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2004年10月12日(火) 映画日記☆彼岸花





しっとりと落ち着いた雰囲気のホームドラマと思いきや、実は羊の皮を被った狼みたいな
化け物作品。


先ず、冒頭の東京駅駅舎のカット。これはまぁ、無難なと思えるものの、よく見てみると斜めに傾いでいるのである。そして、次のカットは、その駅舎を裏から撮ったカット。これもまたヘンテコリン。


映像で何かを言わんとしているとしか思えないショットなわけで、単に美しく撮るのならばいくらでも構図を考えて撮るのだろうけれど、そんなことには頓着なくモンタージュ的なことをやっているようだ。


途中インサートされるビルの狭間のカットなども、絶対使わないようなカットであるけれども
これ以外は、映像的には過激な点は見られない。


相変わらず会話の部分は見交わされることのない視線で、淡々とショットが重ねられてゆくが、そもそもいくら父親が反対していようが、娘の結婚というおめでたい主題の映画であるはずなのに、タイトルが「彼岸花」とはいったいどういうことなのか、などと多少憤慨しながら見終わったわけなのですが、実は、娘の結婚はテーマでもなんでもなかったようです。



母親である田中絹代が、平山に明日はお弔いがあるけれども、やっぱりモーニングを着てゆくのかと問う場面があり、平山が、いや、明日はいいだろう、と答えると、「そうですね、お祝いの次にお弔いなんて、モーニングも戸惑ってしまうわね」みたいな感じで、田中絹代が言うのですが、「彼岸花」では、お弔いにはぴったりのタイトルではあるものの、祝言ではどうも縁起が悪いななんて思ったのですが、これまた実に的を得たタイトルであって、というのも手の届かぬ彼方に嫁いでいってしまう娘のことを彼岸に咲く花に喩えているわけで、娘を手放した父親の感情を的確に表している題名なのでした。





冒頭の駅員の会話等から、波瀾が起こることを示唆していましたが、それに次いで友人の娘の結婚披露のシーンとなり、平山が祝辞を述べるくだりとなるのですが、いよいよ自分の愛娘が嫁ぐときになっても、肝心の結婚披露のシーンはワンカットも差し挟まれないというのは、いったいどういうことでしょうか。



娘の結婚に反対であった平山は宴席でニコリともしなかったらしいですが、平山自身がたとえ気の進まない結婚であろうとも、物語の流れとしても娘の結婚披露を描くことが必然とも言いい得る箇所であるにもかかわらず、披露宴の代わりのようにして親父どもの旧制中学の同窓会をえんえんと撮っています。





その同窓会の翌日に竹島へと架かる橋の上で、海風を受け陽光を浴びながら、三上と平山が語るシーンは記憶に残る美しい場面でありますが、こんな美しいカットに最も相応しいはずの? 若い恋人たちの姿は一切出てきません。





ということで、いくら鈍い私であろうともここら辺でどうもおかしいと気付きはじめたわけです。この映画はホームドラマ仕立てとなってはいるけれども、主人公は、節子でも平山家という家族でもない。娘の結婚もエピソードとして描かれているのみで、刺身のツマ程度の問題であって、家族の在り方とか、年頃の娘を持つ親の苦悩や悲哀を描いているわけでもないようです。




ただただ世間の親父の代表として平山という父親が描かれているわけで、父親であるからその家族がたまたま出てくるだけであって、娘の幸せとか家族の在り方とかを描いたごく普通の所謂ホームドラマなどでは決してないのです。





とりあえず映画は、最後に父親と娘夫婦との和解を予想させて終わりますが、面白いのは、そのための伏線として関西の連中が来るからという理由で同窓会を愛知の蒲郡に設定してあることで、相当和解にこだわっていたように思われます。



平山は同窓会が終わると、その足で京都の祇園にある親戚に立ち寄り、そこで山本富士子演ずるところの幸子の口車に乗せられ、娘夫婦の住む広島へと向かうわけですが、頑固親父がそう簡単に広島に出向くわけがないということで、愛知→京都→広島と話しの運びに不自然さがないよう伏線を張っていたわけです。




また、その幸子という綺麗な娘は、母親譲りで口が達者なのですが、それだけでなくとても利発な娘であって、実のところ節子の結婚も彼女の機転の利いた言動があったればこそ可能となったのであって、それは裏を返せば、平山が結婚に反対するのは明確な根拠があってのことではないということが、自明となるわけです。






では、地位も名誉もある強い父親、平山が主人公であるこの映画が語りたかったものは、なんでしょうか。私には、そういった強い父親のエゴを描いてあるのではないかと思えてなりません。



幸子が平山に語ったトリックという言葉がありますが、この映画はしっとりと落ち着いた雰囲気のホームドラマと思いきや、実は羊の皮を被った狼みたいな化け物作品と、この拙文の冒頭で述べたように我々は、まんまと小津のトリックに騙されたようです。




映像的には、ほとんど過激なものはみられないものの、娘の結婚を題材に採りながら親のエゴを描くという、エグさによって小津は本編でも化け物ぶりをいかんなく発揮しているのです。




ということで、映画の冒頭の立派な駅舎は、平山であり、その裏側、つまり心のなかを描くとfilmは、語っているようなのです。











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