流れる水の中に...雨音

 

 

出発前夜。 - 2003年08月26日(火)



激しい雨が降った。
街を歩く人たちは 慌てたように小走りになり
少しでも早く屋根のある場所へと急ごうとしていた。
暮れた空に遠雷が響いた。
もう 夏も終わりだなと思った。

済ませておかねばならない用事を幾つか終えると
マーケットに向かった。
もう商品棚には 中国産だが松茸も並んでいるし
秋刀魚だって 脂がのっていて 焼いたら溶けてしまうほどだ。
商店街の冴えない洋服やさんのウィンドウも
もう冬生地のスーツが着せられてる。
そんなふうに少しずつ秋に染まり行く街を確かめながら
歩いていた。

明日からほんの暫く この街を離れるかと思うと
妙に親しみが涌いてきた。
なにかこう 心に響くものを一つでも多く
発見しておきたくなった。
レンタルビデオ屋の前を通ると 見る予定もないビデオを
借りてしまいたくなった。
必ずこの街にまた戻らねばならないと言う約束で
自分を縛ってしまいたくなった。

毎日 透明な日々が続いていた。
味もなく 色も無く 香りも無く 感動も無い。
街が彩りを失ったのでは無くて
私の目が硝子玉になってしまっていた。
カーテンの隙間からのぞきみるこの街は
とても平たくて 静かだった。


百日紅が咲いてた。
もう最後の花かなと思いながら行き過ぎた。

驟雨で締めくくられる夏の終わりの姿は
子供の頃の想い出と何一つ違わないなと思った。

雨上がりの涼しい風が
街を吹き抜けてた。



...

ペットでいさせて。 - 2003年08月25日(月)



都合の良い話ではあるが
誰か私をペットのように飼ってくれないかな。
首輪をつけられて綱で繋がれるのは御免だけど
私はきみだけの所有物でよいから。

「妻」なんて身分は私には相応しく無い。
「妻」でいるには 私は余りにも無力で
あまりにも不道徳で あまりにも身勝手だ。
きみが私を眺める時 私は
首をかしげながら 軽くしっぽを立たせて
きみの足元にまとわりつくから。
きみが私に手を差し出した時
ざらりとした舌できみの指を撫でるから。

私は
きみとほんの少しの時間だけ共有して
きみはきみの好きにすればいい。
私はきみの身勝手な退屈しのぎの玩具になるから
私をペットでいさせて。

きみが私の名前を呼べばすぐに
きみのもとに駆け付けて
きみの足元に跪く。
きみの眠るくぼみの横で
私は小さく丸くなって しっぽを体に巻き付けて。

だから。
私の言葉など通じなくてもよいから
私を理解などしなくてよいから
きみはきみのままでよいから

私は私の空を泳ぐペットでいさせて。







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真実。 - 2003年08月20日(水)




茶道をはじめて もう十数年経つ。
長く習っているから お茶名ももってはいるけれど
なかなか真面目に取り組んだのは 最近だから
全く奥まっていない。
お点前は骨組みであり そこから自分で勉強して
肉付けをしていかねばならない。
だから私のお点前なんて まだまだ骨張っている。

最初 始めた時は周りの皆が習っていたから なんていう
主体性のない理由からだったけれど
結果的に私が一番長く続いていたりするのは
好きだったからではなく 単に
お舎弟さんが少ない我がお稽古場から
立ち去ることに 気が引けたからだ。

しかしながら結果的に 長く続けてきたことが
意に反して 自分のものになっていたりする。
たぶん何ごとも そうなんだろうと思ったりする。
結果と それに至る原動力は矛盾していたりする。

星新一のショートショートに
ある男性が会社のお金を横領しようと企む話がある。
彼はより多くのお金を横領するためには
自分が皆に信用され 沢山のお金を動かせる立場に
立たねばならないと思い 必死に仕事をがんばる。
彼は周りに信頼され さらによい立場に立たされる。
それでも彼は欲をだし もっともっと沢山のお金を
動かせる立場になれるように努力する。
そう。彼の目的は 会社のお金の横領だ。
しかしながら結果的に彼は その仕事への熱意や
周りから信頼を認められ その会社のトップになってしまう。
そして彼は振りかえる。
より多くのお金を横領しようと思っただけなのに、と。

とてもシニカルだけれども
何ごともこんなもんなんだろうな と思ったりする。

人と人もそうだ。
お互いに激しくぶつかりあわなくても
共に生きることが大切なのであって
その過程に積み上げられた歴史のようなものは
どんなに激しい一時の感情よりも重たい。
心ここにあらずとも その形を維持するという努力こそ
結果的にはそれがなんらかの成果になるのだと思う。

