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『サウスバウンド』 奥田英朗 (角川書店) - 2005年08月28日(日)


奥田 英朗 / 角川書店(2005/06/30)
Amazonランキング:位
Amazonおすすめ度:
想像以上に魅力的だった、元過激派の父。
無駄な正義感をお持ちの方へ
奥田氏は意図はどこに?



待望の直木賞第1作は500ページ超の大長編。
人気作家の中では寡作な部類に属する奥田氏、堪能された方も多いんじゃないだろうか。

本作に登場する元過激派の父一郎はあの『空中ブランコ』の伊良部先生を彷彿させる個性派。

なんといっても本作が成功しているのは息子である二郎の視点で描かれている点であろう。
少年特有の好奇心が見事に描写されており、ページを捲る手が止まらないのである。
父の魅力を息子である小学校6年生の少年の視点で暖かく描いている。

読者は少年小説としても家族小説としても楽しめるのである。

やっぱり長編はいいなとこれからの奥田氏のさらなる飛躍を期待された読者が大半であろう。

物語は第1部と第2部に分かれる。
舞台は東京・中野と沖縄・西表。

主人公は小学校6年生の二郎。
第1部は舞台が東京・中野でごく平凡な日常だけでなく、カツという中学生にいじめられるシーンといつも家にいる風変わり(というか異常な)父・一郎がクローズアップ。
途中で出てくるアキラおじさんと黒木とともに家出するシーンが印象的だ。
あと友人達との別れのシーンも忘れられない。

第2部は舞台を沖縄に移す。
第1部ではどうしてもだらしないと写っていた一郎が“水を得た魚のように”見事に変身して夢を追い求めるシーンが素敵である。

第1部と違って登場人物(いわゆる脇役陣)も人間くさくって本当に多彩であることを付け加えておきたい。

個人的にもっとも印象に残っている点は姉の洋子のとった行動である。
彼女の生い立ちなどが後半で明らかにされるが、そのあたりを踏まえて読まれたらかなりジーンとくるかもしれないな。


夏も終わりの今日この頃であるが、本作を読み終えた読者は来年当たり沖縄に行ってみたいと思われた方が多いような気がする。

少し夢や信念を失った読者は本作を手に取れば良い。
圧倒的な感動度という点では物足りないかもしれないが、読んで必ず良かったと思える爽快感が満喫出来る1冊だと言えよう。

本作から学び取る点が多いのである。

税金を払わないのは良くないが(笑)、ハチャメチャに生きていた一郎が、実はとっても潔い人物だと分かった。
子供の目にサクラ(母)を含めて彼らはどのように写ったであろう。
“子は親の背中を見て育つ”とっても良い言葉であり教訓でもある。
世の中はその視点によって捉え方が180度違ってくるということも可能だ。

少し感受性が豊かになった読者は、明日からは活力を持って社会や学校に戻れることは間違いないであろう。

子供のある親である立場の方が読まれたら、いかなる形であれ“親は子の鏡”であるべきことを強く再認識したことであろう。

“心に青空をもたらせてくれた”奥田氏に感謝の意を表したく思う。

評価9点 オススメ作品

2005年59冊目

この作品は私が主催している第4回新刊グランプリ!にエントリーしております。
本作を読まれた方、是非お気軽にご投票いただけたら嬉しく思います。
(投票期間2006年2月28日迄)



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『その日のまえに』 重松清 (文藝春秋) - 2005年08月21日(日)


重松 清 / 文藝春秋(2005/08/05)
Amazonランキング:2,618位
Amazonおすすめ度:
日々是好日



和美は幸せだったか・・・・。
僕と出会って、夫婦になって、家族をつくって、幸せな一生だったのか・・・・。
わからない。
胸を張って、「幸せでした」とは、いまは言えない。
それがたまらなく悔しくて、悲しくて、和美にも和美の両親にも申し訳なくて、僕にできるのは、自分の場所を義父に譲ることだけだった。

