in love with...
沙夜



 指環

「ね、私、リングが欲しい」

「リング?」

「そう、リング、指環!
プラチナ……とは言わないけど、ホワイトゴールドの。
シンプルで、ピンク色の石か、ダイヤがついているのがいい」

「それは……謝罪のリングとか?」

「ううん。
誠意のリング。愛情のリングよ(笑)
まぁ、お詫びのリングでもなんでもいいんだけど」

「誠意?
愛情、ね……」

「だから、豆ぞうさんが選んで、プレゼントして欲しいの。
おまかせするわ」

そんな会話をしたのが、旅行の2日前。


きっと、『なんで買わなくちゃいけないんだよっ』と、
思ったに違いないけど、彼は何も言わなかった。





旅行の翌日。
こちらでの仕事が終わったら、そのまま帰るつもりだった彼に、
私は「デートしたい」とわがままを言った。
少しだけでも会いたかった。






お茶するかな。
もっとゆっくり出来るのかな。
……それとも、バイバイかしら。

ランチの後、私は助手席でそんなことをぼんやり考えていた。

「指環、見に行こうか」

「え。……いいの?」

この時、指環のことは、全然考えていなかったので驚いた。


2店舗をハシゴして、あれこれ指にはめてみた。
最終的には、私が最初に良いと思ったものに彼も同意して、
それをプレゼントしてもらうことになった。






結局。
こんなことをしてもらっても、彼にしてみたら何の意味もないのだろう。
彼女が欲しいと言ったから、買ってあげた。
指環には、謝罪だの、愛情だの、何の意味合いも込められてはいない。

無理を言ってしまって悪かったと思う反面、
無理を聞いてくれたことが嬉しくもあった。

でも、こんなことで愛情の度合いなんて量れるわけじゃないし、
愛情を縛り付けておくことも出来っこない。

それでも、今の私には意味があり、なにかカタチあるものが必要だった。




2006年07月24日(月)



 Everything

胸の奥が時折ヒリヒリと痛む。
なんだかとても久しぶりに味わう、懐かしい感覚。
この感覚は……


+++


急に決まった旅行だった。

神々しい山々。蛍。満天の星空。
湯の花が舞う、かけ流しの露天風呂。

どれもが素晴らしく、癒された。
多分今までで一番安価であった宿なのに、最高に贅沢な気分を味わうことが出来た。


明かりを落とし、露天風呂で二人、しばし夜空を見上げ続けた。
天の川を見るのはこれが二度目だ。
ただ、すごい、という言葉しか出ない。
前日までは雨が降り続いていたというから、この幸運に感謝しなければ。

「あ、また流れ星」
「ずるいな、沙夜ちゃんばっかり」
「でもお願い事は出来なかったわ」

きっと今の私には願い事がありすぎて、ひとつには絞れない。


宇宙を感じながら、このままここで眠れたらどんなに素敵だろう。
名残惜しかったが、いつまでも真っ裸でお風呂に突っ立っている訳にもいかない。


「あー、幸せ。このまま死んでもいい」

部屋に戻り、布団に身体を横たえながら彼が言う。

「そうだね……」

それが可能だったら、どんなにいいだろう。



チェックアウトぎりぎりの時間まで温泉を堪能した。
笑顔でお見送りするおカミさん達に彼は「また、来ます」と声をかけていた。

雪の季節に訪れることが出来たら最高だ。
道のりは恐ろしく大変だろうけど。


+++


帰り道、カーオーディオから流れるMISIAの "Everything" を聴きながら、
押さえ込んでいた感情が涙となって溢れ出した。






2006年07月23日(日)
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