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JIROの独断的日記
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2004年06月12日(土) 「だがなあ、アリマ。本当はこの右腕一本だけなんだよ」 (ヘルベルト・フォン・カラヤン) 帝王の孤独。

◆世間的に成功している人でも、寂しいのですよ。



音楽家で文章を書く人が、大分増えてきたけれども、指揮者の岩城宏之さんほど、本を出して、しかも、本業で活躍している人はいないだろう。

ピアニストの中村紘子さんも文章が上手くて、「チャイコフスキー・コンクール」と「ピアニストという蛮族がいる」なんてのは、クラシックに興味が無い人が読んでも面白いと思いますよ。どちらに載っていた文章か忘れたが、ホロヴィッツという20世紀の指折りの超大物ピアニストの言葉、「ピアニストには3種類しかいない。ユダヤ人か、ホモか、ヘタクソだ。」なんて、ちょっと興味が湧くでしょう?

話がそれた。岩城さんが書いた「棒振りのカフェテラス」という本がある。これは要するに世界中の一流音楽家の逸話、しかも、岩城さんが実際に会ったり、共演した人のエピソードが面白おかしく、しかし、ときにはしんみりとする文体で書かれている。

岩城さんは、かの有名なカラヤンからも随分気に入られていて、何度も会ったり、指揮に関してアドヴァイスを受けた。カラヤンが1950年代にN響(NHK交響楽団)を指揮するために来日したときに、岩城さんはN響の指揮研究員で、いろいろと下働きをさせられたのが、きっかけのようだ。だから、カラヤンに関するエピソードも書いている。


◆帝王カラヤン

カラヤンは、世界一のベルリンフィルハーモニー管弦楽団の音楽監督を30年も務めたが、その間、丁度、電子工学というか、録音技術も日進月歩の時代だった。カラヤンは新し物好きで、コンサートと同じぐらい熱心にレコードを録音した。あまりにも次から次へとレコードを出すので、いわゆる、「文化人」からは金儲け主義だと軽蔑された。また、人の世の常で、有名になるほど、賞賛も多いがアンチも増える。皮肉をこめて、「帝王カラヤン」と言われた。

クラシック通を気取る連中に、すきな指揮者は誰か?と訊いて御覧なさい。カラヤンという奴はまず、絶対いないだろう。クナッパーツブッシュだ、アンセルメだ、いやいやワルターだ、いや違う、カイルベルトだとか(ちょっと、古すぎたかな・・・)いうのだ。

しかし、そばで見ていた岩城さんは、みんな何も分かっちゃいない、という。指揮者としてのカラヤンの能力は、努力ももちろんあったのだけど、とにかく並外れているのだ、と。

素人は単に、カラヤンが有名で、金持ち(自家用飛行機を操縦したり、高級車を何台も持っていたり、別荘もいくつも持っていたし、奥さんは、元モデルだし、還暦だったか、70歳記念のエベレスト登山を試みたりとか、やることが派手なのだ)だというだけで、偏見を持っているがそれは、間違っていると。

そして、カラヤンは帝王のように君臨して、傲慢な男だ、というイメージもあるようだが、それも、違う。本当は寂しかったのだ、と書いて、ある逸話を紹介している。


◆「この右手で音楽を表現することを考えているだけなんだ」

カラヤンと同じころにウィーンの音楽院で作曲の勉強をしていた有馬大五郎という偉い人がいる。何が偉いかは、又いずれ書くが、有馬さんのおかげでN響は世界的な指揮者から訓練を受けて一流になれ、1960年に世界演奏旅行に行って、世界中を驚嘆させることが出来たのである。

すごいインテリで、西洋音楽の本質を、その理論を通して正式に学んで、日本人で最も理解していたし、語学の才能があったようで、完璧なドイツ語を話した。ドイツ人が皆、あんな完璧なドイツ語を話す東洋人を他に知らない、といっているのである。

この有馬さんが、何十年も後に、すっかり功をなし名を遂げた、かつての同級生、カラヤンの自宅に食事に呼ばれたことがあった。昔話に花が咲いたが、そのうちに、ふと、しみじみとカラヤンが言ったのだという。

「世界中の人間は、自分のことを、これだけの地位、人気を保っているのだから、さぞや自分が政治的にも、実務的にも、権謀術策的にも、あらゆる手を使っているに違いないと思っていることだろう・・・。そう思われていることは、よく承知している。」と、いいながら、カラヤンは右腕をさすって、

「だがなあ、アリマ、本当はこの右手一本だけなんだぜ。この歳になっても音楽の勉強をし続けて、この右手で表現することをやっているだけなんだ。」と少し寂しげに笑った、という。なんと、孤独だったのだろう。


◆やはり、音楽こそ、彼の全てだったのだ。

カラヤンに、権力欲や、成功願望、物欲が無かったとは云わない。

しかし、彼の晩年の日々を撮影した非常に貴重なビデオ、「カラヤン・イン・ザルツブルグ」を見ると、オペラのリハーサルで、歌手の喉を心配して休ませたり、何度も演奏しているはずのタンホイザー序曲(白い巨塔でかかっていた音楽ですよ)を、天下のウィーンフィルと練習するのに、ヴァイオリンセクションだけ、トロンボーンセクションだけ分奏(他のパートは休ませて、そのパートだけに稽古をつけること)させたり、音楽という芸術に対する、彼の執念が感じられて、胸が熱くなる。

カラヤンは、名マエストロだ。やはり。


2003年06月12日(木) 「大量破壊兵器が発見されなかったら、首相は世界に向けて、国民に対して謝りますか?」(菅直人氏) 誠に適切な質問である

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