生きれそうな気がする。

評価9点 オススメ


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『フォー・ユア・プレジャー』 柴田よしき (講談社文庫) - 2006年01月21日(土)


柴田 よしき / 講談社(2003/08)
Amazonランキング:34,264位
Amazonおすすめ度:
楽しめる!
心温まり、心洗われる作品
物語をより面白くさせているシリーズ第2作!



<第2弾は24時間タイムリミット! ハナちゃんの命が危ない!>

今回は前作(『フォー・ディア・ライフ』)よりもっとハナちゃんが忙しい。
少し余談となるが前作の書評がbk1の“今週のオススメ書評”に掲載されました。ありがとうございます。

我等の等身大ヒーローのハナちゃん、あいかわらずのモテモテぶりである。
元妻の麦子も登場、もっと元旦那を馬鹿にしているのかと思えばそうでもない。
これはちょっと意外だったのだが、ハナちゃんのポイントアップに貢献と言えそうだ。

前作と比べるとミステリーとしての出来栄え、中盤以降さらに加速するノンストップアクション的な展開などを考慮すればより面白かったかな。
テーマ的には前作の方がインパクトが強く書けてたのかもしれないが、読みなれてしまった点もあるのでしょう。

惜しむらくは、やはり最後に集中して作者の都合のいいように物語が収束し過ぎなきらいがあると感じられる方がいるかもしれないな。
読み手によれば許容範囲を超えているかもしれないが、ハナちゃんの人柄に免じて許してあげてください(笑)

他の作品群と同様柴田さんはやはり女性読者を意識して本作も書かれている。
そう、母性本能をくすぐるキャラ・・・花咲慎一郎。

印象に残ったシーンは恋人・理沙(今回は誘拐されます)と奈美先生の対面シーン。
惜しむらくはもっと嫉妬してほしかったなと思ったり(笑)

あと、ドキドキしたのはやはりハナちゃんと山内との会話シーン。
債務者(ハナ)と債権者(山内)との関係以上に命を委ねている関係に発展。
イマジネーションを膨らませて読まれた読者も多いことであろう。

読まれた方の大半が同感されると思うのであるが、作者はハナちゃんを“優しい男”の象徴として取り上げている。
今の時代、誰にも憎まれなく生きているって貴重なことなのでしょうね。
私たち本好きが時間を割いて読書を楽しむことによって心が安らぐように、ハナちゃんにとっては忙しい合間ににこにこ園の子ども達の寝顔を見ることによって心が安らぐのである。

よく“人徳のある人”という言葉が使われる。
周囲の人が皆、ハナちゃんのことを心配してくれている。
ハナちゃんは幸せ者である。
少しおっちょこちょいなのが玉に瑕であるが、広い目で見て“人徳のある人”だと思う。
男性読者の視点からリスペクトしたい。

ハナちゃんとは逆に、女性作家作品特有のいわゆる“情けなくてだらしなくて愚かな”男の象徴として池上と高梨が登場する。
読んでのお楽しみですが、とりわけ池上に対してはかなり辛辣に書いているような気がする。
いずれにしても女性が生きていく上に置いて“現実社会での教科書”的な作品となるエンターテイメント作品であることに異論はないであろう。

ハナちゃんは天国にまだまだ行かないで!
熱き心で第3弾を手に取ろうと意気込んでいる私。
次は個人的お気に入りの南をもっと登場させて欲しいな。
なにっ、女性読者は城島さんをもっと登場させてって(笑)

評価8点


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『フォー・ディア・ライフ』 柴田よしき (講談社文庫) - 2006年01月11日(水)


柴田 よしき / 講談社(2001/10)
Amazonランキング:67,533位
Amazonおすすめ度:
心にしみる
眠れなくなること請け合いの本



 <新宿で無認可保育園を営む探偵“ハナちゃん”こと花咲慎一郎が大活躍するハナちゃんシリーズの第1弾>

さすが稀代のストーリーテラー、柴田さんだけあって登場人物それぞれが個性的だけでなく生き方もドラマティック。
他のシリーズで大活躍のあの山内さんまでも登場、柴田さんのサービス精神ぶりにうっとりされた方も多いことでしょう。

読みやすさと言う点においては柴田さんのシリーズ物の中では一番かも。
誰からも好かれるハナちゃんのキャラが大成功。
彼の悪戦苦闘振りの忙しさ(ハードな生き様)には読者もページを捲る手が止まらなく、思わず嬉しい悲鳴をあげた方も多いことであろう。

今から8年前の作品なんで、通信関係(パソコン)の表現にどうしても古臭さも漂っているのであるが、いつの時代になっても共通な家族問題のあり方やジェンダー問題・不法就労問題や福祉問題など、慌しい展開の物語の中にも鋭いメスを入れている点は見逃せない。
やはり子どもを育てることの大変さを痛感された方も多いことであろう。

あと、女医・奈美先生と恋人(と言えるのであろう)理沙とのコントラストも読ませる。
男性読者はこんなところ敏感です(笑)
どうやら理沙に心を奪われつつあるようですが・・・
2人とも素敵な女性なんで(笑)、どうしても比較しちゃうものね。
次作以降の展開がどうしても気になります。

少し読み違えかもしれませんが、この作品には大勢(前述の2人・元タレント・保母たち・漫画家など)のそれぞれの過去を持った女性が登場します。
たとえば女性読者が読めば、自分に近い性格(生き様と言った方が良いのかな)の人物に投影することも出来るはず。
彼女達がハナちゃんと接し、結果として彼の危機一髪な状態から守り抜きます。
そう言った観点から読者一体型のミステリーかもしれませんね。
もちろん、ハナちゃんの根っから優しい性格がより読者を身近なものとしているのでしょうが・・・

ラストの「にこにこ園」の園児ミッキー(10歳の少年)が起こす事件がなんとも印象的である。
子どもはとっても敏感であると痛感した。
お子様がいらっしゃる主婦が読まれたら心が痛んだはずである。

どんな苦しいことがあろうとも、支えてくれる人がいるハナちゃん。
彼が眠る時間を惜しんでまで“必死に”生き、周りの人々に“勇気”を与えてくれているからだ。

本のタイトルともなっている“フォー・ディア・ライフ”(「一所懸命」)、柴田さんからの大いなるメッセージだと思います。

評価8点

2006年冊目


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