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No-Mark Stall *




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談義。 | 2008年07月01日(火)
フェリシアは給仕も思わずぼうっと見惚れるような優美な仕草でお茶に口をつけ、目を閉じて味わうふりをしながらこの状況について考えていた。
新しい婚約者候補とお茶会。
それはまあ、ごくごく普通のことだろう。ひとに囲まれてろくに話もできないきらきらしい夜会よりは、昼間、陽の光が注ぎ風が爽やかに吹き抜ける庭でこうしてお茶でも飲んでゆっくり話をする方が相手のことはよく理解できる。
問題はその席に婚約者候補以外の異物がいるということだ。

「面白い味ですわね、わたくし初めて飲みました。どちらのお茶なのです?」
視線を上げて正面の婚約者候補、ロイという気の弱そうでお人よしそうな青年に笑みかける。
実際珍しいお茶だった。見た目は普通の紅茶色をしていたが、口の中で苦味がすっと甘味に変わる。
「ロディウムあたりでよく飲まれているお茶ですよ。ここよりずっと寒い地方でしか栽培されない珍しい茶葉を更に独特の製法で加工したものです。流通もそれほど良くない地域のものですから、こちらの方まではあまりやってこないのですね」
にこにこと、一見無害そうな笑みを浮かべながら『異物』が語る。
フェリシアはそちらに顔を向けて微笑を返す。濃い灰色と彩度の低い蒼い目をした青年の姿を改めて視界に収め、この男には要注意だと意識に留める。
何せ先ほどからフェリシアがロイに向けてした質問に何故かこの男が回答しているのだ。どうにも思惑があるとしか思えない。それも、フェリシアにとって良くないものの。
「ロイさまのご友人は博識でいらっしゃるのね」
「学術都市には珍しいものが集いますからね。ご令嬢も好奇心の旺盛そうな方でいらっしゃるようですし、機があれば一度是非お訪ねになってください」
「ではその折には是非おふたりにご案内を頼みますわね。色々とお詳しいのでしょう?」
ロイにもう一度視線をやる。緊張しているらしい彼がぎこちなく微笑んで口を開こうとした瞬間、隣の男が口を挟んだ。
「ええ、特にロイはこちらとは趣の異なる街が珍しかったらしくて色々と探検していたようでしたから、ご令嬢を驚かせるようなもののふたつやみっつは知っているはずですよ」
「まあ、そんなに不思議なところですの?」
「それはもう。こちらも向こうも建築のほとんどに石が使われているということは同じですが、その材質が全く異なりますからね。建設の技法もかなり差異が見受けられますし、そもそも成立と発展の過程からして随分違いますから」
立て板に水のように一気に喋る男だ。これが普通のお嬢さまであったらあまり馴染みのない言葉と理解する前に流れていく話に目を白黒させたかもしれないが、あいにくフェリシアはフェリックスと同じ教育を受けてきた人間である。彼のさりげない押しの強さに対抗するだけの地力があった。
「そうですか、それは是非一度この目で見てみたいものです。この街は城という防衛機構から発展したもので壁が多いせいか区画を超えての移動が困りものですけれど、学術都市は寺院を中心に、初めから都市として計画されたものと聞きますわ。どういう構造になっているのかしら」
目を輝かせて話に食いつく姫君に、男は少し目を丸くしたが、すぐに取り繕って身を少し乗り出した。
「そうですね、ここのように非常に入り組んだ道はあまりありません。改築の多い住宅街が多少分かりにくいでしょうかね。最初から何処に何を建てるか決められて作られたものですから、道路も運河も規則的な配置です。学問分野毎に綺麗に配置された大学群は、特に地図を見るとその整然とした美しさをご理解いただけるかと思います」
「街を広げるときはどうなさるの?」
「今のところそこまで人口は飽和していないので広げたことはありませんが、このままの調子であれば数十年のうちに拡大が検討されるかもしれません。でも設計時から拡張のことも考えて城壁は作られていませんし、円状に計画されていますから、今の外堀を水で満たして運河にし、その外に区画を押し広げる形で作られるのではないかと思います」
彼の話に熱心に耳を傾け、フェリシアは少し考えた。ロイをちらりと見やるとふたりの会話を柔らかく微笑んで見守っていた。どちらかというとフェリシアとこの男の方がお見合いをする立場で、ロイがその付き添いのように見えそうな光景だ。
フェリックスぐらいとしかできなかった話の新しい相手を見つけたフェリシアは「まぁそれでも構わないか」と自分の興味を優先し、お見合いのことを一時的に忘れることにした。たとえこれが付き添いの邪魔者の作戦だったとしても、あの微笑ましいものを見るような目を見る限り、政治や学問といった男同士の会話に入り込み、でしゃばりと思われがちなフェリシアに悪い印象を持ったようには見えなかった。
「でもそれですと広げる必要のない区画が危険にさらされませんか? それに城壁がないというのはやはり防衛のことを考えると不安ですわ。中立を謳う学術都市でも攻められることが絶対にないとは断言できないでしょうし、その広げ方ですと拡張された区画だけが円から突出してしまって防衛線が延びますわ」
「そこは問題のひとつではありますね。実は広げるにしても周りは川と山でして、拡張できるだけの土地はあまりないのですよ。山を切り崩すか、近くに新しい街を作るほうが現実的かもしれません」
男も先ほどまでよりずっと楽しげな声で語る。心なしか険しかった目元も若干緩んでいるようだ。
奇妙なお茶をもう一口含み、フェリシアは他意のない、ただ今の感情を端的に表す笑みを浮かべた。


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お分かりかと思いますが街に関しての云々は100%でたらめです。ボロがありすぎな感じでもう少し頭のいい文章かけたらいいのになぁと思います。
あと名前だそうと思ってだせませんでした邪魔者氏。
written by MitukiHome
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