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2011年10月19日(水)
カレー









混ぜない、派です。
ゴッテゴテに固まりになったほうが好きです。
ごはんは少なめに盛って
かちゃかちゃスプーンを鳴らして
おかわりを何杯もしたいのです。
ゆで卵は半熟じゃないほうがいいです。
カツをのせるなんて贅沢すぎて腰が抜けそう。
なのでサラダがあればお大尽。

おいしいのはカレーなのですけれど
カレーがおいしいのだとおもいます。
子どもの頃、ひとりで食べる用にしめしめ作ったとき
ずっと沸騰させたままカレー粉を入れてしまって
いくら入れ続けてもトロトロになってくれなくて
ただの黒っぽい水ができたことがありました。
当然、ひとりでそれを啜ったわけで。
それから私にとっておいしいカレーは
家族や友人と食べるもの、というごく個人的暗黙の了解が成されたわけです。

にんにくをたくさん投入します。
たまねぎはもっとたくさん投下します。
あめいろに炒めるのは正直、面倒。
でもちゃんとやるのが流儀です。
昔、キャンプでやったはんごうすいはん?すいさん?の
カレーライスじゃなくて
昔ながらの昭和食堂、工場の床を照らすお陽さま匂ひ漂う
ライスカレーじゃなくて
本場異国の薫りたかいスパイス、遙かアジアの果てより伝わる
カリーでもなく
うちの
六畳間
あったりまえカレー。

そう、カレーと言えば家の中にあるものです。
家のすべての窓から湯気がたって
その家がぽつんと建っているちいさな島は
周りのどの船から見ても
おなかが空きました、という国の領土と国旗に見えるでしょう。
その国旗が高くゆっくり空にあがっていくので
水夫たちも仕事を早めに切り上げて
真っ黒な手を洗いに行くでしょう。
夕暮れの長い自分の影を、衛星軌道から地平の上に
映写するのが子どもの頃からの夢だったベテラン宇宙飛行士は
もう陸から離れて37年、
初老と呼ばれる齢になってはじめて
帰ってみようという不思議な気持ちになるかもしれない。

あなたたちも、だから家に
はやく帰ってくればいいのに。
こんなにおいしくできたのですけどね。

















2011年10月03日(月)
どこで誰と何をどんなふうにしていようと(4)










書架と壁の隙間に落ちる。ような
夏だとおもう。
図書館で。
5階は冷房がほとんど
効いてなくて。胸に
汗をかいてしまう。暑いな。落書き。夕立ち。結婚。
珍しく男の人と
昨夜はベッドにはいったけれど。
別にその人のこと
好きでもなんでもなくて。
けれどカラダが、頼りなくても
たどたどしく、それでも
何もないほうに。
髪をほどく音。落書き。夕立ち。何もないほうに
向かってくれるのでそれは。
良いことだから。
毎日誰かと話をしていて。内緒の話で。二度はしない。
すぐに忘れてもらえる、話。優しい。
頁をめくる。指を伸ばす。ひらく。伸ばして。戻す。
本を閉じて。私が
また誰かの過去になったような、
そういう音だとおもう。
雨、あがらなそう。
でも帰る、帰らなくちゃ。
ちいさな子が書架の間を駆けていき
ポーチを落としたので
拾って
追いかけ
渡した。
でも無言で渡したものだから
びっくりさせたね。ごめんね。