綴緝
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2002年09月17日(火) きみがぼくをすきな理由(わけ)

 合成獣だから肌の色グロいし。
 肌は石だから年中冷たいし(夏は重宝するけど冬は近付きたくないわよねー)。
 触れるとあたしが傷だらけになるし。そのくせ相手にはキスマーク一つ付けられないし。
 キスなんてしたら最悪。唇は荒れ放題、気を付けないと擦り傷が顔に付き放題。頬擦りなんて頬が痛くてやってられない。
 水に浮かばないし、髪が濡れたら錆びるし(お風呂……どうしてんのかしら)、美形は美形だけど暗い過去背負ってすっかり根暗になっちゃってるし。
 あたしがちょっとミスすると嫌味とか皮肉とか揶揄とか言うくせに、自分が言われると真面目に怒ったり拗ねたり落ち込むし。
 欠点なんて挙げればキリが無い。……あたし、なんでゼルが好きなんだろう。
「おいリナ。俺が何かしたか?」
 意味がわからず首を傾げる。
「……なんで?」
「さっきから俺を睨んでいただろう」
 知らず知らず、視線の先のゼルガディスを睨んでいたらしい。
 別になんでもない、と言いかけて口を閉じる。
 どうせなら本人に訊くのが一番かもしれない。勿論ストレートに言ったらやっぱり怒るか拗ねるか落ち込むかのどれかだろうから、訊き方を考える。
「――――んーと、」
 口に手を当てどんな言葉で訊こうと思案を巡らせる。
 ぶらぶら足を遊ばせた。ぎし、ぎしと軋むベッド。その音が夜に聞く音と重なる。慌てて別の方向へ走りはじめた思考の糸を元の位置まで手繰り寄せた。
 ゼルの前で百面相なんてしたら、またからかわれる。しかも結構な的を射た発言だったりするから困る。
 こういう時ばっかり鋭いんだから。
「欠点ばかり見える人間を好きな人間の心理について考えてたの」
 ……これでもストレートな言い方には違いない、かも。回りくどい言い方って好きじゃないから、しょうがないわね。うん。
 ゼルが渋面で「何だそれは」と呟いた。彼にとっては十二分に回りくどい答だったらしい。
「それがどうして俺を睨む理由になるんだ」
 がたりと椅子を引き、つくえからあたしに体を向ける。
 そう、いままで顔だけあたしに向けて喋っていたのだ。彼は。視線すら寄越さず言葉のみ向けられるより遥かにマシ、とは言え。
 こんなとこも欠点の一つよね。
 マジメな顔だってそりゃ凛々しいなーとか格好いいなーって思うけど。ちゃんとあたしと向き合って話してくれないと、つくえの上の魔道書にも劣る存在なのかってちょっとだけ落ち込むわよ。あたしだって。あまつさえゼルの思考と視線と手を一人占めしてた本にまで嫉妬したりして。
 ……じゃなくて。えぇと、なに考えてたんだっけ。
「まあそれはそれ、これはこれで横に置いといて。嫌い……って言うか。付き合ってても、こっちには不利益ばっかりってわかってるのに、それでも付き合いやめない理由ってなんだと思う?」
 ゼルガディスは渋面のまま暫らくあたしを見ていた。無言で。
 一向に求める解答を与えないあたしの真意を図っていたのかもしれないし、単純に答えないあたしに苛ついたのかもしれない。内心はどうあれ彼の取る道は一つしか無かった。あたしは彼の問いに答えるつもりが無いからだ。
 同じ結論に辿りついたのだろう、彼も。ややして溜息を洩らした。
