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『恋ほおずき』 諸田玲子 中央公論新社 - 2003年10月15日(水)

いろんな読み方が出来る作品である。
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ジャンル的には恋愛+社会派+人情物といった感じでしょうかね。(もちろん時代物ですが・・・)
現代と違った当時(江戸時代)の世相を上手く反映させて作られているが、相変わらず女性の奥底に潜む気持ちの描写は凄い。
諸田さんの作品の中では小ぢんまりとした作品かもしれないがその内容の奥の深さはまるで山椒のようにピリリと引き締まっている。

自分の過去を引きずりつつも信念を持って中条流の医者(堕胎医)を営んで生きている主人公江与
今は簡単に出来る(?)中絶も当時はご法度的なものであった。
さまざまな宿命を背負って生きる女性たちがもの悲しいけど健気である点が強調されてるような気がする。
それは江与がその女性たちの悲しさを一人で背負って生きているような気がするからだ。

北町奉行所の定廻り同心で初めは敵対する関係にある清之助との恋模様も注目に値する。
まさに運命の出会いと言えよう。
叶わぬと思う恋ほど熱くなるものである、たった一夜の恋であっても・・・
運命の出会いを手助けした(?)かっぱらいの平吉少年が徐々に成長して行く姿は微笑ましく物語全体を明るいものとしている点も見逃せない。

気がかりでページをめくる手が離せない一冊であるが、めくるごとに江与に対しての共感を深めることが出来る。
悩みに悩みぬいて中条流の医者(堕胎医)を始めた過去が露わになってくるからだ。

結論的には主人公も堕胎に賛成してるわけではないし反対してるわけでもない。
でも掲載雑誌が女性誌だった点をも考慮に入れると、現代に相通じる問題を通して現代の自由さを認識させつつも命の大切さを投げかけているのだと思います。

女性の苦しみと幸せは表裏一体だということを強く感じずにいられない。
我々現代人が忘れがちな倫理観を思い起こさせてくれる点はこの作品の価値をより高いものとしている。
女性の読まれた意見を聞きたいと強く感じた。

タイトルにも使われてるほおずきは堕胎に薬としても使え、その180度違う用途ゆえ平吉少年に根をとらさない江与の気配りがとっても印象的だった。

評価8点。


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