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『パイロットフィッシュ』 大崎善生 角川書店 - 2003年12月15日(月)

大崎さんのフィクションとしてのデビュー作である本作は、第23回吉川英治新人文学賞受賞作品でもある。
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最新作『ロックンロール』と比べるとピュア度においては本作の方が上だろう。

主人公山崎は41歳のエロ雑誌の編集者。
ある晩、19年前に別れた元恋人の由希子から電話がかかってくる・・・

物語は過去(由希子と付き合ってた時代)を回想するシーンと、現在主人公を取り巻く状況を回想するシーンが交互に描かれます。
そのコントラストと少しだけリンクして行く過程が見事に描かれている。
大半の読者は同感だと思うが、どうしても若かりし過去の主人公の方が生き生き描かれていると感じる。
でも、現在でさえ主人公は幸せものだと思える。
それは過去の出会いを大切にしてきたからに他ならない。

誰しも経験している、出会いの喜びと別れの哀しみ。
それは恋愛だけじゃなく、きっと人生において普遍的なものであろうから・・・


過去の恋愛経験の豊富さや年齢によって受け止め方が違ってくるかもしれないが、恋愛経験の少ない方でも人とのめぐりあいという視点で読まれたら共感出来る点は多いのかもしれません。

物語の根幹をなす冒頭の“人は、一度巡りあった人と二度と別れることはできない”というフレーズ、心に響きますよね。
題名にもなっている、パイロットフィッシュとは、海水魚を飼うにあたって、水槽に水と水草を入れ、生態系がうまく出来上がるまで最初に入れる魚のことである。

本作においては、主人公のみならず登場人物のすべてが相互的に“パイロットフィッシュの役割を演じている”

あと、単行本の透明感のある装丁と大崎さんの美しい文章がピッタリだということも付け加えておきたいですね。
少し余談ですが、若い方はわからないでしょうが、大崎さんの小説にポリスの音楽は似合わないような気がしました(笑)

評価8点。


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