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風太
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2003年06月21日(土)
雨のち、ずっと晴れ

今日は久しぶりにお天気です。
梅雨にしては、めずらしい晴天です。
空は青くて、雲は白くて。
もうそろそろ夏かなあって、そんな感じもするくらい気温も高くなってきたけど。
頬にあたる風は、まださわやかで。
気持ちいい・・。

・・・・は、いいんだけどね。


ばーんちゃーん。
おなかすいたよー。
オレ、お腹すきました。
お昼だよ? もう。


「ねえ、蛮ちゃーん。お腹すいたー」
「うっせえ! もーちっと待て!」
「ね〜? あとどれくらいかかんの〜?」
「あ? そーだな。ま、一時間ぐれえか」
「え〜〜? いちじかん〜〜〜!」

そんなに待ってたら、お腹と背中がくっついちゃうよ。
やっとお金入ったのに、3日ぶりのまともなご飯が目の前なのに!

はー・・・。

深々とため息をついて、オレは花壇の植え込みのはじっこに腰掛けたまま、自分の膝の上に頬杖をついて蛮ちゃんを見つめます。
まだ、そんなにかかるなんて。
でももう、既にかれこれ、1時間以上やってない? 
ごしごしごしごしと。
てんとう虫くんは、すでに泡だらけです。
もういい加減、きれいになってると思うよ?
ねえ、蛮ちゃあん。


そうです、ただいま蛮ちゃんは、てんとう虫くんの洗車中なのです。

長ーいホースを買ってきて、公園の水道の蛇口につないで、ばしゃばしゃと泡を流しています。
とっても気持ちよさそう。
蛮ちゃんは、くわえ煙草をしつつ、なぁんか鼻歌が聞こえてきそうなくらいご機嫌です。
水が、てんとう虫くんのボディではじけて、光もきらきらしてて。
水がはじけたとこに、小さい虹も見えて。
てんとう虫くんも、なんだか気持ちよさげです。

オレはね、車洗ってる蛮ちゃんを、見てるの本当は好きなんだよ?
お腹減ってなかったら、いつまで見てても飽きないくらい。
なんかね、カッコいいっていうか。
いや、何やっててもオレさまはカッコいいんだよ!と本人は言うだろうけど、
まあ、それもちょっとは当たってなくもないけど。
でも、車洗ってる時の蛮ちゃんは、仕事の時とかと全然ちがってくつろいでて、顔もなんだかおだやかで楽しそうで。
額から落ちてくる汗を腕でぐいっと拭いながら、時々は自分の頭の上からも水かけて、ブルブルッと振ってみたり。
なぁんか男っぽいっていうかね。
蛮ちゃんの、そういうしぐさ、オレ大好きだから。
見てるだけで、楽しい。


でもねー。
そういう蛮ちゃんを見るのは好きなんだけど。
正直、ちょっと面白くない・・。
だって、なーんか蛮ちゃんとてんとう虫くんの世界ってカンジで、なんかさ、こう言ったら変だけど。
・・・らぶらぶなんですよ。
え? だから、蛮ちゃんとてんとう虫くんが、です。
いや、本当なんだったら。
蛮ちゃんも、そんな風には見えないのに、やたらとてんとう虫くんには過保護なんですよ。
”ちっ、悪ィ。またボディに傷ついちまったなァ・・”とか、”タイヤもそろそろ変えてやんねーとな”とか”すぐ満タンにして腹いっぱいにしてやっからな”とか、蛮ちゃんは、てんとう虫くんにはすごく甘いのです。
ケイタイだったら壊れたって修理にも出さずにほっぽっておくくせに、てんとう虫くんだと、すぐ修理に出してあげちゃうし、メンテにだってすごくお金かけちゃうし。
今だって、「オレも洗車手伝うよ」って言ってるのに、”テメエは邪魔”とか”洗い方がヘタな上、すぐ小せぇ傷つけんだろが! だからさわんな”って。

