流れる水の中に...雨音

 

 

2年の月日。 - 2002年11月25日(月)


あれから2年の月日が流れた。


その間に彼は 臨床から研究に戻り 私は体重が2キロ増えた。
それ以外には これといった大きな変化もなく 
そして やっぱり どこか馴染めないままに過している。


結婚という形や 運命という目に見えないものに
戸惑って 躊躇して 翻弄されてきたけれど
そんなことが 気にならなくなり始めている私が
いま此処にいる。


なんてことのない日常を 日常だと感じ始めたのならば
私には しなければならないことが生まれる。
迷いの中では許されることも
確定の中では。


私は何をしているのだろう。


平和や平凡や日常を 多くの場所に築くことはそれは
単なる怠惰や堕落やそんなもので
それは自分の居心地のいい世界の拡大だと
言ってしまえるほどに 罪深くもない。



時は人を変える か?
いや 時は環境を変える か。
環境は人を変える か。



情熱が ときの中に 埋もれてゆく。






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ある異国の港町で。 - 2002年11月24日(日)



出発までの短い時間 私たちはこの良く知らない街を
散策することにした。
ここを訪れるのは2度目だという彼は まるでその地図を
把握しているかのように 方向感覚と朧げな記憶で
戸惑うことなく路地を進んでいく。

早朝の街はとても涼しかった。
その街は 平日の朝を迎え 仕事に向かう人たちが
それなりに気忙に 足をすすめていた。
陽の眩しさは尋常ではない。
築後数十年はたとうかというクラシカルな
アパルトマンの間から漏れる朝の光に目を細めた。

港町だった。
海際には それを取り巻くように 一本の大きな道路が走り
その道路から少し引っ込んだところに
商店が並んでいた。
ショーウインドウには カラフルな食器や鍋掴みやエプロンが並び
いかにも陽の降り注ぐ ヨーロッパの港町の気配を
漂わせていた。

石畳の道を ちょっと踵の高いストレッチブーツでは
足取りもおぼつかない。

眩しい光の降り注ぐその通りは
まだ静かに静まっていたけれど
もうしばらくすればそこも 賑わいをみせる気配を
開店準備をするために鍵を開けにきた男性の後ろ姿に読み取れた。


広い道路のぐるりと円をえがくその分離帯に
まだ固く緑色の檸檬がなっていた。


手を伸ばし ひとつ手に入れようかとしたけれど
出発時間を気にして 足を早めはじめた彼に急かされ
その手を 引っ込めた。



まだ はじまったばかりだった。
旅行も 何もかもが まだ はじまったばかりだった。




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傷つきながら 生きる。 - 2002年11月23日(土)




傷をえぐりながらしか 生きられない。
それはマゾヒズムかもしれないけれど 
そうでないと何も生まれない。
怪我をした傷口からは 血液やいろんな分泌物が滲み出て
その場所を覆ってしまおうと活性するように
私の生きるエネルギーは そこからしか生まれない。

安穏とした日常は とても幸せだと思う。
それを感謝する気持ちもある。
だけれども 怠惰な私の中の魔物は
安穏に飼いならされて 大人しい小動物になる。


考えることが無ければ 考える器官は退化するし
感傷に胸を痛めなければ 感動も また遠くなる。
安定に身を任せれば バランス感覚を失い
怠慢な毎日は 私を褪せさせてゆく。


肉付けして生きる方法と 
肉をえぐりながら生きる方法と 本当はどちらもある。

前者は 寒風をしのぐ分厚いコートになり
後者は 心の空洞を灯す小さな火になる。

すべてを満たすことは難しい。



刺激を求めているわけではない。
そんな 生易しいものじゃあ ない。
わが身をナイフでえぐれるところまでえぐりとりながら
その肉を投げ捨て続けて生きようとしている。

生きるための 死。



人は大抵 どこかの部分
死にながら 生きてる。
仕事とか 恋愛とか 本当に肉体とか。

そういう人だけが 本当の意味で「生きてる」。



ゾンビ化した私は 今晩も 眠ることすら できない。




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あなたといる理由がみつからない - 2002年11月16日(土)




彼女は「あなたといる理由がみつからない」といったらしい。


友達を「選ぶ」というような事はしないけれど
結果的にいろんな意味でつきあいやすい人としか
長続きしていない。
それは感受性の問題で 同じようなことを同じように
痛みだと感じてくれる人でなければ
不用意な言葉にいちいち気分を害せねばならないからだ。

とはいえ その長続きしている友人達と
「つながっている理由」が特にあるわけでもない。
なんとなく繋がっているだけだから。
それが本当の「繋がり」というものだろうと思う。


