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「あの、君…もしかして、手塚君?」 「うん」 「やっぱり」 真新しい詰襟に身を包んだその眼鏡の少年を、不二は知っていた。 「君も、青学だったんだ…」 ―手塚国光。 東京で子供の頃からテニスをやっていれば、いやでも耳にする名前だった。圧倒的な強さでジュニアの大会をことごとく制しており、神奈川の真田と並んで関東地区の二強である。不二も、何度か試合を見たことがあった。 「同じ学校だったなんて知らなかったな…あ、ごめんひとりで勝手に喋って。僕は…」 「知ってる。不二君だろ」 「え…」 不二は、驚いて続く言葉が出てこなかった。まさか、手塚が自分のことを知っているなどと夢にも思わなかったからだ。その沈黙をどうとったのか、手塚がやや遠慮がちに口を開いた。 「…ごめん、違ってたら…」 「あ、ううん、違わないよ。僕は不二…不二周助」 その言葉に手塚はこくりと小さく頷いた。お互いに知っているのにはじめましてと言うのも変に思えて、不二も同じように頷く。それがなんだか可笑しくて、不二は少し笑った。 「どうして僕のこと知ってるの?」 実力こそあったがあまり勝負にこだわらない性質の不二は、公式の大会に出場したことがほとんど無い。当然、手塚と試合であたったこともないし、手塚の通っていたスクールと自分のスクールとの交流もなかった。 「試合を見た」 「…僕の?」 手塚は再びこく、と頷いた。どうやら、無口な性格らしい。それはさておき、不二は記憶を探る。手塚が出てくるような大会に、出場した事は…。 「五年生の時の…」 「ああ」 思い出した。 コーチに勧められて出場した大会。不二は緒戦を圧勝で飾ったが、二試合目が行われる前日に、弟の裕太が風邪をこじらせて入院したのである。大したことはないからと、母親は試合に出るようにすすめたが、結局不二は棄権した。弟が心配だったのももちろんだが、もともと自分からすすんでエントリーした大会ではなかったので未練を感じなかった。 「試合の前の日に、弟が急に入院しちゃったんだ。それで」 「そうだったのか」 「それにしても、よく僕の事なんて覚えてたね」 「すごく上手だったから」 「…」 「あのままいけば、準決勝であたるはずだったんだ。絶対君が来ると思って…」 「…ごめんね」 別にそんな必要はないのだろうが、不二は謝った。なぜか、ひどい罪の意識を感じた。手塚ほどの者が自分を待っていてくれたことに対する純粋な喜びもあったが、同時に、なんとも形容し難い焦りに似た感情に襲われて、少し落ち着かない気持ちになる。
hidali
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