オレには、冷たいのです。
くすん・・。

んなわけで、オレはさっきから、とってもヒマです。
見てるだけだもん。
あーあ。
おなかすいたなぁ・・。

蛮ちゃんはね、特にそんなにクルマが好きってわけでもないみたいで、他のクルマにはあまり興味がないみたいです。
「あれ、ほら、あの車、カッコイイね!」とか言っても、ろくに見もしないで「そっかあ?」だし、レーシングカーとかに関しても知識だけはいっぱい持ってるけど、興味はというとあまりなさそうだし。
つまりは、車はてんとう虫くんだけなんですよ。
なんかそういうのって・・・。
ちょっと妬けるっていうか。
だって、すごいトクベツってことだもん。
そうそう、前にオレが「ワーゲン」っていう車をてんとう虫くんと間違えたら、「アレはてんとう虫じゃなくて、”カブトムシ”だろうが、ボケ!」ってゲンコされちゃいました。
似たようなもんじゃないかぁ・・。
そんな怒らなくても。
そうそう。それにね、蛮ちゃんは誰かにすぐ「ウチのてんとう虫が」っていうんですよ。
ウチのだよ。ウチの。
オレだって、そんなこと言われたことありません。
「ウチの銀次」なんて。
・・・あ。
なんかそれ、ちょっとイイかも。
恥ずかしいけど。
いいなあ、「ウチの銀次」だって。
言ってくれるワケないけど。
・・・いいなあ、なんか。
えへへv 照れちゃうなー。

「・・・? オイ! 何、ニヤついてんだ?」
「え゛!? べべべ別に!」
「あ? ま、オメーのこった。どーせ、昼メシ何食おうかとかって考えてたんだろー?」
「ち、ちがうよ! もぉ」

オレだって、食べ物以外のことだって考えるよ!失礼だなあ。
っていうか、お腹は本当に減ったけど・・。

「ねー、蛮ちゃあん」
「ああ、わーってるって! 水流して空拭きしたら、あとはワックスかけるだけだからよ」
「えええ?! まだワックスかけんのぉ?!」
「んだよ、文句あっか!? 梅雨に、んないい天気の日は滅多にねえんだからよ、ついでにやっとかねぇとな」
「どうせ、梅雨なんだから、すぐ雨降るのに・・」
「あ゛あ゛?!」
「・・・いえ、何でもないですケド」

そういえば、洗車すると雨が降るっていうジンクス持ってる人って多いらしいけど。
蛮ちゃんは、あんまりそういうことないです。
結構、降りそうな天気だなーって思ってても、2,3日はお天気もっちゃうのです。
逆ジンクス?
雨もこわくて降れないんだよ、きっと・・。
お天道様にも喧嘩売りそうだもん、蛮ちゃんだったら。

とはいえ。
マジで、お腹減った・・。
減りすぎて、お腹いたくなってきちゃった。
ああ、なんだか、ついでに眠たくもなってき・・・・。


バシャアッッ!!


「うわあ、何すんの蛮ちゃん――!!」

前からいきなりホースの水が!
オレの顔面に直撃です!
うわあ、びしょぬれだよ、どうしてくれんの―!!

「ボケっとしってからだ、バーカ!」
「ひどいよ、蛮ちゃん!」
「これで、ちったぁテメエもキレイになったろ? ついでだ、ついで」
「ついでって! もお、パンツまでびしょびしょだよ! ぶわぁああ、冷たあ! やめて、もぉ蛮ちゃん!」

ああ、オレは、ついでデスか!
どーせ、オレはてんとう虫くんの次ですよ!
蛮ちゃんは、オレよかてんとう虫くんのが優秀な相棒だと思ってるんだから!
・・って、それはさておき。
言ってる間も、蛮ちゃんの攻撃は続いてます。
マジで冷たいのです! もう!

「このおぉ!!」
「お?」

悔し紛れに勢いでダッシュして、呆然とする蛮ちゃんの手のホースを奪い取って、先を蛮ちゃんの方に向けちゃいました。
ホースの水が、今度は蛮ちゃん直撃です!

