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『犬吉』 諸田玲子 文藝春秋 - 2003年06月10日(火)

時は元禄、徳川綱吉治世の頃、ちょうど生類憐れみの令が施行されていた。
折りしも赤穂浪士の吉良邸討入りの夜、江戸郊外の御囲で犬の世話をしていた女性“犬吉”(いぬきち)はひとりの侍に恋し、ある事件に巻き込まれる・・・

諸田さん著作リスト《こちら》

ひとりの女性の狂おしいまでの恋を描ききっている。
一人称のモノローグ調で語られているために感情がとっても素直に表現されていて読んでいるほうも圧倒される。
わずか一夜でこんなに人の運命って変わるのだろうかと感心すること間違いなし。

史実を交えてる為に臨場感もあって当時の風潮(犬を厚く保護する)や人々の不満もよくわかっていい勉強にもなる作品である。

なんといっても犬吉の侍“依田”に対する熱情に尽きる一作である。
ひとりの女性の人生の儚さと運命の出会いをスリリングな展開で描いている。
女性としての情熱的な生き方をしている犬吉に感動しない方はいないと思いますね。
ちょっと辛い描写もあるけど、読み終えたときに幸せな気持ちで本を閉じる事が出来る作品です。

それにしても諸田玲子に女性主人公はよく似合う。
本作は時世に合わせて犬をこよなく愛した女性を主人公に持ってくることによって、よりその時代に入り込んでいけるというアイデア作品ですが、悪法の“生類憐みの令”に翻弄されつつも健気に生きる“犬吉”の姿は本当にいとおしいほど切ない。

今までの自分の過去を顧みて疑いつつも信じて行こうとする姿には胸を打たれることでしょう。
是非女性に読んでいただいて共感して貰いたい作品であります。

評価9点。オススメ


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