 諦めきった表情だ。
「付き合っても利の無い相手に、それでも付き合う理由、か?」
 確認の問いにこっくり頷く。
「悩むまでもないな。相手をよっぽど好きか、不利益を差し引いても余りある利があるんだろうさ。端からは見えないそいつだけの」
 余りある利益……ねえ。
 まあ、合成獣とは言え顔貌は整ってるわよね。女のあたしが時々見惚れるくらいには。
 背はそれほど高くないけど、あたしよりは高い。それに無駄に高い誰かよりよっぽど中身詰まってる。
 中身詰まってるから話して面白い。魔道談義にも花が咲く。あたしはどっちかと言うと黒魔術寄りだから、精霊魔術に精通してるゼルの話って為になる。
 頭の回転だって早いから、話がぽんぽん弾む。
 剣の腕も立つ。あたしの自称保護者に負けず劣らず。剣も魔法もかなりの腕前だ。そんな人間、そうそういるもんじゃない。
 無口で無愛想だけど、その代わり彼が話す言葉は大切な――大切にしたい言葉ばかりだ。人をからかってる時を除いて。
 こういうのが不利益を凌ぐ利益、になり得るのだろうか?
「そんなもんなの?」
 どーもいまいちピンとこない。
 実感が伴わないから?
 朝から晩まで同じ顔を見てるのに、実感が伴わないというのも変な話だ。
「そんなもんだろう。で、リナは何故俺を睨んでいたんだ」
 長い足を組む様子が嫌味なほどサマになっている。
 淡白に見えるのに案外しつこいのよね……ゼルって。まあ質問引き伸ばしたあたしのせいもあるけど。
「ゼルが好きってことよ」
 ゼルの論法からするとそうなるのだろう。あたしは彼が好きなのだ。彼が合成獣だとか性格が悪いとか、それらの不利益をものともしないくらいに。
 出会いは最悪。敵同士だった。それがどこをどう間違えたのか、いわゆる恋人同士という仲にまで発展……。自分でも不思議だ。ほんと、どこをどう間違えたのだか。
「……俺にわかるように話してくれ」
 お手上げだ、と実際に両手を上げて降参のポーズ。
 あたしはしょーがないわねーとベッドから立ち上がる。ゼルの前まで歩み寄り、彼の髪にそっと手を触れさせた。注意しないと髪が刺さる。
「リナ?」
 きれい。
 月明かりに照らされる彼も綺麗だけど。陽の光で輝く髪も、きれい。
 あたしだけに向けられる声も、なんて優しいのだろう。見上げる眼差しも、普段の冷たさがなりを潜めて。
 外から聞こえてくる人の話し声――ざわめきも、子供の笑い声も、なにも気にならない。
 好きだなあ。誰にも邪魔されない二人きりの時間。ゼルを独占できる時間。ゼルがあたしを見る、いまのこのとき。
 なーんだ。あたしって単にゼルに構ってもらえなくて拗ねてただけ? それじゃあゼルをどうこう言える立場にないじゃない。我ながら呆れる。
 今度からはちゃんと言おう。本ばかりじゃなくてあたしを見てって。
 二人でいるのに読書されちゃ、二人でいる意味が無い。
 ぬるめのお湯に浸かってじわじわ熱にあたためられるように。実体を持たない心を中心に全身へと広がる想い。
 こういうの、かな。ゼルが言った不利益に勝る利益って。利益なんて言うと言葉が悪い。台無しだけど。
 恐る恐る身を屈めた。髪に唇を落とす。指で触れた時よりもっとずっと慎重に。
 ゼルはもう何も訊かなかった。答えろと催促もしない。
 視線が絡まると微笑んだ。
 そしてあたしは(今更だけど)何にも勝る喜びを手に入れた。



