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『夜の公園』 川上弘美 (中央公論新社) - 2006年06月20日(火)


川上 弘美 / 中央公論新社(2006/04/22)
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<身勝手で無責任な大人たち>
二人を比べることはできない。二人は違う種類の人間である。
二人は、私という人間の中にある幾つかの種類の「私」のうちの、それぞれ違う「私」とつきあっているのだ。

とっても危険な小説だ。
言い換えれば、女性の怖さを思い知らされた1冊でもある。

内容的には自由奔放に行われている不倫小説と言えよう。
リリ幸夫という夫婦がいる。
幸夫には春名、リリにはという不倫相手がいる。
ちなみに春名とリリは親友同士。
いわば“妻”と“愛人”の関係。
春名は幸夫以外にもという男もいる。
独身同志だから不倫ではないが・・・
悟と暁は実の兄弟でもある。

春名は男性依存症的人物として描かれているが、本当に好きなのは幸夫であり、そのことが物語のキーポイントとなっている。

たとえば、江國香織や吉田修一の作品だったら、読者も予期して楽しめるのであるが、川上弘美が本作のような作品を書くと読者も憂鬱さを通り越して度肝を抜かれる。
少なくとも江國香織だったらもっと危なっかしく、吉田修一だったらもっとさりげないであろう。

川上弘美がドロドロな不倫を描くと登場人物達もそれなりに確固たる信念を持っているから不思議だ。
たったひとり悟という人物を除いて・・・
読者によっては悟が一番まともに感じるであろうから困ったものである。

ただ、男性読者の観点から意見させていただくと、幸夫ってそんなに短所があるように思えないのである。
どうしたんのリリさんと言いたい(笑)

少し否定的に書いたが、女性読者には凄く有意義な一冊だと思う。
終盤、春名が危機的状況に陥る時、真っ先に助けを求めるのはリリであった。
その助けをリリに求めたことによって悟が余計に嫉妬したといっても良いんじゃなかろうか。
この場面は誰もがドキッとさせられる印象的なシーンであり、奥深いふたりの友情が描かれているのである。

私的には夫婦のあり方や恋愛の本質を問うた作品としてはあんまり評価したくないのであるが、女性間の友情に関しては巧く書けてるなとは素直に認めたい。
あたかもその為に、リリと幸夫が悲運の恋であることを強調したかのようだ。
このあたり女性読者のご意見もお聞かせ願いたいなと思う。

川上作品は『センセイの鞄』『古道具中野商店』しか読んでないので、どちらかと言えば心地よさを求めた読者の私なんで特にそう感じるのかもしれないが・・・

強く生きるってむずかしいな。
主人公リリの生き方は男性読者からして拍手を送りづらいのも事実。
なぜなら、生まれてくる子供に罪はないとまでは言わないけど、可哀想な気もする。
所詮、妊娠したのは離婚を言い出す単なるきっかけというか手段だったような気がするのであるが・・・
川上さんの真意が読み取れなかったのが残念である。
それとも男性読者にはわかりづらい世界だったのかな。

とはいえ、視点を変えて語られる各章。
それぞれの気持ちは読めば読むほどよくわかる。
だが、わかればわかるほどブルーになるのである。
一冊の作品としてのまとまって読者に語りかける何かが私にはつかみ取れなかったのであろう。

女性読者が読めば、リリが着実に幸せを手にしようとしていると受け取れるのであろう。
男と女は深遠である。
幸夫の代わりに代弁したいなと思う(笑)

時間があれば(6)

この作品は私が主催している第5回新刊グランプリ!にエントリーしております。
本作を読まれた方、是非お気軽にご投票いただけたら嬉しく思います。
(投票期間2006年8月31日迄)



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