2001年『ビタミンF』で直木賞を受賞以来、2002年『流星ワゴン』、2004年『卒業』とファンを唸らせる小説を上梓、自他共に認める家族小説の第一人者として不動の地位を保っている重松さんであるが、本作を読んでまだまだ目指すところは高かったことに驚愕された方は私だけじゃないはずである。
本作にて家族小説というより夫婦小説として“究極の愛情”を描写、重松ファンってなんて幸せなんだろうと思われた方も多いはずだ。

本作は帯にも書かれている“連作短編集”と言うよりもむしろ、独立した短編4編と妻が末期ガンになって亡くなる過程を描いた長編がミックスされた超お買い得&オススメ作品である。

たとえば山本周五郎賞を受賞した荻原浩さんの『明日の記憶』を楽しめた方には是非手にとって読み比べて欲しいなと思う。

“平凡”と“普通”という言葉がある。
本作にて出てくる人たちは“普通”の人たちであるが、いわば“平凡”ではない。
というのは、どの編にも不幸な死が直面しているからである。
それでも登場人物たちというか残された人たちは現実を受け止めなければならない。

少し前述したが、前半の4つの短編に出てきた人物たちが後半のいわば本来の連作短編(「その日のまえに」「その日」「その日のあとで」)に脇役として登場する。
不覚にも彼らの突然の登場に涙してしまった。
重松氏にとっては予定調和だったのだろうが、一読者である私はその筆の冴えに度肝を抜かれたことを正直に吐露したい。

重苦しく悲劇的なテーマをいとも簡単にわかりやすく読者に提供してくれる。
家族小説は題材でしかなかった。
崇高な親子愛と夫婦愛、あるいは熱き友情を読者に身につかせる・・・本作は重松ワールドの到達点だと思ったりするのである。



健気に生きるって本当にむずかしい。
本作に登場する人たちはすべて健気に生きている。
大輔・健哉兄弟のみならず、看護師の山本さんに至るまで・・・
他の重松作品でも味わえるのであるが、本作ではより一層、深い悲しみに打ち勝つべく“健気な努力を怠ってない点”が読者の胸を熱くするのである。
たとえば、「ヒア・カムズ・ザ・サン」に登場する高校生のトシが後半母親の病室を毎日訪れるシーン、あるいは石川さんがシュンの為に花火大会を催そうと努力しているシーン。
とっても印象的である。
そしてなによりも凄い点は、主人公(と言っていいだろう)の僕が前述した彼らの行動や生き方を“前向きに生きているものの象徴としてバネとしている”点である。
重松ファンの誰もが胸を打たれることであろう。

もしあなたが余命3か月の宣告を受けたら?
そんな気持ちで本書を手にとって欲しいなと思う。
はたしてあなたは涙せずに読めるだろうか?
少なくとも30才以上の方が読まれたら、少しずつ直面していくであろう未来の“死”を考え、あるいは子供のころの“忘れられない思い出”を懐かしむのもいい。

新たな人生の“教科書”を手に入れた重松ファンの心の中には、作中に出てくる無農薬野菜が毎日届いているのであろう。

亡くなった和美さんが天国で微笑んでる夢を今晩は見そうな気がするのは私だけであろうか・・・
是非、あなたの意見も聞かせて欲しいなと思う。

評価10点 超オススメ作品

2005年58冊目

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(投票期間2006年2月28日迄)



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『さよならバースディ』 荻原浩 (集英社) - 2005年08月10日(水)


荻原 浩 / 集英社(2005/07)
Amazonランキング:14,597位
Amazonおすすめ度:
お猿さんだけが知っている



山本周五郎賞受賞第一作。受賞作『明日の記憶』と同じようにシリアス系の作品。
ただし本作はミステリーテイストも含まれている。

タイトルにもなっているボノボ(ピグミーチンパンジー)のバースディは東京霊長類研究センターで生まれた天才子ザル。
人と会話の出来る有能猿である。
主人公で大学助手の真や彼の恋人で大学院生の由紀たちが進める「バースディ・プロジェクト」であるが、ある日由紀が飛び降り自殺してしまう。

本作で描かれてるのは明らかに大人たちのヒューマン・ドラマである。
出世欲の強いのは横山秀夫氏の警察小説に登場する人物達だけではない。
本作に登場する大学教授たちもそうだ。
ある意味彼らの方が俗物的なのかもしれないな。