――おわる。
稿了 平成十四年九月十七日火曜日



ラストをどうしようかどうしようかと悩みつつ書いてたら勝手にリナが行動しちゃいましたとさ。……前もこんな事書いてたような? 進歩無いってことですか。だって〆って一番難しい。私が思いつくのは大体話の中盤くらい。そこを書ききると途端にやる気をなくすんですが(ダメダメ)今回はそうならずホッとしました。やる気を無くすから〆に困るという。やる気無いと放っておくから進まない。やる気が出て書く気になっても、以前書いた時と同じ流れで自然に書くのが難しい。〆を思いつきゃ問題無いんですが。そゆことって滅多にないしなー。いまんとこ思い付いた〆って言えば……「神の遺産」……書かなきゃ……。ぢつは一度、三章に入ったとこまで書いてるんですが。設定の矛盾を発見して書き直し中なのです。あと人称がおかしくなってるから、書いたものをまんま出す訳にゆかづ。一人称と三人称がごっちゃになってるんですよーう。今までの以上に。リライトしたい……。ぜんぶ。うわどんくらいの時間掛かるんだろうか…………げんなり。まあ「神の遺産」書き始めたころってゆえば、人称って何? 状態だったからな……。当然三人称と一人称の違いもよくわかってなかった。あの頃に比べりゃちったぁ成長したのだろう(あの頃の文章はもう読めない読みたくない)。……話がずれてる。えぇとまあそんな訳で成長してるんだかしてないんだかわかりませんが取り敢えず(↑の話は)〆までこぎつけたのでオッケなのでぃす(尻切れの感がありますが気にしちゃイヤンです)。〆られないのが一番問題だ。関係ないですが今日も書こうと思っていた話とは別のネタ引っ張ってきました。もともとのネタを実際に書いてみたら、つまらなくて。書き方を変えなきゃだめなんだろうな。ま、もとのネタは別の機会にでも。今の私には扱いにくいつか、書くには実力不足な模様。ネタ自体は面白いんですが。(珍しく自画自讃)

冒頭のポエ夢☆(だから痛いとわかりきってることわざわざ自分で書くな) は↑のゼルリナ小説と全く無関係です。……スミマセン私ゼル好きです。リナに↑でボロクソに貶されてますが。ネタが浮かんだから書いただけです他意はありませんっっ。しかしなんだってこんなに長くなったんだか。おかしいなー二十行くらい書けたらいい方だと思って書き始めたのに。これなら書棚にアップしてもいい長さだ。ネタの内容が内容なので(ただ甘いだけで内容が無いよう)アップしませんが。ジャンク早く復活させな。サイト整理したい脳。リニュもしたい。りにゅー。にゅう。あ、寒いこと言ってる自覚はあるのでツッコミ不可。

ストック無くなったので突発SSは今日で終了〜。何か浮かんだらまた書くです。つか昨日ネタが浮かばなければ今日は普通の日記を書く予定だったです。(←日本語おかすぃ?)とか書いてる内に何かまた書きたくなってきたので明日も書くかも。明後日になるかも。ゼルリナですー。と予告しておいてぜろりな書いてたりして。と期待させておいてやっぱりやめたとか言い出す可能性大。(書けよいいから)(寧ろ止まってる某ネタを今すぐ)そろそろルークリナ書きたい……(おまえってヤツぁ)。てゆーかここさいきんオリジナル書きたくて……浮気ものと言わないで(無理)。


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そのまま日記から引っ張ってきました。こんなんばっかだ。次の更新は日記から引っ張ってきたとゆー再録ではなく、ちゃんと書き下ろしをしたいです。
<平成十四年九月二十日金曜日>


2002年09月14日(土) 傷痕

 あたしが怪我をした時、誰より怒るのが――――。
「なんで治癒(リカバリィ)かけないのっ!?」
 アメリアだったりする。
 怪我、と言っても掠り傷。騒ぐほど重傷ではない。
 だが今回は場所が悪かった。腕ならグローブかマントで隠せるし、足ならズボンかブーツで隠せる。その他の場所は服が隠してくれる。しかし。顔はどうにもならないのだ。まさかマスクをかぶる訳にもいくまい。ゼルガディスのようなフード付きの貫頭衣も持っていない。持っていたとしても、突然フードをかぶって皆の前に出たら怪しまれる。当たり前だが。傷を治さないなら素顔で現れるしかない。
 がた、と椅子を引いて座る。
「治癒かけるまでもないわよ、こんな傷。舐めときゃ治るわ」
 ぱたぱた手を振り苦笑した。まったく、ガウリイもそうだが大袈裟なのだ。その保護者は無言でもやっぱり、心配だ心配だどうして顔に傷を付けたまま平然としていられるんだああ心配だ、というオーラを全身から発している。ちなみにゼルガディスは、というと。
「舐めてやろうか」
 あたしはさて今日の朝食、何にしようと手に取ったメニューをばったり落とした。
「な」
 ごん、がす。
 なに言い出すのよあんたわっ、という叫びはガウリイの行動によって喉の奥に引っ込んだ。
 ゼルガディスが思いっきりテーブルに顔面強打した。ガウリイが力加減を全くしていなかったせいと、ゼルが不意を突かれたせいで。
 つまりそのなんと言うか。ガウリイが剣の柄でゼルの頭を殴ったのだ。
「顔よ顔! ダメよリナだって一応は女の子なんだからっ」
 アメリアが何も無かったように言った。
 ……一応はって何。
 突っ込もうとしてやめた。返される言葉がなんとなく予想できるからだ。
「……いーの」
 実を言うと、傷が付いているのは顔に留まらない。アメリアに見えない場所――袖で隠れている二の腕とか胸の辺りとか背中とか、あまり大きな声で言えないが、腿とか足の付け根のきわどいところとかにも。それはもう無数に引っ掻き傷がある。
 でもあたしは治さない。服が擦れて痛くても、シャワーを浴びる時どんなに沁みても。
「良くないわよ」
 わからず屋っ、と頬を膨らませるアメリアに、苦笑でない笑みを向ける。
「いいのよ」
 だってこの傷は、ゼルに触れた時にしか付かない傷だから。



