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国語力って生きてくうえで必要よね。とか思ったり。 母国語をちゃんと持ってないと大変だわ。 そういえば、久々に生理的に受け付けない、他人の仕草ってやつを目の当たりに感じてしまった。あー、だめだ。思い出しただけでも「うげっ」って思う・・・。 あと、人生二十数年目にして自分のスタンスを知ったっていうか。いや、これは再確認なのかな。多分この先も同じように確認しながらやってくんだろうけど、久々に、自分ってこういう思考回路なのねっていうのを知った瞬間がありましたよ。
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放課後の美術室。部活定休日の木曜にもかかわらず、律朗は完成間近の絵が気になって、キャンバスに向かって筆を取っていた。部活のない日にまで描きに来るような部員は、作品展前でも何の締め切りとも関係のないような今の時期には律朗一人しかいなかった。部員がいなければ放課後の美術室などに寄り付く人間もそういないものだが、しかし今は美術教師に呼び出しを食らったという人物がいたので、一人きりではなかった。普段は自分のテリトリーだと何の疑問も持たない場所に、知らない顔があるのはそれだけで据わりの悪さを感じさせる要因になる。しかしそれも、筆がのってくれば気になるほどのことでもなかったので、律朗は二三言葉を交わした後は、そこにいる人物にあまり注意を払わなかった。 授業の作品提出がされていないために単位を出せないという美術教師からの達しを受けて、暁生は美術室を訪れていた。しかし呼び出しをかけた当の本人が職員会議でやって来ない為に、彼は待ちぼうけを食っているところだった。 次の色を出そうと一旦筆を置いた律朗は、ちらりと暁生を見た。暁生は何をするというわけでもなく、窓際のロッカーの上に腰掛けて晴れた冬空を窓枠にもたれて仰ぎ見ている。ストーブを焚いて室内は温められていたけれど、隙間風が入る其処は寒いのではないかと律朗は少し気になったが、すぐにキャンバスに向き直った。 ため息が聞こえた。 それと同時に、窓の滑る音が響く。瞬間感じた冷えた空気に「え?」と思っていると、声が聞こえた。 「羽でも生えて、飛べればいいのに」 独り言だったのだろう。しかし暁生の呟きは、少し離れた場所で絵を描いていた律朗にも確かに届いていた。 開け放たれた窓からは、冬の冷えた空気が流れ込み、小さなストーブで暖められていた室内を侵食していく。 「・・・どっか、行きたいところでもあんの?」 画布に筆をのせようと、上げかけた手を下ろし律朗は尋ねていた。空を見上げたままで、暁生はそれに応える。 「別に」 そっけない返事に、しかし少しの間があって言葉は続けられた。 「此処、以外なら何処でもイイか」 どうでもいいような口調に聞こえるのに、長い前髪の間から覗く暁生の視線の強さがその言音を裏切っていた。『空を飛んでみたい』なんて子ども染みた科白だと、微笑ましい思いになどならなかった。どこか危うさを秘めたようなその目が、律朗を困ったような気分にさせた。空を見上げるその瞳が、もしも自分の身に当てられていたなら、きっと痛いに違いない、なんて思った。 「・・・あ、のさ」 反射的に、というのが一番正しい。何を考えてのことではなく、律朗は言っていた。 「コレ、いる?」 「?」 コレ、と言って、手にしていた筆で、今現在自分が向かっているキャンバスを指して見せた。しかし言われたほうはすぐに律朗の言葉を飲み込めなかったらしく、不思議そうな顔をしてみせた。ここにきて、初めてその目と視線を絡める羽目になり、律朗は少しうろたえたかもしれない。 「あー、イヤ、羽が欲しいんなら、とか思ったりして・・・」 尻切れの言葉に、自分で自分の言葉に戸惑っている律朗の気持ちがまんま表れていた。いきなり何を言っているんだろう、自分は? 「・・・その絵、くれるって言ってんの?俺に?」 「いるなら、だけど」 驚いたような顔で暁生が問い返してくる。答えて律朗は、おかしなことになった、と思う。大体、律朗と暁生には面識がないのだ。同学年だからお互いに顔くらいは見たことがあったが、言葉を交わすのはこれが初めてで、たぶん互いに名前すらはっきりと知り合ってはいない。だというのに、いきなり絵をやろうか、などとは、親しい友人にも家族にもそんな言ったこともないようなことを言っている。怪しまれたとしても、十分に仕方のない話だ。しかし。 「ホントに、本気で言ってんの?マジで?!」 徐々に強くなる口調で、やたらと念を押してくる暁生に段々律朗のほうが引きそうになってくる。 「いや、だから、あんたがいるならの話であって」 「いる!いるいる!欲しい!」 あんまり勢い込んで言ってくるものだから、律朗のほうこそマジで?なんて問い返したくなる。 「あとで返せっつってもダメだからな!それはもう俺のもんだから!」 言いながらロッカーから飛び降りてきた暁生は、まだ描きかけの絵を覗き込んで、眩しいものでも見るみたいに目を細めた。そこにあるのは翼を広げた鳥の絵だ。なんの目新しい構図でもないけれど、柔らかな羽毛に覆われた、しかし一振りの羽ばたきで空に飛び立つ為の、強靭な翼を律朗はそこに描き出そうとしていた。 これは、かなりクルものがあるなと律朗は徐々に冷えてきていた手の甲を口に当てた。 「すっげー・・・」 もしかしたら、これ以上はないってくらいの笑顔で、暁生は律朗の絵を眺めた。そして、「ありがとう」と。 (・・・そんだけの顔みせられたら、俺も本望デス・・・) 開け放った窓のせいで、すっかり冷えている室内だというのに、汗をかきそうなくらい熱を感じた。 (人から礼を言われるのがこんなに照れるもんだとは知らんかった) 思いながら律朗は奥歯を噛み締めた。 どこか尋常じゃないと感じるくらいの強さで空を見上げていた暁生からは想像できないような子どもみたいな純真なリアクション。そのギャップが更に律朗を落ち着かなくさせていた。
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2005年10月04日(火)
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