戯言、もしくは、悪あがき。
散る散るミチル
ミチルは果てた
充電切れたら
今夜も寝逃げ

2003年11月16日(日) 鏡のように

暗がりの道をずっと
あるきつづけている
よつんばいで
膝をすりむきつづけている
傷口が膿んで
生まれた膜がちぎれても
けものには戻れない
むき出しの肌に
当たる風は冷たい
洞窟の奥にも
たぶんきみはいない
それでもずっと
あるきつづけていく

死なないでとは言えない
生きていてとは言えない
きみの葬式には
喪服は着ない
顰蹙を買うような
おしゃれをしていく
決してなかない
最初で最後の
くちづけを送るよ
葬列の一番後ろから
ただ言いつづけるのは
好きだよ
好きだよ
好きだよ
ごめんね
ずっと好きだったよ
好きだよ

目のさめるような
残酷な悪夢を見て
あくる日にはまた
笑っている
日々は続いて
きみはいなくても
なにもかわらずに
わたしは嘘をつきつづけて
適当な相づちは
いつも闇に紛れて
なじめない人並みの中で
わたしを食いつぶしていく
それでもきっと
わたしは笑って
いつかはきみを
忘れてしまうだろうか
いつかはわたしを
忘れてしまうだろうか

好きだよ
好きだよ
好きだよ
誰よりも近くで
きみのとても悪いところを
きみのどうしようもないところを
さらしつづけて それでも
好きだよとは
言えないままで
触れないままで
誰よりも近いところから
きみを透き通す
鏡のように

死なないでとは言えない
生きていてとは言えない
わたしがわたしを裏切っても
きみの憎しみに
寄り添いつづけて
すりむいた膝で
ことばにしないままで
ごめんね
生かしてあげられない

鏡だから
わたしには止められない
きみの死ぬ日には
わたしも死ぬのだから
それからさきはずっと

あるきつづけていく
きみを抱いたままで
そのときにはきっと
指先にきみの体温を
ほんとうに感じられるはずだと
信じている
邪悪な

好きだよ
好きだよ
好きだよ
生きていてとはいえない
鏡だから
鏡だから
鏡のままでずっと

死ねないで
あるきつづける
わたしの膝から
ぶら下がった皮膚が
もういないきみを
求め続けても

生きていてと
叫ぶ時はいつも闇
きみのいない闇
ごめんね

きみの生きる間は
わたしも生きるから
鏡のように

生きていてと
きみに懇願するひとたちが
きみを救うだろうか
いつか
割れてしまった鏡の破片で
わたしは首筋から血を流して
きみを失うのだろうか
ほんとうに

好きだよ
好きだよ
好きだよ

ごめんね

さよならすら
きっと言えない

ごめんね



2003年11月11日(火) 断続の果て

いつかてのひらに海を広げて
船を一艘浮かべたい
手招きで波を起こして
踏まれる前の雪色した帆が
ひかりを連れてたわむのを眺めるの

昨日はじめて靴を履いた少年が
はじめての船の甲板で
じっと遠くを見てる
覗き込むわたしの目を
どこかの惑星だと思ってる
(それは、光って、見えただろうか)

くるくるとよく動く指が
手すりの上を駆け抜けて
落ちるってことはきっと
楽しいはずだって気がしてる
まだ 行き先は知らない
つまさきが少し窮屈だった

はやくたどり着きたくて
うずうずしているのね、少年
わたしの指は
ヒマラヤの背高山に見えたかしら
見上げて 見上げて
首が痛んでも彼方を探して
思わずこぼれたわたしの吐息に
ぶかぶか帽子 飛んでった

人差し指で捕まえて
ほら、君はまずあの山を越える
それから もっと その先へ
行くのよ 君は、少年
目の中に惑星を飼ってる
遠くない未来 その手足で
君が旗を突きたてる場所

いつかてのひらに海を広げて
夜にはゆるやかなさざなみを立てて
揺られる船は君を浮かべて
途切れることなくうたうだろう

わたしはずっとそれを眺めて
夜が闇にのまれないように
この目を伏せずにいられるだろうか
すっくと伸ばした人差し指に
君の帽子を引っ掛けたまま



2003年11月09日(日) おやすみなさいを言うまでの夢

今日はとても良い日でした。
目にも舌にも美味しいケーキを食べて、はしゃいで音楽を聴いて、木立の中歩いて、お酒飲んで、最後にはなつかしい味の生クリームがたくさん乗ったチョコレートパフェまで食べました。
楽しかった。

