たま日記
DiaryINDEXpastwill


2005年10月07日(金) 昨日

の夕飯は。

キムチ鍋。
寒い時は、鍋に限るね。

=====================

月明かりに照らされたその姿を見つけたのは、本当に偶然だった。

重い扉を開けた途端流れ込んできた冷気にリンは軽く身を竦ませる。
頬を撫でていく風は酷く冷たく、両手で口を覆うと息を吹きかけた。
「さむ…」
呟いた声が白い吐息になって風に流されていく。
リンはそのまま城壁の端まで歩くと、眼下に広がる街並みを見下ろした。
城の屋上から覗く街の光は、まるで蛍のようにぽつりぽつりと見えた。
家屋から漏れる明かりの数は、その街の豊かさを示す。貧しい者は灯りに使う油さえも無駄には出来ないからだ。
それで判断するなら、キアランの街はリキア同盟の中でもそれほど貧しい土地では無い。もちろん、豊かともいえないが。
その光を暫く眺めて、リンはふと空を見上げた。
今夜は月が驚くほど明るい。月の明るさの所為で星々の光が褪せて見えるほど。
風に暖かみが日毎感じられなくなってきているのは、冬が近づいてきている証拠だ。
下から吹き上げてくる冷たい風に、リンは無意識に身を縮めた。
日々の忙しさは予想を遥かに超えていた。領主として多くの人間に責任を持つ身であり、その為に仕事に忙殺される覚悟はあったとしても、だ。
いつからか、リンは一人になれる場所を探していた。
ただ、何も考えず何も縛られず、一人になれる時間がほんの少しでも欲しかった。

「こんな所で何をなさっているのですか?」
掛けられた声と同時にすっぽりと何かを被せられ、リンは振り向く間も無く闇に包まれた視界から抜け出そうともがいた。
「良く分かったわね」
まさか見つかるとは思わなかった。昼間ならまだしも、夜も随分更けているし、何よりあんな場所にいたらよほど目の良い者でも見つけ出すことは容易ではない筈だ。
「何処に居ても分かっちゃうのかな?」
もぞもぞと被せられたケントのマントの中から聞こえるリンのくぐもった声に、幾分のからかいと微量の感情の揺らぎが含まれているように思えたが、ケントはあえて問いただしたりはしなかった。
「偶然ですよ」
マントと格闘していた為、少し乱れたリンの髪を手櫛で軽く整えながらケントは静かに言った。
「私は草原産まれ。草原の冬は結構厳しいんだから。これぐらい平気よ」
「駄目です」
だが、ケントはリンの抗議をあっさりと否定すると寒くないようにマントをしっかりと被せてやる。
目の前に佇む赤髪の騎士は、自分の為だと思えば明快ともいえる口調で否定を口にする。
こうなったら仕方が無い。リンは諦めてお礼を言うと、そのまま背を向けた。
明確な拒否が滲み出ていた。とはいい難いが、ケントにはそれと同様の感情がリンの背中から見えた気がした。

小さいくしゃみに振り返ればケントが鼻を擦っているのが見え、リンは顔の冷たさとは反対に自分の身体がとても暖かい事に気付いた。
「ケント…もしかして寒いの苦手?」
「…!いえ…その…」
じっと見つめてくる深緑りの瞳に抗う術は、ケントの手中にはいまだ無い。
「…はい…それほど得意ではありません」
バツが悪そうに少しぎこちなく微笑むケントに、リンは口の中で何か呟きながら不意に背伸びをした。
「じゃあ、こうすれば問題無いわね」
バサッと覆うように巻きついてきたマントと、押し付けられるようにして感じたリンの身体の温かみに、ケントはたじろいだように慌てて身を引いた。
「もう少しくっついてくれないと、私が寒いんだけど?」
ケントの表情が、一瞬驚いたように動き、それから誰にでも分かるほど困った顔になった。
そんな反応は見透かしたように、ケントが離れた為にむき出しになった所を指差しながら、リンはどこか楽しげに笑う。
自分の反応を面白がっているようなリンの態度にケントは苦笑いをみせ、それからほんの少し躊躇いながらもしっかりと抱き寄せた。
そのまま自分の胸にもたれ掛かるようにして城下街を眺めているリンの体温を心地よく思いながらケントは、先ほどリンから感じた感情の揺らぎを考えてみた。
思い当たることは多々あり、そしてその考えも間違っては無いと確信すらあった。
自分にできる事は知っている。
それだけしか知らないけど、それだけで知っていれば十分なのだから。
「お疲れ様です」
耳元で囁くように聞こえたケントの声に、リンは不思議な感情が湧き上がってくるのを感じた。
何でも無い一言だ。変哲も無い一言なのに。
ケント自身まるで意識していないような一言に決まっているのに。
それなのに、その一言で、リンは自分が酷く安堵している事に気付いた。
無意識に見上げたケントの顔は何時も通り穏やかで、そして薄く微笑んでいるようにも見えた。
そして同時にケントが何の為に、何を自分に言おうとしているのかをリンは理解した。
視線を落としたリンの瞼から零れる涙を見てもケントは何も言わずそのまま軽く抱きしめ、ただ優しく髪を撫で続けた。

ケントの暖かい体温と与えてくれる優しさに、自分が自分でいられる場所は、たった独りで過ごす時間の中だけに存在するものでは無いんだとリンはやっと気付けた気がした。



==================================
人間、弱音なんざ際限なく出てくるもん。
その中で、自分が一番欲しいと思う言葉は、何でも無い日常の一言だったりってね。
自分自身欲しい言葉が分からなくなってても、誰かが言ってくれた言葉がそうだったんだと気付けたり。
単純な一言でも、その人自身にとっては黄金の価値があるってやつ?
でも、言ってくれる人にもよるのか?

ネタの起因は連日の寒さから(笑)
寒いから、頭の中でも暖かくしようとケンリンで!←常に暖かいじゃんという突っ込みはナシの方向で
まだお互いを十分理解しあって無いよーで、理解してるよーな関係。
しかし、当初はただイチャイチャしてるだけの話の筈だったのに?
日記に書くんじゃ無くて、しっかり書けばよかったかな。


中井 |HomePage