――終。
稿了 平成十四年九月十四日土曜日



……てゆーかテーブルに突っ込んだゼルはどうでもいいんかい。<オチ←台無し

恥ずかしいので明日には削除します。つーてもまあ前回書いた小説と同じく某所に恥晒しとして置いておくでしょう。おかしーなー。少女漫画チックにをとめ一直線なネタだったのに。ゼルが悪ふざけしてガウが制裁したらこんな事に。本当は日記に出すネタはこれじゃなかったんですが、あまりに寒いネタだと直前で気付いたのでこっちに切り替え。うーむ気付いて良かった。あぶなかったー。こにょまま闇に葬ったるわい。もいっこゼルリナあーんどアメリナ話を思いついたにょで、そちらも某所で細々と連載するでせう。てゆーか更新止まりっぱなしの書棚をどうにか……つか七夕ネタはどうなったんだとゆーツッコミ大却下。ああ泣きそう(泣け喚け叫べ)。


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予告通り移植。そしてまた推敲をしない……。自分で読み返したくない話を公開するな>私

次はゼルリナのちょっとだけ長い話を書く、かも。連載もの抱え込みすぎ。完結させる気はあるんです。あるんですったら!(ぼのぼの風に)←読みたいんだが今更全部買うとゆーのも、と躊躇してまふ。
<平成十四年九月十五日日曜日>


2002年09月08日(日) 束縛

 重苦しい……。
 正しく言うなら、重くて、息苦しい。例えるならば全身雁字搦めに鎖で縛り付けられて、狭く暗い四方八方を石で囲まれた部屋に閉じ込められているような。または巨大な鉄の塊に押し潰されているような。そんな息苦しさだ。
 更に言えば暑い。肌が汗でじっとりと濡れている。この上なく不快だ。暑いという意味でも、重くて苦しいという意味でも。
 一体なにがどうなっているのか。
 半分以上寝惚けながら考えても解答を得られる訳もなく。
 取り敢えず不快さから逃れようと身を捩る。
 ……効果無し。
 第二段階。腕を突っ張ってみれば離れるかもしれない。
 ……びくともしない。
 第三段階。叩けば壊れるかもしれない。
 ……壊れるどころかやっぱり微動だにしない。
 全く反応が無いと苦しいだとか重いだとか関係なく。意地でも動かしてやろうという気になってくる。
 体を束縛している物は人肌並に暖かく柔らかい。鎖ではないようだ。
 柔らかいなら、と一瞬、噛み付いてやろうかとも思った。だが外側は柔らかくても中身が硬いかもしれない。歯をぼろぼろにはしたくない。
 結局爪を立てるに留め、力任せに押した。
 ……がやっぱり何も変わらない。引っ掻いたり抓ってみてもダメ。
 一人で奮闘して頑張ってもどうにもならない。何だか馬鹿みたいだ。骨折り損のくたびれ儲けとは今の状況を言うのか。損した気分だ。
 疲労と脱力感がどっと押し寄せる。
 ――――疲れたし。
 もう動きたくないし瞼も重たくなってきたし。
 身体を包む温もりもなんだか心地良い。暑いと思っていたはずなのに。
 寝よ。
 もう一回目が覚めたらきっとどうにかなってるだろう。
 楽観的に考え半分も開いてなかった瞼を閉ざす。折り良く眠気に襲われ、夢の中へ沈み込んだ。


