012・城の秘密

 
 劇場館ではリハーサルが続いていた。
照明も音楽も、舞台装置も入れての最後の通しの練習だ。そんな中の一時の休息時間に、ラインツの楽屋を訪れた人物があった。

「どうぞ」

 控えめなノック音でラインツは誰が来たのか、もう分かっている様だ。

「よう。頑張って仕事してるか」

 入って来たのは背の高い、やせ気味の男だった。栗色の髪をきれいにセットして隙無くスーツに身を固めている。いかにも仕事が出来る男、という風貌だが、どこか優し気な、ひどく言えば弱々しい印象があった。

「まあね。プレミエ(新しい演目の初演日)を任されたから、しっかりはやってるつもりだよ‥いろいろストレス溜るけど。兄貴の方は‥守備はどう?」

 ラインツの兄、カール・レーンベルクは弟にそう言われて小さく溜息を吐いた。

「まあその話は後だ。とりあえず先に話す事がある」

 ラインツはカールに椅子を進めた。

「父さんから聞いて来たんだが‥チェコのレンベルクで城跡を掘り返した工事があったらしい」

 チェコのレンベルク、とはラインツ一家の先祖がウィーンに出て来る前に住んで居た土地だ。

「ふーん‥でもあそこはもう人手に渡ってる土地だし俺達には何も関係ないだろう?それが何か?」
「ああ。まあ法律上はそうなんだが‥その工事でわずかに残った、城を構成してた石を回収したらしい。それだけじゃなく、大規模に掘り返す様な事もしたそうだ。そこで得た石を‥どうやらこのアンゲルブルク城の建材に使っている様なんだ」

 ラインツは少し驚いた。

「他にもいろいろな所の古城跡の石を使っている。しかも近隣の城はあまり手を付けて無い様だ‥‥これはどうもおかしい」

 そう言ってカールは前のめりになった。

「これらの城には表立った怪奇談はない。でもレンベルクの城は知っての通り魔術師の城だろ?他の城にもそんな隠された歴史があったとして、その建材が意図的にこの城に集められていたとしたら‥」
「まあ、何があっても不思議じゃ無いけど‥」

 ちょっと嫌そうにラインツは膝を組みかえた。
この兄は実は神秘や怪奇的な事柄が好きなくせに、証券マンとしての体面をおもんばかって、積極的に行動しないのだ。

「と言う訳で、父さんから預かって来た。何かあった時の保険だ」

 カールは革のカバンから古ぼけた本を取り出した。

「何だこれ?ラテン語の本じゃないか。すぐには読めないぞ‥それにもう今回の仕事では面倒はごめんなんだ。兄貴に任せるよ」
「ちょ、ちょっと待てよ。俺は‥」
「‥あ、そうか。そうだったなぁ。じゃ、ま、何とかしとくよ俺が」

 そう言ってラインツはニヤリとした。真面目な兄が今回のオペラの券をしつこくせびったのには訳があった。
カールは今ラウンジに一人女性を待たせている。最高のデートを用意して今度こそ結婚にこぎ着けようと頑張っている最中なのだ。

「兄貴の努力が報われるのを祈ってるよ」

 そう言ってラインツは時計を見た。そろそろ休憩時間も終りだ。



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コメント。
八神さん、私は運命に負けません!! 運命から逃げて見せます!!(笑)というわけで次の方、場面変えてください。‥兄貴、計画失敗は目に見えてるなあ(涙)
伏水めじろ。


 2007年03月21日(水)
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