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『蝉しぐれ』 藤沢周平 文春文庫 - 2003年08月18日(月)

本作は藤沢周平さんの代表作と一般的に言われてる作品であるが、まさに時代小説のエッセンスを一冊に凝縮させた作品だ。
とにかく時代小説というジャンルにとらわれずに“恋愛・青春・剣客小説”のいずれにも楽しめる所が凄いところである。
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よく“主人公に惚れる作品”と言う言葉があるがそういう形容がピッタシな作品といえよう。

なんといっても主人公の牧文四郎がとってもいい。まるで爽やかで潔い少年の代名詞のような人物だ。
彼は私が今後他の小説を読むにあたりその作品の主人公と必ず比較してしまう人物なのは間違いない。
“海坂藩”という藤沢さんの作品でよく出てくる架空の藩の“平凡な剣術にたけた若者”であるがゆえに一般読者も等身大の気持ちで受け入れれるのであろう。
受け入れるというより“主人公に成り切れる”と言った方が適切かな。

これほど徹底してキャラクタライズされてる人物は少ないんではないだろうか。
歴史小説における実在の人物(例えば『燃えよ剣』の土方歳三)の存在感の大きさは衆目の一致するところだが、本作の文四郎の存在感の大きさも勝るとも劣らずである。

作品全体としてもひとつひとつのエピソードに全く無駄がなく、どのシーンも“読後も甦ってきそう”なほど印象深く残る。

そこに藤沢さんの確かな筆捌きを感じる。

ロマンティックな読者にとっては“おふく”との結末が物足りないと感じるかたもいらっしゃるかもしれないが、決してそうではないような気がする。
若い時に読んだ場合、私も物足りなく感じたかもしれないが(とりようによったらハッピーエンドじゃない)、年齢を重ねるにつれて“おふくとのことはいい想い出だからこそ今の文四郎がある”と感じれるんじゃないかなあ。
ラストの再会のシーンちょっと引用しますね。最初と最後がおふくのセリフです。

『文四郎さんの御子が私の子で、私の子供が文四郎さんの御子であるような道はなかったのでしょうか』(中略)『それが出来なかったことを、それがし、生涯の悔いとしております』(中略)『うれしい。でも、きっとこういうふうに終るのですね。この世に悔いを持たぬ人などいないでしょうから。はかない世の中・・・・』

2人の関係はお互いいい部分だけをいつまでもイメージすることによって、生きていくエネルギーをお互いに強く与えあっている関係なんだと感じました。
いつまでも淡い気持ちはお互い離れてるほうがずっと持ち続けることが出来るでしょう。

本作は、普段時代小説を読まれない方にも是非1度手にとって欲しい作品である。
風景描写の上手さだけでも是非味わって欲しいなあ。
きっとあなたの人生に何らかの意義を投げかけてくれるでしょう!
少し余談ですが某出版社の中学の教科書にも使われてるらしいですよ。 

私はいつまでももち続けたい“負けない力と童心の心”を与えてくれた気がする。
最後に再読すれば年齢を重ねるにつれ感慨がよりひとしおとなる作品であろうことを付け加えておきたいと思う。
数年後の楽しみが増えました(^○^)

評価10点。超オススメ


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