「うわ! こら、やめろ銀次!」
「へへ、やめないよーだ!」
「こら、テメエ! こうしてやらぁ」
「うわあ、コッチ向けないで〜!」
「このお! オメーこそ、こっち向けるな! ああ、冷てえ!」
「オレだって、冷たいよお!」

言いながら、だんだんおかしくなってきて。
蛮ちゃんも、笑ってる。
へへ、冷たい。
ばしゃあ!と顔からかけられた後、そのホースをまた奪って、蛮ちゃんの顔めがけて。
それを手で遮りつつ、ばっ!と蛮ちゃんが、またオレの手からホースひったくって。

「おっしゃあ、ホース奪還!」
「あ、ズルイ!」

慌てて離れるオレを、ホースの先をすぼめて、びゅう!と水を飛ばしてTシャツ直撃です。
あああ、もうびちょびちょ。
ジャケットは一回濡れるとなかなか乾かないんだからと、慌てて脱ぎ捨て、花壇の上にほうり投げます。
お花さん、ごめん!
あとでお水あげるから、ちょっと重いけど許して。

「お、やるか!」
「本気でいっちゃうかんね!」
「望むところだ! 来い!」
「よーし!」

なんだか、もうコドモみたいです。
ホース奪い合いっこして、水かけあって。
水が飛び散るたびに、けらけら笑って。
そこいら中、べしゃべしゃ。
でもまあ、たまのいい天気だし、じっとしてられないバカが二人じゃれ合ってるなあってカンジで、公園にいる人たちも微笑ましげに見てくれてるみたいだし。
まあ、管理人さんとかにめっかったらヤバイけど。
噴水の鯉、蛮ちゃんが釣ってからすっかり目つけられてんだからね。


ああ、お昼になって、ますますきれいな青空だ。
ははは、もうお腹すいたと同時に、笑いすぎてお腹痛いです。

「わあ、もう本当にしつこい〜!」
「テメエこそ、しつけぇ!」
「いい加減やめてったら、もお」
「そっちこそ、降参しろっての!」
「だって、蛮ちゃんが〜」
「ムキになってんのは、オメーだろが!」
「そうじゃなくて蛮ちゃんが・・・! ぶあ!」

言いかけた途端、ホースの水が大きく開けたオレの口ん中に入ってきた。
・・ごくごく。
うわあ、飲んじゃったよ。
大丈夫かなあ。
―と、思ったと同時に、からっぽの胃がもう我慢できなくなったみたいで信号を送り、ぐ―ぅと一際大きな音をたてました。
ああ、やっぱ、もうだめ・・。
さすがに、お腹すいてもう限界・・。

「だめだぁ・・・。もうギブアップ・・」
「あん?」
「おなかすいたよぅ・・・」

情けなく言って、水溜まりになっていないところをよってへたり込むオレに、蛮ちゃんがそれを見下ろして腰に手を当てにやりとします。

「オレ様の勝ちだな?」
「うー」

鼻高々。
まったく、そんなことで勝ち誇るなんて。
幾つだよう。
大威張りな言い方に幾分ムッとするけれど、もはや空腹すぎて怒る元気もないや・・。
それをさも満足げに見下ろすと、蛮ちゃんが笑いながらホースをかたしにいきます。

まったく、すぐムキになるんだから。
なんか、オレ、本当にこの人と、命の取り合いしたのかなって急に思えて笑えてくる。
雷帝として、本気の美堂蛮と闘ったはずだけど、でもよく考えたら、あんなに生き死を賭けて闘わなくても、ホース一本でこんな風に決着がついたことなのかもしれないねー。
蛮ちゃんとだったら。

まあ、ちょっとそれじゃあ絵になんないけど。
無限城のみんなも呆れるだろうけど。
そんなのでもよかったのに。
楽しくて。


はー・・・。
お腹すいたー。


「おい、銀次。いつまでへたり込んでんだ? 飯、行くぞ!」
「え? ワックスは??」
「昼からにすっか、もう。すっかり腹減っちまった」
「だよねー。オレももうぺこぺこだよー。やっと蛮ちゃんがご飯食べに行く気になってくれてよかったぁ。もうオレ、お腹すきすぎて足に力が入らな・・・・! うわああ!」
「んだよ?」
「なななななんで抱っこするのおお!!」
「歩けねーんだろが」
「いえ、別にそうだとは!」
「じゃあ、下ろすからテメエで歩け」
「あ・・・いや、えっと・・・」
「あ?」
「じ・・・・じ、じゃあ、肩だけ貸して?」

中途半端な甘え方に、蛮ちゃんが低く笑いながらオレを降ろして、オレの腕を掴んで肩に回させ、腰を抱き寄せてくれます。
んあ? コッチの方がなんか密着度高そうな?

