嫁が娘・R(7ヶ月)に乳をやりながら言った。
「あなたのお母さんがね…」
「うん」
「今度の土日にいらっしゃいって」
「無理。仕事」
「あなたが忙しそうなら私とRだけでいらっしゃいって」
「なんつー薄情な親だ…」
週の初めだというのに今度の土日は
休日出勤がガッチリ確定している。
もうどれくらい休んでないだろう。
今月は1日しか休んでないんじゃないか?
母はつまるところRを見たいのだ。
それと、花見。
僕の故郷には桜の名所がいくつかある。
見とれて動けなくなるほど広大な桃色の海。
それでいて東京のように人でごった返すこともない。
母はそれをRに見せたいのだろう。
僕だって見たいしRにも見せてやりたいと思う。
「…いいよ。君とRで行っておいで」
だからそう答えておいた。しかしよく考えてみると
そうなると休日出勤でヘトヘトになって帰って来ても
家には誰もいない。ご飯もない。
世間では桜が咲いているらしいが仕事に埋もれて
ビルの中に缶詰になっているからさっぱり分からない。
それならばせめて我が家に咲く一輪の花、Rと戯れて
心を潤そう、と思ってもそれも出来ない。
なんか辛さのズンドコまで落ちていきそうである。
嫁とRは桜の花見から帰ってきたら今度は
菊の花を添えることになっちゃったりして。
あああできれば行って欲しくない。
嫁と娘は花見で一杯。
僕は仕事で一杯一杯。
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