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『きよしこ』 重松清 新潮社 - 2002年11月21日(木)

7編からなる連作短編集です。まるで重松さんの分身のような主人公だ。
吃音のために小さい頃から思ったことを言えないで苦しむ少年を大学受験の頃まで描く力作です。あまりに短いので2回読んでみました。

親の仕事の都合で小学校の頃から何回も転校を繰り返す少年が、さまざまな苦しみ、悲しみを乗り越えていくところは読んでて涙物ですが、少し辛すぎる面があるかなあとも思いました。
親の出世の状況が、転校場所に反映されていく点(段々田舎になって行く)は重松さんらしい設定かなあと思いました。でもこの作品はいつもの重松さんより母親を上手く描いてるかなあとも個人的には思います。

『ナイフ』が嫌いな方にはあまりオススメ出来ませんが、男の子を持つ母親には是非読んでもらいたい作品ですねえ。重松さんの暖かいまなざしがわかって貰えるんじゃないかなあと思います。

主人公の年代の設定(万博の年に小2)や名前(きよし)や“まえがき”並びに“あとがき”などを考えると、重松さん本人を投影されて読まれた方も多いはずです。

小説としては『エイジ』や『半パンデイズ』で披露している子供の頃特有のほろ苦さやうしろめたさを巧みな言葉で描いていて、さすが“重松節”だなあと唸らされますが、やるせなさという点では本作が一番かもしれませんね。

最近の重松さんの得意のパターンである、ラストの爽快感も少し薄いような気がしますが読み手によって違うのかなあ?

最後に全7編中「北風びゅう太」は「せっちゃん」(『ビタミンF』)や「エビス君」(『ナイフ』)に匹敵する感動作であることを書き留めておきます。
この一編だけでも本作を読む価値があると言っておきましょう(^O^)

評価8点。


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