「えへ、なんか蛮ちゃんの身体、ひやっとしてていい気持ち」
「テメエも同じだろ。あ、そっか。どうせなら飯の前に」
「・・・・え?」

め、飯の、前って・・?

「ひやっとして気持ちイイ身体のまま、ついでに中まで気持ちよくなっちまうか?」

そ、それって、もしかして・・・。

「で、でも蛮ちゃん、あの。オレ、今マジで腹へってて・・・」
「オメー、さっきからずっと、オレとてんとう虫を恨めしげに見てたよなあ?」

あ・・・。
バレてましたか・・?
あ、でも、それはね。

「安心しろ。テメーの身体も隅々まで、オレがしっかり洗ってやっから!」
「え゛・・・!? あ、あの! ちょちょちょちょっと、ちょっと、蛮ちゃん?! そ、それってもしかして、今・・・・から?」
「おうよ、ちょっと汗かいたしシャワーも浴びてえしな。ついでにオメーもキレイにしてやるって」
「えええ?! いや、今でなくても、っていうか、オレ、自分で自分の身体ぐらい洗えるし、と言いますか、あの、とりあえずオレはお腹が減って・・・」
「遠慮すんなって!」
「えええ、遠慮してないです! 遠慮してんじゃないんです〜〜〜!!」

てんとう虫くんのワックスはどうすんの〜〜〜〜!!!


「アホ! ワックスよりセックスのが大事だろうが!」
「いーえ、蛮ちゃん! 晴天の今が大事なのです! セックスは夜でも出来ますが、ワックスは今しか!」
「ワックスはまた明日でも出来んだろが!」
「セックスも明日でも出来ます〜!」
「テメエは、そんなにワックスが好きか?」
「いーえ! オレはセックスのが好き・・・ ええええ!?」
「だろ? んじゃ、行くぜぇラブホ!」
「わああああん! 蛮ちゃん、ズルイよお!」

だいたいにして、男同士でくっついて歩きながら、大声でする会話じゃないよ、コレ!!
わーん。

てんとう虫くんにまでヤキモチやいたりした、バチがあたったのかなあ・・。
ごめんね、てんとう虫くん。










結局。

オレがやっとありついたのは。
お昼ご飯じゃなくて、晩ご飯でした・・・。
ひんやりとした身体で抱き合うのはね、そりゃーキモチよかったけど。
洗ってもらうのは・・・。
もう、金輪際ごめんなのです。うう。


結論。

てんとう虫くんに、もうヤキモチなんてやきません。
「あの丸っちいケツが、なかなかそそられんだよなぁ」(←てんとう虫くんの後ろ姿)
なんて、蛮ちゃんの挑発にももうのりません。


そいでもって。

蛮ちゃんは、どうやら「自分のモノ」と思うものには、並大抵じゃない愛着を抱くみたいです。
車とかライターとか、タバコとかコーヒーカップとかアクセとか。
だから、てんとう虫くんも然り。
モノだけじゃなくて、人もだって。

「そこにオレも入ってるの?」と聞いてみたらば、あっさりと、「テメエは別格」と返されました。
そうか、そうなんだ・・・。
なんか。
すごく、嬉しい・・。

お腹はもう本当にからっぽで、最中もくぅくぅ言ってたけど。
その言葉だけで、なんか気持ちイッパイになっちゃった。
ゲンキンなのです、オレ。えへへ。


「んなにオレを気持ちよく出来んのは、テメエだけだもんな・・」


・・エ? ソレダケですか!
ひどいなぁ。

でも、蛮ちゃん照れ屋さんなの、知ってるもん。オレ。






・・・ああ、明日も晴れっかな? 

明日はオレも、ワックス手伝わせてもらおう。








なーんちゃって。


つまるところ。


蛮ちゃんといるとオレの心はそんな風に、いつも晴天の青い空なのです。










END






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




ええっと・・。原稿は??? 
あははは・・。(いや笑いごとでは)

いえ、今日は梅雨なのに、とてもいいお天気だったので・・。
つい、こんなお話を書いてみたくなってしまったのです。えへv