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JIROの独断的日記
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2003年06月16日(月) 「オーケストラがやってきた」 山本直純氏の功績

 人それぞれ好みがあろうが、私は音楽が好きだ。そして、私にとって音楽=オーケストラによって演奏されるクラシック音楽と言っていいぐらいオーケストラが好きだ。

 明後日は指揮者・作曲家、故・山本直純氏の一周忌である。私がオーケストラを好むようになったのは、山本さんのおかげだ。これは疑う余地がない。

 「オーケストラがやってきた」という言葉を見て、ピンと来るのは、それ相応の年配の人だろう。TBSで1972年から1983年毎週日曜日に放送されていた、30分のクラシック音楽入門番組である。入門番組といっても、内容は非常に工夫されており、山本さんのキャラクターも手伝って、誰でもクラシック音楽に親しむ事ができた。

 オーボエ吹きやファゴット吹きは常に葦(あし)を削って新しいリードを作らなくてはならず、そのための工具一式を携帯している事、弦楽器のボーイング(弓使い)を決定するのは、最終的にはコンサートマスターであること。トロンボーンのスライドには何の印もついておらず、スライドの位置は弦楽器奏者と同じように、厳しい練習によって体に覚えこませなければならないこと。

 全ての打楽器の基礎はスネアドラム(小太鼓)であり、さらに楽器を叩かせてもらう前に、木で出来た練習台というものを叩いて、1つ打ち、2つ打ち、5つ打ちなどの地道な練習をしなければならないこと、ハープは優雅に見えるが7つのペダルで常に、♯、♭、ナチュラルを切り替えるため、大変な運動神経を要する事。

 ベートーベンは「運命」の最初の4つの音から成るモチーフを如何にして全曲に亘って展開していったか。ベルリオーズの幻想交響曲のオーケストレーションが如何に、緻密であるか。ワーグナーは音楽が盛り上がって、これ以上フォルテにならないという時に、実に上手にバス・テューバを用いること・・・・。

 私は、オーケストラに関わる、数え切れないほど多くの知識を、「オーケストラがやってきた」という、週に一度、30分だけ放送される、山本さんの番組を通して得ることが出来た。家庭用ビデオなど、存在しない時代である。一回、いや一言でも見逃すまい、聞き逃すまいと全身全霊で、知識を吸収した。

 山本さんの大袈裟なアクションやキャラクターを見て、多くの人は彼を芸能人のように考えていたかもしれないが、本当は、幼少の頃から音楽の英才教育を受けた、本当の音楽家であった。数々の指揮者を育てた、斎藤秀雄の門下生としては、小沢征爾氏や岩城宏之氏の先輩にあたる。小沢征爾氏は山本氏がなくなったときに、「初めて指揮を教わったのは山本さんからです」と言っていた。

 岩城宏之氏は芸大の指揮科で、いつも山本氏と一緒だった。岩城氏の「森のうた」という著書にはそのころの楽しいエピソードが、沢山詰め込まれている。

 そして岩城氏をはじめ、山本氏の実力を知る音楽家は皆口を揃えて、「天才的な耳のよさ」に驚嘆した、と述べている。絶対音感なんて当たり前で、そんなレベルじゃなくて、ピアノの鍵盤を両手でグシャッとたたく。「下から2番目の音の5度上の音を歌って御覧」と指揮科の渡辺暁男教授に、絶対出来ないと思われた難題を出されて、難なく出来てしまった。

 山本さんは、そんな、本当の才能をもった稀有な音楽家だが、その一生を「クラシック音楽を大衆に広める」ことに捧げた。小沢征爾さんには「お前は頂点を目指せ。オレは裾野を広げる」と言っていたそうだ。

 山本さんのおかげで私を含む多くの人がオーケストラを愛するようになった。偉大な一生だった。

 山本直純さん。ありがとうございました。


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