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『電子の星』 石田衣良 文藝春秋 - 2004年03月18日(木)

《bk1へ》
『池袋ウエストゲートパーク』
『少年計数機』
『骨音』

単行本で必ず読みたい作品がある。本作はその代表例といえよう。
なぜなら本作ほど“旬を感じさせてくれる作品”はないと言っても過言ではないからである。

まず、冒頭の「東口ラーメンライン」いきなり懐かしの元Gボーイズのツインタワー(双子)が登場してくる。
彼らのあずみに対するほのかな恋心は微笑ましい限りである。
単行本の表紙の女の子ってあずみをイメージしてるのかなあと思って読まれた読者も多いかな。

次の「ワルツ・フォー・ベビー」は本作中もっともミステリー要素が強い作品であるが、息子を殺されたジャズタクシー運転手の男らしい言動に胸を熱くされた方も多いんじゃないかな。
個人的には切ない話は好きなんでベストの作品に推したい。

3編目の「黒いフードの夜」は違法デリヘルで働くビルマ人の少年の話。不況に苦しんでるのは日本人だけじゃありません(笑)

最後の表題作となっている「電子の星」は山形の若者が上京してきてマコトと一緒に友達を捜す話なんだけど、初期のIWGPに近い作風かな。
メンバーもタカシのみならず私の大好きなサルも登場。


4作目となってやはり作風というかスタイルも変わってきた感は否めない。
きっと石田さんもスタイルの斬新さで読ませれる時期は過ぎて、内容で読ませるように敢えて変換しているのでしょう。

初期のような圧倒的なエネルギッシュ感は薄れつつあるが、逆に各編の登場人物の苦しみなんかもかなり掘り下げて書かれてるような気がする。

確かに各編(本作で言えば表題作を除く)ともこぢんまりした話ではある。
ただ、読者が“身につまされる”という観点ではより心に残る話なのかなと思う。
例えて言えば“水戸黄門”のように勧善懲悪的な要素が強いかな。

前作までのマコトより人情味が増してるような気もするがそれを彼の成長だと信じたい。
ただ、マコトの“人とのふれあい”が一番の読ませどころなのには変わりない。
簡単に言えば、マコトの“シャイさと心優しさ”とのバランスが絶妙なのである、本シリーズは・・・

とりわけタカシやサルあるいは吉岡との“確固たる友情”がより強固となってる点を感じ取れた読者は、きっと次作の発売を待ち遠しく思ってる“マコトファン”だと言えよう。

最後に吉岡に対するマコトの気持ちを表したシーンを引用したい。
この気持ちは読者も肝に命じて生きて欲しいというのが石田さんのメッセージでもあると信じたい。

「そのときおれがどうしていたかって? ここだけの秘密だが、おれもサヤーといっしょにやつの背中に両手をあわせていたのだ。だって
尊敬できる人間かどうかは、そいつがもってる金や髪の量にはなんの関係もないからな。」


評価8点。    
2004年29冊目 (新作22冊目)


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