エロとピンクとアミタイツ。
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2007年08月25日(土) 恐山にて

そして私は、風に揺れる無数のかざぐるまの中をどこまでも歩いた。
すれ違う人々はみな優しく、「暑いですね」と声を掛け合う。
そして、最後に必ず私にこう問うのだ。


「それで、あなたは誰が亡くなったの?」


恐山の、入り口に立つ。
息が止まるほど美しい三途の川に、
真っ赤な橋がかかっていた。
ここを渡って、私はあの世の入り口に行く。
境界線へと、一歩踏み出す。

すると、私のすぐ後ろを家族が歩き始めた。
お父さん、お母さん。3歳くらいの女の子、
そして彼女のおばあちゃん。
おばあちゃんが、幼子に言う。

「生きてるうちに悪りごとすれば、
この橋、下から針がいっぱい出てきて、
最後まで渡りきれねえんだ。
悪りごとしてねえか?」

女の子が、必死の顔をしておばあちゃんにしがみつく。
いっぽいっぽ、そろりそろりと橋を渡る。
・・・渡りきった彼女に、
「いい子にしてたからだなあ」と、
言いながらおばあちゃんが頭をなでたのを見届けて、
私も、そろりそろりと、橋を渡り始める。
針は、私にも刺さらずに。


宗教とか、はっきり言ってよくわからないし、
意識して生活なんてしていない。
でも、こういう場面に出会うと、
悪くないなあと思う。
いましめとか、道徳とか、そういうことではなくて、
世代が「場」で繋がってゆく美しさに、
私はかすかに震えるのだ。


見上げた石段は青い空に向かって続いてゆく。
上山式と呼ばれるその僧侶と信者の行列は、
物悲しい歌を歌いながら山を登って行く。
手を合わせ、涙を流し、行列を見送る沿道の人ら…
そこへ、一陣の風が吹き、皆が顔を上げた。
・・・彼女たちには、何が見えているのだろう。

そして私は、風に揺れる無数のかざぐるまの中をどこまでも歩いた。
すれ違う人々はみな優しく、「暑いですね」と声を掛け合う。
そして、最後に必ずこう問うのだ。
「それで、あなたは誰が亡くなったの?」


ここに集う人たちの目的は同じだ。
もう一度会いたい。それだけ。
その思いで、山を登り、花を手向け、砂浜に手を合わせる。
そこに流れる時間は限りなく優しい。

私も境界線に向かって手を合わせる。
来たよ。元気?お酒足りてる?


恐山に日が落ちてゆく。
イタコの口寄せに並ぶ人ら。
名入った手ぬぐいを木にくくりつける人ら。
賽の河原でもくもくと石を積む人ら。
そして、山を降りる私の傍らで、
真っ赤なかざぐるまが揺れている。



7/22 恐山にて


小日向マリー |MAIL

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