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2008年06月30日(月)
会話をするまで







大事な話をしようと決めた
これ程大事な話でなくとも
誰かと話したその夜というものは大抵、バスタブのなかで膝を抱え
交わした会話を振り返り
必ず後悔と反省を繰り拡げてしまうものであるわけで
まして今回ばかりはなんとも
重要な内容であるのであるからして
出来る限り前向きに上記のような事態を避けたいのであって
まずはきっかけ、此処でつまずいてしまうようでは
せっかくの機会もみすみす逃がす状況を招くのであって
あらたまらず焦ることなく
さも自然を装い得るのが好ましい、まるで相手が
その話を始めたかのような流れをつくっておければ尚よろしく
それから順序も大切なのであって
なにから話していくかで内容も印象も大きく変わるだろうし
相手がどんな反応、感想、反論を持つかの
予想フローチャートくらいは頭に入れておくべきであって
どの際にも不快な想いをさせることなく
相槌と同意を絶妙な角度で差し挟みつつもこちら側の予測コースを辿れるような
柔よく剛を制すの日本古来の格闘技精神を持った誘導を施すべきであって
いや、その前提にも結果にも我々は正々堂々のスポーツマンシップに則り
気持ちが伝わってくれるのであれば返り討ち気味に
説き伏せられるも本望で御座るからしてともかくも
けして話の途中で興味が別のところに行ってしまうような
散漫的な集中ではこの重要な会話は成立しないのでもって
なにより大事なのはどう話すかであって
なにか大事なことを話すってことは
別のなにかは言わないってことではないかと思うのであるため
そのことで語弊が生じるのは大変によろしくない且つ
それではすべてが水の泡であるからして
事前に方向とそのための弊害的作用になりそうな
意味合い、誤謬には赤線を引いておくべきであって
さらに言葉というのはその人物自体を
まるきり逃がしてはくれないものであるのだから
僅かな端切れにでもそのひと等身大の
信仰信条感性知識経験奉仕願望などが現れるものなので
それが分かりきっているからこそ
懸命に隠すところはひた隠しさとられるべからずであるからして
かといって固い感じにも急いだ感じにもならず何ものにも邪魔だてされない場所を
選ぶのは至極当然であるとして
相手が程よくリラックスしたうえで話せるように
気のきいたこじゃれユーモアもはさみつつも
小気味いい加減の、つまり間違っても侮辱しているなどとは取られない具合の
微笑も併せ持つのが適切であるからして
顔面皮膚下の表情筋のマッサージは丹念に行っておくべきであり
第一、こんな重要な話を始めるほうがこうも、これほどの緊張を解けないようでは
そもそもが話にならないのであるから
えー。まー。とりあえず。

飲みましょっか。












2008年06月23日(月)
よこはまごっちゃ(1)と(2)







プラレールの京浜急行
細い川をいくつも束ねて
結んでいくぞ

たんぽぽの冠毛は
いっせいのせで
おしゃべりです

信号機のない横断歩道の
真ん中をおっきな猫が
こっちへのそのそやって来たりするもので

またもやシャッターを
押しそびれてしまったわけ













フェスタがたくさんあるみたい
毎日、街のどこかしら
突然大砲が破裂しそうで
おっかなびっくりなこどもたち

大道芸のお祭りもあるんだってさ
昼間っからビールの泡と拍手と人間たちが
道からはみだして落っこちていく

混んでてぜんぜん見えねえや
あっちでベリーダンスがはじまるよ
ポップコーンやソーセージの路地で
子どもたちといっしょに座り込んで
楽しそうなおとなたちのほうを見物してやる

はしゃぐことが出来るのはのはもしかして
こどものうちとか思ってないかい
横浜をうろうろ歩き回っていると
やっぱりおとなのほうが楽しいよ













2008年06月16日(月)
ベランダボート







水面に浮いて
いられるまで

やがてどぼんと消えるまで
いくつか気泡の
あがってくるまで

打ち出した信号の
波間にあたって
沈んできえて

群雲へ隠れてしまうあいだには
ボートのうえから

ノートPCの
灯りをおくる














2008年06月09日(月)
もうひとつの耳のすませ方










ともかくその日いちにちは
みんなで音を出す日という決まりだ
なんでもいい
大きな音を出しまくる
金だらいをラッパでたたく
スリッパでエレキギターをはじく
屋上からドラムを放り投げ
クラクションの鍵盤を押しっぱなし
電球もガラスの破裂も
気にしなくていい
どうせひとりでに割れちゃうんだ
服には鈴やタンバリンを縫いつけ
教会の鐘をサイレンにして
SHUREかBOSE製の
マイク、メガホン、拡声器をありったけ
ひとり残さず行き渡らせろ
電線を全部ストリングスに取り替えろ
ブラスバンドをロケットにのせろ
花火の打ち上げを途切れさせるな
ずっと手を叩いていてもいい
同時に足を踏み鳴らしててもいいんだ
そうして
音音音で一杯に脹らんだ街の
いくらでも溢れかえってしまうなか
その余韻の残っているうちに、みんなで
音のなんにもしない方へ向けて

耳を澄ましてみるのだ













2008年06月02日(月)
生きていくお前(8)








法では裁けない悪もある
そんなここ最近の物価高のなか
敢然と立ち向かう
風に立つライオンな八百屋に僕は出会う
引越しをする前に、横浜西区ここらへんを知る方からは
『そのへんは良いスーパーがない。』『つまり生活圏じゃない。』と教わってたので
実際にウロウロ歩いてみても、その事は覚悟していたのだけど
どんな世界にも正義はあったわけで

じゃがいもがひーふーみ…10個くらいのひと籠100円
すべての芽がでっぱなし、でも安い
芽なんてとれば大丈夫

トマトがひーふー、15個くらいの大盛りひと籠100円ぽっきり
家に帰って確認したらほとんどが割れている
別に気にしなければ大丈夫

2kgのバケツキムチ、200円也
賞味期限は本日まで?絶対食べきれない量だけど
でも辛いから、大丈夫
ほんのちょっと勇気があれば

今迄高くて買ったことなかった銀杏も2パック100円也
これは嬉しい、はしゃいで買う
家に帰ってから判明
賞味期限は一ヶ月前
けれどほんのもうちょっとの勇気さえあるなら

いちご4パックで200円也??
いくらなんでもこれは
どう見ても、見るまでもなく腐ってはるのでは??
でも勇気あるんで、買います

法では裁けない悪もある
オレのようなやくざな男を必要としている奴等だっているのさ
嫌な渡世だなぁ、わけぇの

店主のおじさんの丸い背中が
そんなふうに語るのが見えるようです