家に帰ってから、ひと悶着。
ふとした言葉に勝手に傷ついて、夜の深さに途方に暮れてしまう。

青春なんて、わたしには訪れたことがないと思っていたし、ずっとこれからもそういう日は来ないだろうって自分に言い聞かせてた。
でも、やっぱり、しいて言うならいまが「青春」なんだろうなって。
ずっとずっと、いろんな曲面で、いろんな自分を殺してきて、彼らは自由にさせてあげれば、手足を思い切り伸ばして春を謳歌していたのかもしれない。
でもわたしは殺してしまったし、それをとめることは出来なかったんだと思う。
だから、わたしは、いまここにあるもの、ここにいて触れられるひとたちを失ってしまうのが怖いし、それなのに一方では傷つけずにずっと手をつなぐ方法なんて、まだよくわからなくて、わかるはずないってあきらめていたりもする。
醜悪だな。

いつか光の下で大好きなひとたちと広い草原で鬼ごっこをしたい。
みんな順番に鬼になって、つかまえては逃げられて、つかまっては逃げて、草を蹴散らして、へとへとになるまで走って。
それでね、日が暮れたらもう、誰が鬼だったとしても、みんなで一緒に地面に座り込んで、夕焼けが星空に変わっていくのを見るんだよ。
手をつないで見るんだよ。
そんな日が来るといいのに。
今日はそんな夢を思いながら、もう、寝ようと思います。
おやすみなさい。またあした。がんばろう。ほどほどに。



2003年11月08日(土) 11月のはさみ

「11月のはさみ」


おかえりなさいを言う間もなく
痩せ細っていく男の背中
銀色のいなびかりが
目の端をずっと走りつづけている

さいごに手をつないだのは
いつだったろうね
うまれるまえ だったかもしれない
うまれるまえには
もういちど 触れ合えるだろうか
あなたに含まれていたころのように
あなたがわたしのいちぶとなる日に

この秋は まだ
嵐がこない
空を打ちくだく怒声が
聞こえない
街中に破片が降り注げば みんな
からだじゅう 刻まれて
ちいさな傷も
おおきな傷も
見分けがつかなくなって
そしたらわたしも
汚れた両手でほそい首を
抱きしめられるかもしれない なんて
言い訳だ けれど

痩せ細ったひとを
目の前にして
わたしはまだ分断しつづけている
目の端に ぎんのひかり
冷たくのどを凍らせて
もう
残像なのかも
しれない のに



 * *

某掲示板に投稿しそびれた詩。
結構気に入っています。
台風の夜にはふとんをかぶって泣いている、つまらない子どもでした。 



2003年11月03日(月) おかえりなさいと言われたいのは

秋晴れの次の日は、もう雨模様。
雨の日には街もどこか懐かしい匂いになる。
舗装された道路の脇の土が、整えられた並木が、生き物に還ろうとしている。
水の匂い。
変えるべき場所の匂い。
呼ばれてしまう。

体調を崩して入院していた父が、この連休の始まりに、3ヶ月ぶりに帰って来た。
まだ真夏だったのに、今はもう、冬もすぐそこだ。
入院中に母と多くの時間を共有したおかげで、新婚のように仲良くなっていた。
昨日出掛けに、母が、「お父さん、髪染めるのよう」とはしゃいで言ってきて、
帰宅したらやっぱり白髪のままだった。
うっすらと茶色が混じってはいるけれど。
「二つの液を混ぜなきゃいけないのに、片方が出てこなかった」のだそうで、
それじゃあ染まらないよ、と思う。
「まったくお母さんはだめなんだからなあ」と、父は呆れたのとがっかりしたのとでもどこかうれしいのとが配合された顔で、ぼやいている。
今日は二人で妹の学園祭にいってきたらしい。
父親は平日が休みだったので、娘の学校のイベントに行くのは本当に初めてだ。
私も誘われたけれど、なんとなく、行くと言えなかった。
かわりに、渋谷でやっていた文学フリマで、ポストカードのセットを4種類買った。
頼まれていた友人の分と2セットずつ。
切り絵の緩やかな曲線が、何か遠い昔わたしの一部だったものに優しく撫でられているようで、泣きそうになった。
木版画の色が優しかった。
愛を織り込まれた言葉と、そこに重ねられた絵の、力強い温かさにほっとした。

両親も、妹の学園祭を楽しめたようで、よかったと思う。
私はこのひとたちの幸せに、どうやって貢献できるだろうか。
3ヶ月、途切れ途切れにそんなことを考えていた。
考えるたびに、なんておこがましいことを考えているのだろうと思った。
貢献だなんて。
醜悪な思い込みだと。
それでも、何度でもそこに戻ってきてしまう。
そこへ戻らない自分がどこへ行き着くのかを知らないし、知らない先を見据える強さを、どうすれば手に入れられるのだろう。

うすぼんやりとした光を見つけては、そちらへふらふらと飛んでいきたくなる。
近づいたときにわかる眩しさは、まだ、似合わないと思う。






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