戯言、もしくは、悪あがき。
散る散るミチル
ミチルは果てた
充電切れたら
今夜も寝逃げ

2009年04月27日(月) 室内

昨日死んだ男が
せまい和室に寝かされていた
ほほには綿が詰められて
ひどく若々しく見えた
ふとんをめくれば
骨の形がわかった
残されたものたちが
ぽつぽつとあり
味気ない緑茶をすすりながら
日々の話をしていた
男はなにも
語らなかった
時計の針ばかりが
息をしていた

わたしは最中を集めていた
銀糸とうす桃色の和紙でできた
小袋に詰められた小豆餡の最中を
籐ではない菓子籠から注意深く拾い上げ
机の角に積み上げる作業をしていた
だれかがたしなめ
たしなめることをだれかがまたたしなめた
楕円の塔はすぐに崩れ
羽毛の散るような乾いた音をたてた
窓の外は白く
ざわめきはかたく閉じ込められ
やけに蒸し暑かったが
指先は凍りついていた
和室だけが
気でもふれたみたいに
冷やされていた

丁寧にひとつ
えらびとった最中の
袋の端をちぎると
もろくこぼれた粉が宙にまった
小豆のこげ茶色がのぞき
皮のこぼれたあたりほど
妙にみずみずしく見えた
いつのまにか男とふたり
取り残されており
わたしは指先に
最中の残骸をまぶして
舐め取る作業をくりかえしていた
和室では
空調の放つ水分が
男の皮膚に吸い取られつづけていた
喉が
ひどく張り付いた
最中は思ったよりも
ずっと甘く
喉が渇いたが
緑茶は消えていた

あらゆるものが
持ち出されていた
無理に唾液を沸きあがらせ
飲み込めば
喉のずっと奥で
驚くほど大きな音がした
たしなめるものはいなかった


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