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『クライマーズ・ハイ』 横山秀夫 文藝春秋 - 2003年08月24日(日)

今までの横山氏の作品を越えた最高傑作の誕生だと思う。
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作品内容と出版社が文藝春秋の為に“幻の直木賞候補”といえそうな作品ですがもはや、横山さんには直木賞の栄誉はいらない。
というのは読者が正当に評価を下しているからである。

“直木賞訣別宣言”は氏の自信の表れに他ならない。
本作を読めばそれが実感できる。

持ち味の緊迫感と力強い文章で不況の中一人気を吐いている感の強い横山さんだが、従来の警察を舞台にした作品はいささかテーマが小さかったが、本作は全然違う。
警察署じゃなくて新聞社が彼の“本職”だったのだ・・・

1985年、御巣鷹山の日航機事故で運命を翻弄された地元新聞記者たちの悲喜こもごも。上司と部下、親子など人間関係を鋭く描いているのであるが、特にヒューマンドラマ的要素を織り込んでる点が見逃せない。
まさに横山氏の新聞記者時代の取材体験を下にフィクションとノンフィクションを融合したような作品である。

ズバリテーマは“親子愛”“命の尊さ”“男の生き様”

上記いずれの観点からも楽しめる点が凄い。

警察内の話が中心だった今までの横山さんのどの作品よりずっと壮大な話となっている。
もちろん、社内の派閥争いや出世争いも楽しめるがそれよりも新聞報道のあり方について熱く語ってるところがいい。

細部にわたって多少は不満点もあるが、それを言い出したら他の作家の作品なんかキリがないと個人的に強く思うのでここでは割愛したい。
何せ、“衝立岩”で男同志が本音を語り合うシーンがとっても印象的だ。
ラストも“あっけない”という捉え方も出来ますが、“読者の希望通りに落ち着かせた”と思ってます。

ストーリー的にも主人公の悠木が一緒に登ろうと約束していた“衝立岩”に過労で倒れたために登れなくなった友人安西『下りるために登るんさ』という謎の言葉の解明と親子関係の苦悩、また未曾有の事故の全権デスクに命じられて追いつめられて行く心の動きが読みどころ十分である。

タイトル名じゃないが読者も400ページあまりひたすら“ハイ”な気分に浸れるのである。

横山氏の何よりも凄いのは、主人公のみならず、周りの人間の心理描写の的確さである。
脇役でさえ、主人公並のキャラクタライズが出来ているところがスキのない作品を構成してるのであろう。

ラスト近くでの、望月彩子の投書の言葉の掲載から、その後の彼女にいたる内容に関しては横山氏の本当の“メッセージ”と言うか今までにない読者への投げかけを見た気がする。
投書の言葉ちょっと引用しますね。

『私の父や従兄弟の死に泣いてくれなかった人のために、私は泣きません。たとえそれが、世界最大の悲惨な事故で亡くなった方々のためであっても』

上記の引用によって主人公や現場の人間の葛藤や苦悩がよりクリアーなものとなった気がする。
あと、本作品のあり方と言うか価値がかなり上がったと私は判断しておりますがどうでしょうか。

とにかく色んな点から楽しめ考えさせられ、心に残る一冊なのは間違いない。
“迷うなら読んでください。”と声を大にして言いたい最高のエンターテイメント作品だと言える。

ただ寝不足にならないように注意してくださいね(笑)
最初から最後までヤマ場の小説だから・・・

そうそう、山での男たちの率直な意見の語り合いが清々しいことを付け加えたいと思う。


評価10点。超オススメ

横山さん著作リストはこちら





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