台風が好き?
そんなわけは、ない。 それが災害であるうちは つらいものであるうちは。
だけど。
びょうびょう吹く大風の中で、 しぃんとした家の中にひとりでいて 飲みたいものがなみなみ入ったマグカップを持ってる、 そうやって、守られているかんじが好きだった。
ながぐつなんてうっちゃって外に出かけて 頭の先から靴の中までぜんぶ一気にぐっしょりになったなら 大声をあげてうたいながら、ざばざばと歩くのが好きだった。 水溜りなんて気にしないで、傘なんていっそ、閉じてしまって 大粒の雨にうたれて笑ったの。
上を見たら 横なぐりのつよい風にあおられてふっとんでいくプラタナスのはっぱ。 千切れて風に舞い踊るさまざまなものたち。 ほっぺたを打ち付ける力強い水にはじかれて風になぐられて それでも上を見上げ続けたら めまぐるしく変わっていく雲と空の疾駆がなんびゃくまんもの雨の向こうにみえる。 ひとみのなかに溜まっていく雨の色で視界がにじむ。
わたしはわらった。 大きな声で笑った。
容赦なく嵐はやってきて、そうしていつか、容赦なく去っていく、そんなもの。
そのなかで力づよく立ち続けられるはだしの足が わたしのどこかに、きっとあるから。
それだから。
置いていかれるのはこわいけど すごく、すごく、こわいけど ときに、荒っぽい世界に身を投げて 自分を打ち捨ててしまいたくなるほどかもしれないけれど 強い風にもまっすぐに立つことだけは 忘れないでいたいと、おもう。
雨のなかに閉じ込められて お気に入りのマグカップにお茶をそそいで、ベッドのなかで おふとんにくるまりながら、わたしがおもう。 雨の音を聞き続けながら 風の音を聞き続けながら。
「空はまるで燃えるようなムラサキ、嵐が来るよ、そして行ってしまう」 「ねえ、空は遠すぎる」
ねえ あんなに遠い空でも、いつか、届くよね。 まっしろな道を、海に向かって走って行ったら いつか、碧いガラスでできたみたいなゼリーみたいな あのすきとおった水にたどりつけるみたいに 甘酸っぱい夏の果実を浴びて笑って おひさまみたいに、笑って
いつか
泣くかわりに、うたえる日がくるよね、きっと くるよね。
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2002年7月10日、嵐の前駆に
こっこ、ラストソング 「焼け野が原」のプロモーションビデオの映像を 思いうかべながら
死から生へと ここからどこかへと まっしろいワンピースの裾をひるがえして 南の島の細い坂道を、駆け去っていったすがたを、 思い浮かべながら
読んでくれて、ありがとうございました。 もしも、なにか感じてもらえたなら どうかわたしに勇気をください。 いつか大粒の雨にうたれて笑う日まで生きのびられる ただそれだけの、勇気をください。 メールに託された、ひとつのことばでも 投票カウンタに増えてゆく、ひとつの数字でも
あした、という日を出迎えるために背中を支えてくれる勇気を、どうぞ、ください。
雨の中、ひっそりと病みながら。
まなほ
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