| 2005年04月10日(日) |
メータ、ロストロポーヴィッチ演奏会 |
金曜日から日曜日まで、ムンバイ市南端の海に面したオペラ劇場は別世界です。そこはヨーロッパ、それもイタリアです。
ズビン・メータは手兵のフィレンツェ市立歌劇場オーケストラをそのままムンバイに持ってきました。余り使うことのないハープ。ブラームス1番で活躍するコントラファゴット。出番の少ない楽器でも手を抜かずにイタリアから持ってきました。
TATA財閥がムンバイ市民にプレゼントしたオペラ劇場の音響効果は素晴らしいものでした。偶然隣に座っていたミュンヘンから来たという外科医は、始めて聞くTATA劇の音響はニューヨークのリンカーンセンタに似ているといっていました。S席でコンサートを聞く機会は日本でも殆ど無いですが、このホールの音響は素晴らしいです。
関係者全員連れてきたようなフィレンツェ歌劇場のオケは、非常に暖かくバランスの良い音でした。オペラ伴奏で重要な木管楽器は名手ぞろいです。オペラ上演の可能な広い舞台ぎっしりのオケの分厚い音は、日本でもなかなか聞けない迫力でした。
TATA財閥はムンバイのパルシー(ゾロアスター教徒)の象徴のような存在です。代々の財閥首脳はインドの近代化文化の振興に腐心しました。初代ジャムセドジーはインド産業振興必要な鉄鋼業を作りました。インド西部の鉄鋼都市のジャムセドプールは彼の名前から来ています。そして航空産業を興しました。これは後に国有化され「インディアンエアー」となっています。そして、ムンバイのインド門に近い「タージマハルホテル」は超豪華ホテルとして有名です。
ムンバイの南端にはTATA文化センターがあり、小ホール、大ホール、オペラ劇場があります。そのオペラ劇場にパルシー出身のズビンメータを招き、イタリアの歌劇場オーケストラ一式を持ってきた格好です。今回チェロのソリストは「ロストロポーヴィッチ」!!!
入場券は非常に高額ですが、昨日と今日の二日間聞きにきて明日も来るという人が何人もいました。ホールは着飾った紳士淑女で埋まっていました。ロビーでたまたま話した観客のひとりは「昨日は8割、今日は9割がパルシーでしょう」といっていました。「おらがズビンの公演」を聞きに着たというよりは、「普通なら、ヨーロッパ、アメリカに行って聞くのだが、今日はここムンバイで味わえる」という感じです。
パルシーは基本的に古くはイラン系であるので色白で西洋人と変りません。今日は殆どの聴衆が「身内」なので、め一杯着飾ってきたと言う感じ。(普段は比較的地味に暮らしている・・・。基本的にムンバイの地域社会に十分配慮しているのです)
一流オケが全力を出して、音響の良いホールで演奏し、聴衆は好きな音楽を楽しんでいる。これは全く別世界です。一歩オペラ劇場を出ると、そこには「物乞い」が多く待ち構えていますが。
前置きはこれくらいにして、音楽について書きます。曲目はヴェルディ「シチリアの夕べ序曲」ドボルザーク「チェロ協奏曲」独奏:ロストロポーヴィッチ ブラームス「交響曲第一番」。
アンコール:フィガロの結婚序曲(どこかの国の結婚祝いとか)、スラブ舞曲第5番。一曲目のヴェルディ序曲から会場は既にイタリアの雰囲気です。序曲が次に始まるオペラへの興味をそそるような響きなのです。とくに管楽器と打楽器(シンバル・バスドラ)の軽快さ、趣味の良さ、弦楽器の暖かい響きは格別です。
こういうオケで、イタリアオペラが聴けたら最高だろうなという始まりなのです。「運命の力」でも「椿姫」でも筋は悲しい話なのだけど、こういう音で聞くと、何か客観視できるというか、悲しい話を「オペラで楽しむのですよ」と教えられる感じかな。
次のドボルザークは今日の「メイン」です。メータもオケもこの「巨匠」の伴奏に大変気を使っていた感じ。新聞報道によると、大分リハーサルを積んだとのこと。そして例によってロストロポーヴィッチはホテルに帰って部屋で長時間に練習を行ったとのこと。ロストロポーヴィッチは78歳。さすがに10年前の小沢N響の時に比べるとパワーが落ちていました。しかし、重音の音程や、細かいパッセージは見事なもので観客の大喝采を浴びていました。
ロストロポーヴィッチの構え方は独特で他人にはまねが出来ませんが、彼の左手の指の長いこと。そして右手の腕が長いこと。(そう見えるのです)そして、次のパッセージの準備が早いこと。ソロが終わって暫く間休止があっても、左手はすぐ次のポジション準備に入っています。
個人的には2楽章の雰囲気がとても楽しめました。オケもソロの音に注目し、オケの各パートのバランスに細心の注意を払っていた感じ。最後のブラームスは、オケは良く鳴っていました。各セクションの聞かせ所、たとえば二楽章のホルン、オーボエ、バイオリンのソロ。終楽章のピチカート。終楽章のホルン、フルートのソロ。トロンボーンの和音。トランペットの協奏。
それぞれパーツは素晴らしいのですが、じゃ「全体通して」どういうブラームスなの?という感じ。カラヤンとか、アバド初期の超豪華なブラームスという方向でもなし、かといって、北部ドイツの音、あるいは厳しさを感じさせるほどでもない。隋所に弦楽器の分厚い音が聞かれましたが、それはドイツ的というよりはイタリア的に聞こえました。
「この渋い交響曲もイタリア的に演奏するとこうなりますよ」という感じでしょうか。常任のメータが演奏慣れしている「ブラ1」を、ほんの少しの部分パッセージを確認して本番に載せたという感じです。これが彼等のブラームスなのでしょう。
最後にメータの指揮ですがオペラは非常に面白そうです。「3テナー」ズの伴奏の時も気持ちの良い伴奏をしていました。一方、ブラームス、ブルックナーなどでは良くわからない感じです。昨年買ったグレートも私の趣味とは違いました。でも日本でもてはやされるブラームス、ベートーベン、ブルックナーは特殊かもしれない。
こういうオケで、オペラを安い値段で身近に気軽に聞けるというのが、歴史の長いイタリア文化でしょう。演奏会終了後に撮影したメータとロストロポーヴィッチの写真を添付します。
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