磨り硝子越しのやわらかな朝の光が降り注ぐ中 アコースティックギターを抱える君。 壊れかけた、ギャラリーの飾りでしかないようなギターでも 君が持てばそれだけで様になる。 ゆっくりと、感触を確かめるように、 私と君の大好きなあの歌を奏で始めた君は まるで近づいてはいけない本物のアーティストのようで 私は見つめる以外に何も出来なかった。 低くか細い声で歌いだす。 女声の歌なのに妙にしっくりきて、とても心地が良い。 自然と私の視線にも異様なまでの熱がこもる。 なのに君は、違う楽器の方が本職だから 「ギターは弾けないんだ」なんて言って 曲の途中で投げ出してしまった。 私の視線から逃げるように。 ねえ、君。 あの曲は誰に向けて歌われた曲なのですか? あんなに近くに居たのに 繊細なギターの音色はこんなにもありありと思い出せても 君の歌声はこれっぽっちも思い出せないんです。 もしも 私の都合の良すぎる妄想が真実だとするならば もっと大きな声で歌ってくれないと 私には届かないよ。
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