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『繋がれた明日』 真保裕一 朝日新聞社 - 2003年06月02日(月)

東野さんの『手紙』と同じような題材の作品である。
『手紙』は受刑者の弟(加害者の身内)が主人公、本作は受刑者本人が主人公となっている。
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真保さん得意の豊富な取材力によって本作も上手く脚色されていて、上級のエンターテイメントに仕上がっている。
中傷ビラの配布など、ちょっと被害者側の人間サイドから見て大げさな面も見受けれたが、サスペンスフルな展開等も含めたら満足できるかなあと思う。

主人公の隆太の心の葛藤がとってもよく描写されている。
被害者や目撃者に対して腹を立ててる面などを表す事により、“普通の人間らしさ”を彼から感じ取れたかな。

それは他の仮釈放された人間(服部)との獄外での生き方の違いによって読者に主人公の苦悩と前向きさを訴えている点も良く伝わっている。

題材的に、被害者側と加害者側の立場によって見方がにどうしても違ってくるので、結論の出ないような奥深さがあるだけに却ってはまって読んでしまう。

『手紙』は“強い兄弟愛”を本作は“罪と罰の本質”を強く描ききっている。
少しラストが物足りない感もするが(ちょっと微笑ましすぎたかな)、読者に対しては十分に問題提議できてると思う。

あと、主人公をを支えた“保護司”の大塚さんの真摯な接し方も心に残った。
誰がビラを撒いたかなどミステリー的にも楽しめる事を付け加えておきたい。
完成度では『手紙』に劣るが、本作のほうが“ハード”な内容です。
あえて同情されにくいはずの受刑者本人を主人公に据えた真保さんに拍手を送りたい。

フィクションとして割り切って読んだらきっと楽しめる事でしょう。
本好きの方なら主人公に感情移入できると思います。
隆太の心の変化は読者の心の変化だといえるでしょう。

評価9点。オススメ


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