生きるということは皮肉なもんだなと思う。
そのときどきの真実は 必ずしも 
結果的な真実であるとは限らない。

そして ゲーテはいう。
「実りの多いものだけが真実である」と。








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少ない可能性。 - 2003年08月18日(月)




ある人の日記を読んでいた。

彼女は二十歳のときに 二つの夢があった。
一つはアントニオ・ガウディのサグラダファミリアを見に
スペインへ行くこと。
もうひとつはコウテイペンギンを見に南極へいくこと。

彼女の夢の片方は あっけなく叶ってしまったらしいけど
(おそらくスペイン)
もうひとつは当分叶いそうにないと言う。

「それでもそれは捨てないで、
ぼちぼちやっていこうかなぁって考えてる。
可能性を信じてやっていく、って程格好良くはないけれど、
不可能と思われるものも捨てたりしないって
スタンスなのかなぁ。」『戸惑うペリカン』 7月29日より


人により 捨ててゆくものと拾ってゆくものの量や基準も異なる。
私なんぞは いつからか いや昔からかな 
要領のいい生き方ばかりしようと
物事の上澄みしか掬わなくなった。
上から順番に可能性の強いものだけを選びとって 
あとは捨ててきたような気がする。
だから物事を1から10まで堪能することなんて まずなくて
1から7までの物事があちらこちらにゴロゴロと転がってる。
そうやって私は 勘違いした自己満足に浸っていたような気がする。

なぜだろう。
叶う可能性の少ないものを信じるくらいなら
他の選択肢を採用しようとする。
そう。信じきれないんだ。
何ごとも。 自分の判断さえ。

何かをずっと信じ続けることができるということは
とても勇気のいることだと思う。
何かを信じて全身全霊で打ち込んだとて
すべてが必ずしも叶えられるとは限らない。
だけど それで腰が引けてしまって投げ出しては
なんにも形にならないし 結果もでない。
中途半端なものには 中途半端な結果しか
与えられない。そりゃ 当然だ。

だけど 私には彼女のように強くなれない。
彼女のように 少ない可能性に自分をかけることができない。
その選択肢を採用した自分の判断を信じきれない。
私は私自身を信じては居ない。


小学校のころから「粘り強さがない」と先生に批判されてた。
それは大人になっても まだ治っていない。

彼女のように 沢山の可能性を抱えながら
同時進行というか 
それらはそれらとして 生かしておくという
強さも ある意味での器用さも 私にはなくて
ただただ 彼女の言葉に驚かされ
そういう人もいるのだなあと 尊敬してしまった。





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うだうだうだ。 - 2003年08月17日(日)




私はあんまり過去や想い出を大切にする女ではない。
だからといって あっさりと割り切って
ポイポイと捨ててゆける女でもない。
切り替えの早い人種がいるが そういう質は嫌いだ。
それは切り替えが良いとはいわない。
なんでもよかっただけだ。

あまりに過去を大切にする人種も嫌いだ。
本人は気がついていないのだろうけど
大体においてそれらは美化した結晶のようなもので
過去ではない。
そういう人種はいつも昔を振り返るばかりで
常に現在は不幸せだ。

そんな 過去と現在と近未来の間で
バランスよく折り合いを付けながら
上手に暮らしてゆけるのが
健全な人種なのだろうけど
私は 過去も現在も疎かにしているから
きっとろくな未来も訪れないのだろうな。

生きることは難しい。
ただ 呼吸して食べ物を食べて排泄しているだけなら簡単だけど
そうもいかない。
今日足を一歩外に踏み出さなかったことが
君がそこで右を向いたことが
道路に蹴飛ばされたコーラの空き缶が転がっていることが
どんな現在と近未来に繋がっていて
どんな意味が含まれているのか
そんなことを一つずつ 頭で反芻しながら
私は今 息をしている。

そして私が此処で息をしながら
うだうだと考え事をしているという事実に嫌気がさしていて
そういう自分の殻を破ろうと外側に抗力を発すると
そこには見えない頑丈な壁のような物が有り
甲斐なく失敗し 容易いほうに流れる。
そう。
見えない壁の中で私は畏縮する。

うだ
うだ
うだ。
 



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あなたはわたしになる。 - 2003年08月16日(土)