彼らにとってはバースディは単なる実験動物にすぎない。

対照的に真や由紀にとってはバースディは我が子のように可愛いのである。
バースディに対する接し方・考え方のコントラストが全編を通して支配し、物語をより感動的なものとしている。

多少、細部にわたり説明不足の点もあるかもしれない。
というかもっと他の登場人物の描写の枚数が足りないと言うのが正直なところ。

この物語の主人公真には荻原氏特有のユーモアはいらない。
なぜなら彼には誰にもない優しさを持ち合わせているから。
それだけで読者は満腹になるのである。
あらためて荻原氏は読者の味方であると認識した。
いや小市民であるわたしの味方であると言った方が適切なのであろうか(笑)
世の中がどんなに変わろうとも信じきってまっすぐに生きることの尊さを諭してくれている。
主人公真のように純粋な気持ちで女性を愛したいものである。

話の内容的にはこぢんまりとまとまりすぎているかもしれない。
しかしそのあとは読者がどう受け入れるかによって凄く感じ方が変わってくると言える。

たとえば、ちょっと謎めいた存在の由紀である。
彼女は、プロポーズされた日に自殺するのであるが、やはり安達先生とのことでかなり良心がとがめたのが事態を急がせたのではないかと思ったりするのである。
あとは読んでのお楽しみかな(笑)

真の人生を心から応援したい。
彼には由紀の分も幸せにならなければならない使命があるから・・・

評価8点

2005年57冊目

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(投票期間2006年2月28日迄)


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『震度0』 横山秀夫 (朝日新聞社) - 2005年08月07日(日)


横山 秀夫 / 朝日新聞社(2005/07/15)
Amazonランキング:3,621位
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失望
警察内部の醜悪な人間模様はちょっともう…
『第三の時効』のキレはない『半落ち』路線の本


日本の警察ってここまで腐敗しているのだろうか?
あまりにも正義感が欠如しているのではなかろうか・・・

警察小説というジャンルに市民権を勝ち取った功績の大きい横山氏であるが、本作はいささか期待はずれだった感は否めない。
警察小説の頂点を極めた『第三の時効』の職場内での凌ぎ合いには男のロマンを感じたのであるが、本作の6人の部長には己の保身が強く滲み過ぎてて共感を得ることが出来なかった。

6人(県警本部長以下、キャリア組エリート警務部長、準キャリア警備部長、叩き上げの刑事部長・生活安全部長・交通部長)とも身勝手な人間に写ってしまうのである。
多少なりとも私達民間人にとって本作にも登場するキャリアとノンキャリアとの違いなどわかる点はあるのであるが、それは『踊る大捜査線』などで描かれているようなコミカルな感じの方がいいのである。
警察も大変だなと思う以上にその確執の多さ(というか揚げ足取りのオンパレードと言った方がいいのかもしれない)に辟易してしまうのである。

章ごとに視点が変わり、スピード感溢れた展開であるのだが、いかんせん緊迫感が伝わってこない。
やはり類型的に描きすぎているのが一番の要因であろうか。
とりわけ警務部長夫人と生活安全部長・交通部長の3人が漫画チックでリアルじゃないのである。

阪神大震災との関連性についても不満点が残る。
震災地から約700キロ離れたN県でさえ警備部に緊張感が走った点はわかるのであるが、物語との関連性は薄くタイトル名を想起させるためだけに用いたように見受けれる点は残念である。

逆に裏の主人公であるとも言える失踪した課長サイドから彼らの人生を読み取れたらドラマを感じ取れるのかもしれないなとも思う。
ラスト付近のミステリーの解明度は『半落ち』よりも勝ってるとも言えよう。

本作は皮肉な意見であるが、2時間ドラマで見るほうが面白いのかもしれない。
いずれにしても、横山氏の力量からしてもっと面白い作品が書けるというのがひとつの結論である。
次作以降大いに1ファンとして期待したい。

評価6点

2005年56冊目

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(投票期間2006年2月28日迄)



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