だけれどもこと恋愛となると
なにだかの理由付けを必要としてしまう。
「好きだから」ということも確かにひとつの理由かもしれないけれど
その交際を継続し続けようとしたときに
「好きだから」だけでは自分を納得させられなくなる。
だから 結果的に その先にある「結婚」だとかそういう理由を
聳えさせて そして正当化する。

それがたとえば既婚者との恋愛だった場合
その理由付けが無くなってしまうわけだから
なかなか交際を継続することは難しい。
人は非生産的な行動を受け入れるには余裕が必要なのだから。


だから彼女は そういったのだろう。

感情を理由にするには あまりにも心許ない。



私が彼と一緒にいる「理由」は沢山ある。
それはもう 「好きだから」なんていう理由よりももっと沢山。

今の私が砕かれたとしても
今の彼が砕かれたとしても
結局の行き着く場所が同じであると思っていられるから。




しかし 彼はどうなんだろうね。












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お米に凝る - 2002年11月15日(金)



なにだか最近我が家では 御米に凝ってる。

ことの発端は茶道の茶会で「茶飯釜」の茶事を
先生に開いていただいたときに
茶釜で炊いた御米がとても美味しかったことに始った。
先生の舎弟の一人が 土鍋で御米を炊くとおいしい といったものだから
そうかと思い 私も早速実行してみた。

御米を丁寧に研ぎ 最低でも1時間は水に浸す。
その後 水と米を 1:1の割合で土鍋に入れ 
小さい火で炊くと ものの20分程で
つやつやのとても美味しい御飯が炊き上がる。
通常 水と米は1.2:1の割りあいらしいけれど 
良く洗って十分に水に浸した御米には 1:1の分量で
ちょうどいい。
(それでも電気炊飯器の場合には やや固く仕上がる)


今 我が家には3種類の御米がある。(もちろんどれも100%)

・新潟産こしひかり
・魚沼産こしひかり
・丹波産こしひかり

この3つを食べ比べて 美味しいものを継続して使っていこうかなと。

米の値段としては

1.魚沼産
2.新潟産
3.丹波産

の順番で高い。

話は元に戻るけれど
炊き方ひとつで随分食感が変わってくるものだなあと感心している。
今まで電気炊飯器(HIのもの)を使って新潟産コシヒカリを
炊いていたけれど なにだか水っぽいというか
べちょべちょなご飯ができ上がり 美味しくないねえといってた。
それを土鍋に変えた途端 一粒一粒がきちんとしっかりして
艶のある美味しいご飯が炊き上がった。

魚沼産コシヒカリをためしてみると
上記の様子に モチモチとした食感がプラスされたような感じになる。
なかなかいける。

丹波産コシヒカリも同様に 魚沼産に比べると粘りは少ないけれど
それでもモチモチ感は十分にあって美味しい。
もしかしたら丹波産コシヒカリが一番いろんな意味でお得かも知れない。

今は新米が出回るシーズンだから
殊更に美味しいのかもしれないけれど
一日一膳すら食べない私が今 イチ押しの食べ物が
「白米」だというわけである。



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セクシャルな交わり - 2002年11月12日(火)



今日はちょっとセクシャルな話題。


ある男性の日記の内容にあったのだけれど 要約すると
「恋」だの「愛」だのは セクシャルな欲求を正当化するための
理由付けであって その証拠として 相手だって心のつながりだけでは
満足しなかっただろう と。
結論として その「恋愛」とおぼしきものは ただの肉欲であった と
まあ そういうこと。

男性って そう考えるのかあ と ちょっと不可解。


セックスと愛情において
双方向の矢印は成立しないのではないかなと思う。
たとえ心のつながりだけで満足しなかったとしても
それを肉欲と言い捨ててしまうのも なにか違う気がする。

女性的な見地からして
たとえ心のつながりだけで満足しなかったとしても
セクシャルな交わりを持つ程の相手ならば
交わりが無かったとしても 繋がっていたいと思う相手なのでしょ。

愛したうえで交わりを持つ女性と 
交わりを持ってから愛する男性との違いでしょ それは。


女は セクシャルな欲求を満たすためだけの相手とは
何度も繰り返して寝れるものではない。
寝て 後悔して 自己嫌悪して 傷ついて。
そんなことを繰り返せるほど タフじゃない。


背筋を伸ばして 生きていくために
そういう小さな傷も ときには必要だけれども
それだけを そのままに受けとめられたのでは
女だって やりきれない。


体をも求める恋愛関係は
セックスを拒絶する婚姻関係よりも
ずっと 正当なものだと思うよ 私は。







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冷気に囚われてしまう前に - 2002年11月11日(月)



きっと わかるはずなど無い。
明るさとか 美しさとか 崇高さとかとは別のところにある
それらの持つ強い力を。
それらは 私を捉えて離さずに 
そう それらは温かい部屋の床に這い漂う冷気のように
どこか交じり合えず 癒されることなく
ずっと そこに流れている。
動くことをやめてしまえばすぐに 
それらは私を身動きの出来ないように絡めてしまうから
私はそれらから逃れるように 動き 走り続ける。