 だから彼女は知らない。
「誰が離すかよ」
 彼女を束縛していた者の呟きを。
「……にしても俺を傷だらけにする気か、こいつは」
 幸せなぼやきも、彼女の意識まで届かなかった。


終われ。
稿了 平成十四年九月八日日曜日



一人称と三人称がごちゃ混ぜ。まあいいや……(全然良くない)。カップリングはご自由にどぞ(つーてもな……ラストの口調を考えりゃ一目瞭然か)。突発。思い付いたネタを書き殴っただけです。書棚更新をなっかなか出来ないお詫び(にもならん)。次にネット繋いだ日にはゼルリナ書きたいです。今回のように激短い突発。次回にゼルリナ書いたら↑は某所に移しますー。てゆか某所の存在忘れ去られてるんじゃ……。前回の日記で更新したって書いてもアクセス無かったしなー。まあ前々回の更新がエイプリルフールじゃしょうがないか。更新しない己が悪いのじゃー。

てことでまだ暫く沈みます。本当は昨日書く筈だったんですが、諸事情により(遠い目)書けませんでした。……あああああもう九月だよーう。曼珠沙華の季節が終わってから七夕ネタ完結かって言うか年内完結できるのか!? 以下次号。(……次号?)あ、↑の突発SSは七夕ネタと何の関係もござません。次回書く予定のゼルリナも七夕ネタには関係ないです。

いつまで続くバッドハイ。眠いですおやすみなさいー。(※現在時刻19:30)(そして午前3時ごろに起きるんだな)(眠れるだけマシか)


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八日の日記に書いた内容そっくりそのまま移植してきました。顔から火どころか火柱が上がる勢いで。(だからろくすっぽ読み返さず推敲さえ放棄……)サイトに載せる時は無くしたジャンク復活させてそこにでもアップします。来年くらいには。載せられるかー! と卓袱台返ししたくなったらひっそり消します(……)。
<平成十四年九月十四日土曜日>


2002年09月01日(日) 月の姫巫女(1)

 幸せになれると思っていた。
 今度こそ、二人で幸せになれると思っていたのに。


 どうして。
 どうして、という問いが頭から離れない。
 哀しさが自分でも手をつけられぬほどに膨れ上がる。だから聞こえない振りをする。心の内に響く声を。耳を塞いで聞こえない振りをする。放っておけば暴走して言葉の刃で傷つけてしまう。
 ――――彼は、死んだのだ。


 しとしと降り続く雨に旅路の足止めを余儀なくされた。
 何をするでもなく、ぼんやりと閉めた窓を眺めている。雨粒が時折窓に当たり、つっと流れ落ちる。窓の外は一面灰色の空だ。雲は空に押し込められ動く気配を見せない。風が吹いていないようだから、当然と言えば当然か。
 書き物用のつくえに己を抱きしめる格好で腕を置く。湿気でベタベタして不快だ。腰掛けている椅子が窮屈に思えて仕方ない。体を締め付けるほど小さい訳でもないのに。
 時間が止まったような――或いは時間が緩やかに流れる、こんな雨の日は。苦手だ。普段は意識の隅に追いやられている無駄な考えを掘り起こされる。
 体を前屈みに倒し額をつくえにくっ付けた。
 まるで雪でも降っているかのようだ。雨音すら聞こえない。聞こえるのは自分の呼吸音と鼓動、宿の老朽化を物語る足音、階下のざわめきのみ。
 ……足音?
 廊下から微かに聞こえてくる木材の軋む音。音の間隔から察するに男だろう。階段の方からだんだんこの部屋に近付いてくる。気付くとほぼ同時だった。足音が部屋の前でぴたりと止まったのだ。
 誰だろう、と思う間も顔を上げる間も無かった。響いたノックの音に何故か息を潜めた。



――続く。




のんびり連載します。
タイトルは仮題です。巫女姫に変えるかもしれませんし、全然別のタイトルを付けるかもしれません。


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