ほんのひとときの瞬間を
永遠に求めようとするから切なくなる
永遠なんてものは最初から無い
それが嫌と言う程わかっているから
尚更 永遠を強要したくなる

瞬間は写真のようなもの
撮られた瞬間に過去になる
私が求めているのはこの「現在(いま)」ではなくて
そのなかの一つの点だけ
その点をひっぱって 永遠にしようとしている
そんなことははじめから無理だと知ってる
だけどそれは悪足掻き
世界が崩れる瞬間まで足掻いたっていい

抱き合って
「いま」だけを感じている
この空間が粉々に砕け散っても
変化しても
私には見えない
未来なんてどうでもいい
今此処にあるだけが全部

まるでジェットコースター
目まぐるしく変わってゆく景色
ちがうちがう そんなじゃない
私はそのスピードでは変われない
変わることが目的じゃない
信じられるのは「いま」だけ
だから「いま」をぎゅっと捕まえる

あなたはわたしになる








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clock - 2003年08月15日(金)

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そして街は 秋に包まれている - 2003年08月10日(日)



たとえば
日ごと 太陽の昇る時間が
少しずつ 遅くなるように
確実に日常も 
微妙に変化しながら回転している

たとえば
盛夏の中に 息を潜めて時を待つ
秋の芽があるように
目を奪われているうちにも
「それ」は其処に潜在している


小さく君はため息をつく
それは 私には聞こえなくて
時計の秒針や
風に擦れる葉音や
通りを過ぎるクラクションに
消えてしまう

ため息は 小さな竜巻きを作り
心の中で轟々と響きながら
穏やかであった筈の
このささやかな
君だけの理想郷を片っ端から
引っ掻いてゆく


あるとき君が
その先の角を曲がる瞬間に
違う扉を開いていたとしても
私は気づかない


そして街は 秋に包まれている











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私の手を放して。 - 2003年08月03日(日)



このあいだ 彼に
「私に少し お休みを頂戴」と言ってみた。
そうしたら 彼は 目を丸くして怒りはじめた。
少しのあいだだけ 独りきりになりたかっただけなのに
彼にはその気持ちが理解できないようだった。


朝に家を出たきり 彼は深夜にしか戻らない。
ほとんどの時間を 私はひとりで過ごす訳だから
彼の言い分もわからないではないけれど
そういう鋳型からも 解放されたくなる。


「ここにいると 息がつまりそうになるの」といった。
すると 彼は傷付いていたみたいだった。


私はあまり賢くはないから
物事をひとつひとつ反芻しながら 脳細胞に刻み込んでゆく。
独り静かに考えながら 自分の感性へと転換してゆく。
そしてそれは 食べ物を食べた時の消化作業のように
砕き溶かして酵素と混ざり 分解されてはじめて
自分のものとなる。
いわば 今の私には「酵素」を分泌させるだけの
感受性も感動も 見失いつつある。

なにだか 中途半端に投げ出されたままの事柄が
あたかも当然のように 見過ごされてゆき
私は後ろを振り返ると
未完成の凸凹した石だらけの道が続いていて
どこまで後戻りして
これらを綺麗に舗装せねばならないのかと
ため息をつく。


私は君の手を振払うことができずに
君に引きずられるままに 前に進む。
それはきっと私の為になるのだろうと判っている。

だけどほんの暫くだけ 私の手を放して欲しい。
そこに膝を抱えて座り込んで
その光景を目に焼きつけて
私のできたこと しなかったこと そして
私のすべきことを もう一度確認させて欲しい。

頭の中の地図にしっかり記して
いつかかならず
完成させるのだから。





...

蝋燭。 - 2003年08月02日(土)




蝋燭が消えかかっている。

白く長かった蝋燭は 赤い炎を揺らめかせ
酸素をだき込んでうねっていて
時折 黒い煤を巻き上げながら
煌々と燃え盛ってきた。

時の流れは残酷にも
蝋を溶かし 炎に流れ込み
そして次第に短くしつづけて。

風が強く吹く夜は
炎は風に靡いて 振り乱れ
小さく息を潜めていた。

小雨の降る朝には
炎に刺さる小さな水滴さえも
怯えて肩をすくめていた。

そんな度々の夜も朝をも繰りかえして
もう 疲れ切ったみたいに
裾を長く大きく広げて
蝋燭は 崩れかかっている。

軸は横に折れ曲がり
炎は幅を広げて
まさに 最後の勢いを増すかのように
沈む陽の夕映えのように
煌々と大きな炎は
燃えて そして

小さくなった。


「疲れたなあ」って 

ひっそりと 呟いてた。






...




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