優しさなど求めていない。
そんなものは 邪魔でさえあるのだから。
私は無機質の塊になって 其処にある事柄を
当然の事として受け入れて そしてやり過ごす。
ひとつ大きな爪痕を残したそれらの痛みで私は
しばらく生き延びることができる。

何かを考え続けるのは無駄なことだと知る。
頭の中にいくつもの考えを招き入れて綺麗に並べる作業は
今の私には適してはいない。
頭の中にあるいくつかの考えを 今は眠らせてしまって
目を閉じて 走り続ける。

足元に流れる冷たい空気が 
この心まで染み入らぬうちに。

凍ってしまいそうな寒さに震えて
このまま眠ってしまわぬように 
このまま皮膚の感覚を失ってしまわぬうちに
このまま生きてゆけるように
私のこの皮膚を この腕を 
食いちぎって欲しいのです。





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ハイヒール - 2002年11月05日(火)


ハイヒールには 何だか不思議な力がある。

仕事をしていた頃は 仕事柄 女性らしい服装を望まれていたものだから
どんなときでもヒールを履くようにしていた。
はじめてヒールを履いたのは 高校3年生のとき。
少し背伸びをして ヒールを履いて遊びに出かけた。
次第に足が痛くなり 歩けなくなって 足を引きずりながらも
踵の高さになれるために 必死で履いてた。
質の良いヒールの選び方を知らなかったころだから
よく靴選びには失敗した。
何足も何足も失敗して ようやく今のブランドに辿り着いた。

昔 とてもエレガントな大人の男性に
「女性は背が高くてもハイヒールを履かねば駄目だよ」と
口髭をなぞりながら 囁かれたのを覚えている。
そう まだ幼かった私に向かって。
彼の言葉が私の頭の中にずっと焼き付いていた。

私はハイヒールを履くと 人込みから 頭ひとつ分だけ高くなる。
それでもやっぱり ハイヒールを履くのは
ヒールを履いたときの背筋の伸びが好きだから。
なにだか張りつめた緊張感が私を「女性」にしてくれるから。

ヒールを履くと 背筋がピンと張る。
頭ひとつ分高いものだから 誰とも視線を交わらせずに済む。
私の視点は曖昧な宙をみつめて
誰一人として視野にいれやしない。


ある東京の画商に
客の質を靴底の減り方で判断する と聞かされた。
今どきナンセンスな と思ったけれど
或る部分では 靴の持つ意味は重要かもしれない。


歳の離れた姉のハイヒールを履いた後ろ姿を思いだす。
背の高い姉は 細い足にハイヒールを履いて 
やわらかいウエーブのかかった長い髪を揺らしながら歩いていた。
幼いころから私は 
そんな姉の後ろ姿を追っかけて来たのかもしれない。

彼女と今 ハイヒール談義を繰り広げると
彼女は味気なく
「今なら絶対あんなもの履いて通勤しないわ」と
やっぱり今でも細い足を投げ出しながら
そう 答えていた。











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明け方のドライブ。 - 2002年11月02日(土)



まだ 夜の明けやらぬ薄暗い時間に 彼と車を走らせていた。
明け方の街は 夜のきらびやかさを失い
曖昧な時間の闇の中にひっそりと無口だったし
立体高速脇の工場地帯も 昼間の脂ぎった気配を感じさせすに
やっぱり しじまの中で 無機質になってた。

前にひらけるのは 曲がりながら先へと続くコンクリートの細い橋。
右手にはまだ暗い海が広がっていた。


次第に空が 明け行く気配を感じながら
風を入れ ただ 前へ前へと 早すぎるスピードで
走り続けていた。


夜が明けるのに 追いつかれてしまいそう と呟く彼に
さあ わからないわよ と答えた私。

もしかしたら 彼ならば いや このスピードならば
夜明けに追いつかれることなく 走り続けられるかもしれない。


いや それは無理だろう と答える彼。

だって1時間に15度しか移動しないのでしょう?

15度ってどれほどの距離があるかわかるか?と彼。

地球の直径はどれほどあるか覚えているかと尋ねてきた。
12000キロと答える私。

12000×約3=36000
36000÷24=1500!

1時間に1500キロ。
1時間に1500キロの距離を移動しないと 追いつかれてしまうと
彼は淡々と説明した。
運転しながら 淡々と。


そっか。無理か。といいながら
まだ明けてない西側の空を眺めていたけれど
それでも彼はただひたすらに飛ばし続けた。


次第に明るく成り行く空を眺めながら たわいもない話を交わし
何処までも続く立体高速を風を切りながら 走り続けた 或る明け方。







...




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